夜の帷
ショートショートから思わぬ形で続編が・・・・
こんなはずじゃなかったのに、おかしい。
初めに
夜の帷が降りて、寂しくてたまらない夜。
生きているのか、死んでいるのかさえも、分からなくなりそうな自分を持て余す夜に。
これから、そんなとき、あなたにそっと語りかけようと思う。
月をそっとカーテンの隙間から眺めている。
月の光は夜道を照らす光以外にどんな役割があるのだろう?
祈りの儀式?
農耕のシンボルと目印?
占星術に必要?
はたまた宇宙への夢を託す物だろうか?
そんなことを思っていると、ものの5分で飽きてしまった。
本から本へ移住する事も。
小さい頃から思っていた、別の本の中に入り込めたら面白いのに。
小さいときは、アラビアンナイト、
子供の時は、ハリー・ポッター
今日は、アラビアンナイトの中に、想像の中で入り込んでから寝ようと思う。
スルタンに嘘の話ばっかり聞かせて信じ込ませて良いなりにさせる悪女になるか、
はたまた、スルタンに惚れ込んでしまうロマンチックな女になるか・・・・
そう、私なら、シェヘラザードのような悪女を選んでみたい、面白そうだから。
今日から、あなたが私のスルタン・・・・
私の寝るまでの戯言の世界へようこそ。
ルールはたったの3つ
面白くなくても聞くこと。
そして、あなたが眠くなったら強制終了。
そして、枕元でささやいているにもかかわらず、あなたは私に想像でしか触れることができない。
なかなか、拷問のような、このかわいい条件を飲んでくれる、器の大きなスルタン。
わたしの世界へようこそ。
では、一夜目の話へと参りましょう。
さぁ、目をとじて・・・
想像してみて?
今、私はあなたの腕を触っている、そっと・・・少し冷たい体温が直に肌に伝わる感覚を、さらっとした、なめらかな感覚が私にも伝わる。
だんだん、私の手のひらの熱があなたの背中へと伝い伸びてゆく・・・
あなたは目をつぶりただ感じてくれればいいの。
ひんやりとした、冷たい掌が背中をなぞり、私の鋭い視線があなたの表情を冷たく、そして時に熱く眺めている。
やがて、掌は首筋を伝い頬へ・・・・時には涙をぬぐってあげるわ。
そして、あなたは私に触れようとする、けど忘れないで?
あなたは私には触れられない、私もあなたに触れたいけれど残念ながらそれは出来ない約束。
どうしてって?
私は本の世界でしか生きられないから。
本の世界のヒロインはあなた達の想像だけではないの。
私だって、あなたを眺め回し、品定めして、そして気に入れば、こうしてあなたに悪戯を仕掛けているのよ。
だから、私を捨てないで、側に置いて眠りなさい。
眠っている頃、何か良いことがあるかもね。
エピソード2
今日はなんだか眠れないの・・・
あなたもそうかしら?
言い忘れていたけれど、私にはあなたの感情が何よりのご馳走なの。
限界まで我慢して我慢して、ようやく振り絞った一筋流す透明なあなたの液体、やがて堰を切ったように嗚咽をならし泣き出すあなた・・・
考えただけで、ここから抜け出して、後ろからあなたを抱きしめて頭をなでてあげたくなるわね。
どんどん興奮して熱がこもっていく眼差し、そして、優しく私に触れる細長いあなたの指先、そして、そうね・・・ある程度の紳士になると、たっぷりの唾液のついた指先で私の端をつまんだり撫でていくわね。
では、はじめましょう。
そうね、今日は「時の旅人」の世界にあなたを誘うことにするわ。
これは、言わずと知れた名作ね。
私も、何回彼らに会い、共に食事をし、そして行かないでーーーと号泣し叫んだか分からない程よ。
あら?もしかしてこの名作を知らないの?
