カメ、総理大臣になる

おおへんり 作

「お父さん、どうして死んだの、総理になるんじゃなかったの、国を変えるんじゃなかったの、わたしを一人にしないで・・」
 亀井春香の悲しい叫びは、国立病院中に響いた。それは夏の真夜中の出来事だった。
 父と娘を乗せた救急車が、病院の救急搬送口に到着した。四人の医師と看護士が、父を乗せたストレッチャーを運ぶ。娘は離れずにあとを追う。緊急処置室に入って数時間が過ぎる。

 亀井静男(かめいしずお)は、七期連続当選した衆議院議員だ。総理大臣を目指して、この夏の平和党の総裁選に立候補した。平和党に立候補の発表をしたその夜、ホテルタートルズの鶴亀の間で、亀井派グループの議員を集め、決起集会を行った。決起集会と言っても、亀井派グループ四十名の内、二十名しか出席しない。亀井派グループはかつて主流派の一つで、百名以上の議員が入会していた。しかし父親の跡を継いだ亀井静男が大臣時代の失言が続いて議員や党員の不評をかい、入会議員の数を減らしていった。
 乾杯をした後、亀井静男は壇上に立ち、意気揚々と声高らかに演説する。
「誰もが総理大臣になりたいと思っているが、それはわしも同じだ、ご存知のように祖父は総理大臣を二期勤めた、親父も総理大臣になった、このわしは法務大臣だった、しかし今や亀井派グループは衰退の一途、わしが総理大臣になるのは池で泳いでいるカメが総理大臣になるぐらい難しい、それでもわしは総裁選に立候補し、亀井派グループを復活させたい、今は亡き祖父と親父の名に掛けて・・みなさん、これまで以上の全力の応援、頼みます、平和党総裁、日本国総理大臣にしてください」
 亀井静男が演説を終えると、盛大な拍手が沸き起こった。だがそれは、彼をバカにした拍手でもあった。彼は四人テーブル一つ一つを回って、他の議員やその秘書にまで杯を注ぐ。そして返杯に自分も二倍のシャンパンやワインを飲んだ。決起集会で大酒を飲んだ彼は、ホテルの大広間で吐血し、救急車で運ばれ、そのまま帰らぬ人となった。

 亀井春香は父の葬儀と初七日を終え、自宅の庭園の池をぼんやり眺めていた。彼女の脳裏に浮かんで来るのは、父との華々しい政治活動の場面ばかりだ。小学生の頃に母親を亡くした彼女は、いつも父親と一緒だった。子供ながらも選挙に参加し、国会議事堂にも出入りした。大学院を出てからは父の秘書を勤め、そして三年前に三十歳歳で参議院議員に当選した。
 庭園の広い池は、錦鯉だけでなく亀が百匹ほど飼われている。春香はその亀達にエサをやり始めた。
『わたしも政界を引退して、結婚して普通の女性になろうかな、父がいなくなって生きる張り合いもなくなったし・・』
「春香さん、これ以上悲しむなよ、君にはやるべきことがあるだろ」
「誰? その声は」
「吾輩だよ」
「吾輩って」
「池の中のカメだよ」
「秘書の鶴田ね、わたしを慰めようとして、カメの振りをして」
「違うね、池の中のカメだ」
 春香は水面から頭を出し、口をパクパクさせている大きな亀を見付けた。視線が合った彼女は、亀が話していることを認めた。
「そうだ、吾輩だよ」
「カメが話すなんて」
「吾輩は千年以上生きているカメで、人間の言葉がわかるんだ」
「まさか」
「まさかって、今話しているだろ」
「父の霊魂がカメに乗り移ったのしら」
「そうではない、吾輩は賢い賢い人間の言葉を話すカメなんだ」
 春香は亀が話しているのを知って、あぜんとするばかりだった。そこに秘書の鶴田がやって来た。
「春香議員、誰と話しているんですか、廊下まで話し声が聞こえていましたけど」
「池のカメと話していたのよ」
 春香が池を指差すと、あの亀の姿はなかった。亀は池の底に隠れて二人の話に耳を傾けた。
「あれ、どこに行ったのかしら」
「どのカメですか」
「もういいわ、独り言よ・・それより何かあったの」
「はい、来週の月曜日、亀井派のリーダー選びの投票を行うそうです、春香議員、ぜひ立候補して静男議員の跡を継いでください」
