Mariaの日記 -1-

Mariaの日記 -1-

Mariaの日記 1日目

今日からブログを始めようと思います。
先ずは自己紹介をします。
私の名前は大路真理亜です。
仕事は、某大手企業の支店で事務をしています。
身分はパートだし時給も安いしで、あまり良い条件ではありません。
でも男性の多い職場なので結婚相手を見つけるために頑張って働いています。
最近、仲良くしていただいてるのは雨戸真人さん。
営業成績トップだしイケメンだし、私に相応しい相手だと思うから告白されたら結婚するつもりです。

では、今日の日記を書きます。

今日は、主任に呼ばれて怒られました。
私が仕事をサボっていたのが気に食わないようでした。
サボるといっても、一時間くらい御菓子食べながらスマホでゲームをしていただけです。
ちょうど十時だったし休憩してもいいはずなのに、怒るなんて心の狭い人だと思いました。
怒られて頭に来たけど、泣き真似をしたら直ぐに許してくれたので良かったです。
やっぱり可愛いって得ですね。
これって私が可愛いから通用する手だけど他の人は真似しない方がいいですよ。
本当は言い返したかったけど、もし主任がキレて不当解雇……なんてことになったら雨戸さんと縁が切れてしまうから我慢しました。
我慢出来た自分を褒めてあげたいです。
此処まで書いていて気付いたんだけど、もしかしたら主任は私に気があるのかもしれません。
雨戸さんとの事を妬んで、くだらないことで御説教をしたんでしょうか?
でも主任には奥さんがいるし……不倫は困ります。



Mariaの日記 2日目

ブログを更新します。
今日は頭に来ることがありました。
些細なことで年下の女子社員、寺井麻子さんに怒られました。
怒られた理由は、郵便物を投函しに行くだけなのに一時間も掛かるなんておかしい!……ってことでした。
そんなことくらいで怒るなんて、寺井さんは心の狭い子で困ります。
大体、年下のくせに、私に仕事を言いつけるなんて生意気です。
郵便物なんて寺井さんが出しに行けばいいのに。
それにポストのある場所がコンビニだから、ついでに買い物するくらい良いと思うんですけど……そのくらいで怒りだすなんて不思議でなりません。
私の時給は安いし、少しくらい息抜きしても良いはずです。
寺井さんは正社員だから、パート社員の私に威張りたいのかもしれませんが迷惑です。
本当に腹が立ってしまって言い返したくなりましたけど我慢しました。
どうしてかというと……こんなことを書くのは可哀想かもしれませんが、寺井さんは御世辞にも可愛いとか美人とか言える容姿ではありません。
可愛い私を僻んでいるのかもしれない……と思うと可哀想で何も言えなくなるんです。
それに、あの容姿では仕事に生きるしかないでしょうから正社員の椅子を必死で守っているのかもしれません。
その点、私なら結婚して専業主婦になる道もありますし。
だから寛大な気持ちで寺井さんを許してあげられるんです。
今日は雨戸さんと何度も目が合いました。
早く雨戸さんから告白されますように……。
雨戸さん……なんて他人行儀で変だから、ブログでは、マー君……って呼ぶことにします。



Mariaの日記 3日目

「三日目か……」

 ブログ主は、小さく呟いてからキーボードを叩き始めた。


ブログを更新します。
今日は良いことがありました。
寺井麻子さんが課長に呼ばれて怒られたのです。
なんで怒られたのかは分かりませんが、いつも威張っている寺井さんが叱られる姿を見ていると胸がスッとしました。
今日だって、ほんの三十分くらいスマホでゲームしていただけなのに寺井さんが怒りだして困りました。
寺井さんは細かいというか心が狭いというか、とにかく扱いにくい子です。
もしかして課長が怒っていたのって、この件だったりして……?
正社員だからといってパート社員に威張り散らしたら駄目だよって怒られたのかもしれません。
だとしたら可哀想だけど自業自得ですよね。
課長、私の為に寺井さんを怒ってくれたのだとしたら……どうしよう。
だって課長は離婚しているから独身なんです。
でも年齢が離れているからアピールされても困るし……それに私には雨戸さんがいるし。
可愛いと、興味ない相手から言いよられたりすることもあって不便です。


 今日のブログを書き終えると、ブログ主は満足げに背伸びをしてから鼻で笑った。

「大路真理亜……」

 馬鹿馬鹿しい内容だが意味があるのだ。
 ブログ主にとっては。



Mariaの日記 4日目

 ブログ主はパソコンの電源を入れる。
 間接照明だけの薄暗いリビングの中でボンヤリと灯るモニターに向かいながら、日課となったブログの更新を始める。


昨日は営業さん達に誘われて居酒屋へ行きました。
マー君の隣に座れたので、ついつい二人きりで話し込んでしまいました……反省。
私とマー君の仲が知られたら僻んで嫌がらせされそうだから気を付けないと。
美男美女のカップルって僻まれちゃうから大変なんです。
寺井麻子さんは営業さん達全員の席を回って御酌をしていました。
きっと誰か一人にでも気に入ってもらえればと思っての行動なんでしょうけど……。
会社の懇親会で男漁りは止めなさいって注意してあげた方が良かったのかしら?
居酒屋の後はカラオケに誘われたんだけど、寺井さんが終電に間に合わなくなるから帰るって言い出して行けませんでした。
だって女の子一人で二次会に付いていくのは、はしたない様な気がして……まったく寺井さんの我が儘っぷりには困ります。
私は二次会のカラオケへ行きたかったのに迷惑です。
もしかしたら終電じゃなくて、私に意地悪をしたかったのかもしれない。
やっぱりマー君と私の仲良いところを見ていて僻んだのかもしれない。
だとしたら羨ましがらせた私の方が悪いですよね……もしかしたらマー君も他の営業さんから嫌がらせされちゃうかも……私って小悪魔なのかな。

***

今日二回目の更新です。
マー君との思い出話を書きます。
昨年の秋、他の支店社員さん達と合同で日帰りのバス旅行に行きました。
バスの席はマー君の隣が良かったんだけど、女の子同士で座らないと不自然に思われるかと配慮して寺井さんと並んで座りました。
私って周囲に気を使いすぎですね……。
でも休憩のサービスエリアやランチタイムは、マー君の隣を確保することが出来ました。
とても楽しい思い出となりました。
御土産屋さんでマー君がキーホルダーを買うのを見掛けたので、私も同じ物を買いました。
黒いパワーストーンが付いたタッセルキーホルダー……御揃いです。


 此処まで書いて、ブログ主はパソコン横に置いてあるコーヒーへと手を伸ばす。

「我ながら、良い記憶力だ……」

 自画自賛する言葉を呟いてから、再びキーボードを叩きだす。


でもマー君はキーホルダーを使っていないみたい……私がスマホケースに付けているから使わないのかしら?
だって私と御揃いで使っていたら他の男性から妬まれちゃうだろうし。
この黒い石はトルマリン。
マー君は、どんな願いを込めて買ったのかしら……?

Mariaの日記 -1-

Mariaの日記 -1-

これは小説です。実話ではありません。Mariaは存在しないのです。

  • 小説
  • 掌編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-03

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著作権法内での利用のみを許可します。

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