星のメッセージ

星のメッセージ

2019年「5月1日。4月30日から本日にかけて書き上げたSF短編である。小説掲載日は本来金曜日だが、元号が今日より令和にかわることから、例外として今日掲載する。縦書きで読んでください。

 天文台の電波望遠鏡が奇妙な信号をとらえた。宇宙の中には無数の信号が無数の星から放たれている。星星の物理的な変化は信号となり発信される。何百、何千万光年も離れた星から発せられた信号は地球でその信号を捕らえたとき、星の百、何千万光年昔のシグナルということになる。その時その星が存在している保証はないのである。
 星が発する物理現象による信号は以外と規則性がある。ところが生命が操作した信号はその規則性を逸脱する。そのような信号をとらえると、地球外生命の存在が期待されることになり、そのシグナルの出所の星を探ることになる。
 多くの国に設置されている電波望遠鏡はシグナルをコンピューターで受け取る。通信手段の発達した今ではすべての電波望遠鏡のデータを集めて解析することが可能である。
 従って地球外生命の研究は一人ではできない。しかし、それに気付くのは絶え間なく送られてくるシグナルである数値を眺め続けている辛抱強い研究者個人である。有名な信号にWOWというのがある。1977年アメリカの研究者が数字の羅列のなかに異常なものを見つけ「WOW」と叫んだのでその名前が付けられた。うわーという叫びの英語にすぎない。WOWWOWという映画有料番組は「うわーうわー」にすぎない。しかし、今そのWOW信号も、とある彗星が発するものではないかという、残念結果になりつつある。このように本当の生命のシグナルは地球に到達していない。
 今回その信号に気がついたのは日本の若手宇宙学者で、地球外生命探索グループの一員である。
 数字の羅列が大型のコンピューター画面に流れる中、彼の指がキーを押して止めたところから続く信号が今までにみられない違った規則性を持つものであったのである。
 彼はとっさに何かを表していると考えた。
 まずどのあたりの星からきているのか、推定した。それにも時間がかかったが、それでも、おそらく8000万光年も離れている星からのようである。実際に特定できていないので仮に彼は八千万星と呼んだ。
 さらにその通常ではない信号は「OYA]と名付けられた。その若手科学者が「おや」といったのを、一緒のラボにいたフランスの研究者が聞いていて、「OYA]と記したことから名付けられた。
 まあ、科学だってそんなものである。
 OYA信号は他の星の信号から比べれば全く違うものではあるが、その中にはそれなりの規則性があることがスーパーコンピューターでわかった。それも一年かかった。
 OYAの信号には四つの基本信号を複雑に組み合わせたものであることが判明した。これを解析するのに二年かけたが、スーパーコンピューターでも結論がでなかった。
 ところがOYAの名付け親となった日本の若手の宇宙物理学者が、OYAの中から一つの信号を切り離して、三つの基本的信号の組み合わせを解析したのである。
 みなさんも知っているだろう。ノーベル賞の中山博士の発見は、分化してしまった、すなわち元に戻ることのできない形になった細胞を、もとのなににでもなる細胞に戻す方法を発見したことである。博士の研究グループの若手の研究者が一つ一つ候補となる遺伝子を分化した細胞に組み入れて元に戻るか試していたのであるが、候補の遺伝子四つすべてを入れた結果、元に戻ることがわかったのである。
 まさにその逆で、OYAの発見者は四つの基本的な信号の一つを取り除いて、まず三つの組み合わせを解析しようとしたのである。
 それにも1年を要したが、色に関わるようだと言うことが明らかになってきた。色に関していえば光の三原色と、色の三原色がある。
 光の三原色は赤青緑で、全部混ざると白になり、赤と青で赤紫、赤と緑で黄色、青と緑で空色になる。さらに三原色の割合により茶色など他の色をだすことができる。色はどこで判断されるかというと脳である。しかし光を受けるのは目の網膜であり、網膜の中に三つの光の色にそれぞれ反応する三種類の視細胞があることにより、赤青緑の光を受けて目と脳でその割合を判断して色が認識されることになる。
