The Training Crew

ヤリクリー

注意事項です。
①この物語に出てくる人物や地名、及び鉄道会社は、全てフィクションです。
②架空の鉄道会社の細かな設定は、実在する、とある私鉄をベースにしています。
③米印は、ト書きです。読まなくて結構です。
④“米印のないかっこ内のセリフ”は、読んでください。
⑤偏見や差別に関するワードが、物語の後半に多く出てきます。あまり、気にしないように…。(※あくまで、物語上の設定です。)
⑥男女比は4:4ですが、女性キャラクターである、桐沢と秀山は、兼任が可能です。

The Training Crew

〈登場人物〉
男→中川、榎川(えのかわ)、根崎(ねざき)、武智(たけち)
女→岩井、桜井、秀山(ひでやま)、桐沢(きりさわ)



中川「停止良し、ブレーキ良し、パイロット消灯、良し!定刻、よし!」

桜井「まもなく発車します。閉まりますドア、ご注意ください。」

中川「次、田茂川(たもがわ)、終点。
パイロット点灯、良し。ポイント切り替え、良し。信号、よし。電鈴(でんれい)、よし。出発進行、よし!」


(※ここは、とある急行電車の中。今日も何ひとつ事故がなくダイヤ通りの運転がなされている。)

中川「(お~とっと、危ない危ない。空回りが起きちゃった。アクセルを調整してと。)
進行、よし!」

桜井「次は、終点、田茂川、田茂川です。」

桜井「まもなく、田茂川、田茂川、終点です。お忘れ物なさいませんよう、よくお確かめください。」

中川「次、田茂川、終点、よし。急行、6両。」

中川「停止良し、ブレーキ良し、パイロット消灯、良し!定刻、よし!」


(※運転席より、根崎が顔を出す。)

根崎「お疲れ様です。」

中川「お疲れ様。この後は任せたよ。」

根崎「はい!行ってまいります!」


(※終点に到着し作業を済ませ、休憩室で一休みをする二人。)

中川「くぅ~!疲れたぁ~。」(※背伸びをしながら)

桜井「お疲れ様、新人君♪」

中川「あ、桜井先輩。お疲れ様でした! (`・ω・´)ゞ
ちょっとモーターが空回りしてしまった所は焦りましたね。運転をするとごく稀に(まれに)遭遇すると聞かされてはいましたが、いざ自分がその立場にいると、恐ろしいものですね…。」

桜井「それね。初めて触れると、すごく驚くわよね。
でも、初めてこの光景に向き合うと、誰でもそのような反応を示すものよ。私だって泣きそうになったし、先輩にも相談したのよ。でも、彼らは笑って答えていたわ。『誰にでもあり得ることだから、そう悲観的にならなくていい。雨の時は起こりやすいから、気にすることはないよ』ってね。」

中川「よかったぁ~。( ´Д`)=3 フゥ」

桜井「中川君もまだ入社して半年も経ってないから、まだまだたくさんのことを学ぶわ。日々、勉強よ。頑張ってね!」

中川「はい!」


(※その後、桜井は結婚し退職。しかし、今でも中川とは連絡を取っている。)

中川「この後の俺は~っと。
普通のワンマン運転ね。ワンマンは自分しか頼れないから、いつも以上に気合を入れないと!」

根崎「…あ、お疲れ様です。」

中川「根崎か。お疲れ様。さっき、ワンマンの普通を運転してたよな。」

根崎「はい。確か、私が運転した車両をこの後、中川さんが運転する予定です。」

中川「あ、あれね。了解。」

根崎「最近、中川さん、異常なほどに様(さま)になっていますよね。」

中川「どんな意味だよ、ったく。
俺は、様になろうとか、そんなことは意識してない。もし見えるのだとしたら、ようやく慣れてきたということなのだろう。

…お前も他人(ひと)のこと言えねえぞ?先輩方が、『ネッキーが、ここ最近、けっこう様になっている』ってね」 
(※ネッキーとは、根崎のこと)

