現実で不幸な男がTSし、夢の愛しの彼女とイチャイチャタ〜イム

初めてのオリジナル短編小説です。

現実で不幸な男がTSし、夢の愛しの彼女とイチャイチャタ〜イム

日本の和歌山県の和歌山市に、神埼幽(かんざきゆう)という青年がいた。
幽は小さい頃から、神埼幽は両親ではなく、祖父母に大切に育てられた。
愛があったから、性格は明るく、周りの同年齢の子達と仲良くなった。
しかし神埼幽が6歳の頃に、実の両親に無理やり都会へ連れて行かれ、祖父母と離れ離れになった。
神埼幽にとって、両親は赤の他人同然である。
両親に対して、神埼幽という存在は只の血の繋がった邪魔者でしかない。
両親はイライラし、神埼幽を自分達の視界に映った瞬間、口で後者を精神的に傷める。例えば、「お前みたいなモブ顔はあっち行ってろ、しっしっし!」、「何でお前みたいな奴を生んできたんだろう?」、「さっさと消えてくれればいいのに!」、「お前の存在価値はマイナスだ」。それらの言葉は次第に神埼幽の精神を追い詰め、次第に彼はコミュ障になってしまったのである。
中学校、高校、大学に入ってからというもの、苛めはなかったが、友達を作る方法が分からなくなってしまった。

大人になってから、他の人達は既に彼女が出来ているのに、神埼幽だけ彼女が出来てない。合コンでも失敗する。
そのせいで、神崎幽は自分の部屋に閉じこもりニート化として、4年間ずっと親のお金で脛を齧っていた。
神埼幽は4年間、自分の性格を直そうとしても、なかなか上手くはいかない。
5年目は祖父母に励まされ、やっとニートを卒業し、マンション管理人企業の面接に受かりそこで働くようになった。
職業を得た事で、親の元を離れ、マンション管理人の宿舎に住みこんだ。
このマンション管理人の企業のルールで、社員は必ず会社が提供した宿舎に住み込まなければならない。
一人につき、一つの部屋。
宿泊費や電気代や水代は、会社の方が負担してくれる。
おまけに1日に給食3回というサービス附き。
幽は5月1日に28歳の誕生日を迎え、自分でケーキを買って自分で祝福した。
幽は夜の9時半になると、ソファで寝た。
何で二人用のベッドで寝ないかって?それはベッドのシーツをいちいち剥して洗うのが面倒くさいから。
もう一つの理由は伴侶がいないからで、広いベッドを見てると気持ちが寂しくなるからである。

※   ※   ※

幽は気が付いたら、目の視界に男の人と女の人の顔がそれぞれ映されていた。手や足の長さは元の自分の長さの半分もない、だから動かすこともままならない。
幽は言葉を喋ろうとも“あうあう”としか言えない。
(何故だ、何故動かん!)

「この子の目を見て、貴方にとても似てる!」

と病院で寝てる女性が隣の男性に尋ねる。その女性は黒いロングヘアーに、茶色の瞳にふっくらとした唇に、雪女みたいな白く透き通った肌。胸が大きく、グラマラスな体つきをしている。彼女の名前は神崎 芙雪(かんざき ふゆき)という。

「僕達の優秀な遺伝子を受け継いだんだから、将来は必ず絶世な美女になるさ!」

男性は名前は神崎 雅臣(かんざき まさおみ)。特徴は黒髪と茶色の瞳に、高い鼻、服を着ているから分からないけど、細マッチョ。顔はもちろんハンサム。喋り方はチャライけど、今の妻、芙雪には一途。彼が言うには、芙雪よりいい女性はもう居ない。
雅臣は夕の頬を何度もつつく。

「かわいいなー」
「雅臣、この子の名前は何にしようかしら?」
「そうだね、夕にしようか、神崎 夕(かんざき ゆう)!夕暮れの太陽のような大きな心を持ち、他人の心を癒すような女の子ってことでどうだい?」
「すごくいい名前だわ貴方、大好き」

