なつぞらダイバー 第8週 なつよ、東京には気をつけろ

別所高木

ようこそ、ムービーダイバーへ
ムービーダイバーは、お客様の希望する小説、映画、ドラマの作者、脚本家の傾向を分析し、AI化する事で、お客様の希望するストーリーの中に入り込む事ができる、
バーチャル体験型アトラクションです。

俺は、またムービーダイバーの店舗に入った。

「いらっしゃいませ。」
いつもの女性店員の声だ。

???
いつもの女性店員の声だが、いつものあれがない。。。
いつもいつも、内村と言わせるようにカマをかけてくるのに、今日はない!
俺は急に不安になった。
「どうしたんですか?」
「私、先週、店の倉庫の掃除をしてたら、脚立から落ちちゃって、、、」
「え・・」
俺は不安な顔をした。

「大丈夫ですよ!身体はぜんぜん大丈夫でした。ただ、最近2ヶ月分くらいの記憶がなくなっちゃって。。。ドジですよね。」
「2ヶ月分って、俺がここに来るようになってから、全部?全く覚えてない?」
「申し訳ありません。残念ながら全く覚えてないんです。でも、大丈夫です。お客様のデータは全てしっかり残しているので、
お客様がなつぞらが好きなことや、いつ、どこにダイブしたかも全て記録に残っています。
それに、お客様のところには、記憶があった頃の私が、最高のお客様って書いてたんです。きっとステキなお客様なんだろうなって、
思って、お客様が来るのを楽しみにしてましたし、今まで通りの精一杯のご案内をさせていただきます。
でも、ほんと便利な世の中になりましたよね。自分が忘れていることを、こんなタブレットが覚えていて、そのおかげで仕事を続けることができるって不思議な感じがします。」

「そんな、たいへんな事があったんですか。。。でも、怪我がなくてよかったです。
3ヶ月分の記憶がないんですか・・・・実は10万円借金も覚えてないでしょうか?」
「え!そんなに!?私がお客様に!?申し訳ありません。」
・・・・・・
・・・・
「違います、10万円借りているのは、咲太郎が河村屋のマダムから借りていたお金のことです。」
「やだー!なつぞらのネタですね。もー、自分が記憶なくしてるから、いろいろ混乱しちゃいます。
申し訳ありません。」

「いえ、謝るほどの事ではありません。気にしないでください。それで、今週はですね。」
女性店員は、仕事モードになった。

「お客様は、今日はどの物語へのダイブをご希望でしょう?」
「今週も、なつぞらで、お願いします。」
「なつぞらですね。今は第8週まで突入して、舞台が十勝から東京に移行するところです。
十勝に思い出に浸るのも、東京には、新たな登場人物も多数いるので、どちらも魅力的です、何処にどの様な立場で参加なさいますか?」
「それでは、なつが、小畑雪之助・雪次郎親子と上京するところを見てみたいです。できれば北海道から出るところとかがいいのですが・・・」
女性店員はちょっと驚いた表情になった。
「少々お待ちください。」
女性店員はささささっと事務所に入っていった。
女性店員はおもむろにヘッドマウントのゴーグルモニターを着けた。
「ドラマには全く映らないシーンね。
乗り換えナビ、昭和31年十勝から東京、飛行機、新幹線は使わない。」
乗り換え経路が表示された。
十勝から函館までは列車で行くのか。。。。
函館から青森までは、船?せいかんれんらくせん?青函連絡船!
トンネルなかったんだ!
じゃ、列車のシーンじゃなくて、船のシーンなのね。
昭和31年の青函連絡船のデータはあるかしら?
ドラマのシーンじゃないから、うちでデータを用意しなくっちゃ。
「昭和31年 青函連絡船 内装データ 検索!」
やった!データはあるようね。
いけるわ!

足早に、女性店員が戻ってきた。
「お待たせしました。なつが北海道を離れるシーンにダイブできます。今回は、乗客が多いシーンなので、
お客様がエキストラのように直接ダイブする方法でいきますね。」
俺は、了承してカプセルに向かった。

いつものように七色の光に包まれた後、俺は青函連絡船のデッキに立っていた。
ブォォォォーーーーーー!
汽笛が響き渡り、船はゆっくり動き始めた。
俺の数メートル向こうに、なつ・雪之助・雪次郎の3人が離れていく岸壁を眺めている。
周りには岸壁に向かって手を振る人たちがいる。
岸壁には、見送りだろうか、連絡船に向かって手を振る大勢の人たちがいた。
3月の終わり、新しい生活に変わる人がたくさんいるのだろう。

なつは自分を泰樹に重ね合わせているのか、船に乗って新たな土地に向かうことに浸った。
まだ、3月の潮風は冷たいが、何か前途が開けるようで心地よかった。
なつは晴れ晴れとした表情をしている。

なつが横を見ると雪之助がリラックスした表情になっている。
みんなに見送られて出発するときは、凄く緊張した表情だったのに、
列車が出発した途端に、緊張感がほぐれ、青函連絡船に乗ったら、さらにリラックスしている。
まるで、十勝から離れるごとに責任感から解放されているような感じだ。