 虹の七色がなくても、三色があればすべての色を認識できることになる。もし、七色の視細胞を持っている生き物がいるとすると、もっと複雑な色を認識できるのかもしれない。
 もう一つの色の三原色は絵具などの基本の色である。それは赤青黄色ということを学校で習う。絵具の色は紙の上の絵具が発する光の色ということになり、絵の具自身が色を発することはないので、空にある光を反射したものを眼が捉えたものである。専門家にいわせると、絵具の三原色は赤紫、空色、黄色が本当なんだそうである。これも光の三原色によリ作り出される。赤紫の絵具は光の三原色の緑を吸収して赤と青を反射するので、それを目に受けると混じって赤紫に見えることになる。同様に空色は赤を吸収し青と緑を反射するから目がそれを受けて判断している。黄色はまさに青が吸収されて赤と緑が反射して混じったものである。絵の具の三原色は光の三原色の二つが同量混じってできた色ということになる。では黒はどうなるのかというと、三つの光の三原色を全部吸収したため、反射する三原色の光がないことで生じる色であり、白は三つとも反射して混じったために生じたものとなる。
 ともかく、光の三原色が「OYA]のシグナルに入っており、しかもそれが形を伴うような複雑なもので、連続して送られていることは映像の可能性があった。
 すなわち、その暗号を解けテ、ヒトの見るような形に出来ると、送られてきたカラーの映像がみられるかもしれないのである。
 そこまでわかったとき、全世界の地球外生命研究グループだけではなく、物理学の研究者たちが総出でシグナルの解明に従事するようになった。科学研究費がついたこともある。
 そして5年、とうとうその解読に成功したのである。ところが、一つの基本的シグナルをのぞいて解析した結果であり、第四の基本的シグナルは謎のままであった。
 誰もがその映像シグナルを人間の目に見えるようにしたいと、物理学者は暗号を人間に感知できる形のシグナルへの変換をこころみた。それにしても複雑なもので、地球上の映像より複雑な色の組み合わせを必要とした。ようするに8Kのテレビでは映すことができないので、もっと精密な画面を要求されたのである。いくつも会社が画像機の開発に乗り出した。8000万光年離れた星の宇宙人の映像がみられるかもしれないのだ。
 ところが、日本人のOYA発見の若手研究者はその第四のシグナルの解析を始めた。謎をすべて解決したいという純粋な研究者だったのだ。
 一人で解析を進め、それはもう一つの光の原色の可能性を突き止めた。その星の人は四つの種類の視細胞をもっているのかもしれない。そうなると人間にその色が見えるかどうかわからなかった。もしそうなら、人の目に見えるような形に変換しなければならない。
 光の四原色が混じるとどうなるのだろう。光の三原色は混じると白だが、どのような色が存在しているのだろう。何とか人間の目にそれが再現できないだろうか。
 若い日本の研究者はそれに没頭した。どのように人間の目に見えるようにしたらいいのだろう。彼は一つ思いついたことがある。人間にとって基本である黒と白は、光の三原色がつくりだすものである。白と黒そのものが光の中にあるとしたらどのようなシグナルになるのだろう。見える光の波長は限られて行いて、人間の目に見えるのはその範囲内だ。 その外は赤外線と紫外線だが、ミツバチには紫外線が色として認識されている。では最も長い光波と短い光波どのような色の情報になるのだろう。光波ではない波があるのか、そう考えると人の目にはわからない色が無数とあることになる。混ぜたものではない黒と白を表す光波などあるのか。
 彼はそう考えて解析をすすめていくと。あながち間違いではなさそうである。しかし送られてきている第四の色を人間の目に見える三原色に混ぜ合わせ、三つの色の視細胞に認識できるように変換しなければならない。どうやって混ぜ合わせたらいいのだろう。
 周りの研究者たちに彼の考えを送った。なかなか賛同はえられなかった。
 証明するには視細胞が感受できなければならない。赤、青、緑の波長に別の形の波でその第四の宇宙人の光の波長を混ぜ込むのである。その異なった波の形をうまく作り出せばいい。そう思って作業をすすめた。まだ先は長い後数年かかるであろう。
 
