暗闇に漂う舟-第一章-~ばあちゃん~

大切な人を失い
居場所も奪われ


信じていたのは祖母のしてくれたあの話

果たしてそれは真なのか

はたまたただのお伽話なのか



そして舟の向かう場所とは。



南無妙法蓮華経~


チーン・・・

・・・・・・・・・・・・・・・。


「ばあちゃん・・・」


「航大?おばあちゃんにお別れしてらっしゃい・・・」


涙で顔をくしゃくしゃにしながらお袋が促す。


俺はそれに素直に従う。


スタスタスタ・・・


死に装束に着替えたばあちゃん。

優しい顔。ただ眠ってるだけみたい。


「ばあちゃん、あの話覚えてるかい?
ガキの頃に俺にしてくれた船の話・・・」




今日はばあちゃんの葬式。

大往生だった。

安らかに眠るばあちゃんを前にすると、不思議と悲しみはなかった。


けれど、やっぱり胸は痛かった。



ばあちゃんは生前、飼っていた犬を亡くし泣いていた幼い俺に、こんな話をしてくれた。



「航ちゃん、泣かなくても大丈夫だよ。

コロはね、旅に出たんだ」


「コロは・・・ウック、ここにいる、よ?」


「うんうん、魂の話さね。

航ちゃんが居るこっちの世界、コロが向かったのはあっちの世界。


あっちの世界に行けるのは魂だけなんだよ。


コロはね、ちゃあーんと元気にしとるよ」


「本当?ヒック

コロは、どこにいるの?」


「コロはね、お空の向こうにいるよ。


お空の向こうにはおーっきなお舟があってね。


そのお舟に乗ってあっちの世界に向かうんだよ。


コロはちゃあーんとお舟に乗って、航ちゃんが泣いてないか見とるよぉ?


あっちの世界は楽しいところだから


コロは大丈夫だよぉ」



「どうして"あっちのせかい"のこと、おばあちゃんは知ってるの?グスッ」


「おじいちゃんがねぇ、あっちの世界から手紙をくれたのさ

でーっけぇ舟さ乗ってきたんだけどこっちの世界は暖かくて良いとこだよ、元気にしとるよってねぇ


今頃、コロとお散歩しとるよぉ」



そう言ってばあちゃんは頭を撫でてくれた。





そのばあちゃんがあっちの世界に行
ったのが二年前。



俺は高校最後の年を迎え、希望に満ち満ちた未来を眺めている


・・・はずだった。



世の中悪いことばかりじゃないって言うけどさ


そんなもん嘘だ。


ばあちゃんが居なくなってから、立て続けに悪いことは続いた。



何もかも、あのクソ親父のせいさ。



俺が幼少の頃から、表向きは良い家族に見られたけど


内側は実際酷いもんだった。


度重なる借金


家庭内暴力



愛人


ギャンブル




ドラマの中に頻繁に登場するクズ野郎が、まさか身内に、しかも実父がそうだとは夢にも思わなかった。


お袋はずっと我慢してたらしい。


せめて俺が20歳になるまでは、と思っていたらしいけど


高校卒業を待たずに、我慢の限界にきたらしい。


"ごめんね"


そう残して、母親は蒸発した。


もっと酷いのはそれからだった。



何かにつけ、例のクズ野郎は俺に当たり散らし


少ない時間を遣り繰りして稼いだバイト代を踏んだくっては



連日連夜の娯楽三昧。


「ばあちゃん・・・俺どうしたら良いんだろう・・・・」



高校卒業まであと半年もない。


生きてるのか死んでるのかも曖昧な生活


学校では いつも通りの"三浦航大"を演じて



それ以外の時間は毎日泣いては、ばあちゃんばあちゃんと譫言の様に繰り返していた。







そして俺は今、眼下に広がる日常を見下ろしている。




俺は思い出していた。



ばあちゃんにしてもらった"あの話"のことを。



救いが欲しかった。


解放されたかった。


未来が欲しかった。


そんな俺の鼓動を促すものも今となっては、あの舟しかなかった。



怖くはなかった。


未練も。


寧ろ清々しさすら感じる追い風に身を任せ


俺は飛んだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


ビューーーーー



風が鬱陶しいくらいに耳を擽る。



世界が暗転し、そこで俺の意識は途切れた。

暗闇に漂う舟-第一章-~ばあちゃん~

初めての長編作品です。

温かい目で見てやってください。

暗闇に漂う舟-第一章-~ばあちゃん~

生死の境を越え、そこに見たものは。 長編作品の第一章です。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-16

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