一方、雪次郎が黄昏ている。
十勝を列車で出発するときも、十分黄昏ていたが、今回も同じように黄昏ている。
なつはいたたまれず、声をかけた。
「雪次郎、寒いから中入ろ。」
「ん・・・・・もうちょっと、北海道見てる。」
雪次郎はじーーーーっと北海道を見ている。
ヘタレだ。今雪次郎はヘタレになっている。どうすればいいだろう。。。

「なっちゃん、雪次郎は、ほっといて中に入ろう。」
雪之助が声をかけてくれた。
「雪次郎、中に入ってるから、風邪引く前に入ってこいよ。」
なつは、雪之助に促されて船内に入っていった。
「ごめんね、なっちゃん、あいつ夕見子ちゃんの事ばっかり気になって、これで修行に身が入るのか心配だよ。」
「おじさん、雪次郎さんは、演劇の時とかすごい集中して頑張ってたから、きっと東京についてやるべき事が出来るようになったら、頑張るよ。」
「だといいんだがなぁ・・・」

なつと雪之助は船内に入っていった。

デッキでは、雪次郎が一人黄昏ていた。
俺は、雪次郎に近づいて声をかけた。
「北海道から出るのは初めてですか?」
知らない人からいきなり声をかけられて、雪次郎は少し驚いている。
「はい、生まれて初めて北海道をでます。だから、必ず帰ってこれるように目に焼き付けていたんです。」
「いいですね、きっといつか心の風景になりますよ。
私は東京から観光で北海道に来たんですが、十勝で素晴らしい景色に出会えました。いいですよね。北海道。」
「十勝!僕、十勝から来たんです。十勝気に入ってもらえましたか!うれしいな〜
それに、僕はこれから東京に行って修行するんです。奇遇ですね。
そういえば、十勝でお土産は買われましたか?」
俺はドキッとした。十勝に行ったのはムービーダイバーで狐として行ったり、子牛として行ったり、しただけでリアルに行ったことはない。
お土産なんて買えるわけがない。
でも、観光客がお土産を買わないって不自然だよな。。。。
どうしよう。

ドギマギしていると雪次郎が続けた。
「うち、十勝でお菓子屋さんやってるんです。
おみあげに最適なバターせんべいって商品を作ってって、是非どうぞ!」
雪次郎は鞄からバターせんべいの缶を取り出して差し出した。
「いや、そんな。こんな見ず知らずのおじさんに、いけませんよ。
さっきからずっと一人で景色を眺めているから、余程大切な人を北海道に残してきたのかって気になりましてね。それで声をかけたんです。」
「えー、僕そんなに思いつめた表情してましたか?でも、いるんです。とっても素敵な人が。。。でも、これから東京に行って修行をしないといけないから、今は我慢です。」
「好きな人がいるのは、いいことですよ。でも、心配じゃないですか?」
「心配です。いろいろ心配です。でも、素敵な人だから、僕も釣り合うくらい頑張らないとダメなんです。
何年かかるかわからないけど、十勝、いや北海道、日本を代表するような一流の菓子職人にならないとダメなんです。」
「随分ステキな人を好きになったんですね。」
雪次郎は自分の言葉に照れている。
「わかりました。頂きましょう。ありがとう。」
俺は雪次郎の手からバターせんべいの缶を受け取った。

その時、背後からなつの声が聞こえた。
「雪次郎ー、海峡ラーメン食べに行くよ!」
雪次郎は、なつの方を見た。
「あ、僕友達と一緒にラーメン食べに行きます。心配してくれてありがとうございました。」
雪次郎はなつの方に走っていった。
「修行頑張ってね!」
俺は振り向いて雪次郎に手を振った。

その時、なつは驚いた表情をして、じっとこちらを見ている。
「おとうさん・・・・」

急に視界が真っ赤になった。
ムービーダイバーの強制排除だ!

俺の意識は遠のき、気がつくとムービーダイバーの店のカプセルの中にいた。
「お客様!大丈夫ですか?」
「ん、あぁ、強制排除も2回目だから赤くなった瞬間身構えることができた。大丈夫。」
「申し訳ありません。お客さんが内村さんに似ているのを意識せずそのままの姿でダイブさせてしまって、私の事前調査不足です。私のミスです。
申し訳ありません。」
「大丈夫、大したことありません。最後は凄い排出でしたが、雪次郎くんの決意を確認することができてよかったです。」

俺はカプセルから出ようと立ち上がった。

カタン!

カプセルの中に缶が落ちるような音がした。
音の方を見ると、バターせんべいの缶が落ちている。

その缶を見た女性店員は、驚いた。
「あら、もうこんななつぞらグッズがあるんですね。」

違う!これは雪次郎から受け取ったものだ!
何故?
ムービーダイバーは、仮想体験ではなかったのか?
物を持ち帰ることなんてできるはずかない。

俺の中に大きな疑問が生まれた。
俺はバターせんべいの缶を片手に店を出た。

なつぞらダイバー 第8週 なつよ、東京には気をつけろ

なつぞらダイバー 第8週 なつよ、東京には気をつけろ

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