根崎「…あ、そうか。俺と中川さん、ほぼ同期やん。」

中川「お前は仕事以外のこととなると、何か抜けているんだよな。」

根崎「脳トレでもしよ。(※ポソっ)」

中川・根崎「(笑)」

榎川「お、2人とも楽しそうじゃないか。」

根崎「榎川駅長!お疲れ様です!」

榎川「根崎くんよ、お疲れ様。」

中川「今、根崎さんと共に、彼が仕事以外では“鈍感”だ、って話をしていたんです。」

根崎「“鈍感”って言うなよ!“抜けている”って言ってくれよ…。」

榎川「楽しそうだねぇ。」

根崎「でも、駅長も、もうすぐ御年(おとし)になって…。」

榎川「大丈夫だよ。
今年でこの駅の駅長としては終わりだが、本部の方で人事部に異動することとなったよ。“副人事部長”としてね。」

中川・根崎「おめでとうございます!」

榎川「これからはあまり関わりはないけど、本部から見守っているからな。」


(※一方、その頃。退職した桜井に、一本の電話が。相手は、女性のようだ。)

桜井「はい、もしもし?」

岩井「もしもし?初めまして。
私、岩井玲奈(いわいれな)と申します。」

桜井「岩井さん?初めまして。私に何の用事かしら?」

岩井「はい。実は私、もうすぐ就職活動をするのですが、是非ともここ、真子屋鉄道株式会社(まごやてつどうかぶしきがいしゃ)に働きたいと思っていて、エントリーもしているのです。それで、アドバイスを頂けないかと。
…ちなみに、連絡先は榎川さんから教えていただきました。もしかすると、その方から何か一つや二つご連絡があったかと思います。」

桜井「…!思い出したわ!
異常なほどに、真子鉄(まごてつ)に就職したい方がいるって話を聞いたわ。貴女なのね。納得したわ。」
(※真子鉄→真子屋鉄道株式会社の略称であり、愛称)

岩井「それで、入社へのアドバイスを頂けないかと思いまして。」

桜井「いいわよ。私でいいのなら、色々と教えてあげるわ。
ちなみに、今いくつかしら?」

岩井「高校2年生です!」

桜井「…もしかして、高卒ルーキーを狙っているのかしら?」

岩井「ええ、はい。」

桜井「高卒はあまりオススメはしないわ。きちんと大学に進学して、きちんと勉学に励むこと。そうすれば、そこでの知識が役に立つから。就職活動に関する情報も、高校より大学の方がガッチリとしているからね。
…でも、枠は用意してあげる。まだ当分先の話にはなるけれど、きちんと確保しておくわよ。安心してね♪

その意気、私たちは買ったわよ!」


(※こうして、大学に進む岩井。履歴書・エントリーシート作成やグループディスカッション、面接の練習に励み、企業のことは、若干だがおろそかになっていた。)

根崎「中川さん、行きますよ!」

中川「あぁ!やるぞ!」


(※彼らの担当は快速特急、樫乃原〈かしのはら〉行き。)

根崎「皆様、おはようございます。本日は、真子鉄をご利用くださいまして、誠にありがとうございます。快速特急、樫乃原行きです。担当乗務員は、運転士、中川、車掌、根崎、そして、秀山(ひでやま)の3名です。終点まで、ご案内いたします。この列車は、全車指定席となっております。お手持ちの座席指定券Bチケット(ビーチケット)で座席番号を確認の上ご乗車ください。
次は、六合尻(くにしり)、六合尻です。」

秀山「失礼します。Bチケットの確認をさせていただきます。用意していただきますよう、ご協力をお願いします。
失礼します。」

中川「真衣灘(まいなだ)、通過、よし。」


(※この後、事件が起こる…)

根崎「ご乗車ありがとうございます。次は、桃赤(ももあか)、桃赤です。」

中川「青磁路(あおじろ)通過、よし。

…?…?!線路上に人?!待て待て…。」


(※少々焦りながらも、警笛を鳴らし、急ブレーキをかけるようにしていく中川。時速180キロの高速車両を、強引にねじ伏せようとする。)