芙雪は大いに満足し、雅臣の頬にキスする。

「僕も君のことが大好きだ、だって君は僕の全部だから!」
「もう貴方ったら、大袈裟なんだから」
「大袈裟なんかじゃないさ、これが僕の本心だからね!」

夕の目の前でお互い甘い言葉を囁きあい、イチャイチャし出した。

(俺はどうやら女の子に転生してしまったのかよ、しかも赤ん坊に。道理で手や足が短く動けない訳か。でも、これは果たして夢なのかそれとも現実なのか?今俺の新しい両親、俺の前でイチャイチャし出すし、リア充は爆ぜろ!)
幽、いや夕は一度も彼女を持ったことがないから、目の前の両親のことに対して嫉妬を抱き、思わず泣き出してしまう。芙雪は夕の気持ちを誤解したのか、

「ほらほらよしよし、お腹が空いたんでちゅか、今からあげまちゅね」

と自分の服のボタンを全部開け、胸を出して夕の顔に近づける。夕もちょうどお腹が空いたから、ゴクゴクと飲み始める。
(この胸白過ぎでしょ!ん?この母乳美味すぎ!やっぱりこの俺の母親になる人が美人過ぎるから、母乳もより美味しいのかな?なんか飲んだら、うとうとしてきたぞ!次もこの世界だといいなぁ、元の世界じゃもう未練がないからなぁ……)

「あらあら寝ちゃったわ、私達の可愛い子」

夕が目を閉じた瞬間に、最後に聞いた言葉は芙雪のとても心地がいい、仙女みたいな音色だった。

※   ※   ※

夕は気が付くと、女の赤ちゃんの“夕”ではなく、28歳の男の“幽”に戻っていた。

「なんだ、ただの夢落ちだったのか!次もその続きを見続けたいな。あの女の人、今まで観たことないくらい綺麗だったなぁ。アイドルや女優も
この女と比べものにならない。この女と結婚出来た男は本当に勝ち組だ、本当に羨ましいよ!」

その日、神埼幽は仕事中、ずっと夢の中の事を忘れられないでいた。願わくば毎晩、この夢の続きを終わりまで見たい。

「おい神埼、何をぼーっとしている、さっさと集中しろ!」
「はいすみません、ちゃんと集中します!」
「全くだ!」
「こいつ、いつもそういう感じなんだよな!」
「いつか解雇されて、餓死決定だな!」
「しーっ、本人の前でわざと大声で言うなよ、可哀想じゃんか!」
「いいんだよ、本当の事を言ってるだけだし」

この会社のッ人達は新社員を苛める風習がある。
 以上のように、幽は会社の同僚達にも色々な言葉で傷付けられたりする。
幽の次に新しい社員が入ってきた。そして苛めの対象になった。
社長達は幽に苛めるよう命令するが、幽は社長の命令には従わなかった。
(くっそー、俺が何をしたって言うんだよ!いっつもいっつも、俺ばっかが精神こいつらに煽られなければいけないんだ!)
幽は表では不満を表情には出さないが、心の中では忍耐袋が切れそうである。今まで同僚誰一人、幽に話しかけた者は居ない。
夜の7時くらいにやっと帰宅時間になり、幽は自分の宿舎の部屋に帰った。
幽は家の鍵でドアを開けると、中は深淵のように暗い。

 「嗚呼、心も体も疲れた。あいつら、本当にウザ過ぎる!本当に精神が崩壊しそうだわ!それより早くご飯を食べなきゃ、今日の夕食は何かな?」

幽の本来の楽しみは食事とお金の2つ。だが幽はあの夢を観たことで、また楽しみが一つ増えた。
幽は食堂の席に着くと、運ばれてきたのは、味噌汁と焼き魚とサラダとご飯。

「いただきマッスル」

幽は手を合わせると、食べ始めた。

「んー、美味い美味い」

15分後、幽は食べ終わった。

「ご馳走さまでした」

幽はそう言い終わると、席を立ち食堂を後にした。

 幽は宿舎の中ではパソコンで、転生や憑依、悪役令嬢などの小説を読んでいた。心のなかでは、寝た後に夢の続きを見たいと祈っていた。
それからあっという間に時間が過ぎていき、10時前になった。
幽は部屋の電気を消し、ソファに毛布を敷き、寝始めた。

