幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 12話
恋よりも
賭けだった。
ううん、違うな。99パーセント諦めてた。
でも……。
☆ ☆ ☆
電車とバスを乗り継いで高校に通う私に、同じ中学の友達はひとりもいなかった。友達を作るのが苦手なわけではないけれど、さすがに知り合いがひとりもいないのは心細い。まあ、周りも似たようなものだし、毎日途中から電車に乗ってくる子と話すようになったり、それなりに友達はできた。できたけど、その友達には私よりももっと仲の良い親友がいる。そんな高校生活が二か月過ぎたころ。
『なあ、消しゴム貸して』
『……』
『なあ』
『……』
『聞こえてンだろ? 無視すンなよ』
『…………。あのね。これあげるから、新しい消しゴム買って返して』
『なっ! あげるって、これ三分の一もないじゃん。なんで新品買って返さなきゃいけないンだよ』
『……』
『ケチ』
『どっちが? あのね。今まで私が聡に貸した消しゴムを全部足したら消しゴム一個分に相当するの』
『高校にきてまだ二か月だぞ。毎日使ったって、消しゴム一個にもなるかよ』
『私はね、今までのことを言ってるの。小学校でもいっつも忘れて私に借りに来たでしょ? だからちゃんと新品返してね。あっ、買うなら「MONO」じゃなくてブルーの「カドケシ」にしてね』
『そんな昔のことかよ。だったらさ、結だって俺に借りに来たことあるだろ』
『それを差し引くと消しゴム一個になるの』
『!? おまえっ!』
また始まった。
このふたり、いつもこんな感じなんだよね。仲がいいのか悪いのかわかんない。同じ中学出身ではないはずだけど……。
左隣りに座る一ノ瀬聡。背が高くてまあまあイケメン。後ろの席の高梨さんとの会話を聞いているうちに、飾らない性格が何だかいいなぁと思えてきた。
また一ノ瀬君が高梨さんをチラチラ見てる。
消しゴム忘れたのかな?
「どうぞ」
私が消しゴムを一ノ瀬君の机に置くと、一ノ瀬君が「ありがとう! 田辺さん」と、クリスマスプレゼントを受け取った子供みたいに笑った。
「ダメよお。甘やかしちゃ」
後ろの席から私にそう言ったのが高梨さん。結だ。それから結とよく話すようになった。
数日後。
学校に始めてコンタクトレンズを着けて行った日。私はバスを降りたところで落とした。買ってもらったばかりのコンタクトレンズを! だからソフトのがいいって言ったのに。お母さんがハードにするから……。
一緒にバスに乗ってきた友達も探してくれた。だけど、残酷にも予鈴が鳴った。私が「遅刻しちゃうから先に行って」と言うと、その友達は「じゃあ、行くね」と行ってしまった。どうしよう、探していたら遅刻しちゃう。
そこに結が来た。事情を話すと結は自転車を止めて探してくれた。「遅刻しちゃうから」と言っても、「いいから、いいから」と一緒に探してくれた。
そして、一緒に遅刻して職員室で正座させられた。結は遅刻の理由を言わずに私に舌を出して笑ってた。
私たちはそれから仲良くなった。
結と一ノ瀬君は相変わらずだ。ふたりの喧嘩(?)を聞いているのは楽しかったけど、何だろうなぁ、胸がチクチク痛むとはこーゆーことなんだろうか。
私は一ノ瀬君が好きなのかな?
結は一ノ瀬君をただの幼馴染だと言う。
ふたりは今日も何か言い合ってる。顔面に直撃したとか、血まみれになったとか、勝ったのは私とか、隠れて特訓なんてセコいとか、そんな事言ってる奴のがよっぽどケツの穴が小さいとか……。
──まあ、付き合っているようには見えないけど……。
幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 12話