中川「間に合ェ~!!止まれェ~!!
乗客に怪我を負ってほしくはないんだ!!」

根崎「お客様にお願いします。
現在、急ブレーキがかかりました。お立ちのお客様は、倒れないように持ち手に捕まるなどして、バランスを崩されないようお気を付けください。」

秀山「皆さん!立ち上がらないでください!座ったままでお願いします!!立っている方は、椅子の持ち手をガッシリと持ってください!!」

中川「頼む~~!!!」


(※残念ながら、電車は止まりきらず轢いた後に停止。
中川の目の前には、見るに堪えない、グロテスクなシーンが。そして、急ブレーキと事故による衝撃で怪我を負う。)

中川「…。」


(運転席をノックし、カギを開けて入る秀山。彼女も、同じシーンを目にする。)

秀山「中川さん?おーい。

…キャー!!(※絶叫)」

中川「…?」

秀山「な、中川さん…。」


(※中川は、秀山を今にも泣きそうな顔で見る。)

中川「お、俺、俺、…。」

秀山「中川さん…。」

中川「俺…、俺…、や、やっちまった…。」


(※うなだれている中川。まともに話が出来ない。)

秀山「事故の件は、本部に既に連絡してあります。」

中川「秀山くん…。

俺、クビになるかも…。クビになったら、ごめんよ…。」

秀山「…。」


(※事故が起こり、緊急会議。中川は、あまりのショックで自ら辞表を提出)

中川「榎川さん…。

…私、仕事辞めます。」

榎川「中川君…。」

中川「今回の事故の件は、完全に私の責任です。

まだ事故の調査中ですが、私のせいです。私の、前方不注意のせいです…。
…こんな、こんなバカな運転士のせいで…。」

榎川「中川君…。

…確かに、辞表を受け取る。受理されることだろう。

でも私は、君に否(ひ)はないと思っている。君の調査結果を少しだけ拝見したが、特に異常はなかったようだから、君のせいではないだろう。他の原因を探っている最中(さいちゅう)だから、分かり次第、連絡をする。
…苦しい日々を送ることにはなると思うが、悪く思わないでくれ…。」


(※辞表の受理が成立。職無しの中川。悶々と日々を過ごしていく中で、不安だけが募っていく。
ある日。彼は思い切って、桜井に電話をしてみることにした。だが、まともに彼は話せる状態ではなかった。)

中川「さ、さ、桜井、さ、ん…。」

桜井「中川くん…。

…話は、風のうわさで聞いたわ。ご愁傷(しゅうしょう)さま…。」

中川「お、俺、俺、…。は、働きと、とう、ない…。 (´;ω;`)ウゥゥ」

桜井「いい?落ち着いて。

分かるわよ、貴方の今の気持ち。ショックが大きいのもわかる。立ち直れないのもわかる。今すぐにとは言わないけど、立ち直りなさい!いくらでも落ち込んでいい。へこんでいい。
…ただ、あと2週間以内で復活しなさい。あれから既に一ヶ月は経っているのよ?男なら、根性見せなさい!」

中川「う、うぅ…。」
(※電話の最中もへこんでいる。)

桜井「なんか噂だけど、あの事故の真犯人、犠牲者の旦那さんみたいよ?」

中川「だ、旦那しゃんが犯人…??」

桜井「ええ。そうらしいわ。

犠牲者は、吉田恵美子(よしだえみこ)。その旦那は武智誠司(たけちせいじ)。2人の仲で、いざこざがあったらしいわ。
…詳しいことは、よくわからないけど。」

中川「…自分で、探してみる。」

桜井「それが良いわ。」

中川「先輩、と、突然の電話、申し訳ありませんでした…。」

桜井「全然気にしてないわ。

むしろ、してくるんじゃないかと思ってたくらいよ。」

中川「(o^―^o)ニコ」

桜井「じゃあ、頑張って。」

中川「はい。」(※優しく、柔和に返事をする)