※   ※   ※

幽は気付くと、ベッドの上に寝ていた。辺りを見渡すと、自分の宿舎とは違うどっかの部屋にいた。
(これはあの夢の続きなのか?)
今幽が分かっているのは、元の自分の身長にも届かない誰かになってしまっていること。
幽は下半身の重要な部分を右手で触ってみると、男性特有のものが無くなっていた。
幽は誰になったのか確かめるために洗面所の鏡に行き、鏡に写ってる自分を見てみた。鏡に写っている幽は黒茶色のロングヘアーに、茶色の瞳に、肌は雪女ほどではないけど白い。幽は試しに

「あーあー、俺はかんざき ゆうです」

と声を出して喋ってみたら、天女みたいな声だった。
(そういえば、最後に聴いた神埼芙雪の声も仙女みたいな声だったな!もしかしたら、この体の持ち主は神崎夫婦の娘,神崎 夕なのか?)

「夕、何してるの?今日は貴女の藍星(らんしょう)中学校の入学式よ!香穂子ちゃんもこの学校に来るからね」

夕(幽)は、声のした方に体を向けると、黒いロングヘアーに、茶色の瞳にふっくらとした唇に、雪女みたいな白く透き通った肌、胸が大きく、グラマラスな体つきをしている、正しく神崎芙雪であった。

(中学校の入学式?現実で1日が経っただけで、ここではもう13年も経過してしまったのか!それに香穂子って誰だ?訊いてみよう)

「香穂子って、誰?知らないんだけど!」

「夕、今日の貴女どうしちゃったの?なんか変だわ!言葉使いもいつもとは違うわよね!まさか、貴方は夕に憑りついた悪霊?だったりしないわよね」

(“女の第六感”というのは鋭いもんだな!もう見抜かれちゃったよ。どうすればいいんだ?俺は本当の事を教えればいいのか?でも教えたところで信じてくれるかどうかが問題なんだよなぁ。ええいらちが明かない、真実を告げるぞ!)

夕(幽)が芙雪に自分の事を告げようと口を開けた瞬間、
「あらいけない、もう時間がないわ!夕食の時に話して頂戴。私と雅臣で聴いてあげるから。今はすぐに着替えてきて」
と芙雪が夕(幽)を急かせる。

「押忍!」

 と夕(幽)は部屋に戻り、15秒で制服に着替えて出てきた。

(スカートって本当に慣れないな。スースーするし、何も履いてないって感じだしな)

「では行きましょうか」

 芙雪と夕(幽)は自動車に乗り、藍星中学校へ向かった。

※   ※   ※

校長の長い話が終わり、全校生徒が教室へ帰っていく途中、母親である芙雪の話を思い出した。

篠崎香穂子という少女は、夕の幼稚園からの同期。いわゆる幼馴染みである。この体の記憶を辿ると、香穂子幼稚園の頃に髪の色と顔がアジア系じゃないから、周りの子たちに苛められていた。それを観た夕は、香穂子を助けに入った。夕はそれで皆を敵に回したが、香穂子という大切な友達をゲットしたのである。

香穂子はプラチナブラウンの髪に、赤紫と金色のオッドアイでとても綺麗だった。

ロシア人とのハーフで、綺麗な顔立ちをした香穂子は、夕と同じくらいの美少女だった。

母親の方がロシア人で、なんと芙雪さんの中学生の時からの親友である。

そんな事を思いながら席に座ると、篠崎香穂子が夕の席の前にやってきた。

「夕ちゃんおはよう。私達同じクラスになったね。これから1年間よろしくね!」

 香穂子は微笑みながら夕に声をかけてきた。

(なるほど、この子が香穂子か!)