 彼の努力のかたわらで、国際地球外生命研究チームが、最初の映像を映し出す日を、西暦2035年一月一日の正午とした。来年のことになる。それにともなって、8000万光年先の星の地球外生命からのメッセージを三原色だけに絞って、人間が見えるようにした複雑なシグナルを映像化できるような20KテレビをNHKが発表した。それは大量生産ラインにのせられ、全世界の人々が予約を入れた。
 2034年の暮れになると、その受像機はほとんどの家庭に設置されていた。普通のテレビとしえも使えたので、買い換えた人が多かった。
 大晦日は全世界の人がテレビの前に集まった。
 どのチャンネルをみてもいつものニュースキャスターがコメンテーターとともにスタンバイしていた。
 次の年になった。正午になるとともに、光の三原色の部分だけで再現した地球外生命からのメッセージが映し出された。
 それは落ち着いた色の世界だった。まるで絵本の中にいるように、きれいな町が映し出されていた。SFに出てくるような未来都市を想像していた地球人は当てが外れたようである。
 町の中には植物は全くみられなかった。どの家も真四角で屋根に球形の玉が乗っていた。家がなにでできているかはわからない。カメラは街の中を写していった。しかしなかなか異星人はあらわれなかった。一時間ほど街の中をみせると、カメラは丘の上に上がって言った。丘の上にはその星の住人がいた。
 人々は眠気など吹き飛んでいた。初めての宇宙人である。
 七、八人がベンチのような物に腰掛けて話をしているようだ。音声ははいっていない。宇宙人が大写しになった。人間に似ているようで似ていない。髪の毛がなく頭と顔の境がない。目が至る所についている。数えてみると頭のてっぺんに一つ、下に列になって、並んでいて、全部で十八もある。首より上は目玉の行列である。それぞれの眼が勝手に瞬いている。
 手足は人間と同じように二本ある。ただ胸と腹には分かれていない。円筒形のような形をしている。指は一本しかない。洋服のような物はきていない。肌の色は茶色である。
 一人の宇宙人が立ち上がった。一見、日本のコケシに手足が生えているようだ。もう一人が立ち上がろうとすると、すでに立っていた宇宙人に腕が二本銅から延びて、その宇宙人を支えた。それは年寄りのようだ。家族のようである。
 その老人が立つと、周りの異星人も立ちあがった。皆歩いて丘を降りていく。八人は一つの家にはいった。カメラも追いかけている。
 八人は居間のようなところの床に寝転がった。真四角な天井に映像が映っている。どうもテレビのようだ。屋根の上の丸いものはアンテナかもしれない。
 写っているのは、なんと、NHKが新しく開発した受像機に集まる地球の人たちの様子だった。
 8000万光年離れている星で、今の地球の様子を見ることはできないはずである。
 これを見たかなりの人は、この映像は作られた物だと疑った。初めて月に人が立ったときの映像は砂漠で撮影した偽物だと噂が広まったことがある。
 ところが、逆にこれが正しい映像だと認識した人も多くいた。受像機を開発したり、宇宙物理学に精通した人たちである。
 確かに、8000万光年先の映像はそれだけ過去のもののはずだ。しかし、太陽系の直前まで、全く我々の道の方法で映像シグナルを送信し、太陽系に入ると我々にも感知できるシグナルにする方法で送られたのかもしれないのである。画像をまとめてインターネットで送る方法はみなさんも知っているだろう。ジップという仕組みである。そのジップを瞬時にある地点までおくり、そこで解凍して普通のシグナルとして放つ方法である。もちろん我々にその方法はわからない。とても高度な生命体である。そういうことなのだろうと専門家は思った。
さらに送られてきたシグナルは曲者である。送りつけた映像のシグナルは地球の人間に分かるようなシグナルに置き換えられ受像機にながされたにもかかわらず、その映像の光波は見ている状況を取り込んで、自分の星に送り返している。
インターネットができたとき、今でもそうだが、きっと見張られている。と思ったことがある。それと同じかもしれない。
科学者たちはその映像を信じた。疑いたい者は疑えばいいと思っていた。
 八人の生命体はどうやって生きているのだろう。口もない、耳もない。ということは音波を必要としない伝達方法を使っている。食べなくていいとすると、体表から空気の中の物を吸って生きているのだろう。
 この映像は星の普通の生活のようである。だが何のために宇宙の果てまでも送っているのだろう。その星の存在を知らせるためだろうか。
 天井に写されている映像が変わった。赤い星が映し出され、拡大されると、やはりその星の生命体が暮らしている様子を見ている、異なった形の生命体である。それは人間と同じように二つの目を持った生き物だった。まん丸で足はなかった。この星、八千万年星の住人たちは自分達の映像を送って、他の星から映像をとって、楽しんでいるようでもある。
 とても進んだ生命体である。
 地球上の人間の興奮と議論は一月経ってもおさまらなかった。異星人の家族を映した後はその星の研究所などいろいろなところを送ってきたからだ。科学者たちは感嘆し、社会学者、政治学者、経済学者はその星の社会形態の解析に精を出した。
 そこで不思議に思ったのはすべての国の防衛担当者である。こんなに、あからさまに自分の星をみせてしまったら、好戦的な生命体にねらわれないかということだった。きっと防衛力は持っている。そう思って彼らは見ていた。