(※桜井と通話をしてから数時間後、榎川から電話が来た。)

榎川「中川君、事故の件について、解決したぞ。」

中川「あ、榎川さん…。」

榎川「犯人は、武智誠司って男だ。吉田さんという奥さんがいたそうだが、彼女に愛想(あいそ)を尽かして、他の女と不倫をしていたそうだ。吉田さんはまもなく出産を迎えるころだったらしく、四つ子(よつご)が産まれてくる予定だったそうだ。
それなのに、彼は気づかず他の女と楽しんでおったそうだ。」

中川「な、なるほど…。」


榎川「それと、中川君。」

中川「はい。」

榎川「君は、仕事に復活してよしとの許可が出た。」

中川「…え?!本当ですか?!」

榎川「あぁ。君は復職(ふくしょく)だ。
ただ、数カ月は、リハビリを兼ねてのトレーニングにはなるがな。」

中川「構いません。なまった体をほぐしていくと思えば!そして、改めて交通安全への意識を再確認できれば!!」

榎川「その意気だ!中川君!

それとだな。明日、また会社に来てほしい。今回は、事故の結果のまとめを君に話すためだ。なぁに、君を説教したりはしない。安心してくれ。」


(※中川との電話を終え、彼が榎川と電話をする頃、また桜井に電話が。彼女からだ。)

岩井「桜井さん…。」

桜井「岩井さんね。こんにちは。」

岩井「なんだか、真子鉄が色々と慌ただしく、騒然としているようで…。
ちょっと、就職できるかどうかが不安になって…。

…しかも今回、事故のことに関して散々叩かれているって。」

桜井「…わかるわよ。その気持ち。怖いわよね。

実は、ちょうど貴女が電話をしてくる数分前に、事故の当事者が電話をしてきてね。
結論から言うと、真犯人はその人ではないの。犠牲者の旦那さん。」

岩井「え?!」

桜井「本人には伝えていないけど、会社側から電話が来るだろう、とは言っておいたわよ。」

岩井「…でも、何故貴女が真相をご存知なのですか?」

桜井「…実は、今回の事故の件、私自身も気にはなっていたのよ。珍しく、自分の古巣が酷い目(ひどいめ)にあっているって聞いたから、この悶々(もんもん)とした何かを取っ払おうって思ってね。
快く(こころよく)答えてくれたわ。」

岩井「なるほど。」

桜井「まぁ、そこまで気にすることはないわよ。解決したから。」

岩井「会社が倒産とかはないですよね?」

桜井「そんなことはないわよ。多少の影響はあるかもだけど、すぐに回復するわ。4カ月もあれば十分ね。」

岩井「はい。
お忙しい中、私の自分勝手な電話をしてしまい、申し訳ありませんでした。」

桜井「いいのよ。気になったら調べないと落ち着かないのよね。私も同じよ。」

岩井「ありがとうございました。では、失礼します。」

(※翌日。中川は、約2カ月ぶりの出勤。彼を慰めてくれる社員が多く、温かく迎え入れられた。)

根崎「な、中川さん!!  (´;ω;`)ウゥゥ」

中川「すまんかったな。根崎。この通り、復活したぜ?(笑)」

根崎「(o^―^o)ニコ」

秀山「中川先輩!」

中川「秀山も、すまんかったな。この通り、体調も少しはよくなったよ。あと少しで本調子に戻りそうさ。」

秀山「先輩の笑顔が見られて、私、幸せです!」

中川「よしよし。」(※秀山の頭をなでる中川)

榎川「よくぞ、戻ってこられた。」

中川「ただいま戻りました。」

榎川「では、早速、本題のまとめだ。」


(※ここからは、中川が自主謹慎をしていた頃のお話。とある抗議の電話が、お客様センターを通じて人事課に流れてきた。)

