在るかな宝箱

宝箱を求めて旅をする少年達がいた。
とある夏の一時、
少年達の一人が
「足のある宝箱が川のほとりで歩いていたんだ」
嘘だろうと思いつつ、
他の少年達は
断る中で、
「面白そうじゃん」
折れかけた心の中で
メガネを持ち上げて彼らを見る。
そう、それが始まりの物語であった。

夏休み日記 一日目

今日、僕は一人で初めて散歩をしました。
楽しかったです。

ー終わりー

「はぁ、これは、違うな」

少年Tはため息をつく、
何か違うということに違和感を覚えているのだ。
物足りないなにかを抱きつつ、

日は既に真っ暗な夕立が立ち込めていた。
燦然たる太陽が夕闇に
バトンを渡す作業をしているようで

「よし、冒険だ」

都会とは違った静けさ、
夜中になると、
自然動物の時間帯になるかのように
獣達が現れる。

玄関の前にたつ少年Tは
ため息をつく、
少し、背筋がゾォ~っとしたのだ。

「T、ご飯よ」

その正体は
Tのお母さんであった。

「一人で勝手に出歩かないでよね」
「うん、わかった」

立ち去る前に
Tは扉をも一度見る。
異常なし、
だけど、気味が悪い。

どうして、こんなにも、昼と夜とでは
違うのだろうか?

Tの後ろで、
何かが光るようなものが
見ていた。

夏休み日記二日目

今日は、友達の家に行きました。
ゲームをして、遊びました。
楽しかったです。
少年Tは物足りなさを感じていた。
それでも、
その、夏休みの中で、
不思議な体験をしたいという欲求が
「どうしたんだよT」
少年Aが尋ねる。
「あのね、皆、バカにしないって言ったら、
言うよ」
「バカにはしないさ、どうして、」
少年Nが聞く、
「いや、昨日ね暗闇のなかに誰かが見つめていたって気がしたんだ」
「ははは、何それ」
「笑ったじゃないか」
少年Tはふて腐れる。
「こら、笑っちゃダメじゃないかY、鬼がお前を食っちゃうぞ」
「何だそれ、変なの」
Yが訝しげな顔でNを見る。
「知らないのかい、こりゃ僕の父がしつけにこう言っていたよ、悪い子は鬼が食っちゃうってさ」
「へっ、そんなの信じるもんかい」
Yは霊や不思議なものに関しては
恐れがないのか?信じないということは
皆が知っていた。
誰も彼を咎めるものはいない。
「僕はいると思うな」
「は?」
少年Yは少し、
怖がったのを隠すように
強気な態度で
Tを見る。
「だって、霊とか鬼とかいなかったら、なんでその言葉があるのか気になるでしょ?」
「あぁ確かに気になるな」
少年Aと言葉には出さないが、頷くN
「てことは、いるんだよきっと、」
「でっでも、俺はそれでも、信じないぜ、怖いものなんて、とっくの昔に正義のヒーローがやっつけっちゃってるよきっと、」
「まだ、お前はヒーローっていう奴は信じるんだな」
「信じて何が悪いんだよ!」
睨み合う、AとY
「まぁまぁ二人とも」
Nが仲裁に入る。
年齢は同い年だが、
精神年齢的に、
Nが大人的な対応をとっているのは、
親がこの町の神主だから、というのもある。

時報がなる、
この町の時報は独特でお経のような音が鳴る。

「なんか、気味が悪いなこの時報」
「なんで、だろうね」
「帰ろうぜ、もう」

子供たちはこの音を聞くと、少し、
不気味な何かが出てきそうな
不安を駆り立てられる。

夜の時間帯の住人たちが出てきそうで、

「それじゃあ、帰るか」
「そうだね、A」
「うん」

T、A、NはYと、Yのお母さんに

「お世話になりました!」

と言って、帰っていく、
田んぼの根がまだ、青く、
カエルの声が聞こえてくる。
太陽はまだ、顔を出しているが、
夕方といえる風景が広がっている。
セミの音がなっているのが夏なのだと自覚する。
草の間から、カニが出てくるのは、
沢が近く、小川の音が聞こえる。
澄んだ水と、
生い茂る草が自然の壮大さを
奏でる。

