「蒼い歯車と、ある時計職人の話」1
今日も少女はチクタクという音に合わせて数を数えていました。
1、2、3、4…60を24回数える事が彼女の仕事。
彼女が数を数えると時間の波の道が続いていきます。いくつもいくつも。
彼女は時計に住むという少女。
毎日この仕事をしながら、自分を作った職人の仕事を見守るのが日課です。
職人には彼女の姿も波の道も見えません。
彼女は人に見られてはいけません。人に気付かれてはいけない存在だからです。
チクタクチクタク今日も数を数えています。
彼は今日も真剣な眼差しで、時計の心臓を作っています。
彼の夢は“真の心臓”という一番正確で美しい心臓と言われる歯車を作ることです。
少女は職人の作業の様子を見るのが好きでした。
心臓を作る様子は魔法のようでした。キラキラしていて、様々な色をしている歯車。
赤や青、黄色に緑、様々な色はその心臓を持つ時計の個性です。
職人は今日もその歯車を作っています。今日も少女は職人を見守っています。
ある日、いつもの制作場に彼がいませんでした。
少女は周りを見回します。やはり誰もいません。
少女は職人がいつも作っていた歯車に興味がありました。
自分の歯車はもうボロボロで緑青のような蒼色だったからです。
綺麗な歯車がとても羨ましく思っていました。
たくさんの歯車を少女は楽しそうに手にとって見つめました。
どれも綺麗でキラキラしていました。
自分の歯車とは違って。
その中でもひと際、他の歯車とは違う美しい心臓がありました。
少女は迷わず、その歯車を手にとります。
それは他の心臓と違って温かく、優しい色をしていました。
彼女はその歯車が欲しくなってしまいました。
チクタクチクタク
「・・・誰だ?」
その声に気づいて振り向くと、職人が立っていました。
とても不思議そうな顔をしています。
― 人に見られてはいけない ―
少女は慌てて、走り出し消えていきます。
少女はその歯車を鳥籠に入れました。なくさないように、いなくなってしまわないように。
チクタクチクタク
それ以来、職人は毎日蒼い歯車を作っています。毎日毎日。
少女は、鳥籠の美しい歯車を眺めています。毎日毎日。
何かに囚われてしまったかのように。
美しい歯車を見る度に何故?という疑問ばかりが浮かびました。
― 何故、私は数を数えているの?何故、人に見られてはいけないの? ―
誰に言われたわけでもありません。生まれた時からそうしていたからです。
しかし、そんな疑問よりも美しい歯車を眺める事に気を取られていました。
少女は数を数える仕事をしなくなってしまいました。
「蒼い歯車と、ある時計職人の話」1
2で完結します。