「わたしみたいな小娘が立候補しても無駄よ」
「しかし亀井静男の跡を継ぐ者は他にいません、長老達は自分の息子を立候補させるでしょう、春香議員も立候補してください、明日立候補の届け出をしますから」
「はいはい、前向きに善処するわ」
 春香は面倒そうに適当に返事した。秘書の鶴田が立ち去ると、再びあの亀が水面から顔をのぞかせた。
「春香さん、お悩みのようだな、あなたの代わりに吾輩が立候補しようか」
「それでもいいけど、あなた、池の外に出られるの」
「失礼な、出られるとも」
 亀はそう言うと、池から出て、人間程の大きさに変身した。そしてファッションモデルのように縁側の廊下を歩き出した。そして足取り軽やかにタップダンスも披露する。
「どうだい、結構いい男だろ」
「忍者タートルズよりいいわね」
「では、明日立候補の届け出をしておいてくれ」
「あなたの名前は」
「吾輩は亀井万年(かめいまんねん)としておこう」
「はいはい、わかりました」
 亀井万年は池を出てから、静男の部屋に移った。晩食は春香と共にし、静男の思い出話に花が咲き、久し振りに彼女は声を出して笑った。二人は夜遅くまで楽しい時間を過ごした。
 翌日、春香は朝食を済ますと秘書の鶴田を呼んで、亀井万年の立候補の話をした。
「春香議員、カメが話すわけがないでしょ」
「そう思うでしょ、では紹介します・・亀井万年さん、どうぞこちらに」
 亀井万年は静男議員のスーツを着て、威風堂々と奥の部屋から出て来て、自己紹介をする。
「初めまして、鶴田さん、吾輩が亀井万年だ」
「何と、カメが話している」
「吾輩は千年以上生きているカメで、そこまで生きるとカメは話すようになる・・静男議員のお父様が中山競馬場に遊びに行った時、池で死にかけている吾輩を見付けて、動物病院に連れて行ってくれた、そしてこの屋敷の庭園の池に住まわせてくれた、それからずっと亀井家を見守ってきた・・」
「まさか」
「吾輩が話すのを聞いて、静男議員も驚いていたよ」
「わかりました、春香議員、亀井万年さん」
 鶴田は奇跡が起きたと信じて、春香の指示に快く従った。午後、春香は平和党会館に行き、亀井派の長老達と会った。ベテラン議員達が娯楽の場としている八番会議室で、三人の長老達はビリヤードを楽しんでいる。
「春香議員、もう落ち着いたかい」
 そう言うのは、亀井派のサブリーダーの一人、小沢議員だった。
「はい、お陰様で・・今日は亀井派リーダーの立候補の届け出に来ました」
「三十歳の小娘のあんたが亀井派のリーダーになるつもりか」
「いいえ、わたしではなく、亀井万年という者が立候補します」
「亀井万年? 聞いたことがない名前だな」
「そうでしょう、祖父や父が昔から飼っているカメですから」
「今何て言ったんだ、よく聞こえなかったからもう一度言ってくれ」
「父が飼っているカメの亀井万年が、亀井派リーダーに立候補します」
 三人の長老達は、互いに顔を見合わせて高らかに笑った。その笑い声は悪意に満ちている。
「カメが立候補するだと」
「はい、そうです」
「そのカメは話せるのか」
「もちろん、話せます」
「日本語か、カメ語か」
「礼儀正しい日本語を話します」
「ちょっと時間をくれんか、なにせ前例がないもんだから」
「はいどうぞ、ここでお待ちしています」
 三人の長老達は会議室の隅に行って、ひそひそと話し合った。
「どうだ、みなさん、亀井春香は乱心している、彼女の言う通りしてやろう、そしてみんなの前で恥をかかせて、亀井静男の支持者を取り込み、一気に亀井派を小沢派にしようじゃないか」
「小沢議員の言う通りだ」
「あんたの言うようにしよう」
 三人の長老達の意見はまとまり、話し合いの結果を待っている春香に告げた。
「春香議員、亀井万年君の立候補を認めよう、万年君は議員ではないが良としよう、がんばりたまえ」
「長老方、ご配慮、感謝します」
 春香が八番会議室を出て行くと、室内で長老達の爆笑する声が響いた。彼女は不安を抱えて自宅に戻り、静男の部屋で亀井万年と会った。