「それじゃあな、Tここでお別れだな」
「うん、楽しかったよ、また、遊ぼうね」
「気をつけてね、ここ最近は物騒だから」
「うん、じゃあ」

NとAは同じ帰り道を歩くので、
Tは一人での帰り道ということになる。

「うぅ、少し、怖いなぁ」

Tの家は田んぼを抜けて、
森の中の一本道を抜けた先にある。
森と言っても、五メートルくらいの幅だから、
さほど、怖くはない、
夏の昼間はちょっとした日陰になる。
だけど、Tにとっては
身長が低いから、
五メートルも遠いように感じる。
同じ風景がちょっと違う世界が
広がっているようで、
何かがのぞいてはいまいか、

「えい、」

Tは一生懸命、走り抜ける。
木々の中から、黒い何かが覗いていた。

夏休み日記 三日目

今日は皆で浅瀬の川で遊びました。
楽しかったです。
Sちゃんや、Fちゃんの
女の子たちと一緒に遊びたかったです。
でも、釣りのおっちゃんが、焼き魚を焼いて食べさせてくれたのでよかったです。

楽しそうな男の子四人と、釣りのおじさんが
書いてあった。

「今日はどうだったの?T」
「うん、楽しかったよ、釣りのおっちゃんにお魚を振る舞ってくれたんだ」
「釣りのおっちゃんって、もしかして、Sさん」
「そうだよ」
「そう、なら、良かった。」
「どうしたの?」

Tのお母さんはホッと息をつく。
Tは顔をあげて、お母さんの顔を見る。
不安そうな目をしている。

「いや、最近ね、ううん、何でもない」
「教えて」

Tは聞く、
少年は幼子ではないのだと、
自分にも聞く権利はあるのだというように

「そうね、教えないってのも理不尽だからね」

Tの母は新聞を持ってくる。
Tは新聞を見る

「読める?」

メガネの奥でTは文字を見る。

「えっと……町で、……事件が多発してる、読めなかったところはなんて書いてあるの?」
「う~ん、簡単に言えば、隣町で誘拐事件が多発している、っていうことかな」
「誘拐って、警察のおじさんが言ってた、知らない人についていかないってこと?」
「まぁそんな感じかな」
「何か怖いね」
「そうね、だから、外出するときは気をつけてね、あっそうだ、車で送ろっか?」

Tの母が言った。
Tは考え、最近感じる違和感というものに
不安を怯えていたものだった。
なので、Tの答えは

「うん、車で送って」
「わかったわ」
「お父さんの帰りは」
「朝になるって」
「わかった、おやすみなさい」
「おやすみ」

Tは今日も一人、自分の部屋に眠る。
二階へ上がる階段、電気をつける、
Tの家は二階建ての一軒家、
二階に両親の寝室と、Tの寝室がある。
しかし、
最近はTの母は、一階のリビングで寝ていて、
父は二階で
別々に寝ている。
どうして、
一緒に寝ないのか、
そして、
一人で眠るということに不安を感じ、

「なんか、怖いよ」

母の方を見る、
だけど、大好きなテレビを見ている。

(邪魔しちゃ悪いかな)

小声でいった、甘えの言葉を
隠して、
Tは階段を上がっていく、
一本道のような階段、
明かりがないと少し怖い、
不安な心を押し隠して、

(ご先祖様お守りください)

と祈りながら、
階段を登って自分の部屋に入る。

真っ暗な部屋、
焦るTの心、
電気をつける。

何もない、ことに安心する。
だけど、去年に見た、夏のホラー映画を放送した地上波のテレビ番組のワンシーンが忘れられないTの記憶。
ベッドの下の隙間が何もいないとはわかってるけれど、怖い。

(不安だな)

テレビがあれば、誰かがいるような安心感があるが、それすらないと静かな部屋。

(ゲームしようかな)