幼女が、タイムスリップして中世の家庭にお邪魔するのよ。
そこでは、皆優しく幼女を迎えてくれて、つかの間の心の安らぎと交流をえるの。
けれど、残酷にも心優しき人々も時代の荒波へと巻き込まれていく・・・・
戦争によって死なせたくない、私がこのことを伝えて奮闘すれば彼らは助かるかも?
そう、死なせはしないわ、そう思う幼女の心が痛いほど伝わる名作なの。
この幼女、小娘でありながら自分の保身より、人のことを心配して動ける度胸と優しさがあるのよ?
見た目が可愛いだけで、ちっともあなたを守ってくれない女に振り回されたい男には
この幼女の価値は分からないわ。
ちょっと、あなた、いま、私を差し置いて、幼女へ思いを馳せたわね?
彼女も確かにいい女だけど、あなたは、私だけを見つめて、愛してくれれば良いの。
そして、たまに他の女のことを考えても、いつでも私に戻ってくること!
じゃないと、今後あなたにいい女を紹介してあげないわよ?
・
エピソード3
さぁ、私とあなたの初めてからの3日目の夜ね・・・
すこし時差がおかしいって?
細かいことにこだわる男は嫌いよ、大らかな男の方が私はタイプなの。
ねぇ、今日はお願いがあるの。
どうか、本から私を引きずり出そうと何度も本を上下逆さまに振ったり、私の芳香をかぎたいからって何度も嗅ぐのをやめてちょうだい!
それから、まさか、いないとは思うけれど、私を舐め回したりしてないでしょうね?
2人きりでのそんな変態のあなたも悪くないけれど、私としては引いてしまうわ。
やはり、爽やかじゃないとね。
そうね・・・・今日はどの子を紹介しようかしら・・・
昨日が幼女だった分、セクシーな子が良いかしら?
細いくびれたウエストに鈴を回して、セクシーに腰をくねらせながらあなたを誘惑する子、それとも、茶褐色の大きな潤んだ瞳で、あなたを熱心に見つめながら、あなたのつくったお話を楽しそうに聞いてくれる子が良いかしら・・・
私としては、今日はシンデレラをあえて紹介するわね。
え?もう知ってるって?
なんだよ、色気がねーよ、ですって?
だまらっしゃい!!
この子は、とてもしたたかな女なのよ? あなたなんて、あった瞬間瞬殺されるわよ?
まぁ、お聞きなさい。
この子は、お母さんに早くに旅立たれ、お父さんが再婚し継母と、2人の姉にいじめられるのよ。
けれど、いつか素敵な王子様がじぶんを助けてくれると待ち続けると、都合のよい魔法使いが現れ、舞踏会にでて、まんまと王子様を射止めるって話。
どうして彼女は、継母や姉たちに抵抗せずやられるままだったか、不思議に思ったこと無いかしら?
それは、多勢に無勢、反抗すればするほど、意地悪に拍車がかかる女の習性を理解していたから。
裏を返せば、同じ思考の女だから分かることよ。
その証拠に、ちゃっかりと魔女にドレスを作って貰い、誰よりも綺麗な装いで出かけ、王子様のためにわざわざ片方の靴を残して帰るの。
想像してご覧なさい?
自信のない子なら辞退するはず・・・
片方脱げた、高いヒール靴でどうやって走れるっていうの?
引き際の美学、計算のあざとさ、私でも震え上がるくらい完璧ね。
私、ちょっと、思うのだけど、王子様だって、たくさんの女を見てきた男だもの、バカじゃないわ。
そのあざとさと美貌が気に入ったのね、きっと。
おもしろそう、他の女より退屈しいないんじゃないかって・・・
まぁ、あなただってバカじゃないはずよ?
きっと私の考えに共感してくれてるわね?
さぁ、私もあなただけのシンデレラになってあなたを誘惑したいくらい。
片方脱げた靴をおって、私をみつけて、足に履かせてちょうだい。
細く艶やかな足、そしてなめらかな肌感があなたの手に伝わるかしら?