 夕は先程芙雪から聞いた話を思い出した。

(確かに美少女だ。)

 夕は不意に香穂子に顔を近づけた。

 「どうしたの、夕?なにか臭う?」

 香穂子は自分の裾を嗅ぐと、首をひねる。

(首のひねり方も可愛い。)

 夕が香穂子の仕草に見惚れていた。

「ねぇ、聞いてるの夕?ねぇ!」

 香穂子は夕の机をバシンと叩く。

「いや、うん、なんでもない、なんでもないよっ!」

 香穂子の言葉に、夕は慌てて我に返り、両手を横に振る。

「少し変だよ、夕?何かあったの?話してみ?」

香穂子は心配そうに夕の顔を覗き、夕のおでこに手を当てる素振りをする。柔らかい手の感触が夕に伝わる。

 (これが女の子の手か、気持ちいい!)

 夕は心でそう思いながら、自分の手を香穂子の手と重ねる。

 「そういえば夕って昔から私にあまえる時って、そうやって私の手の上に自分の手を置くんだよね、最近はしなくなったけど。でも今日またしてくれた。私とても嬉しいなぁ」

 香穂子は昔のことを思い出すように語る。

 (いいよなぁ、あまえられる人がいて。俺なんてあまえられるひとはいない。俺の世界じゃ、表面上あまえられる人でも、内心では人を馬鹿にしてる奴もいるんだよなぁ。香穂子みたいな純粋な系の子はもう見つからない)

 夕は香穂子の顔をじっと見つめながら考え込む。

 「ほら、夕ったらまた自分の世界に入ってる!今度はまた何を考えてるの?」
 
 香穂子はもう一度夕に訊ねる。

 「香穂子が綺麗過ぎて、女の私でも惚れちゃうなぁって!」

 夕は香穂子をべた褒めする。

 「夕もけっこう綺麗だけどなぁ。だから私は夕の美貌に惹かれちゃったんだよね!」

 「えっ!」

 夕は香穂子の衝撃の発言に驚く。
 
 「だから、私は夕の事が昔から好きだったの! 夕は鈍感なんだから!」

 そう言うと、香穂子は夕の頬にキスをした。
 
 「これ、私の初チューだからね!」
 
 香穂子は顔を赤く染めながら、逃げるように自分の席に戻っていった。
 
 夕はキスされたところを擦りながら、内心が興奮状態になった。

 (ラッキー!異性にキスされたぞ!)

 先生が連絡事項を説明してる間もずっと放心状態だった。
 
 その後は先生が連絡事項などを告げ、帰宅時間となり、みんな帰っていった。
 
 「夕、もう帰宅の時間だよ!」
 
 「えっ、あっもうそんな時間?」
 
 夕の驚きに香穂子はくすくすと笑い出す。
 
 「うふふふ、今日の夕は本当に面白い!」

 夕は香穂子の笑顔に、心を打たれる。

「ねぇ、香穂子、携帯は持ってる?」

「持ってるけど?」

「お互い携帯番号交換しよう」

「うん、良いよ。交換してもいいけど、その代わり条件があるんだ」

「どんな条件?」

「今日の夜、一緒に星を観に行って欲しいんだけど?駄目かな?」

「もちろんいいに決まってるじゃん!こんな美人に誘われたら」

「今日の夕ちゃん、やっぱり面白いね」

「……まぁなんだ、今日は俺の家に来てよ」

 こうして夕はいつでも香穂子と連絡をとることが出来る。
夕(幽)の持っている携帯は、現代の人と雰囲気が違うおじいさんから貰ったものである。そのおじいさんが言うには、現実で夢の中の人と会話が出来るらしい。


