幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 13話
修学旅行でドキドキ
小林さんが一ノ瀬君に告白をしても、結は態度を変えなかった。本当に気にしてないのだろうか……。
二年生のクラス替え。結とは離れてしまった。でも、一ノ瀬君と一緒。
二年生は修学旅行がある。ちょっと嬉しかった。
新幹線の中でもバスの中でも一ノ瀬君とは席が離れてしまったけど……。その夜。二人部屋で同室の真奈が「ねえ成美。今から他の女子を誘って男子の大部屋に遊びに行こうよ」と言い出した。
「え~。先生に見つかったらまずいよ」
口ではそう言ったけど、内心は舞い上がっていた。積極的に止めることはせずに真奈が数人を誘うのについて行った。そして男子の部屋へ……。
部屋は真っ暗。もう寝ちゃったのかな? 暗闇に目を凝らすと畳に布団が敷いてあるのがわかった。その布団の真ん中で黒い何かが蠢いている。
真奈が電気のスイッチを入れた。
部屋が明るくなり、驚いた顔がこちらを見ていた。部屋の真ん中で寄り添うように男子がかたまっていた。見てはいけない現場に来てしまったのだろうか。いやいや、彼らがしていたのは怪談話。怖いのは苦手だけど一ノ瀬君がいるのに帰りたくはない。私たちは塊の中に入っていった。
いつもは目立たない斎藤君。いつもは声の小さい斎藤君。妙に語りが上手い。上手すぎる。私は真奈とふたりで掛布団を被りながら聞いていた。
誰かが懐中電灯を斎藤君に向けた。斎藤君はあごの下からもともと白い顔を青白く照らしながら話しを続けた。
気のせいか部屋のあちこちで軋む音がする。古いホテルのせい。私はそう思い込んだ。誰も何も話さない。時おり聞こえる唾を飲み込む音。斎藤君がメガネの奥の細い目を更に細める。高まる緊張感。斎藤君が声を落とす。
「するとドアの方から……」
みな斎藤君の口元をじっとみる。
しばしの沈黙。
──とんとん
☆〇★※△☆※〇☆!?
「まだ起きてるのかあ」
先生だ!
ひとりが瞬時に布団に飛び込むと、続けてみんな布団に潜り込む。私も被っていた布団に潜ろうとすると、パニックを起こしていた真奈がひとりで布団を持って行ってしまった。
布団がない!
オロオロしていた私の腕を誰かが掴んだ。すっぽりと布団が掛けられ、私の頭を大きな手が包み込み、力強く引寄せられた。同時に部屋が明るくなる。
「しっ」
私の耳元で小さく声がした。私の目の前に、一ノ瀬君の……。
のどぼとけ……?
頭を押さえられて私は身動きができなかった。
先生に見つかったらただでは済まない。じっと息を凝らす。唾を飲み込む一ノ瀬君ののどぼとけが上下する。
怪談のドキドキと先生に見つかりませんようにというドキドキと一ノ瀬君と一枚の布団の中にいるという嬉し恥ずかしのドキドキに、私の胸はもうドキドキドキドキ……。暗闇に感じる一ノ瀬君の体温。かすかに聞こえる一ノ瀬君の呼吸。
顔から火なんてもんじゃない。噴火しそうだった。
真夜中のホテルの廊下で正座しながら、私は顔のほてりを沈めていた。
「先生の顔見て見ろよ。赤いよな? ろれつ回ってないし」
「酒くさいだろ」
誰かがそんな事いってたけど、先生の説教も私には甘いラブソングに聞こえていた。
それからは一ノ瀬君を見るたびにドキドキするようになった。私はドキドキしすぎて一ノ瀬君と上手く話せない。結と話してる自然体のふたりを見てほっとする。
私はたぶん、一ノ瀬君自身を好きなのではないのかもしれない。結と楽しそうに話してる一ノ瀬君を見ているのが好きなんだと思う。
たぶん。そう。
これは、恋とは言わない。
うん。
言わない。
卒業式が近づいてくると、女の子達が話し出した。
ほとんどの子が、もう会えなくなるからボタンを貰う。思い切って告白する。なんて話してる。
それで私も気になりだした。
一ノ瀬君はどうするだろう。
結は?
もしも、もしもふたりに何もなかったら……。
☆ ☆ ☆
わかってたことだ。一ノ瀬君が誰を見ていたのか。
ちょっとでも期待して、ばかだなぁ、あたし。
私は結がボタンを受け取るのを見ずに正門へ向かった。
さよなら……。一ノ瀬君。
幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 13話