ゲーム機を取り出す少年T、
電気は暗くせず、
カーテンを閉めて、
寝ころがってゲームをする。

『勇者ライトの冒険』

をするT、
冒険心に心が弾む、

「さて、行くか、ライト」

勇者ライトとその他三人の仲間たち、
ちょうど重なって
それが、Tと三人のようであると思える
少年Tであった。

タッタッタッタ

宝箱に足がついたものが見上げていた。
カーテンの隙間の光を外から見上げている。
そして、足のついた宝箱は去っていった。

夏休み日記四日目

今日は冷やし中華をお母さんに
つくってもらいました。
暑い夏に冷やし中華はおいしいかったです。

今日のTは、友人たちとは遊ばずに家にいた。
家でゲームをするTは、
少し、退屈に思ったのか、

「お母さん、ゲームしよう」

一階にある、テレビ用のゲームを使って
遊ぶ予定をたてるが、

「でも、これは、
お父さんがいないときにしよっか?」
「なんで?」

少年Tは首を傾げる。
Tの母は少し、考えて

「そうだな、宝箱ゲームなら、静かにできるかもしれない。」
「宝箱ゲーム?」

Tはそのゲームについて、聞く。

「このゲームはいい、静かにやるゲームだよ、静かにしないとオタカラサンが来て、さらってしまうからね」

お母さんは保育園の先生のような怪物の真似をして、少年Tに忠告していた。

「それでも、やってみたい?」
「うーん、」

Tはしばらく考える。
ゲームをしても退屈で、
二階に戻ってお父さんと遊ぶには、
眠ってるので起こすわけにもいかない。

当然、答えは

「うん」

と答えた、
背筋がひんやりしたけども、他に遊びようが
なかった、
暑い夏、なにもしないで
ぼんやりとした
思いはTの意向にそぐわないものであったために

単純に宝箱を探すゲームだ
オタカラサンと書かれた一枚の白い紙を
隠し、
鬼は、オタカラサンを探す、
時間内に見つからなければ、
鬼の負け、
負けたら、
隠した場所を教えて、
交代する。
シンプルなゲーム、
時間制限付きで決まるものだ。

「今回は『昼』だからすぐに見つかると思うよ」

難しいほど、時間が長くなる、
だけど、今回はすぐに見つかるように
Tの母は難易度を『昼』にした。

ストップウォッチを握り、

「よぉーい……ドン」

静かにスタートの開始を告げると、
Tは静かに足を進めて、部屋を探す、
隠したところは簡単だという
難易度で言えば、イージーモード
すぐに見つかると思えば、
すぐに見つかる、
されど、なかなか見つからない、

「あれ、あれはなんだろう?」

押し入れの奥に宝箱のようなものを見る。

「足がついてる?」

カタカタカタと足のついた宝箱は
押し入れの奥の方へと去っていく

「変なの……」

白い足を二本つけた宝箱じみたものに
不審がりながら、
白い紙をなんとか台所のテーブルの隅にあったのを確認すると

「見つけた!」

「こら!」

思わず、簡単であれど
嬉しさに声をあげてしまった、
しかられる少年Tを
見つめる二歩足の宝箱、

「まぁ言い伝えだから大丈夫だって、」

されど、少年Tは
幸い、父を起こすことはなかったが、
叱られたけれど、
気にしないでと
母に肩をさすってもらえたが、
安心感などぬぐえずに、
今日の夜を過ごすことになった。

夏休み日記 五日目

今日は、気持ち悪い夢を見ました。
誰かに連れ去られて、暗闇の中に入っていく夢が
昨日、僕がもしかしたら、声をあげてしまったからですか?わかりません、オタカラサン、許してください、声をあげて、お父さんにもごめんなさい