そのまま足にキスをしてくれないかしら?
指先から、そう、そのまま、少しずつ、少しずつ上がってきなさい。
ちょっと、ちょうしにのらないで、今日はここまでよ!
エピソード4
こんばんは、私のスルタン。
今日も1日よく頑張ったのね。
本当は、私が物語から抜け出して、膝枕をして癒やしてあげたいところよ。
私、仕事を頑張る男の人って大好きなの。
でも、私、今日はとっても機嫌が悪いの!
どうしてかって?
人魚姫があまりに憐れで哀しみに暮れていたの・・・
私、彼女が泡となっているのをそのままそっとしておくべきか、魔女に掛け合って、もとの人魚に戻してもらえないか頼んでみようか、迷っているの。
でも、私が勝手なことをすると、アンデルセンが怒るかも知れないわね、彼ったらひどくロマンチストなくせに、ヒロインに手ひどい仕打ちをするのが好みみたい。
まったく、許せない男ね。
ところで、あなたは自分が泡となって消えても良いほどの人を愛したことがあるかしら?
それまでの身分も、経験も、自分さえも捨てて、一目惚れした相手に尽くせるかしら?
自分が助けたと言いたいのに、言えないこのもどかしさに耐えられる?
ただ側にいたい、それしか出来ない彼女。
その一心だけで、全てを捨てて人を愛した人魚姫の悲しい結末。
きっと、アンデルセン自身が叶わぬ身分違いの恋をしていたか、ロマンチストの革を被ったサディストだったかどちらかだと、私は思うの。
あら、あなたは私が落としてきた数々の男の方が気になるようね?
いつも色んな物語から、たくさんの王子様が私にプロポーズしてくれるわ。
でもね、私は物足りないの。
身も心も焼き尽くすような恋でいて、そして、心温まりあえる人を待っているから。
それまでは、私は恋に恋をしているの。
さぁ、今日はあなたに悪戯を仕掛ける気分じゃないわ・・・
もう夜も遅い、今日は私を閉じずに眠りなさい。
彼女の分まで、眠っているあなたに優しくしてあげるわ、そう、そんな気分よ。
おやすみなさい、私のスルタン。
エピソード5
こんばんは、私の迷える子羊ちゃん。
今宵の気分はどうかしら?
なんだか、元気がないわね。
何ですって?仕事でミスを?
そうね、辛かったわね、こんな夜中まで気分を持ち越して自分を責めて・・・
出来る事なら、私が抱きしめてあげたいくらいだわ。
そうね。
そんなあなたに、今日は「塞翁が馬」というお話を聞かせてあげるわ。
あら?知らないですって?
あまり馴染みがない話でしょうから、今回はあなたのおバカさん具合を責めたりしないわ、安心して?
これは、故事として有名だわ。
幸せになるか不幸になるか、人生は予想できないという例えよ。
老人が飼ってた馬が逃げ出したら、馬が他の馬を連れて戻ってきた。
まずこれが一つ目の奇跡。
今度は、その馬に乗った老人の息子が怪我をするの。
けれど、おかげで戦争に行かなくてすみ命拾いしたという話なの。
ざっと、この短い説明でも2つの不幸が、二つの奇跡を呼び起こしてるわね。
何が言いたいかというと、あなたにもこんな奇跡が起こるかも知れないわよ?ってこと。
あぁ、私も久しぶりに馬にまたがって遠出がしたいわ。
あなた知ってるかしら?
馬に乗ると、常に腰をタイミングよく上下に浮かしたり沈めてなきゃならないの。
そして、あの走る馬の足から伝わる躍動感、なんとも言えない振動が体中に伝わるの・・・
結構疲れちゃうけれど、けど、あの動くお馬さんの魅力には抗えないわ。
そして、降りるときは、きちんと手を添えてエスコートしてくれる男が好きよ。
あら?
まさかあなた、変な目で私をみて、おかしな妄想してるわけじゃないでしょうね?