※   ※   ※

その日の夕食の時間に芙雪と雅臣、そして、家に来た香穂子と夕がそれぞれ夕飯を食べていた。

「さて、貴方のことを話してくれないかしら?」

 芙雪が夕に語りかける。

「俺もそのつもりで食卓にいるんだから」

 夕は自分の事を話し出した。
自分の名前は神埼幽、この体の持ち主と同じ読み方。
性別は男。
現在の年齢は28歳。
和歌山県の和歌山市に住んでいる。
職業はマンション管理人企業。
自分の時空でいう昨日で、28歳の誕生日の夜にソファで寝ていたら、この体の赤ちゃんの頃に憑依してしまったこと。
同じように今日の夜に寝たらまた、この体の持ち主に乗り移ってしまったこと。しかも自分の時空では1日しか経ってないのに、こっちではもう13年が経ってしまっていたこと。
篠崎香穂子を好きになってしまったこと。
夕は自分のポケットから携帯を取り出し、画像に写っている自分の顔まで見せた。

 「なるほど、君の事情は大体分かった。名前も僕達の娘とほぼ一緒だしね、何かの縁かもしれない。ほら、香穂子ちゃんと星を観に行ってあげなさい」

 夜の7時、夕と香穂子は、3mくらいの高さの丘の上まで来ていた。そして、夜空に浮かぶ無数の星を香穂子は子供のようにはしゃぐ。
広い空を360度見渡せば自分が如何にちっぽけな存在か身に染みる。
二次元でも三次元でも、並行世界でも夢の世界でも存在する生き物は、種族
関係なく存在が限りなく小さい。少なくとも夕(幽)はそう思っている。

「ほら観て幽さん、星が綺麗!」
「星は綺麗だけど、ずっと届かない距離にある。でも俺にとって綺麗なもの、いや一番美しいものは俺の隣に居て、今手を横に伸ばせば触れる事ができる存在、ってね!」
「えっ、それって?」

 夕は香穂子の疑問に答えるように行動で示した。
夕は正面から香穂子を抱き寄せた。
そして夕(幽)は香穂子の耳元で囁く。

「俺は本気で香穂子、お前の事が好きだ!会って間もないけど、俺はお前に一目惚れしてしまったらしい。ほら、俺の心臓の処を触ってみて」

 夕(幽)は香穂子の片手を優しくとり、自分の心臓がある方の胸に置く。
ドクン、ドクン、ドクンドクンドクンドクンドクン……

 「でも、私は幽さんにとって夢の中の存在だから、幽さんが自分の時空に戻ったら、私も星のように届かない存在になってしまうんじゃ?」
「夢だろうと、俺にとって香穂子は実際に存在しているんだ!それだけは譲れない!」
「ありがとう、幽さん。幽さんは優しい人なんだね。あっ、流れ星が飛んできたよ、願い事をしなきゃ、幽さんも早く!」

香穂子は流れ星を見つけた瞬間、夕(幽)を急かし後に目を閉じ、祈るポーズをとる。
夕(幽)も香穂子と同じように、祈るポーズをとった。
(どうか寿命が尽きるまで香穂子と未来永劫にいられますように)
夕(幽)は3回そう心の中で呟いた。
流れ星が過ぎ去った頃には、二人共目を開けていた。

「香穂子はどんな願いをしたの?」
「ふふふっ、幽さんのそばにずっと居たいって願ったんだ!如何、嬉しいでしょ?幽さんと会って間もないけど、私はなんか幽さんに惹かれちゃったんだ!幽さんは?」
「俺は“どうか寿命が尽きるまで香穂子と未来永劫にいられますように”って願ったんだ」
「私達本当にそうなったらいいのにね」

そうしてるうちに、二人は神崎家に帰っていった。
香穂子の両親は長期間海外に居るから、香穂子は殆ど夕の家に泊まって、後者と一緒のベッドで寝ている。
神崎夫婦も香穂子を家族の一員として迎えいれている。
風呂は幽の魂が夕の体に宿っているから、香穂子と夕(幽)は別々に風呂に入った。
風呂から出てくると、二人は同じベッドに入った。

 「こうして寝ちゃうと、幽さんは元の世界に戻っちゃうよね。なんか寂しくなっちゃうなぁ」
「俺もずっと香穂子といたいけど、この体は夕のだから返さないと、もうそろそろ目が!ま……た」

