夏~あまのじゃく~

みなみ☆たえと

夏期講習ってだるいですよねw

 夏季講習を受講するため、私はこの暑い中、ごつい坂を登ってこの教室に来た。
この大学のある町は、一般的には港町で知られているのだが、このあたりは山側ということもあり、街路樹も多く、鮮やかな緑が目にしみる。

先生の熱弁も軽く聞き流して、私はぼうっと窓の外を眺めていた。枝葉が風に強く吹かれて、裏まで見えている。

そういえば、もうすぐ台風がやって来る時期だ。先生の声より大きく響く後方の生徒たちの声が、とってもうざったい。

教室はクーラーが効いているが、こういう時には無性に外の風にあたりたくなる。

 「……風」

私がなんとなく呟いたその時、急に教室の電気が消えた。

 「皆さん、そのままでいてください。停電のようですね……」

先生が講義を中断して内線で事務員さんと話をしている。クーラーも止まったらしく、すぐに室内がむっとしてきた。でも誰も窓を開けようとしない。
皆、自分たちのおしゃべりに必死なのだ。

 「………風が欲しいな」

私がまた呟いて窓辺に目線を戻したその瞬間、ふわっと、どこからか涼しい風が頬をよぎった。誰も窓を開けてはいないのに。

それから、ふいに小さな子供たちが無邪気に笑う声が耳をかすめた様な気がした。


 しばらくして照明が戻り、授業が再開した。私はまた目線を窓の外にやっていた。
さっきの風を思いだしながら、そういえばここは港町なのに、このへんの風は透きとおっていて緑の香りがするな、とぼんやりと考えた。
このへんで普通の人なら付近の山々の風景を頭に思い浮かべたりするものだが、あまのじゃくな私はそのへんが違った。
潮風の香りがしないんだと思うと、逆に大きな広い砂浜と、そこによこたわる静かな海を、強く想像してしまう。

「海に…………行きたいな」

その時、やはりどこからか子供の笑い声が聞こえてきたような気がしたが、きっと気のせいだろうと思った。そのあたりでちょうどチャイムが鳴った。
皆がばらばらと教室を後にして行く。何故かその子供の笑い声がずっと耳に残っていたのだが、私も皆に続こうと席を立ち、教室のドアのひき手を無造作に開けた、その時。

 ザザーーン、ザザザー………。

目の前はなんと、浜辺だった。
潮風が強く吹きつけて来る、ほんものの海があった。

まだ後に残っていた四、五人の女の子達も、口をあんぐりと開けて、絶句状態だ。だってこのドアの先は、さっきまでは当然に大学の廊下へつながっていたはずだったのだから。
私も目をまん丸く見開いて、一瞬はどうしてよいのかわからずに、その場に立ち尽くしてしまったけれど、さっきまであんなにぺちゃくちゃとうるさくやっていたグループが、
全員声も出せないでただ目をパチパチ、オロオロとさせているのを見ていたら、なんだかおかしくて、ついクスッと笑ってしまった。
大勢でしか行動できない彼女達だから、せっかく目の前に開けた海なのに、誰も足を踏み出せないでいる。

 そんな彼女達を背に、私は一気に靴もストッキングも脱ぎ捨てて、光る波打ち際まで、思いっきり駆け出していった。


 涼しくて強い風がきりり、と私の体を横切って、走り去ってゆく。今度はしっかりと磯の香りと波音を含ませて。

その風に乗って、やはりどこからか小さな子供が無邪気に笑う声が、聞こえてきた。

 〝アンタもあまのじゃくなんだね。僕達とおんなじだ!〟

☆終わり☆

夏~あまのじゃく~

夏の夏期講習を受けている高校生?を想像して作りました。
書いてる時、本人は大学生で長い長い夏休み中でした。

夏~あまのじゃく~

夏期講習の途中でふと願ったことが叶っちゃったお話w

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 青年向け
更新日
登録日 2019-05-07

CC BY-NC-ND
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