榎川「お電話代わりました。真子屋鉄道株式会社の榎川です。」


(※声を荒げて、怒りの電話をしてくる男。彼が、武智)

武智「おい!!あんたの運転していた車両で、俺のかみさんが死んじまったじゃねぇかよ!!どうしてくれるんだよ!!もうすぐ赤ちゃんが生まれてくるはずだったんだよ!!“四つ子”だったんだよ!!」

榎川「ど、どちら様でしょうか?」
(※少々おどおどしながら、尋ねる)

武智「んぁ? 俺か??」

榎川「は、はい…、貴方です。」

武智「俺は、武智誠司(たけちせいじ)。あの事故の犠牲者、吉田恵美子(よしだえみこ)は俺の奥さんだ。

…頼むから、俺の嫁と子供を返してくれよ…。あんたらがそんな事をしなかったら、こんなことにはならなかったんだよぉ…。」(※泣き崩れる)

榎川「この度(たび)は、我が社の事故により犠牲者を生んでしまい、誠に申し訳ありませんでした。

現在、事故の調査を行っておりますので4日間ほどはお待ちください。
…ただし、貴方が吉田さんの旦那様ということで事情聴取(じじょうちょうしゅ)をさせていただくかもしれませんが、その際は、応じていただけますか?」

武智「…あぁ、いいとも。」


(※1週間後、武智に、事故の説明をさせるため、真子鉄の本社に召喚。

事故現場付近の防犯カメラを観察していくと、当時、周りには、人影や車の影がなく、吉田ただ一人。彼女が、踏切を渡り、ちょうどレールの間のあたりで陣痛が起こり、倒れこむ。非常停止ボタンが押せず、中川が非常ブレーキをかけるも、時すでに遅し。)

榎川「武智さん、今、事故当時の防犯カメラの映像を流しました。思い当たる節(ふし)はありませんか?」

武智「…仕事だよ。」

榎川「ほほぉ。

ちなみに、どのようなお仕事を?」

武智「…パチンコ・スロットの会社の正社員として、ホールで仕事をしていたさ。」


榎川「あれぇ~?おかしいですね。先ほど、貴方の携帯電話を拝借(はいしゃく)させていただいたのですが、吉田さんとは“別の女性”と楽しんでいる様子の画像や動画が見受け(みうけ)られたのですが。

営んでいたようで…。…さぞかし、楽しかったのでしょうねぇ~。あ~、羨ましい(うらやましい)。あんな美女と過ごせるのなら、自分の奥さんなんて、ほかっちゃいますよねぇ~?」
(※皮肉ったように話をする榎川)

武智「…。」


榎川「…あ!1つ言い忘れていました。

貴方の勤務先にお電話をしたのですが、その日、貴方はお休みのようでしたね。しかも、午前中の勤務ばかりで、決して夜勤はしなかったと。その上、ここ最近は貴方は家には帰らず、勤務先の決まったある一人の女性と帰宅をしていると。女性の家で、毎日がパーティーだったのでしょうねぇ~。」


武智「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

榎川「さぁ、正直に話してくださいよ。」

武智「あぁ。俺が吉田を見捨てた。俺の勤務先に、つい最近入った松山って女が可愛くて、アイツはどうでもいいと思った。それで、毎日勤務後は彼女の家に行き、毎晩楽しんだ。当然、吉田はキレた。当たり前だよなぁ?
それで、“異動するという言い分(いいぶん)で単身赴任を装い”、彼女の家に行った。丁度、彼女が彼氏を持っていなかったから、俺が彼氏になって、気持ちよく過ごしたってこと。」

榎川「…はいはい。それで、その後は?」

武智「その後、奴が1人で歩いて家を捨てた。そうしたら、陣痛があのタイミングで来て、事故に。その直前、『私、もしかしたら、近々、出産するかも』ってメッセージを残していた。
俺は、それを無視した。そうしたらだ。この結果。」