 「OYA]をみつけた若い日本の宇宙科学者は、第四の光の原色を人の目に見えるようにする方法を見つけた。第四のシグナルのある数値を消去させたところ、人間の目にみえるようになった三原色のシグナルにそれが混じったのである。さらにその混じったシグナルを受像機にあうように変えなければならない。ただそれはそんなに難しくは無いだろうと思われた。彼はその結果を世界の研究者たち無償で提供した。
 光の四原色の映像がその星の本当のすがただろうと皆考えた。世界中のスーパーコンピューターをつなぎ、送られてくる映像のシグナルにその第四の光のシグナルを混ぜて、世界中に放映できるたいせいをつくった。
 それを行うのは2036年一月一日とした。
 地球人はなにが見られるのか楽しみにその日を待った。
 「OYA]のシグナルに気がついた若手の日本人研究者は2035年のノーベル物理学賞を受賞した。
 
 その日がきた。
 ほとんどの人が受像機にかじり付いて待っていた。
 スイッチが押されると、その星の映像が映し出された。周りの色や家の色には今まで見ていたのとは違いがなかった。カメラは一つの家にはいっていった。そこにはやはり八人の家族らしい人が床に転がって天井のテレビに映っている地球人たちを見て驚いている。
 なにに驚いているのだろう、科学者たちは少しばかり不審に思った。
 カメラを持っている異星人が胴体から別の腕を伸ばしたようだ。一つしかないと思っていたら、手の先から八つの指がのびてきた。
 八つの指を広げて、八人の異星人にカメラの方を向けと言っているようだ。目玉はたくさんあるのだから、なにもカメラの方を向く必要がないはずである。
 八人の異星人は立ち上がって、胴から八つの腕を伸ばすと自分の目をふさいだ。ずい分沢山の腕をもっている。だけど目を防ぎきれなかった。いくつかの目玉は隠れなかった。
 すると、地球人が見たこともないどろどろした色というか、物体が手でふさぐことの出来なかった目から沸き出し、異星人の頭を包んだ。画面に人間の目には不気味な色が異星人から泳ぎだし、見ていた地球人の頭の中に浸み込んだ。
人間は顔をゆがめて立ち上がり髪ををかきむしった。不安が生じ、人々は疑心暗鬼におちいった。力のある人間はそばの人をげんこつで打ちころし、首を絞め、かじりついた。人間同士の殺し合が始まった。
 「OYA」を見つけた若手の研究者は一瞬、「あ、やってしまった」と思った。その研究者は研究室で解析に携わっていた女性の首を絞め殺した。研究者自身もほかの研究者に殺された。
 地球上にはその映像を見ることのできなかった人間だけが残った。
 殺されてしまった「OYA]の発見者が言った「やってしまった」ということはこういうことである。
 第四の光の原色だと思ったシグナルは防衛のシグナルだったのである。そのシグナルを映像に混ぜるとそれを見たその星の生命体は殺し合いを始め滅びることになる。その星の生命体は地球の生命体である人間はまだそれほど科学が進んでいないので、映像シグナルを送ったとき第四の防衛シグナルはまぜなかったのである。
 まさか解析されて自分たちで混ぜてしまうとは思っていなかったのである。異星の生命体が天井に写る地球の映像を見て驚いて立ち上がって、手で眼を覆ったのはそういう意味があった。だが遅かった。その何百年か後、地球では幸い残った人間で人口は増加し、科学も発達した。その星と相互連絡をとることができるほど総合科学が発達し、その色は「グロテスク」と呼ばれる防御の色ということが分かった。
 「OYA]の発見者は、防衛のシグナルだと気づくほど優秀な科学者だった。だがそれに気がいたときには遅かった。生命科学や心理学や社会学、あらゆることを知ってから宇宙人とは接しなければならない。改めて人間科学という総合学問の重要性が見直されたことから、地球人は生き残ることができたのである。

 

星のメッセージ

星のメッセージ

宇宙からのメッセージに気が付いた日本の若手科学者がシグナルを解読し、それは映像であることがわかった。ただそのシグナルには解析できないシグナルが含まれていた。そのシグナルも解明したのだが。

  • 小説
  • 短編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-01

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