「万年さん、立候補の届け出をしてきたけど、大丈夫かな」
「大丈夫って、カメなんか支持を集めるわけがない、そういうことかな」
「まあ、そういうことよ」
「大丈夫だ、吾輩には戦略がある」
「とういうと・・」
「投票の演説会で、吾輩の理想と政策と能力を語って、議員達に支持してもらうんだ」
「それは、本来の政治のありかたね・・投票の日まで勉強会を開きましょ」
 春香はそう言うと、部屋を出て秘書達に連絡をした。翌日から広間では、秘書や事務員が集まり、亀井万年に政治についていろんな事を教えた。頭脳明晰な亀井万年は短期間で政治の要領を吸収した。

 それから一週間が経ち、投票の日が訪れた。演説会や投票は平和党会館の一番会議室で行われる。亀井派の議員が全員四十名集まり、グループのリーダーが決められる。グループのリーダーは平和党の総裁候補となり、総理大臣候補ともなる。一番会議室の演台には、四人の立候補者が並んだ。四十から五十歳代の小沢英一議員、麻生信一議員、鳩山幸一議員。彼等は長老達の息子だった。それと亀井万年。進行役の野田成子議員のあいさつで、立候補者の演説が始まった。三人の候補者達の演説が終り、亀井万年の演説が始まった。
「みなさん、こんにちは、野田議員に紹介された亀井万年です・・カメがしゃべるとは不思議でしょ、それとも忍者タートルで見慣れていますか、吾輩は人間ではなくカメですから、この場にいるのは不自然かも知れませんが、吾輩の恩人亀井静男議員の遺志を受け継ぐために立候補しました・・吾輩は千年以上生きていますから、文明や歴史の様々なものを見てきました、そして、先々の事が読めます、来年の事、再来年の事、十年後の事、二十年後の事、未来がわかるので政策に役立ちます・・」
「カメは選挙権は無いぞ」
「カメは引っ込め」
「カメは池で泳いでろ」
「カメは水族館に帰れ」
「カメは竜宮城に帰れ」
 万年が演説しているところに、いろんなヤジが飛び込む。しかし万年は堂々と演説を続けた。ところが突然話すことを止めて、目を閉じた。
「どうしたカメ、冬眠か」
「まだ夏だぞ」
「みなさん、突然ですが、もうすぐ地震が来ます、早くテーブルの下に避難してください」
 万年は自信を持って告げた。しかし誰もテーブルの下に隠れる者はいないばかりか、ヤジはさらに酷くなった。
「あんたはナマズか」
「政治家より地震研究所家になれ」
「地震など来ないではないか」
 万年をあざ笑う声が会議室で反響する。そして数分後、建物が大きく揺れ、しばらく続いた。全ての議員達は大慌てで、テーブルの下に頭を突っ込んだ。万年は三人の立候補者を甲羅の下に隠した。地震の揺れが収まると、万年は再び演説を始めた。
「議員のみなさん、大丈夫でしたか・・明日の午後、関東に大きな地震が来ます、この地震はその前触れです、今日の投票は延期して、災害に備えてください・・地震の予知をマスコミに発表しましょう」
 万年は春香と共に一早く平和党会館を出て、玄関先に集まっている報道陣に話し出した。
「マスコミのみなさん、明日の午後、関東に大きな地震が来ます、ニュースで市民に伝えてください」
「おいカメ、いい加減な事を言うな」
「ナマズでもないのに、どうして地震が来ることがわかるんだ」
「地震の予知なんかしたらパニックになるぞ」
 報道陣は好き勝手に叫び、万年を叱責する。しかし万年は堂々と報道陣のツッコミに答える。
「ナマズもカメも地表の電磁波を感じることが出来ます、吾輩の地震予知を信じてください」
「もし地震が来なかったら、どう責任を取るんだ」
 万年はしばし考えて答えた。
「亀井春香議員が責任を取って辞任します」
「亀井春香議員、それは本当ですか」
 万年の隣りにいた春香は、しばらく思案して大きくうなづいた。
「はい、わたしが責任を取ります・・どうか亀井万年の言うことを信じて、市民に注意を呼びかけてください」
「よしわかった、そこまで言うのなら、地震予知をニュースで報道しよう」