榎川「これが、事故の原因なのですね?」

武智「…あぁ、そうだよ。

あの時怒り狂って電話をしていたこと、この企業を散々叩いてしまったことは、反省している。運転士には、大迷惑をかけたと思っている。

…もし1つだけお願いを聞いてくれるなら、辞めてしまった運転士を復活させてほしい。当然だけど、この事故の償い(つぐない)は、全部私がします。」


榎川「…おい、武智。

お前のせいで、中川君は、自ら辞表を出して、自ら会社を出ていったんだぞ!!なのに、なんだよ?!その無責任さはよぉ?!ざけんじゃねェぞ!!」
(※思いっきり、台パン。ビビる武智。)

(※武智の胸倉〈むなぐら〉を掴みながら、ガチギレの榎川が説教)
榎川「貴様にはな、交通に関わる者たちの重みが分かっとらんのじゃ!!
(※武智をビンタ)

そんな、暴力団の奴らと手を組み、金のない奴らから、借金をしてまで遊ばせる場の提供をしているから、こんな様になるんだよ!覚えとけ!!」
(※武智の頭ににヘッドバット〈頭突き〉をして、気絶させる榎川)


(※その後、武智は中川への謝罪文を出し、威力業務妨害等の罪で逮捕。現在、服役中。)


中川「そんなことがあったとは…。」

榎川「以上が、あの時の真相だ。

それで、これがその渦中にあった手紙だ。後で読んでみるといい。」

中川「はい。」


(※その後、中川は桐沢という女性と出会い、結婚。幸せな家庭を持つようになった。)

中川「やよい♪おはよう♪」
(※やよいとは、桐沢の下の名前である。)

桐沢「あなた、おはようございます。

最近、調子がいい感じね。初めて出会った頃よりも生き生きとしているわ。」

中川「そう?

ま、あれが解決したし、心の整理もついたから仕事に対してより集中しやすくなったってことかな?事故以前の時よりも、さらに気分が乗るようになったからね。」

桐沢「うふふ。

あなたって人は、仕事にも熱心で、思いやりも強いですからね。この仕事は、あなたには適職だったようね。」

中川「そうだね。
だから、こうやって復帰して、平常運転に戻れたというわけだ。」

桐沢「厚彦(あつひこ)さんの同僚の方々の電話に出ていた時、相当心配しているようでしたわ。
また、あなたと仕事がしたいって。あなたの運転を心待ちにしている方々が数多くいるって。」
(※厚彦とは、中川の下の名前である。)

中川「…嬉しいもんだよな。期待されているって。」
(※少し、泣きそうだ。)

桐沢「あなたならできますよ。私、信じてますから。」
(※中川を、優しく抱く、桐沢。)

中川「あぁ、ありがとう。いつも迷惑をかけてすまない。」
(※少し照れている。)


桐沢「あなた、今日も安全に気を付けていってらっしゃい。」

中川「あぁ。行ってくる。」

桐沢「好きよ、アナタ♡」
(※中川と桐沢がキス)


(※中川は40手前となり、ベテランに。そして、彼のもとに有力な新人が入社をし、勉強のために来た。

岩井だ。)

中川「さぁ、やるぞ!岩井君!」

岩井「はい!中川先輩!」


(※中川が運転士で、岩井が車掌。急行電車を担当し、運転を終える。)

