第8話―19
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宇宙の秩序は各種族の文化圏代表が宇宙議会に議題として提出され話し合い、民主主義のもとに決議されて、各文化圏同士の紛争、民族衝突を回避していた。
今回、ジェフフェ族の惑星ダゴルトへジュヴィラ人が侵略した件も、正式にティーフェ族議会より議題として宇宙議会へ提出、この全宇宙に生存する種族文化圏の代表たちが、アルガエル銀河、ナオイ星団に位置する人工惑星ハイペリオンに招集され、議題について話し合いが行われた。
宇宙議会は宇宙憲章に基づき、公正に行われ、法的執行力もその決断には付属しているために、議会の決定は絶対であった。
当然、本議題を提出したティーフェ族議会議長デガタと、当事者であるジェフフェ族議会議長サザイラも出席していた。彼らは水の膜を身体にスーツのように貼り付け、水なしでは生きられない生命体でありながら、空気中、合成セラミックで構築された豪華絢爛な広大な議会場に居合わせる雲霞の代表たちが見つめる議会場中央にあって、生存を可能にしていた。
「ご覧いただければおわかりのはずだ。我らは生存権を脅かされている。何度もこの場で私は訴えてまいりました。我がティーフェ族と同胞の生活を脅かされていると。宇宙議会において何ら手を講じなかった結果がこれなのです」
デガタ議長にしては珍しく、冷静さを水の中に溶かし、赤く染まった怒りの顔で広大な議会場中を見回し、白く透き通った長い腕で訴えかけた。
「どこに証拠があると言うのです。偽証は厳罰にあたいしますぞ、デガタ議長」
そう言って自らの種族の無罪を訴えたのはジュヴィラ人宇宙議会代表のバヴァヴァだ。巨大な金属の流線型の50メートルはある巨体で議会を軽く見回し、金属の唇で平然と偽証だと訴えた。
確かにこの時、ジェフフェ族もティーフェ族も惑星ダゴルトへの進軍を証明する証拠は何一つ提出できず、緊急の議題でありながら、証言は水に生存する種族だけなのである。
「議長、ここで我がジュヴィラ人から一言申し上げたいことがございます」
悠々とした顔でデガタ議長の熱弁をまるでなかったかのように、バヴァヴァ代表は振る舞った。
裕福な家庭で育てられ、ジュヴィラ人文化圏でも最上位と位置づけられる芸術大学を卒業し、そのまま政治の道へ入った彼にとって、全ての種族は下級に見えるのだろう、振る舞いが明らかに礼儀知らずといった、見下す口調である。
宇宙議会議長フルマンドとマブラスの双生児は、黄金に輝く1つの身体から2つの顔と無数の腕を出し、互いに見つめると、声色を二重に合わせて言った。
「慎みたまえ。ここは宇宙議会の場。今の議題は惑星ダゴルトの消滅とジュヴィラ人進軍の有無に関する話し合いである。議題に結論が出る前に次の議題を提出することは、憲章でゆるされてはいない」
冷静でありながら、不気味なこの黄金の100メートルはある巨人種族プカンナは、議長になりすでに2000年が経過していた。実際の年齢は1億歳ともすでに数では数えられない年齢とも言われ、実年齢は非公開にされていた。
常に議会場の議長のセラミックの巨大な椅子に腰掛け、まるでそこから生えている樹木のように、何億という各種族の代表たちを、その4つの黄金の眼で見つめていた。
そうした宇宙そのものを形としたかのような議長の言葉を受けながらも、バヴァヴァ代表は、凛然と口を開いた。
「宇宙議会においてはこの議題を取り上げ、総会を開いた時点で我らジュヴィラ人といたしましては、激しい憤りを感じております。更に議長はこれより調査団を派遣する旨とのこと。これは到底、ジュヴィラ人として承服しかねることであります。よってジィヴィラ人代表として、ジュヴィラ人は本日をもって宇宙議会を脱退することを通告いたします」
まるでこれが正義だ、とでも言いたげにバヴァヴァ代表はそう告げると、黄金色の議長に鋼鉄の背を向け、機械音をセラミックの議会場に響かせながら退場していった。
何億もの種族が四角いセラミックの浮遊席に座っていたが、不和の波紋は一気に広がり、議会場は混沌とした。
議題を提出したデガタ議長も何が起こったのか、頭が混乱しているようすで、顔が一気に青色に変わっているのだった。
この前代未聞の事態は、宇宙をまたたく間に、光の速さで駆け巡った。
第8話-20へ続く
第8話―19