始めて手を上げた日

 彼らは目を覚まして、朝ごはんのオムレツを食べ、歯磨きをした後、王様のお城の広場に集まった。国民全員である。
 ラッパとドラが鳴って王様がお城のベランダに出てきた。そうして、ご立派な椅子に座る。
 次に大臣が「では、今日から一か月の間、晩御飯はスパゲッティの日とする。よろしいと思う者は手を上げい!」
 その大臣の声に国民はバッと手を上げた。
 でも、2人の女の子だけは手を上げていなかった。髪の毛の短い女の子と少し長い女の子だった。髪の毛の短い女の子は「みーちゃんは手を上げないの?」と聞いた。
 みーちゃんと呼ばれた女の子は頷いてから「うん。ちーちゃんは、どうするの?」と聞き返す。ちーちゃんと呼ばれた女の子は「私は上げないよ。だって晩御飯が一か月間、スパゲッティだなんてあきるもん」と言った。
「あたしも、二か月間、朝ごはんがオムレツなんてあきたよ」とみーちゃんも言った。
 大臣は再びラッパとドラを打ち叩かせて「うむ。では、これから1か月間、晩御飯はスパゲッティだ」と言った。大臣の図太くてかっこいい声に国民は歓声を上げて喜んだ。

 みーちゃんとちーちゃんはため息を吐いて小学校へと向かった。今日は全体集会である。校長先生は演壇から「今日から一か月の間、晩御飯はスパゲッティの日が嬉しいと思う生徒は手を上げなさい」と言った。
 全校生徒は勢いよく手を上げた。
 でも、みーちゃんとちーちゃんは手を上げなかった。だって毎日食べたら美味しくないもんね。でも他の生徒はなんだかとても嬉しそうなんだ。へんなの。
 全体集会が終わって、たくさん勉強をして午後4時の帰りの会、担当のあひる先生はクラスのみんなに聞いた。
「今日から1か月間、スパゲッティが食べれる事が楽しみって思う人! 手を上げてー」
 すると、すぐさまにクラスの男の子、女の子は手を上げた。みんな楽しみって思っているらしい。
 でも、私とちーちゃんは上げなかった。そうだよ、楽しみじゃないもん。

 私はお家に帰るとお父さんとお母さんとおねぇちゃんがソファーに座っていた。私がただいまーって言うと3人は「今日から1か月の間、毎日、スパゲッティて嬉しいよね! ねぇ! みーちゃん!」と話してから「それじゃあ、嬉しい人たちはみんな、手を上げようね!」と言う。
 でも、私は上げなかった。毎日は飽きるもん。みんな、何考えてるの?

 次の日、私たちは目を覚まして、朝ごはんのオムレツを食べ、歯磨きをした後、王様のお城の広場に集まった。国民全員である。
 ラッパとドラが鳴って王様がお城のベランダに出てきた。そうして、ご立派な椅子に座る。
 次に大臣が「では、今日から一か月の間、朝ごはんはエビフライの日とする。よろしいと思う者は手を上げい!」と言った。
 国民は勢いよく手を上げた。
 私はもちろん、手を上げなかった。だって毎日はあきるもん。それで、私の隣にいるちーちゃんを見た。ちーちゃんは手を上げていた。私はびっくりして「どうして手を上げてるの?」と聞いた。
 ちーちゃんは「だって美味しいもん。エビフライ」と答えた。
 その答えに私は「嘘だ」と言った。だってちーちゃんは昔、エビアレルギーで死にかけた事があるんだもん。私はちーちゃんの目を見た。ちーちゃんは目を合わせてくれなかった。私は怖くなって周囲を見渡した。みんな私を見ていた。それからドラが鳴った。

始めて手を上げた日

始めて手を上げた日

  • 小説
  • 掌編
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  • 冒険
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-07

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