幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 14話

幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 14話

桃太くんの失恋 ~他人の失恋は蜜の味~


「桃太君。お客さん少ないし、もう上がっていいよ」

 壁の時計は9時半を指している。店内には立ち読みをしている客がひとりいるだけだった。
 このコンビニでバイトを始めて三ヶ月。一緒にバイトしている一ノ瀬さんは高校生の僕に気を使ってくれる。だけど来年は受験だからバイトの時間を減らさなければならない。今のうちに少しでも稼いでおきたかった。

「いえ、10時までもう少しですから」
「そう? 大丈夫? さっきからため息ばっかりついてるけど」
「えっ!?」

 気付かなかった……。バイトで気を紛らわせているつもりでいたのに。
 一ノ瀬さんが心配そうに僕の顔をのぞき込んでいた。立ち読みをしていた客が店から出て行くのを見届けて口を開く。

「実は……、失恋したんです。僕」
「えっ……」

 一ノ瀬さんが声を詰まらせて体をひいた。

「あっ、すみません。重いですよね。こんな話」

 僕が頭を軽く下げると一ノ瀬さんが僕の肩に手を置いた。

「そんな事ないよ。俺でよかったら話、聞くよ」

 顔を上げる。一ノ瀬さんと目が合う。一ノ瀬さんが笑う。僕を励ましてくれているのだろう。一ノ瀬さんが何だかとっても嬉しそうに見えたのはきっと気のせい……。
 僕は一ノ瀬さんに語った。一年間付き合った彼女に好きな人ができたことを。その彼女に今日、別れを告げられたことを。

「そうか……」

 一ノ瀬さんは腕を組んで目をつむり、黙ってしまった。

「一ノ瀬さんは振られたことなんてないですよね? 僕と違ってイケメンだし。背は高いし、お客さんの受けもいいし。僕なんて背は小さいし、勉強もそんなにできないし、スポーツはだめだし。顔も普通だし。一ノ瀬さんとレジに並んでいても、みんな僕の方には来なくて一ノ瀬さんのレジに並ぶし……毎日のように来る50歳くらいの小太りのおばちゃん。必ず一ノ瀬さんがレジにいるときに並んで、お釣り貰う時に手を出して何気に一ノ瀬さんの手を握っていきますよね。絶対に一ノ瀬さん目当てで来てますよね?」

「も、桃太君。そんなことないよ。君、真面目に働くし、細かいことに気が付くし、言われなくても自分から動くし、仕事が出来るいい奴だよ。それに桃太君だって、あのお客さん。ほら、あのいつも仕事帰りに寄って栄養ドリンク買っていく定年間際の痩せたおじさん。あのおじさんはいつも桃太君に話しかけてるじゃないか。きっと桃太君のことを気に入ってるんだよ」

 と一ノ瀬さんは僕の両肩をポンポンと叩いた。それから僕の肩をがっちりと掴んで言った。

「それに……。いいじゃないか。1年も付き合ったんだろう? 1年も。その彼女と。いいじゃないか。1年も付き合ったなんて。1年も」

 一ノ瀬さんは念仏でも唱えるよう執拗に1年も、と繰り返した。気のせいか一ノ瀬さんの声が小さくなっていく。しまいには「俺なんて……」と項垂れてしまった。

 項垂れたといっても、背の小さい僕はその顔を見上げている。一ノ瀬さんの顔には苦悩が浮かんでいた。

「どうしたんですか? まさか、一ノ瀬さんも……失恋したとか?」

 僕の問いに一ノ瀬さんは首を振った。
 そうだよな。こんな人が失恋なんてするわけないよな。

「違うんだ。失恋するも何も、俺は……」

 そして話始めた。意外な話しを。
 幼馴染の結さんという女性の話を。
 女の子にモテモテだと思っていた一ノ瀬さんが、卒業式の日に渡したボタンを投げ捨てられたことを。それから一度もその女性には連絡していないこと。女性からも何も連絡がないこと。そしてバイトと部活を理由に夏休みにも家には帰らなかったということを。

 話し終えた一ノ瀬さんはがっくりと肩を落としていた。

「い、一ノ瀬さん。一ノ瀬さんのような人にもそんな悩みがあるなんて、僕、嬉し、いえ、あの、えっと、一ノ瀬さん、きっと何かあったんですよ。その結さん? 何か勘違いでもしてるんじゃないかな。だって一ノ瀬さん僕と違ってイケメンだし。背は高いし、お客さんの受けもいいし、僕の届かない範囲のものまで楽々手が届くし、僕の見えない店の奥まで見渡せるから、一ノ瀬さんがいると万引きの被害もないし、それに、西日が差し込む時には日よけにもなるし、それに、それに……」

「も、桃太君。も、もういいよ。ありがとう。桃太君の気持ちは嬉しいよ……」

 顔を上げた一ノ瀬さんの先に例の小太りのおばちゃんがいた。祈りを捧げる乙女のように胸の前で指を組み、憐み深い瞳で小首を傾げ、一ノ瀬さんを見ている。一ノ瀬さんと目が合うと、おばちゃんが近寄ってきて一ノ瀬さんの手を両手で握りしめた。ひとりで何度も頷きながら力強く一ノ瀬さんの手を握りしめる。しばらくそうした後、一ノ瀬さんの腕をポンポンと叩くと、バックからあめ玉を取り出し、あめを一ノ瀬さんの手に握らせると、何も買わずに店から出て行った。

 ぽっかりと口をあけて佇む一ノ瀬さん。

「あの……一ノ瀬さん。時間が……」

 時計は10時を回っていた。

「あ、ああ。ご苦労様」

一ノ瀬さんがにっこり笑って言った。一ノ瀬さんはいい人だ。一ノ瀬さんに話して良かった。

コンビニを出る僕の心は軽くなっていた。

幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 14話

幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 14話

だって一ノ瀬さん僕と違ってイケメンだし。背は高いし、お客さんの受けもいいし、僕の届かない範囲のものまで楽々手が届くし、僕の見えない店の奥まで見渡せるから、一ノ瀬さんがいると万引きの被害もないし、それに、西日が差し込む時には日よけにもなるし、それに、それに……

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更新日
登録日
2019-04-27

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