 報道陣の人々は次々とタクシーに乗り込み、テレビ局や新聞社に帰って行った。
「春香さん・・」
「わたし達も避難するのね」
「いいえ、政治家が逃げ出してどうするんだ、春香さんは仲間を集めてコンビニで食べ物や水等を購入してください」
「了解・・」
 万年と春香と秘書達は、夕方から東京都内の事務所に終結した。テレビでは繰り返し、地震予知のニュースが放送されている。
「万年さん、本当に大地震が来るの」
「本当だ」
 夜になると、大きな騒動が起こる。遠くに逃げ出そうとする人々で、電車も道路もマヒしている。そういう状態で朝を迎え、昼になろうとしていた。そして正午を過ぎた頃、地震が発生した。大きな揺れが三十秒余り続いたが、大した被害はなく地震は収まった。
「春香さん、大事に至らなくて良かったな」
「大事に至らなくて良かったなんて、大地震が来るなんてエセ情報を流して東京周辺は大混乱よ」
「しかしマグネチュード七震度四なら、地震予知は当たったと思うけど」
 万年と春香は買い溜めした食料を食べながら、明日のリーダー選挙のこと相談した。
 翌日再び平和党会館の八番会議室に亀井派議員達が集まった。進行係の野田成子議員がみんなに呼びかける。
「立候補者の議員さん、演台に上がってください・・それではみなさん、投票を始めましょう」
 小沢英一議員、麻生信一議員、鳩山幸一議員、それと亀井万年が演台に上がった。そうして投票が始まり、小沢英一議員が過半数の得票を獲得し、亀井派グループのリーダーに決定した。亀井万年の得票は三票だけだった。
「みなさん、新リーダーは小沢英一議員に決まりました、拍手喝采をお願いします」
「ご苦労さん、野田成子議員・・みなさん、私達三人はリーダーを辞退することを、昨日三人で話し合って決めました、カメがいるグループなんて真っ平御免だ・・それで私達は新しいグループ小沢派を結成します、みなさん、私達に付いて来てくれるかな?」
「いいとも!」
「いいとも!」
「OK牧場!クマ牧場!」
「万歳!」
 小沢英一議員達は第一会議室から出て行った。会議室に残ったのは、亀井春香議員、彼女の親友の野田成子議員、その彼氏の福島正男議員の三人だけだった。野田成子議員は亀井万年に説明する。
「他の立候補者は辞退したので、おめでとう、亀井万年さんが亀井派の新しいリーダーよ」
「みなさん、ありがとう、吾輩は必ず総理大臣になります、そのためには亀井静男議員の穴を埋める補欠選挙に立候補します」
「万年さん、カメは議員になれないのよ」
「吾輩は法律を調べたが、人間以外が立候補してはいけないという規定はない、だから立候補も出来るし、議員にもなれるんだ」
「カメが議員になるなんて聞いたことはないわ、民主主義の冒涜だわ」
 万年のことを快く思わない野田成子は言い放った。しかし春香は英断した。
「わかったわ、万年さんを国会に送り出しましょう、早速選挙の準備よ」
 四人は平和党会館を出て行った。すると昨日と同じように玄関先にはマスコミの報道陣が待機していた。
「亀井春香議員、大地震は起きませんでしたね」
「大地震が起きなかったら辞任すると公言しましたね」
「辞任はいつですか」
 報道陣が春香に詰め寄ると、万年は彼女の前に立った。
「報道陣のみなさん、大地震は起きました、マグネチュード七震度四、これは大地震ですよ、被害が無かったのは幸いな事です」
「おいカメ、何を言っているんだ、大ウソだろ」
「大地震というのは、大きな被害が出るということだ」
 一人の報道者が万年に怒鳴ると、報道陣の後ろにいた一人の男が前に出て来た。
「報道陣のみなさん、私の話を聞いてください・・私は南村山市の市長青島と言います、南村山市ではコンクリート塀が倒壊した学校が三校ありました、しかし怪我人は一人のいませんでした、それは教室の中で待機していたからです、亀井万年の地震予知のお陰で被害を免れた所は、他にもあるでしょう、彼等を非難するのは間違いです、たとえそれが小さな危機でも、それに備えることこそが政治家の使命ではないでしょうか」