※   ※   ※

 幽は目を覚まし、机に置いてある携帯を手にとって確認した。
おじさんの言う通り、携帯には夢の中で香穂子の携帯番号とLINEが登録されていた。

「仕事まで時間はまだある。試しに香穂子に電話してみようと」

 幽はそう決めると、早速香穂子に電話をかけた。

「もしもし、この番号、まさか幽さん!」
「香穂子!夢の中の人と会話が出来るって本当だったんだ、ヤッホー!今、香穂子は今何してるの?」
「私は今、宿題してる処なんだ。幽さんは?」
「香穂子と一緒に星を観て、一緒に寝て目が覚めたところなんだけど。そっちはあれからどのくらい経ったの?」
「ああ、幽さんの時空はまだそんなに時間が経ってなかったのね。私の時空では、幽さんが帰ってから1週間が経ったよ」
「やっぱり香穂子の時空の流れは速いなぁ。あ、そうだ。勉強で分からない処があったら、LINEで連絡して」
「うん分かった、解けなさそうな問題があれば連絡するから、えっ、夕ちゃんも幽さんに話したいことがある?いいよ、はい」
「もしもし?神崎夕さん?」
「気安くアタシの名前を呼ばないで!アタシの体に憑依した時、絶対アタシの裸見てたでしょ、!アタシの美しい体は、アタシだけのなんだから!アタシと同じ名前だからって調子に乗らないでよね!ほんっと男って、みんな下半身でしか考えられない可哀想な生き物よね!最低!」
「ごめん、夕ちゃんは男性恐怖症なんだ。本当はいい子なんだけど、男性を相手にするとこうなっちゃうんだ。責めないであげて」
「俺は女の子を責めたことは一度もないけどね。あ、やば。もうすぐ仕事の時間だ、行かなきゃ!香穂子も夕もばいばい」
「仕事がんばってね」
「ふん!」

 幽は香穂子の事を脳裏に過ぎると、嫌なことも忘れ去り、笑顔で会社へと向かった。
それからというもの、毎日会社から帰ると、直ぐに香穂子と携帯やLINEで連絡しあい、夕とも少しだけど打ち解けたのであった。
その代わり夢は見るが、夕に憑依することはなくなり、香穂子と会う事もなくなった。
そう思われたのだが、幽が30歳の誕生日を迎えた日に、それは起きた。
幽は朝っぱらからLINEで香穂子と談笑していた。
香穂子は現在18歳。香穂子に告白しにくる男性は数え切れないほどいるが、香穂子は全て断っている。

 「幽さん、誕生日おめでとう」
「ありがとう、香穂子。香穂子もますます超がつく程の美人になってきたな。それでこそ俺の嫁だ」
「うん、私は幽さんしか眼中にないから。あっおじさん、おばさんどうしたの、そんなに慌てて?えっ、夕ちゃんが他の女子達に殴られて、頭部出血で倒れた!今白羽病院に運ばれた?ごめん幽さん、今3人で病院に行って、夕ちゃんをお見舞いに行かなきゃいけないんだ」
「気を付けて病院に行ってこいよ! 夕さんの頭の傷早く治るといいね」
「うん、また」

 言い終わると同時に香穂子から電話をきった。
休日は食堂が休みだから、幽は宿舎を出て近くのスーパーに買出しに出かけた。
10分後、幽はスーパーに到着し中に入った。
中は人がいっぱいで溢れかえっていた。

 「今日は何を買おうかな?」
 
 幽はスーパーの中をうろつきながら、独り言を呟く。
幽は結局、欲しい物が見つからなかった。
仕方ないから、幽はコンビに行き弁当を買うつもりでいた。
しかしその矢先、幽は叫び声を聴いた。

 「危ない!」
「えっ?」

 幽が気付いた時にはすでに遅し。
ビルの屋上から、女性が幽に向かって降ってきた。
幽は反応出来ずに、その女性の体の下敷きにされ、圧死した。
後日に、ニュースが報道された。

