拝啓ーー様


拝啓ーー様

秋も深まってまいりました。御元気でしょうか?初めて貴方への想いを綴らせて頂きます。

貴方が居なくなってから半年が経ちました。あれは桜散る頃でしたね。突然貴方が私の前から姿を消し、私は今もなお蛻の殻の様な状態の日々を過ごしています。

貴方の居た日々は、それはそれは楽しく、毎日が風の様に過ぎ去ってゆきました。私が死ぬ迄永遠と、この幸せな日々が続くと思っていました。幸せは永くは続かないという言葉がありますが、幸せな日々を送っている時、そんな言葉は頭に浮かびませんでした。

あの日突然、貴方の御母様からの電話。時間が止まりました。もちろん信じられませんでしたし、寧ろ信じませんでした。泪も出ませんでした。

告げられた場所にどのように向かったのか、全く憶えていません。気付いたら横たわり冷えきった貴方の前で泣き喚いていましたね。余りに唐突な別れだったものですから。

あれから半年。未だに心の傷は癒える事なく、貴方との想い出は終わらない輪廻の様に私の頭を廻り続けています。忘れたい、忘れたくない、の葛藤です。

私自身、死ぬ事を考えました。貴方の傍に居れるなら死んでも構わない、と。しかし思い留まりました。
「これから一緒に歳を重ねる。お前の方が長生きしろよ。最後まで幸せに生きろよ」
誓いの時に言ってくれた、貴方の言葉が思い留まらせてくれたのです。死んだ貴方に救われるなんて。

私には貴方が必要でした。貴方が居てこその私、と思っていました。貴方は今の私を見て、叱りたい気持ちでいっぱいでしょう。そんな貴方の気持ちを考えると、もう少し頑張ってみようと思えます。

これから時々貴方に、今の私の近況をお話していこうと思います。また来ます。これからもどうか、私の事を見守っていてください。

敬具

拝啓ーー様

拝啓ーー様

  • 自由詩
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-15

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