グレイ家の兄弟 Lycanthrope
Police Killer
― イギリス・ソルシティの一角で ―
あのG4最大の危機から1カ月たったある日のこと。G4はそろって自宅の1階のリビングでミルクティーを飲んでいた。長男のフレディがミルクティーを一口飲むと、話しだした。
「そういや最近、ガルー関連の事件が起こってないな」
弟たちは同じタイミングでうなずいた。
「あ~確かに。ガルーのことで騒がなくなったよな」
三男のロジャーが言った。
「もしかして、ガルー族ってあのクズ親子しか居なかったのかな」
「いや、んなこたないだろう」
四男のジョンの軽い推測を、次男のブライアンがさらっと否定した。
「もしかすると、俺たちに恐れをなして種族全員別の地へ逃げたのかもな」
ロジャーが冗談っぽく話すと、ジョンが失笑した。
そんなゆるい会話をしていると、ロジャーのスマホに「BREAKING NEWS」を知らせる音が流れた。
「あ、ブレーキングニュースだ」
彼がすぐにニュース画面を開くと、「ソルシティ警察署 何者かに襲撃される」という見出しが書かれていた。これを見た長男と三男は固まった。記事を読むと、ソルシティ警察署に何者かが侵入、そこの警察官全員の命が奪われ、犯人はいまだ捕まっていないというあまりにも衝撃的な事実が分かった。
(ここまで凶悪なことをしでかすのは、どう考えても普通の人間じゃない…)
フレディの脳内には、人類を脅かすあの怪物の姿が浮かんだ。すると横からロジャーが話しかけてきた。
「警察官を簡単に倒すとか、まさかまだガルーがこの地に…?」
「だろうな。こういうことをするのは、やつらしかいない」
「このまま放っとけば、もっとまずいことになる。止めに行こう」
ブライアンの提案で、G4は街中へ向かった。
最強の敵、出現!
G4が噴水で有名な大型広場の「ソルシティスクエア」に足を踏み入れると、ちょうど同じタイミングで、腰に布か何かを巻き、カーキ色のトレンチコートを着た銀髪の壮年の男が向かいから歩いてきた。しかも、手の甲で荒々しく口を拭きながら。G4は、彼が普通の人間ではないと直感した。男はG4を一人一人見ると、口を閉じたまま不敵な笑みを浮かべた。
「強者のオーラを発しているのは、おまえたちか」
「誰なんだ、あんたいったい」
フレディがその男をにらみながら尋ねると、男は軽く笑って答えた。
「俺か?俺はライカンスロープ。『滅びをもたらす獣』だ」
「獣」というワードを聞き、G4はファイティングポーズをした。ライカンスロープと名乗る男は、腰に巻いていたものをおもむろに外し、それを彼らに見せた。
「このカーディガンに見覚えはあるか?」
そのカーディガンは女性物で、かなり広範囲に血のりが付いていた。ジョンがあっと息をのんだ。
(あのカーディガン、前に僕たちをだました女が着ていたものだ…)
「おまえ、あの女に何をした!?」
彼が思わず大声で尋ねると、男は見下すような顔つきをした。
「あぁ、あいつは俺が消した」
男が話した事実の衝撃の大きさに、G4は声が出なかった。
「あの女がガルーを裏切ったからか」
ブライアンが問うと、男はぞっとさせる声と目つきで答えた。
「いいや、やつがホモ・サピエンスだからだ」
それを聞いたG4は、凍り付いた。
「もっとも、あの女はイージーモード以下で、俺にとっちゃ退屈でしかなかったがな」
ライカンスロープは、女の形見のカーディガンをポイ捨て感覚で放り投げた。彼の態度に、G4は怒りを燃やした。しかしライカンスロープはニヤリと笑った。
「強者のオーラをまとうおまえたちが相手なら、難易度の高いゲームが期待できる」
そう言って彼は髪をかき上げると、瞬時に銀色と紺色のツートンカラーの人狼に変化した。
「では始めよう、ラストステージを」
「ガルーめ!弟たち、行くぞ!」
「「「っしゃあ!!!」」」