「どうしたの?T」

Tの母が尋ねる、

「なんでもない」

顔を背けるT、

「何か?悩みでもあるの?」

「ないったら、ないんだ!」

家を出ていく少年T

怖さゆえの過ちか、
父親が降りてくる音が聞こえる。

言い伝え、信じたくもない、言い伝えが
ゆっくりと
Tのもとに降りてくるような気がして。

彼は鬼が来るのかと思って、外を飛び出した。

「ちょっと!T」

失踪事件が多発しているというのに……
若さは同時に愚者である。

夏休み日記六日目

テーブルの中に隠れたい気持ちでした。
だけど、、真っ暗な場所はとてつもなく怖いです。
道に迷いました、助けてください神様……

頁をつけるなら、それだろうとTは
もし、自分が書くなら、
そんな風にノートをつける。

それが夢であってほしいと頬をつねるが痛い。
痛いのが現実、痛くないのが夢であり、妄想、被害妄想である。
文字稼ぎを画策して失敗した少年Tは
悩みどころである、家にどう帰るだろうか?
と考えている。
しかし、山奥、いつの間にか神隠し的に
閉じられた森の中ではいったいどこが道なのか
「わからない」
その言葉、然りである。
状態との表現を適切であれば百点である、まさか、ノートの上ではなく言葉通りに体現しているとはこの事か……と、Tは納得する。
いや、納得している場合ではないのだ。

次に襲ってくるのは恐怖、
次第に暗くなってくる森、
太陽が味方していたから、
「わからない」という言葉を考えられていたが、
厳密に言えば、光があったから、人間足り得たのである。
暗闇であれば、人間など未熟、
太古、昔の妖怪、お化け、怪異には
今の現代技術が発達したとはいえ、
勝てぬものである。
まして、機械でさえも……だ。
未熟さを知ったのか、涙がポロリと出る少年T

「お前は未熟なことよのう」

「誰?」

ふと、全身がゾクリと来る。
気持ちの悪い悪寒、ビクッとして
体に波打つ危険信号は人間の機能の一つだろうか。
それを音で表現するなら心臓の音、
血の巡る音がよく聞こえる、
いつもは聞こえないのに、緊迫しているという
非日常が、彼を襲った。

姿を表したのは、汚れた日本人形だった。

夏休み日記七日目

「ここはどこなの?」

少年Tは聞く

「異界だよ、人間で言うところのな」

髪の長い日本人形、されど、声の低い人形は
石畳の街道を歩く、その光景、まさに、江戸時代の日本といったところか……

Tは足を進めながら、周りを見るといつの間にか、足に何か当たる

「痛い」

足の痛みがくるぶしを襲ったのか、じんじんする、痛みよどっかイケー!と呪いをするが、
そんな呪いは綺麗なお姉さんってのが定石だ。

彼は自身の額に手を当てる、よかった、
問題ない、大丈夫だ。

「おい、子供、イッテェーじゃねぇか!」

「ごっごめんなさい」

「まぁまぁ許してやってくれよタコ助」

Tは目を疑った!
よくある、おっさんの声は普通の人間のおっさんの声ではなく、赤いタコ、たこ焼きで食べる具の切り身として使われる足が八本あるけれど、足として使うのは二本の、しかも、彼は職人のつけるような手拭いをハチマキのようにあしらえた。
坊タコ焼会社のようなマークをしているではないか!

「じゅるり」
「おい、おめーじゅるりと言ったな!このヤロー」

少年は思えば腹を空かせていた。
時間にしてどのくらいたったのだろうか?

「帰りたい……」

ポツリとそんなことを言ったとき、
雨が降った

「おぉ、三途の川のお恵みだなー!これは!おい、おめー桶を持ってきてくれ!そこの坊主もだ!」

泣いている暇はなかった、
叩かれた足がじんじんと痛む。

「ほら、泣いてる暇ねーぞ、お腹空いたんだろ、働かざるもの、食うべからざるだ!」

日本人形も小さい体とは違って力持ち、
職人タコ野郎もせっせっと動く、
周りを見渡せば、
人間の姿とは違って、
自販機のような格好をしていれば、
前の時代にあった古いテレビや、
同じように赤いハチマキをしたカエルさんもいた。

