FallenSphere

その意思を、依存に迷い、満たされない肉欲として満たそうとする事。
その意思を、ありふれたきっかけから、自覚する事。
それらは醜いものとされているが、諦める事など出来やしない。
彼らはその思いに囚われていた事など、既に知っていた。
ふと零れ落ちる衝動、強まる焦燥。
拒絶しないで欲しい、と、そう願いながら。

薄らいでゆく、目を焼く光。
混濁し、朦朧とする記憶。
小石の投げ込まれた水面のように揺れ動く心。
禁じられた思いは明瞭とし、確固たる形を持った。

そうして、その細い首に、手をかける。
それは愛しているからか、それとも、単純な殺意なのか。
いずれにしろ、この明確な理由のない行為が狭隘たる狂愛の証左であることには代わりがなかった。
詰まる息と、白い肌に食い込む爪。
確かな証を残すためのこと。

首から手がゆっくりと離され、整わない息遣いが響く。
末梢を焼くような痛み。
外れた箍、判然とした高揚感、憐憫、忽然と断ち切れる理性。
激流のような欲。
震える声。
指先で輪郭に静かに触れ、呟く。

「同じ、だから」

力の抜けた爪先が震える喉を愛撫し、淫蕩とした悦楽を呼び起こす。
上気する息。
蕩けてゆく意思。
その白い肌を重ね、薄く灯る灯火のような瞳の色と、茫洋の大海のような瞳の色を、触れ合わせる。
最奥から沸き上がる熱は、より確かなものへ。
超えない、超えてはならないその一線、求めてはならない、深淵。

ゆっくりと、唇を触れ合わせ。
期待に白い四肢が震える。
どちらともなく舌を絡め合わせ、粘膜を犯し、溶けるように求める。
乱れた息遣いと縋るような視線。
互いの名前を呼びながら。
新たな熱を、快楽を求め、さらなる深層へと。
ゆっくりと、沈んでゆく。

透明な糸を引いた唾液。
熱の余韻は長引きながら彼らを蝕む。

最奥に燻る濁った欲に、彼らはさらに溶かされてゆく。
白い絹糸と黒い艶糸のような髪が、官能的な曲線を描く。
その風景は、彼らの網膜に焼き付いては、新たな熱を想起させる。
髪に絡みつくように互いの指先が滑り、こそばゆい快感はその瞳を潤ませる。
火照った体を伝う咎めの糸。
重ね合わされた肌。
期待と、沸き上がる熱。

絡められた指は、契りの糸のように。

次々と湧き上がる熱。
ことばは溶かされ、意味を持たないものに。
その思いの成就に歓喜しながら、煮えることのない欲は確かな意思へと変わる。
優しい体温と、歪な思い。
それらは、ヴェールのようにして彼らを包み込み、離さない。

ただ、誰も知らない場所へと溺れてゆく。
もう、苦しむことのないように。

痛いほどに繋がれた手が、そこにいることを確かめさせる。
唾液の音の上に響く声が、そこにいることを理解させる。
無抵抗の想い人がいることを知覚させる。

壊れたように溢れ出した感情は言葉にはならない。
痛みをその熱で書き換え、互いに縋り付くように名前を呼ぶ。
そうして、確かめながら。


溶けてゆく。
蕩けてゆく。

その声に、重ね合わせながら。

ただ、微睡みの中で。

薄らぐ記憶の中で。

断ち切れた糸が、虚空を漂うように、その高まりを、迎える。



体はまだ、蕩けたような熱を帯びていた。

唇は、僅かに濡れていた。

FallenSphere

FallenSphere

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-05-01

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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