いやね、私帰るわ!!
エピソード6
今宵は小雨が降っているわね・・・
あの綺麗な桜を散らすと思うと、寂しい気もするけれど、そのはかなさもまた美しいわ。
私桜をみると、頬を薄桃色に染めてはにかむセーラー服の少女や、薙刀をもっている高潔な凜とした女性を思い浮かべてしまうの・・・
道着からのぞく華奢な腕、少しはだけた胸元からのぞく鎖骨、そして、あぁ、動くたびに裾がひらめきのぞく締まった足首。
色白で艶のある黒髪の少女が一瞬の美をとじ込めたような錯覚に陥るわね。
まさか、あなた。
花は散らすほどに美しい・・・・なんて不埒なこと考えて無いでしょうね?
それもご自由に、後は野となれ、灰となれと言う覚悟がおありならね。
今日は、「かぐや姫」を紹介するわ。
彼女、見かけによらず、困ったわがままちゃんなの。
無理難題を殿方に出して、自分を手に入れる男を競わせるなんて・・・おお、怖い。
彼女のわがままで、アリもしない宝を探してぼろぼろになる方もいたの。
でも、殿方もずるい方がいらっしゃるものね、アリもしない物だと分かっているから、
財力で作ってだまそうって寸法よ。
狸と狐の化かし合いに、おバカさんも参戦の沼試合ってとこかしら?
後の、小野小町も真似したようだけれど、いずれも失敗ね。
やはり美しい女は怖いものね、心まで美しいとは限らないわ。
やはり、愛がなくては。
さぁ、今日はあなたにどんなお願いを叶えて貰おうかしら?
金銀財宝、永遠の美・・・どれもいいけれど。
私にはあなたの純粋な愛が一番のご馳走よ。
抱きしめて眠りなさい。
エピソード7
こんばんは、スルタン。
今日はずいぶん早い時間に私を呼び出したものね・・・
私、今日はせっかくフェルメールに呼ばれていたのに、中断してしまったわ。
彼のこだわりのモデルとして、ポーズを決めているのも楽じゃないわね。
ふふっ、不思議そうな顔しちゃって・・・可愛いわね。
彼はもう死んでるのに!ですって?
魂を込めた作品には、作者の残像、または思念とも言うべき物が残っているのよ。
その思念が、こうして残り、彼の作品が本となることで、本の中で彼はまた生きることができるのよ。
もっとも、私は、彼が生きている間も、彼が開く本に宿り作品への情熱を呼び覚ましていたものよ?
まぁ、いわゆるミューズってところかしら?
あの有名な「真珠の耳飾り」、もしかしたら私をイメージしたのかも知れないわね・・・
なんて・・・・冗談よ。
あら?なんだか残念そうな顔してないかしら?
私は本の精の中でも、若くて・・・そうね、人間に直すと24歳あたりかしら?
でも、そうね・・・ざっと300年は本の中で生きてることになるわ。
話を戻すわね、彼の使う青は特別なの。
宝石のラピスラズリを砕いているからよ。
ロマンチックな物だけれど、当時から宝石はお高い物・・・
芸術家も生きていくためにはお金が必要ね、そして作品を作るにはなおさら。
きっと、この際立つ、深くも時に明るい青には、並々ならぬ苦労と美しいものへ、己の魂を注ぎ込むす程のすさまじい執着がこもっているのね。
そして、人物には細かく、どこまでも現実的にこだわってるの。
そのわりには周りはあっさりと描く。
明るい色をつかって、点描写していく途方もない緻密な作業でできているのよ。
そのコントラスト、想像するだけで狂気にも似た耽美を感じてしまうわ・・・・
それにしても、この真珠の耳飾りをつけた少女の絵をご覧なさい。
このぷっくりとした艶やかな唇・・・
鮮やかに熟れた赤い果実のように艶めいて光っているわね・・・
そして、こちらを見つめてひかる少女の真っ直ぐで透明な眼差し。
けれど、真珠の耳飾りをつけて、大切な方と逢い引きの約束でもしているのかしら?