そう、ここは違う世界なのだ!っと
雨降る中で驚きだけは隠せない。
だって、心の中だもん。

夏休み日記八日目

「よう、働いたな、あんちゃん、ほら、氷だよ」

渡されたのは粉状の氷、

「かき氷」

太陽が指さぬ、赤提灯の光が漂う、この世界で
そぐわぬ食べ物だとTは思った。
ザクッと言う音が氷から醸し出る。

「あっ!?」

タコは意地悪なような、
からかったような口調で

「食べないなら食うぞ!」

ぱくっと、この異界では氷と呼ぶのかはわからないが、そのスプーン一個分の欠片を口にして食した。

「いやー!雪女さんの冷やした氷はウメーですわ」

「それでは、行きましょうか?Tさん」

日本人形は少年Tに語りかける。

「それじゃあな、T」

タコは己の八本足のうちの一本を動かして
別れの挨拶をする。
読みかけの本のごとく、食べかけの氷を
充分には食べれてなかった。

まだ、この世界について、知ることが多く。
頭の整理が追い付いていなかった。

空は依然として暗く重い、わかるのは、
ここが、少年Tのすんでいる世界とは違うということのみ。
それが小学生のTにわかることだけだ。

「また、奢ってやるからこいよ!」

タコがTの顔を見かねて、そう言った時、
少年Tの顔は笑った。

夏休み日記九日目

洞窟に入ると一つの地蔵が立っていた。

すると、語りかける地蔵

「宝は在るか?」

地蔵が口を動かしたので、驚くTは
声を出して思わず体をのけぞる。

「宝は心の中にある」

日本人形は淡々とした口調で言うと
Tの方を向いて、

「ついてきてください」

と言って足を進める。
すっーとした歩き方なので、Tは少し、
夏のホラー特番の影響を受けた夢なのかと思ってしまう。

「あのさ、ここって夢なのかな?」

Tは蝋燭の灯りが照らす道を渡る道中、そんなことを聞いてみた。

「夢ではありません、ここは人間界とは違う異界であること、妖怪、獣何のその、あらゆる怪異とされるものが常識である世界でありますから」

日本人形は続ける

「されど、この世界の中で世界の理を脅かそうとしている者がいる……あっ、話はこの先の方で詳しく」

日本人形は障子を開けると、
正座して一礼する。
目の前にいるのは、

「こんにちは」

平安時代の衣装をした
顔を覆ったミステリアスな人(?)であった。
文字は墨で書いたのだろうか?
式神と書いてある。

夏休み日記 十日目

少年Tに支給されたのは、
昔の時代の軍服であった。

「これを着てください」

少年Tは訳がわからなかった。
だが、命令を破れば、どうなるのかは分かっていた。
どうせ、理解されなければ、殺される。
ならば、従うしかないのだと。
終わりの見えない世界の端で、
現実を求めるT、しかし、例え、頬をつねっても痛いのが定石、ここは言われるがままに着るしかない。
しかし、疑問を疑問のままに終わらせるのも、
自身の心に許さずして、手をあげる少年。

異界のものは好奇心旺盛なる若者に興味深そうな目配せをする。
設定上の台本がない、世界に一人RPGでもしているようなそんな不思議な感覚が少年Tにはあった。

「どうしたのであるか?少年よ」

式神は彼を見る。

「なぜ、僕がここに呼ばれたのか知りたい、そして、どうしてほしいのか知りたい、知った上で着替える」

式神は笑う。

「面白い子じゃ、何故に、と異形のものであるのに怖くはないのか?」

式神は少年に問うた。

「本当は怖い、だけど、怖いだけじゃ」

少年Tの腕は震えている。
作文さえも、日記でこの気持ちを綴れば、幾らか落ち着くだろうが、現実とは、夢のように自分だけの世界ではなく、他者が空気を媒介として存在する世界、それが現実なのだ。
現実を夢にすることが不可能であるように、
夢を現実にすることも不可能なのではないか。
それが現実であって、夢である。
そんな哲学的テーゼが齢、幾何かでしかない少年の脳内で駆け巡る。