G4は、ライカンスロープに向かって突進した。しかしライカンスロープはフレディの頬にフックを喰らわせ、ブライアンを片腕だけでなぎ払い、ロジャーのキックをしゃがんでよけたのちに逆にハイキックを浴びせ、ジョンの後方に回って彼の首元にチョップをお見舞いした。
「普通の技じゃ勝てねえな」
頬を気にしながらフレディがそう言うと、拳に炎をまとわせ、ライカンスロープに向かってダッシュするとその胸にパンチを一発打ち込んだ。
「うおっ!」
炎を使った攻撃を喰らってライカンスロープは少しふらついたが、すぐに体勢を立て直すと胸を軽くはたいた。そしてG4からある程度の距離を取ると、ハイジャンプして全身に紫色の炎をまとわせた。
「俺の後ろに隠れろ!!」
ライカンスロープの様子を見たブライアンが大声で言うと、ほかの兄弟たちはそのとおりにした。ブライアンは両腕を大きく広げ、自分の姿がすっぽり隠れるサイズの水の盾を出現させた。その直後、ライカンスロープはG4のほうへ頭からダイブしてきた。
ブライアンの作った水の盾のおかげで、G4はやけどこそ負わなかったが、ライカンスロープのダイブの衝撃はすさまじく、彼らは全員水をかぶって後方へ転倒した。
ライカンスロープは土を払いながら立ち上がると、瞬間移動のように素早くジョンのほうに行き、その右腕を両手でつかんだ。
「…!」
ジョンは全身の毛が逆立ちそうになりながらも、必死で抵抗して人狼を振り払おうとした。しかしライカンスロープは悪そうな笑顔でジョンを見た。
「その腕、骨もろともかみちぎってくれる!」
そう言って、ライカンスロープは鋭い牙が何本も生えた口を大きく開いた。
「うわっ!」
ジョンがきつく目を閉じて叫んだ瞬間、強い電撃がライカンスロープの背中を直撃した。ロジャーが10万ボルトの雷を放ったのだ。
「ありがとう、ロジャー兄さん」
「なぁに、当たり前のことをしただけだ」
ロジャーが答えた直後、ライカンスロープが襲ってきたが、彼はタイミングよく攻撃をガードした。
そのとき、フレディが弟たちを呼び寄せた。
「ブライアン、ロジャー、ジョン、ディヴァインフォームだ!」
「「「OK!!!」」」
「「「「Divine Form!」」」」
G4はディヴァインフォームを発動した。
He's Terribly Strong!
フレディは赤く細い布を粗く巻いたような露出の多いトップスと黒いベストのようなアーマーに黒の革パン、ブライアンは青い布を巻いたようなトップスと左腕をがっちり守っている黒ベスト風アーマーに黒の革パン、ロジャーは黄色い包帯を巻いたように所々肌の見える、軽くエロいトップスと黒の革パン、そしてジョンは茶色のトップスに両肩と左腕を守る黒いアーマーに黒の革パンといった服装に変わった。また、フレディは炎の翼、ブライアンは水の翼、ロジャーは雷の翼、ジョンは土の翼が背中に生えていた。
「ほう、コスチュームチェンジか。そのうえ翼まである。これはハードモードの上のハードモード、心が躍る!!」
ライカンスロープは、G4のフォームチェンジに驚くどころかそれを待っていたかのようなリアクションをした。
ディヴァインフォームになったG4は、低空に浮かびながらライカンスロープを囲んだ。フレディは自慢のスピンキックをしたが、ライカンスロープはイナバウアーのような体勢でそれをよけた。ブライアンは両手の親指を組んで両腕を突き出し、三角形を作った両手から激流を発射した。彼の技はライカンスロープの胸と左肩の間を直撃したが、人狼は少し体をのけぞらせただけで、平静な顔をしていた。その様子を見て、ブライアンは小さく歯ぎしりした。
今度はロジャーが雷の短剣を作り出し、俊敏な動きでライカンスロープを攻撃を加えたが、敵のほうもロジャーを上回るスピードでよけ続けた。両者の攻防がやむと、ロジャーが息を切らしながら言った。
「こいつの強さ、異常だぜ」
するとジョンが前に出た。
