閑寂、惨憺
啄むような口付けは、それがさも当然の事であるかのように。
幼子同士の(禁じられた)遊戯であるかのように思わせる。
互いの色に薄く染まる瞳。
爛れてゆく思考。
胸の内と最奥で燻る欲。
そうして、互いの名前を呼び、蕩けるように溺れてゆく。
一時の夢と、嘘の中で縋り付きながら。
焦がされるような錯覚は徐々に強くなる。
末梢まで焼くような熱は意思を歪め。
茫洋と空漠に満たされた心は、少しずつ変容する。
崩れるように。
満たされない渇き。
深潭のなか、揺蕩う理性。
寓意から逃れ、その意味に気付くことなど。
戒めを破り、いつしか肌を重ねることも。
そうして、意思は語るまでもなく同じだったことなど。
それらは、ありきたりなことで。
甘い蜜を啜るように、祝福を貪るように。
彼らはより深い場所を。
ふたりだけの、居場所を、求める。
胸の深くで燻っていた熱も、今は体の芯を焼くように熱いものになって。
体の火照りは収まることを知らない。
はっきりと自覚し、知覚した震え。
肩越しに聞こえる鼓動。
どちらともなく、舌を重ね。
絡め合わせ、奥まで触れ合わせる。
漏れる嬌声。
朦朧とした意識。
しろい場所のなかで、悦びに満ち足りて。
彼らは確かな高まりと律動を感じていた。
ゆっくりと唇を離し、その僅かな余韻に浸る。
透明な糸は、容易く切れる。
虚ろな記憶のなかには、互いの姿だけが映し出されている。
確かなかたちとなって、残存し、介在する。
薄氷のような境界。
彼らを、薄闇がヴェールのように優しく包んでいる。
輪郭をなぞり、指を滑らせ、その愛撫に心地よくなり、頬をほのかに紅潮させる。
花から蜜が溢れるように、月が雲に覆い隠されるように。
薄紅と群青が交ざり合う。
蜜のように溢れる快楽。
奔流のように押し寄せる欲望。
その中では、どんな言葉も意味を持たない。
ただ、確かめているだけでいい。
互いの名前を呼んで、確かめて。
痛みを快楽で書き換えるだけで、それで、いい。
彼らは、互いを愛している。
その事実が変わることはない。
淫蕩と狂気の末に、何が残る?
閑寂、惨憺