「時間はないようじゃ、唐栗、なかりないな」

式神は少年Tの言葉を待たずして、
先を進めた。

「はい、何なりと」

手を叩く片栗と呼ばれた日本人形、
少年Tの道案内をした者である。

すると、木の葉が地面から現れ、
Tの体を覆っていった。

「うわっ、これは、」

視界には何も見えず、
真っ暗に染まる。

夏休み日記 十一日目

〈見えなくなった真っ暗な空間、
人間はどこにいるかもわからない。
ここが夢なのか現実なのかは?
はたまた、地獄か?天国か?
知るものはいない〉

見渡すT、どこからともなく聞こえてくるのは、
式神でもなく、日本人形でもない誰かの声だ。

「誰?」

〈聞くまでもないが主は、
運命の歯車に呼ばれし童であるな?〉

……

少年Tは閉口する。

「言わずもがな、それが当然、君は実に奇妙な冒険者というのが当然だろうな、我が名はタイム、物語のすべてを司る者、さて、今宵はどうなるのかな?君は生きるか死ぬか、全ては運命によって意識づけられているのだから当然さ」

「じゃあ、僕は、まず、何をすればいいんだ?」

少年Tは言った。
奇っ怪な世界、
自販機人間、しゃべる人間の魂が入ったかのような日本人形、親分肌なタコがいやがって、
式神という怪しげなトップがいる、謎の組織、
視界の上には晴れることのない、
曇天の赤い空が広がっていた。

「そうさなぁ、まずは、貴様は……」

しわがれた声のタイムは暫し考えた後に、ゆっくりと話す。

「式神を殺せ!と言えばワシを悪魔と見るんじゃろうがな……」

タイムはとんでもないことを言ったのだ。
少年Tは驚く、

「なぜ、殺すと言うんだ!お前は!」
「いや、嘘じゃよ、嘘、戯れ言、束の間の言葉遊びだと思ってくれたら尚更、試したのじゃよお主を」
「試した?」
少年Tの拳が一層強くなる。
人を弄ぶ大人が嫌いだった。
それは、糞以下の何者でもなかった。
頭に血が登っていた。
山の噴火に炎が笑った。
「そう、かっかせんでもいいじゃろうて、つまり、貴様は合格じゃ」
「合格?」
すると、姿を表すタイムという老人、
その姿は黒の袴に白い帯、
そして、顔は古時計の懐中時計で隠されていた。
「さて、お主の運命を見定めよう、お主は勇者、この世界を救うじゃろう」
「世界を救う?僕が、冗談はよしておくれよ」
少年Tはその話をすぐに信じるわけにはいかなかった。
常識が非常識に追い付いていない、無意識の反応かも知れないし。
意識の反応かも知れない。
つまり、当然の反応とだけは付け加えておく。
「今は信じなくてもいい、いずれ、解る」
扉が開く、
運営の扉が……
灯りが見える。
晴れることはないが、
夜になると、月明かりが照らす先に、
例の日本人形が待っていた。
「お待ちしておりましたT様、タロットのTあなたは運命のレールに今、敷かれました。それは、逃れることのない定め、滅び行く裏世界を救いたまいしメシア、メシアとは倭国にて、救世主と言うもの、だから、あなたは逃げられない。無意識でも逃げられない。地獄の底まであなたを追うのは絶望であるから」
日本人形の言う言葉に、
少年Tの体は震える。
「つまり、この刀で戦わないといけないのだな?」
そして、日本人形は頷いた。
少年Tに選択の余地はなかった。
「わかった……でも正直に言って、怖い」
夏の日記を書いていない。
そして、彼は、日記を書かなければ落ち着かなかった。
きっと、彼は欲しかったのだ。
休息を安息を、砂漠に存在すると言う幻であるオアシスさえも求めるような眼差しを日本人形に向けた。
「書く紙、ノートはあるのかい?」
「ふぅそうでございますなぁ、」

