堕天使の裁き プロローグ
降臨 プロローグ
「美しい都フィレンツェは世界的に有名な芸術の街として栄えてきました。レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ・ブオナーティ、ラファエロ・サンティ等の偉大な画家、大詩人ダンテ・アリギーリがこの街で今も人々の心に響く遺産を残し、多大な貢献をした事は周知の事実です。従ってこのイタリアという国は…」司祭グイド・ヴェネの説教はイタリアの芸術的な歴史を説き、現代の人々に教え広めていた。彼はミラノのサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会に所属しており、献身的な司祭として慕われている。グイドは芸術を重んじていた教皇シクストゥス4世を崇拝し祈りを捧げている敬虔な信者であった。幼少時、グイドはカトリック教徒である両親の元に生まれた。この両親も敬虔なカトリック信者でグイドは生まれた時に両親によって洗礼を受けていた。フィレンツェで生まれたグイドは様々な芸術を肌で感じ、視覚や聴覚でこの街に住まう偉大な精神を感じ多感な時期を過ごしていった。彼は時折、人々に説教する場で声を詰まらせ涙腺を弛ませてしまう事があった。幼少時の想い出を反芻させてしまい喜びと感動の波が押し寄せてしまうのだ。今日の説教
でもやはり声を詰まらせてしまい、物思いに耽ったように笑みを浮かべ、数秒の沈黙の後、続けるのだった。フィレンツェのサン・ロレンツォ聖堂での説教を終え、人々がグイドの周りを囲み数分間の他愛ない会話をした後、彼を後に去っていった。「今日も素晴らしい一日でした。イエス・キリストに感謝せねばならないですね」その事を声に出し、十字架に祈りを捧げていた。夜遅くという事もありフィレンツェのホテルに泊まる予定であったグイドは明日、ミラノに帰り、通常の業務に従事するのを想像し、その事を嬉しく思っていた。一人、祈りを捧げていた時、扉が開く音がし、また閉まる音がした。グイドは訝しく後ろを振り返ったが人がいる様子は見受けられない。「どなたか悪戯をされたのかもしれませんね。しかし、この夜に…?念の為、見回りをした方が良さそうですね」周りを見回し、半ば警戒するように歩いていたが、足音も声も聞こえない事からそれは次第に杞憂であると悟っていった。しかし、グイドが再び十字架を見ようとした時、一人の若者が十字架に祈りを捧げてるのが見えた。彼は驚き困惑したが、冷静になるよう努め、その若者の前に行こうとした。
> 若者との距離が徐々に縮まってきた時、若者は祈りを捧げながらグイドに話しかけた。「天に召します神は私達を導いてくださるとお思いですか?」足を止め警戒するようにグイドは言った。「ええ、神は全ての人々に恩恵をもたらします。あなたにも私にも」敬虔なカトリック教徒ではないか、彼はそう思い、安堵し若者の後ろに立った。「ルシファーの反乱をご存じですか?私はあの物語に興味があります。というのも私はルシファーの生まれ変わりであるからです」「あなたがルシファーの生まれ変わり?それはどういう意味でしょう」若者はグイドの言葉に耳を貸さず話し続けた。「七つの大罪はこの世に蔓延する不の循環です。ですが我々はそれを受け入れ歓喜しています。まるで小さい赤子が生まれたかのように。さてキリストはそれをどうお思いでしょうか?」グイドは沈黙を保ち再び若者が話すのを待った。「ああ、キリストは極めて遺憾にお思いになられているでしょう。それを断ち切る事が出来るのは私なのです。そうでしょう?」若者が話を終え、グイドのほうに振り向いた瞬間、グイドの胸に何かが刺さった。それは医療用のメスだった。グイドは激痛に悲鳴を
上げ倒れたがまだ息はあった。「どうしてこんな事を…?あなたは一体…?」「私は堕天使ルシファー、別名ではサタンです。あなたもご存じですね?しかしあまりお話にならないようお願い致します。これから私には為すべき事があるのですから」グイドの意識が朦朧とし、やがて息を引き取った。若者は悲しみの涙で頬を濡らし、再度、十字架に祈りを捧げていた。
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