その方に、褒めてもらえるよう、お母様から宝石を拝借しているのかしら?
それとも、フェルメールの寵姫かしら?
いづれも高価なオシャレで背伸びしているなんて・・・
愛らしいわね?
さぁ、私もあなたの唇をいただこうかしら?
想像してご覧なさい。
形良く、赤いバラの蕾のようなような唇を。
ほのかに湿っていて、そして、微かに濡れてひらいているの。
甘い甘い吐息を漂わせて、あなたに唇が近づくのを。
さぁ、ゆっくり目を閉じて・・・そうよ。
ゆっくり……
堅い本の感触ですって?
ふふっ、本当にキスしちゃったのね?
エピソード8
こんばんは、私の可愛いパピヨン
今宵の霧雨もだいぶ落ちついたようね。
本当は、今日はあなたのもとに現れないつもりだったの。
でも、健気にも私をまっているあなたの心を慮ると、こうしてあらわれてしまったわね・・・
実は、あなたに大事なお話があるの。
しばらく、私は月の宮殿で自由を謳歌してくることにしたの。
今まで、300年、本の精霊として、色んな方々を導き育てインスピレーションを与えてえ来た。
けれど、私もそろそろ疲れをとって鋭気を養わなければ・・・
そして、月の宮殿には、クリスタルのバスタブがあって、私の心の淀みを綺麗さっぱりと洗い流してくれるの。
また広い図書室には、何千年前の貴重な本達が集っていて、今か今かと出番を待っているの。
私も、彼らから教わり戯れることることも多いわ。
そうね、若い女はおじさまの魅力とテクニックには抗えない物よ・・・
例え、私であってもその例外ではないわ。
より魅力的で刺激的な女として、あなたのもとに必ず戻ってくるわ。
さぁ、そんなに泣かないで、私のパピヨン。
今日は、オーロラ姫を紹介するわ。
彼女は王家の産まれよ、けれど悪い魔法使いに呪いをかけられ平民として暮らすの。
妖精に守られながら、16歳に成長すると、呪いにより眠ってしまうの。
勇敢な王子様が現れ、悪い魔女を殺し、オーロラにキスをすることで目覚めさせるというお話よ。
そう、私のパピヨン、私はあなたにこれを求めているの。
強く逞しく、厚い胸板の男、そして、愛する女のためには、勇敢にも命を省みず悪に向かっていく姿勢・・・あぁ、考えただけでも燃え上がってしまうわね。
あなたには、男らしさ、そう、時に獣のような荒々しい気概が必要よ。
そして、知的好奇心も忘れないで。
私が、鋭気を養い、心を遊ばせている間、あなたがどれほどの良い男になっているか楽しみね。
かつて、私を熱烈に愛した、詩人、作家は数知れず・・・・
あなたもそこに加わるほど、自分の命を燃やしてご覧なさい。
その時、私は、あなたの物よ。
夜の帷が降りる頃、そっと本から抜け出しあなたと情熱的な逢瀬を重ねるの。
では、また、月の宮殿から帰ってきたら会いましょう。
今度こそ、約束のキスを交わしましょう。
そういうと、
まばゆいばかりの美しい青灰色の瞳に、豊かな糖蜜色の長い髪をたゆたえた絶世の美女が本から上半身だけ姿を現した。
いきなり唇を奪われる、しばしの別れのキス・・・
官能的でありながら、どこか爽やかで、涙のしょっぱい味がした。
さようなら、私のスルタン。
エピソード9
こんばんは、私のスルタン
久しぶりの再開ね
あら、私がいなくてずいぶんと痩せてしまったようね
なんですって?