日本人形は暫し考える素振りをして、
ひらめいたように、承知した。

「さて、となると、彼処に向かいましょう?」

日本人形が少年Tの手を握る。

「彼処とは?どこだ?」

少年Tの眼差しが日本人形の視界を映す。
背後をバックにして月光が照らす。
月光の中に出来た影は、
一瞬の異世界を彷彿とさせるものだった。

「ええ、彼処とは、向こうの世界でいう図書館のようなものであります」
「図書館か、興味深いな」
少年Tは期待に満ちた目に変わる。
それもそうだ、彼は読書が好きだった。
正直に言えば、退屈していたのだ。
だから、
「しかし、」
日本人形は立ち止まる
「闇夜が暗いです、今日は辞めときましょう」
「どうして?」
少年Tは聞く、
「目の前にそれは、禍津がいますから、」
そう言うと日本人形が手をかざして、何やら唱えている
「はらいたまえ極炎を!」
禍津は燃えた。
しかし、まだ、存在していた。
三体のうち、二体がまだ、生きている。
「Tはさがっていてください」
日本人形の目が変わる。
戦いに向かう戦士の目に変わる。
少年Tは眺める、刀を。
そして、
「T」
悠然と言葉を発っさずにして向かうT がいた。
「僕も戦うよ、片栗だから」
少年Tの目は真剣そのものだった。
彼を動かす理由は当人にも正直なところ明確としたものじゃなかった。
だけど、戦う気持ちがあることに、
悪い気はしない日本人形の片栗
「ふっ、そうですか」
といって、大手をふって、
指を指す。
指した相手は勿論、敵、
つまり、禍津、この異界において、
民に仇なす鬼のようなもの、
存在して、害、
攻撃されて民は呪詛に蝕まれる。
大切なものを失う悲しみが多くなる元凶、
それが禍津なのだから。
「私は右の奴を、Tは左をお願いします」
「わかった」
腰に帯刀していた刀を引き抜く。
まだ、無銘の刀、裏を返せば、純粋で芸術的な刀。
しかし、それじゃ駄目なんだ。
駄目とはつまり、守れないこと、戦えない蟻のようなものだから。
「私に言えることとすれば、」
片栗は言った。
少年Tに、束の間の駆け引きと勝負の前の助言を……
「生きること、それを考えて戦ってください」
片栗の言葉に、少年Tは頷いた。
ここ、町の一角で、月の明かりと共に、
禍津との最初の戦いが始まるのだった。

夏休み日記 十一日目 初戦

彼は禍津と対峙する。
刀を抜く、始めての戦闘、
手が震える。
しかし、戦わねば、死に付するのみ。
「私は片方を担当します」
指をさす片栗、
「私が貴方に言えることと言えばひとつ」
片栗は少年Tに助言する
「必ず生きることです」
少年Tの力にグッときた。
迫り来る禍津、
足を跳躍させる。
しかし、未熟ながら一寸遅ければ、
足を持ってかれたところだろうということがわかる。
その反面、禍津には隙ができた。
その少年Tの喰らわす隙というものが、
「見えた!」
少年Tは刀を動かす、
まだ、ぎこちなく拙い刃、
その刃を乗せて、禍津を切る。
切ったあとは、けたたましい断末魔をあげ、
禍津は煙のようになって、消える。
「お見事ですT」
片栗は既に決着がついており、
残るのは煙あげながらの焔が少しばかし漂うのみであった。
「家に帰らねばなりませぬ」
「あっ?」
少年Tはハッとする。
「だけど、僕には……」
「ご安心を、とりあえず付いてきてください」
片栗は案内する、
少年Tは体の疲労がたまっていた。
それだけでなく心労も絶えなかった。
つらそうにしている少年Tを見て、
肩を貸す片栗、日本人形であるが、
人間大に変わる、それも少年Tと同じくらいの背格好に変わる。
いつしか、少年Tは眠りゆく、まどろみと現の狭間に彼は……

夏休み日記 夢現

「ここは……」
「ひょうひょう目覚めよったよか?」

目の前には天狗の仮面を来た、
陰陽師のような格好をした、雅な口調の人間か?もしくは異界のものか?
どちらにせよ、わかることは不思議な感覚を持たせていたことだった。

