怪奇ハンター

湯田 夏 作

「真夜中に異世界に通じる扉が開く」

そんな噂が俺の耳に届いたのは二日前だった。

とある建物に放置されている用途は不明だが巨大な扉があるのだという。
そこは都心からは遠くはなれた住宅街であり、街灯もまばらな深夜になると人が暗闇に溶け込むような場所だった。

「ええ、ここが入口みたいです」

ヘルメットのヘッドライトが照らすドアノブに手をかけた。
ガチャ、と運良く鍵はかかっいない。
事前に確認したが、警備会社の表示シールはないようだ。

「なんて不用心な」

限りなく黒に近いグレーな行動をしているとは思っている。そんな俺が言えたセリフではないが。



俺は沼口裕太郎。怪奇ハンターとして世間に知られている。自称だし多分・・・・・・。
怪奇現象や都市伝説などの摩訶不思議な噂を求め、昼夜問わずビデオカメラを片手に真実を写してきたのである。

「これから中に入りたいと思います」

囁く声を一段と潜め、俺は足を踏み入れた。
弱いヘッドライトの光では奥まで見通せなかったが、舞い上がる埃の匂いが人気がないことを確信させた。

「天井も高そうだ」

予想に反して広い内部に、突き当たるまで進もうと慎重に歩き出した。
後で見るビデオカメラの映像からは、自分の息づかいがずっと聞こえていそうだ。それほど今回の噂には期待が大きい。

その反動は先週のハンティングにある。あれには参った。高速道路を飛び交うドラゴンの目撃情報。・・・・・・結局、ドラゴンをかたどった改造車が暴走しているだけだったが。何より、俺が暴走行為で捕まりそうで、参った。

「あった」

中世のお城の城門かというくらい巨大な扉だ。今にも木の扉が不気味なきしみを立てて開き、魔王が瘴気を吐きながら出てきそうだ。

「本当にこんな場所に扉がありましたぁ」

しゃべっていて自分でも語尾が上ずったのと、握るビデオカメラの手がじんわりと汗ばむのがわかる。

「ただいまの時間は」

スマホで時間を確認すれば、時刻は1時58分だ。もちろん午前のだ。
ちょうどいい。噂では午前2時、まさに丑三つ時に、扉に呪文を叫べば異世界への扉が開くらしい。

俺はビデオカメラを両手で構え、扉に対して姿勢を向き直した。
噂ではこう唱えろと聞いている。そして、俺は叫んだ。

「オープン・セサミ!」

ビデオカメラの動作音だけが鳴る静寂の空間で、ファインダー越しの扉をじっと眺める。
・・・・・・変化がない。ガセネタかとあきらめた、次の瞬間。

「まぶしっ」

目をつむっても瞼に光が透ける。それでも、扉が光に包まれてついに開くのかと思えば興奮する
気になるのは、なぜかチカチカ聞こえる音に蛍光灯を連想していた。

「誰かいるのか?」

「あんた、ここで何してるんだ」

「えっ?」

人の言葉が聞こえたようで振り返った。

「手にあるのはカメラか」

「ダメダメ、カメラなんかで写しちゃダメ!」

眩しくて見開けない瞼の先に人影が2つあった。
白いタオルを巻いた男に、寒くないだろうか、赤いノースリーブのシャツの男が二人。・・・・・・そんなことより、異世界への扉はどうした!心の中で叫びながら、俺は扉を見た。

扉は固く閉じたままだった。

「あのー、この扉は」

誤魔化しにならないだろうが聞いてみた。タオルを巻いた男が腕組みをして答えた。

「これは映画の撮影につかう美術セットだよ。一時的にこの倉庫で保管したんだよ」

「なのに監督が急に夜に撮影するからって、俺たちが運び出しに来たんだよ」

聞いてもいないことをしゃべる赤いノースリーブの男だった。

「まったく昨日の夕方預けたばかりなのに」

さらり、とんでもない事実を付け加えて。

「んで、あんたは誰?」とタオルを巻いた男が聞き返した。



怪奇ハンター、沼口裕太郎。これまで数々の修羅場を経験してきた。逃げたことはあるかって?いや無い。
だが、逃げたいのは今だ。

怪奇ハンター

怪奇ハンター

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-04-16

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