耳鳴り

やな

私の夢は幼い頃から変わる事なく、
「正義の味方になりたい」だ。
幼少期に見た勧善懲悪のアニメが私の心を捉え、今も尚褪せる事なく輝き続けている。
正しいと感じた事を躊躇なく実践する事を信条として生きてきた。

「おい、そこのスキンヘッド!無視するな!スカルプD投げるぞ!!」
そんな私は今、酔っ払いに絡まれている。

「お前、そんな頭して正義の味方気取りか?お前が来なくてもあんな奴ら一発だったんだよ。余計な事しやがって!」

ガラの悪そうな若者達に絡まれているように見えたから助けたのだが、気に食わなかったようだ。
善意が善意で返って来ないのはたまにある事なので、気にしないようにしている。

黙って去ろうとする私の背に向かって
「言い返す言葉もないのか臆病者め。それいけ!アソパソマソ!」
という言葉を投げかけて高笑いする男は満足気だ。
やなせたかし先生には微妙に配慮するんだなという感想を抱いて私はその場を去った。

家に着くなり同居人が大きな足音を立てて歩み寄ってくる。
鬼のような表情を見ると、先程のやり取りを見られた事が想像出来る。

「何なのですかさっきの男は!御礼が言えないどころか悪口を言うなんて!いい大人なのに許せません!」
やはり見られていたようだ。

「別にいいと思うよ。御礼を言われたくてやってるわけじゃないし、それに耳鳴りがしたんだ。無駄足ではないよ。そんな事よりファーファが切れてるから買わないと。柔軟剤がない洗濯はしたくない。」

私には不思議な体質がある。
助けを求める人が近くにいると、耳鳴りがするのだ。
甚だ迷惑な話ではあるが、正義を行えと言われているようで悪い気はしない。
先程の酔っ払いも態度は悪かったが、内心助かったと思っているはずだ。

「ファーファは予備が台所にありますよ!そんな気の長い事ばかり言ってると、いつかゆるキャラグランプリにエントリーされますからね!」
同居人はぷりぷりと怒りながら去っていった。

この世に分かりやすい悪党はいない。
常日頃から痛感している事だ。
先日は「くまのような男が銀行で暴れている」と聞いて駆けつけたが、
リラックマどころかコリラックマのような男が通帳を無くした事で、銀行員に因縁をつけていた。
私の出る幕が一切ない場面だ。

その前は耳鳴りが聴こえたので急行した所、今にも子供を殴りそうな親と遭遇した。話しかけた所、躾との事。
子供がやせ細っている事が気になったが、子供が「大丈夫です。僕が悪いんです。」というので何も出来なかった。

私は無力だ。
詐欺やいじめ、ネグレクトやDVなど弱者をいたぶる悪は多い。
しかし私に全てを救えるとは到底思えない。

ー余計な事しやがって!

酔っ払いの言葉が耳に残っている。
正義の味方など必要ないのかも知れないな。月を見ながらため息をつく。
疲れているんだ。もう寝よう。

この日以来、私には耳鳴りが聴こえなくなってしまった。

それから数ヶ月経ったある日、
あの日の酔っ払いと偶然街中で遭遇した。私は全く気付かなかったのだが、向こうから声をかけてきたのだ。
「あの時の!その節は無礼を働き申し訳なかった。御礼もしたいし、少し話をさせて欲しい。」

いつかとは打って変わった態度に驚いたのもあり、素直にマクドナルドについていく。

「もっといい場所で御礼をしたかったのだけどね。ここの期間限定商品があまりに美味しくて。らいむすりおろしりんごパイ。君にも是非食べて欲しい。」
すりおろしているのがライムかりんごかよくわからない商品だ。
CMで見て興味があったのでお願いする事にした。
コーヒーとパイを堪能した後、元酔っ払いが突然頭を下げる。

「改めてその節は申し訳なかった。申し遅れたが、僕は田中という者だ。初対面でとんだ醜態を晒した。恩を仇で返してしまい本当に申し訳なく思っている。あれ以来お酒を断ったよ。」

深々と頭を下げる田中。
あなたがきっかけで耳鳴りがなくなり、他人のピンチが分からなくなった。
そんな恨み言の一つくらい言おうとしていたがやめる事にした。

「あの青年達にも悪い事をした。
道端で息切れを起こし、もんどりを打つ僕を放って置かなかった青年達だ。
救心をどこからか手に入れ、助けてくれた気の良い連中だったよ。御礼で設けた酒の席であんな事をしてしまうとは。」

思ったより酷い経緯だ。
この人は一生お酒を飲まない方が良いのだろうな。
そして私のやった事は本当に余計なお世話だったという事だ。

「ところで…。」
田中は言いにくそうに続ける。
「児玉君はその…僕を助けてくれたような人助けを何度もしていたそうだね。この町のアンパ…ヒーローと聞いたよ。最近はあまり活動してないと聞いて責任を感じている。」

名乗っていないのに名前を知られている。
その事がそれなりに私の活動は実っていたのだと実感させる。

あなたのせいではないと言いかけて口をつぐむ。田中のせいではないと私が今ここで言うのは、ただの嘘でしかない。

「僕に出来るのは、君に助けを求める人を連れてくる事だけだ。ハツミ君、おいで。」

田中が後ろで食べていた子供に声をかける。振り向いてこちらに来た子供は、以前親に殴られそうになっていたあの子だった。
「初見です。お願いします。僕を助けてください。」
あの時より痩せている。
首元にも殴られたような跡がある。

心が熱くなってきているのが分かる。
私がこの子を助けれられるだろうか。

「こんな事を頼める義理ではないが、この子が君に助けて欲しいと言っている。君じゃなきゃダメみたいだ。僕からもお願いする。」

私がやらなければならない。
絶対に助け出して見せる。

数ヶ月ぶりに耳鳴りが聴こえた。

耳鳴り

耳鳴り

Twitterのタグで考えた作品です! #リプで来た単語を使って長文を作る 以下が頂いた単語です。 くま、耳鳴り、いいと思う それいけ!、すりおろしりんご、児玉 アソパソマソ、スカルプD もんどりを打つ 君じゃなきゃダメみたい 救心、ドナルド、コリラックマ 初見です、ファーファ、いむ ゆるキャラグランプリ 皆さま有難うございます!

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-04-26

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