「兄さんたち、そのまま浮かんでて」
そう言うと、彼は右手を高く掲げ、手のひらで地面をたたくように勢いよく下ろした。その瞬間、直径100mほどの地割れが起こった。この威力なら、地面に足を着けるのはかなり難しいだろう。ところが、ライカンスロープはジョンが技を繰り出したのと同時に高くジャンプして宙返りし、ジョンに空中キックを浴びせた。
「うわあっ!」
それをまともに喰らったジョンは地面に落ちた。
「ジョン!」
「大丈夫か!」
「立てるか?」
兄たちは末弟のもとに飛んだ。
「うん、立てる、立てるよ」
グレイ家の四男は、ゆっくり立ち上がった。
ライカンスロープは、静かな喜びに満ちた顔で大きくうなずいた。
「そうだ。こういう『娯楽』を俺は待っていた…!」
「こいつ、控えめに言って『狂気100%』だな」
長兄フレディのつぶやきに弟たちがうなずくと、G4はライカンスロープからある程度距離を取った。そしてフレディが両手を挙げ、文字どおりの「火の鳥」を出現させた。
「その命、燃え尽きろ!!」
グレイ家の長男は持ち前の美声で叫ぶと、火の鳥は自ら羽ばたきながら、ライカンスロープに突進していった。
(…!!)
火の鳥が見事にガルーの体を貫いた瞬間、その全身が炎上した。
「よっしゃあ!」
フレディが軽くガッツポーズをした。しかし、それはぬか喜びだった。ライカンスロープは全身にやけどを負っていたが、何事もなかったかのように立って胸を軽くはたいたのだ。
「えっ、大技が利かない!?」
フレディは愕然とした。
次に、ブライアンが両手を挙げ、水でできた白鳥のような鳥を出現させた。
「もはや命乞いしても無駄だ」
グレイ家の次男がクールに言うと、水の鳥は自ら羽ばたきながら、ライカンスロープに突進していった。ところが、水の鳥が体にぶつかる寸前に、ライカンスロープはまるで虫でもつぶすかのようにハンドプレスで水の鳥を粉砕した。
「何!?」
ブライアンはしばらく固まった。
ロジャーは両手を挙げ、雷でできた鳥を出現させた。
「この技から逃げれるもんなら、逃げてみな!」
グレイ家の三男が威勢良く言うと、雷の鳥は自ら羽ばたき、ライカンスロープの周りを1周してその頭上まで飛ぶと、そこから急降下した。しかし、ライカンスロープは上方に拳を掲げ、雷の鳥をバラバラにした。
「えーー!マジかよ」
ロジャーは悔し紛れに地面を強く蹴った。
ジョンは両手を前に出すと、大量の土が出現し、ダチョウのような鳥の形になった。
「今謝っても、もう遅い!」
グレイ家の四男が啖呵を切ると、土の鳥が3回地面を蹴った。力が十分にたまった土の鳥は、目にもとまらぬスピードでライカンスロープに突進していった。ライカンスロープは両手の鋭い爪による斬撃を放ち、土の鳥をたちまち砂塵に変えた。
「そんな…」
自身の大技を破られたジョンの心は、絶望一色となった。
恐怖のハウリング
G4の必殺技をことごとく破ったライカンスロープは、勝ち誇ったような笑顔を浮かべると、大きなハウリングをした。その音波はすさまじく、周囲の建物の窓ガラスが割れたり、建物自体にひびが入ったりした。G4も全身を無数の針で刺されたような感覚に襲われた。
「うわっ…!」
「体中が痛い…」
「やべえ…!」
「ううっ…」
ハウリングの影響はそれだけではなかった。あろうことかG4のディヴァインフォームが解除され、普通の服装に戻ってしまったのだ。
「ええっ、ディヴァインフォームが解けてる!?」
G4は自分たちに起こったことが信じられなかった。ライカンスロープは4人を一瞥した。
「ホモ・サピエンス、ゲームはお預けだ。3日後、ウッディヘンジ遺跡に来い。そこでおまえたちを葬る」
それだけ言うと、風のように去っていった。
G4は、しばらく立ち上がることができなかった。
- TO BE CONTINUED -
グレイ家の兄弟 Lycanthrope