岩井「お疲れ様です、中川先輩。」

中川「お疲れ様、岩井君。やっぱり、君のアナウンスは素晴らしい。声が良いからかな?君の担当する車両に乗ると、必ず、そういうありがたい声を聞くんだよ。」

岩井「いやいや、そんなことありませんよ。中川先輩の運転する車両が乗り心地が良いということで、好評らしいですよ?先輩のおかげですよ。」

中川「いやいや、それはないかな(照)。

(岩井君に言われると、恥ずかしいんだよな…。)」

岩井「そういえば、先輩が運転する際にこやかではない表情にいつも見えるのですが、何故なのですか?」
中川「ん?俺、そんなににこやかに見えていないのか??」

岩井「…はい。でも、多分、先輩が集中しているからなのかな?なんて、私の中では思っているんです。」

中川「…。」

岩井「ん?先輩??」

中川「…ま、“集中している”というのは正解だ。

なのだが、実は、もう1つ理由がある。」

岩井「理由?何ですか?」

中川「お前だけに言おう。君は信頼できるからな。

先に言うが、これは、秘密の事。ついでに言うと、お前がまだ入る、ずっと前の話だ。いいか?」

岩井「わかりました。」

中川「よし。それじゃ話そう。

何かというと、人身事故“に見舞われた”ことがある。…正確には、人身事故“を起こした”だな。」

岩井「先輩…。」

中川「そりゃ、事故がないのがベストだよ。

…だがな、避けられぬこともゼロではない。しかも、俺が巻き込まれた時の犠牲者は、“出産間近の妊婦”。四つ子が産まれるそうだった。踏切内で、突然陣痛があった。停めることはできたのに、当時、周りには誰もいなかった。車すらなかった。俺は快速特急を運転していたのだが、急ブレーキをするも、…時すでに遅し。」

岩井「…。」

中川「当然、これは大問題になった。彼女の旦那さんには怒りをぶちまけられた。当然だよな?
企業としても、信用を大きく失墜させてしまった…。

実のことを言うと、それを起こしてしまってから、俺には電車を運転する、いや、電車に関わる仕事から離れたいと思い、自主的に退職願を出し、受理してくれた。」

岩井「(先輩にも、思い出したくない過去があったんだ…。企業的にも、悪夢だった出来事…。)

先輩。でも、何故またこの世に運転しているのですか?」

中川「話にはまだ続きがある。

確かに、俺は、1度職を無くした。だが、一通の手紙が来たんだ。“旦那さん”から。」

岩井「え?」

中川「彼曰く(いわく)、
『彼女を放置させていた俺が悪かった。この事故の責任は、貴方よりも自分を優先させていた俺にある。…だから、もう一度、運転して欲しい。あの時、散々叩いてしまって申し訳なかった。』と。」

岩井「嘘…。」

中川「それで、彼はうちに謝りに来て、弁償もしてもらった。

当然、当時運転をしていた俺も検査を受けたが、俺には問題がなかった。
後々(あとあと)になってわかったことだが、旦那さん、彼女に愛想(あいそ)を尽かしていたようで、不倫していたそうだ。
…最低だよな。」

岩井「…じゃあ、先輩は被害者だったと?」

中川「…ま、そんなこった。
んで二度と事故を起こさないように、ピリピリした顔をしながら、周りに留意して運転をしているのさ。強張って(こわばって)いるのは、運転士としての意識をし過ぎているってこと。

笑えるっちゃ笑えるけど、それくらい本気にならないと、俺は運転をしないのさ。」

岩井「なるほど。確固たる(かっこたる)意思のもとで運行に携わっている(たずさわっている)わけですね。

私も、見習わないと!」

中川「意識をすることは大切だからな。ルーキーの君には、まだ見たことのない世界を、これから目にすることになると思う。

だから、この2,3年で、あらゆるものを飲み込んでおくことだ。
いいね?新人車掌君。」

岩井「はい!入社1年目で、先程の運行で褒めていただけた岩井玲奈(いわいれな)、頑張ります!」


END

The Training Crew

訂正情報
・5月18日(土) まえがきにて、注意事項の⑥を追加し、作品自体を、少々手直し。
・7月19日(金) 権利情報を変更。
・11月9日(土) 本文を一部修正

The Training Crew

鉄道が、何故、時間通りに運行できるのか?それは、スタッフの懸命な努力による賜物である。しかし、スタッフと雖も、所詮は人間。時にはミスが起こる。しかし、”事故”が起こってしまっては、スタッフも萎える。しかも、その事故に立ち会ってしまっては…。 これは、そんなことに巻き込まれた(?)男の物語。

  • 小説
  • 短編
  • 青年向け
更新日
登録日 2019-04-28

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

Derivative work