「お前は誰だ」

そのとき、ごうっと厳かな風が
少年Tに靡く、
彼の足がこわばる、
即座にドラマで見たような土下座をする。

「くっくっ、おっお許しくだされ!」

しかし、天狗は少し肩を落としながら

「こうじゃないのだ、本当の礼節はドラマなんかではないのだ」

彼の目が輝く、天狗の言葉のうちで引っ掛かった

「ドラマを知っているの?」

「まぁ、そのそうだな」

天狗は恥ずかしそうに後ろを向いて、

「宝物のことだろう、今はこの世界を救うことを」
「僕は本当に言えば、戦いたくないし、正直に言えば、めんどくさいんだ」

天狗は驚く顔をして、怒る。

「どうしてなのだ!」

彼は答えた。

「もう、時間がないんだ」

「なにが?」

「思いでの憧憬へと戻りたいんだ」

彼の言葉は切実だった。

「最初は漫画のようで熱くなってきたけど、本当は表向きだけで成り行きだけだったんだ」

少年Tはとつとつと言葉をゆっくりとすらすらではないが熱心に述べた。
その様子に、天狗は言った。

「現実に戻りたいなら、ここの現実に立ち向かえ、じゃなければアイツは返してなどくれんだろう」
「アイツって?」
「アイツとは式神のことだ、だけど、他には誰も言うなよ、もとはといえば、アイツがトップになったせいで可笑しくなった」
「でも、彼は悪くない人だよ」

風が再び撫でる

「子供には分からないが、この風の強さで危ないと自覚しろ」

天狗は言った。
飄々としていた態度はなく、
同じ気持ちのように本心で述べていた。

「危なくなったら、戦うな」

それをいうと、天狗は風とともに消える。

14日目 蛍火

「今日はここでございます」

案内されたところは、

何処かの墓場である。
少年は迷った。
奇怪な本の中に囚われていると感じた。
時が止まっている。
設定もへったくれもないと叫びたがっている。
夢であってほしい。
よく考えたら、
変ではないかと考えるが、
時間がないと時計を
見れども、
辺りは何もなく、
あるのは目の前の怪物
傍らには不気味な日本人形が
立っているのみ。
彼を救うのは聖書か?
いや、聖書もなければ、
神もいなかったとされる。
いや、その式神はいれども、
神は死んでいるという
戯れ言じみた天狗の迷いに
気が迷う。
(僕は……)
刀を握りしめた時、
今日の血飛沫が飛ぶ、
頬についたのは怪物ではなく、
人間の少年、
黒い隊服に、刀を握りしめた。
幼き少年兵が立脚しているのみ。
「おめでとうございます」
また、誉められた、
されども、彼には聞こえない。
聞こえるとすれば、日暮の鳴く切なき音である。

謁見の間

宝箱を見た勝景を振り返る、
今でも不思議な光景だった。
ある夏の日に、
宝箱に足がついたものが、
押し入れの暗がりにうっすらと
お化けのように写っていたから。
ゾッとした、だって、白い人間の足のようなものだったから、
無機質なロボットの足が帰って安心を享受する。
けれども、怖いけれども、
好奇心が好奇心を彼の胸の内を駆り立てていた。

終わり

いきなりですまないが、
ここで終わりにさせてくれ、
というのも、
この無為な時間を作るのは辛いと感じたからだ。
そして、ありがとう、
ここまで書けたことを光栄に想う。

終わったと思ったか……

セミが死んだらどこへ行くか?
君は分かっているか?
いや、分かっていない、わかるはずもない、
何が完結で、何が復活かを
少年Aは刀を持った
「ちょっとお待ちを、」
斬り伏せられ、殺される
時間が止まる
「おやおや、そんな中途半端だから、駄目なのだ、終わりだ、終わり、」
カチッ
誰かの指なりと共にそれが、なる
「邪魔をするんじゃないぞ、管理者め」
刀を少年Aは向ける、
他の仲間たちも同じく、
そして、一夏の戦いが始まるのであった。

在るかな宝箱

在るかな宝箱

幼き頃に抱いていた好奇心に語りかけようと思いました。

  • 小説
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  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-10

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  11. 夏休み日記 十一日目
  12. 夏休み日記 十一日目 初戦
  13. 夏休み日記 夢現
  14. 14日目 蛍火
  15. 謁見の間
  16. 終わり
  17. 終わったと思ったか……