 『ニュースをお伝えします。昨日の昼に神埼幽という男性が道連れ教団の一員、丹生 美乃梨(にお みのり)の自殺に巻き混まれ、死亡しました。これで犠牲者は15人目になりました。この集団の特徴は、服装の前に必ず“DEATH TIME”という文字があるということです。皆さんも十分ご注意ください。……』

※   ※   ※

「此処はどこだ?」
幽はそう呟きながら、起き上がった。
辺りは一面真っ白。
「此処は私の精神世界よ!」
その時幽の後ろから、懐かしい少女の声が聞こえてきた。
幽は振り返ると、なんと夕であった。
「夕さん!俺、君にも会いたかった!」
幽は無意識に夕に駆け寄って抱きつく。

 夕は咳をし、幽は夕の体から離れる。

「今から本題に入るから良く聞きなさい!アンタは死んだのよ。アタシは香穂子を悲しませたくないがために、アンタを此処に呼びよせたの。別にアンタのためじゃないからね!勘違いしないでよね!」
「勘違いはしないしない(笑)」
「絶対にふざけてるでしょ!まぁいいわ。アンタ、本来はあの世行きだけど、アタシの体をあげるから、香穂子の元へ行きなさい!アタシの体を大事に使いなさいよ!」
「じゃあ、夕さんはどうするの?」
「アタシの寿命は残り少ないのよ、後少し経てば消えてしまう。今アンタの後ろにワームホールがあるでしょ!その中に吸い込まれば、アンタはアタシの体を得ることができるわ!」

幽は後ろを振り返れば、確かにワームホールがあった。

「でも俺はもう少し夕さんと話がしたい!」
「もう時間がないの、早くしなければそのワームホールも消えてしまうのよ!分かって!」

 幽が反応する前に、夕が幽にタックルをかまし、後者はワームホールに吸い込まれていった。

 「さようなら、幽」

 幽が最後に見たのは、夕の綺麗な笑顔だった。

※   ※   ※

 夕(幽)が目を開けると、病院の中であった。

「夕ちゃん、目が覚めたのね!今先生呼んでくるから、待ってて。香穂子ちゃんは夕ちゃんの面倒を観てて、すぐに帰ってくるから」

 芙雪が病室から出ていった後、夕(幽)が最初に口を開く。

 「香穂子、実は俺……」

 途端に、香穂子は夕(幽)の唇に人さし指を当てる。

 「分かってる、精神は幽さんなんだよね!幽さんが私のそばに来てくれて本当に良かった!夕ちゃんがいなくなったのは悲しいけど」
「今、俺は女性の体になってしまったけど、それでも添い遂げてくれる?後悔はしない?」
「勿論!他人からみたら、私はレズかもしれないけど、それでも私は夕ちゃんになった幽さんを愛している」

 芙雪と雅臣がドアを開けると、夕(幽)と香穂子がお互い抱き合ってキスしていた。
「貴女達、何してるの?女の子同士でキスしちゃ駄目でしょ!」

 芙雪が慌てて二人を引き剥す。
香穂子と夕(幽)はそれぞれ自分の事情を包み隠さず、神崎夫婦に話した。

 「そんなに二人が愛し合っているのなら、いいじゃないのかい?自分の価値観を他人に押しつけちゃ駄目っていうんじゃない?」
雅臣が芙雪に説明する。

 「仕方ないわね。貴女達に訊くけど、どんな困難な事が待っていようとも愛しあえるのね?」
「「もう私(俺)達は、未来永劫相手を愛するって誓ったから、もう絶対に離れることはありません!」

 それから、夕(幽)と香穂子は18歳から20歳まで日本で一緒に過ごし、21歳になると一緒にアメリカに移住し、念願の結婚を果たした。
二人は一生離れることはなかった。




                                                      完

現実で不幸な男がTSし、夢の愛しの彼女とイチャイチャタ〜イム

この小説は完結しましたが、現在、修正中であります。

現実で不幸な男がTSし、夢の愛しの彼女とイチャイチャタ〜イム

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-03

Copyrighted
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