時空不仲説

松見坂

愚痴

時空不仲説

 時間と空間の仲が悪い。そんな仮説を今から証明します。
 まず、カラオケを想像して下さい。
 キェェェェェェエイウホホホウホウホビヨンビヨン、などと言いました。ついこの間の話です。大学の友人と駅近くのカラオケルームに行って、個室の扉をくぐった直後のこと。何故こんな知能指数の低い奇声を上げたのか弁明しますと、普段上げられないからです。大学のキャンパスの渡り廊下なんかで「ウホホホウホウホ」なんて叫んでご覧なさいよ退学でしょ。だからカラオケで開放したんです。「ビヨンビヨン」とか大はしゃぎしたんです。例えその結果、友人の膝にドリンクバーのココアをぶっかけようと、帰りの会計のとき店員に中指立てられようと、いいんです。開放ができたんだから。
 皆さん、ここで僕が言う「開放」を覚えておいて下さい。「開放」――経験ありませんか? 風呂場で歌うとか、自室で放屁するとか、恋人に噛みつくとか、そういった類のことです。「放屁」と「恋人」が同じ一行に入ってるのヤですね。悪趣味。……とにかく、理解して頂けますよね。
 次に、お泊まり会を想像して下さい。
 飲み会でもいいです。気の置けない友人の宅へ集い、銘々お酒やおつまみなんかを盛って持って与太話に花を咲かせる。外界に聞かせられないほど赤裸々な暴露や、親密度が故に口をつく下世話な声明……。それらが、マリファナでも焚いたようにモクモクと部屋を漂い、布団の染みと化していきます。皆がハイになっていきます。抱き寄せた枕が愛されすぎて齢を重ねても、この懺悔室で繰り広がるドラッグ・パーティーは無限に続いていくのです。
 この「無限」を覚えておいて下さい。「無限」――経験ありませんか? 金曜日の就業後とか、夜行バスの出発とか、夏休みの一日目とか、そういった類のことです。
 開放。
 無限。
 この二つのワードが、時間と空間の袂を分かっています。
 考えてみて下さい。
 開放が許されるカラオケは無限ですか。どんなにフリーなタイムだろうと、終わりは必ずやってきます。いつかは「ウホホホウホウホ」と声を上げられなくなる「時間」が訪れるのです。そうして人語を話す日々が戻ってきます。歌唱せし風呂場も、無限に入っていては肌がふやけてしまい、いつかは破れて死に至ります。自室に永遠に留まることはできませんし、恋人を噛み続けたら一発で袖にされます。
 無限が許されるお泊まり会は開放ですか。多少なりとは奇声を上げてもいいかもしれませんが、時刻は深夜です。近隣の住民に迷惑が及び、強制退去させられてしまうでしょう。……家や公園なんかには無限にいることができます。しかしその場合、開放は許されていません。うるさいですから。お巡りさんだってやってきます。そういう「空間」なのです。
 以上が時空不仲説。
 何が言いたいかというと、島でも買って勝手に暮らしたいね。

時空不仲説

愚痴でした。

時空不仲説

愚痴です。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-01

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