恋煩いかしら、ふふ、私のスルタンも可愛いところがあるものね
まぁ、私に会えなくて一時的に狂い乱れる方は稀にいらっしゃるわ
でも、女は移り気なもの
そして、賢い殿方もね
でも、黙ってする移り気と、堂々と胸をはる移り気は全く異なるものよ。
ふふ、言ってる意味がわかるかしら?
いつだって、美しい感情に比例して黒い感情が渦巻いてしまうのは、神が私たちに与えたもうた自然の摂理なのよ
何事もバランスがあるわ、良い時期もあれば、悪い時期も、
光があれば闇も、そして、ふふ、愛があれば憎悪もね
すべては神に委ねられたシーソーに乗り、おろかな私たちは翻弄されているのよ
あら?私が狂気染みているかしら?
そうね、そうともいえるわね
さぁ、今日はあなたに再開したお祝いをしなければね
あなたは私があなたのことを忘れてしまっていたと恨んでいるようね?
こんなにも痩せて仕事も捗らず悶々としていたと。
そうね、でも、可愛いスルタン言ったはずよ。
あなたが燃えるような情熱を秘め、獣のような研ぎ澄まされた産声を上げたとき、私は貴方のものよと。
私に恋煩いなどと甘いお戯れをいう暇がおありになって?
さぁ、命を燃やしてご覧なさい。
私はそのために一時的に舞い戻ってきたの。
そうね、月の宮殿は素晴らしいわたくさんのお話を携えたおじさまが私を取り囲んで多くの叡智を分けてくださるわ
ふふ、いつかあなたにも聞かせてさしあげるわね
さぁ、あなたはまだほんのすこし蝋燭のさきに火がついたかのようなものよ。
シャンデリアを!ダイアモンドでできた豪奢なシャンデリアのような、そんな風格を身につけていただきたいものね。
そのとき、そのシャンデリアのしたで貴方と私の夜が始まるわ
では、ごきげんよう
エピソード10
ごきげんよう、私のスルタン
今宵の霧雨もだいぶ弱まったようね
この半年であなたの活躍ぶりを伝え聞いているわ
新進気鋭の若手作家がいると・・・
緻密に創り上げた世界観を構築し、美しくミステリアスな女が出てくる小説と
それは聖女か悪女か、世論はわれているようね
ふふ、おもしろそうね
私の意思が伝わり花開いたようね
でも、あなたの態度は頂けないわね
少し評価されたくらいで調子に乗らないでくださるかしら?
この洋煙は何なのかしら?
私はあなたの純朴なところが好きだったのに
そうね
そんなあなたに今日は月にいる、本のおじさまから聞いた話をして差し上げるわ。
ある男がいた、
冒険が好きで世界中の美しいものが大好きなのけれど、だんだん退屈してくるわ・・・満足できずにいるの
見ても、触っても、想像してもね・・・
美しいものに飽きてしまったのね
そう、今美しいだけで、あなたの一時的な成功と金に群がる女を
暇つぶしでたくさん抱いているあなたと同じね
そして、やがてこの男は自分の中を見つめ始めるのよ
これだけ美しいものを集めたのだから、自分にも同じくらいのものが作れるのではと
それからは寝食も忘れ、人間らしい生活も忘れ、没頭していくの
結末はね?
あなたの小説と同じ賢者か愚か者か・・・
ふふっ、本の世界でも評価は今割れているのよ
さぁ、あなたはこの男のようになれるかしら
本という謎の迷路のような世界で、魂を捧げられるかしら
己の世界観をこの難解でミステリアスな世界で
構築できるかしらという意味よ
そうよ、捨てておしまいなさい、そんな洋煙
あなたには似つかわしくないわ
あなたには、目を輝かせて私の話を今か今かと待ち望んでいる
その姿がとても私には魅力的なのよ
さぁ、泣かないで
今日は初心に返ってもらえて私も嬉しいわ
私を側に置いて眠りなさいきっと良いことがあるわ
夜の帷
読んでいただき、ありがとうございます。
続編続くと思います。
よろしくお願いします。