 青島市長の話はニュースで流され、地震予知のお陰で被害を免れたという人が次々と現れた。ニュースのコメンテーターから亀井万年と亀井春香議員は賞賛された。そうして多くの支持者が集まり、亀井万年は衆院選の統一補欠選挙に立候補した。対立候補には、小沢派グループの新人安倍恵一が立候補した。
 選挙戦は、安倍恵一候補が精力的に選挙区を回るのに対し、亀井万年候補は、駅前の広場でのみ選挙演説した。
「万年さん、選挙区は回らないの、それでは勝てないわ」
「大丈夫だ」
 その言葉通り、万年の選挙演説は、ユーチューブで拡散し、日本全国の人々に伝わった。そして選挙は亀井万年候補が大差で当選した。亀井万年の選挙事務所に報道陣が押し寄せた。代表で女性アナウンサーがインタビューすることになった。
「亀井万年候補、当選おめでとうございます」
「ありがとうございます、いつもニュース番組観ていますよ」
「恐れ入ります、人間以外が政治家になるというのは、歴史始まって以来の快挙ですね」
「そうですね、今はネコちゃんやワンちゃんも家族と言われる時代で、ネコやイヌも政治家になる日も近いでしょう、それに先立って、まずカメの吾輩が政治家になりました」
「これからこの国をどのようにしてゆこうとお考えですか」
「演説で語っているように、危機管理が出来る政府を作ります、十年後から二十年後に掛けて大きな隕石が日本近くに落下します、そのための対策を行いたいと考えています、吾輩はそのために議員になりました」
「亀井万年衆議院議員、どうもありがとうございました・・亀井万年選挙事務所からのライブ中継でした」
 その夜、亀井万年事務所では朝まで祝賀会で賑わっていた。朝方、一人の中年男がピストルを握ってやって来た。
「おいカメ、お前を議員にするわけにはいかない、天誅だ」
 中年男はそう叫ぶと、万年にの胸元に銃弾を三発放った。銃弾は三発とも命中したが、万年の甲羅を打ち抜くことが出来なかった。
「そこの男、無駄なことは止めろ、ピストルを寄こせ」
 中年男は万年の隣りにいた春香を腕を掴んで後ろに回ると、彼女にピストルを突き付けた。
「バカなことをするな」
「うるさい、この女を助けたかったら、カメは死ね」
「わかった、言うことを聞く、だから春香さんは解放しろ・・吾輩の首の付根を撃て、それで死ぬ」
「よし、首を出せ」
 万年が中年男に一歩二歩近付くと、万年はうつむいて首を差し出した。その時春香は叫んだ。
「万年、あなたは死んではダメ、この国を守るのよ」
 しかし中年男は万年の首にピストルを突き付け、三発発射した。血しぶきが上がった。万年はそのままうつ伏せに倒れ、動かなくなった。中年男はガッツポーズをして、ピストルを床に置き、駆け付けた警官隊に逮捕された。泣き叫ぶ春香の姿が、報道陣のカメラに撮影された。やがて到着した救急車に万年は運び込まれ、春香が同乗して病院に向かった。
「春香さん、吾輩は大丈夫だ、面の皮も厚いけど首の皮も厚いから」
「こんなに血が出て」
「カメは一万年生きるぐらい生命力が強い」
 救急隊員は言う。
「私達も万年議員に投票しました、必ず助けますよ」
「ありがとう、運ばれる病院も吾輩の支持者だといいが・・」
 そう言いながら万年は眠り込んだ。目覚めた時は、手術も終り、一週間後の病室のベッドだった。横には春香と鶴田が付き添っていた。
「万年議員、お目覚めですか」
「ああ、冬眠から覚めたぞ」
 万年は起き上がると、退院して亀井邸に戻った。
「吾輩を襲った男はどうなった」
「あれは小沢派グループの差し金だったらしいです」
「小沢派グループに付いた議員達もまた亀井派グループに戻った来たわ、でもまだ三十名余り、総裁選は勝てないわね」
「百人集めるには、どうすればいいんだろう」
 三人はあれこれ知恵を絞り、万年は名案を考え付いた。
「そうだ、カメと言えば竜宮城、竜宮城に連れて行くことにすれば、きっと集まるはずだ」
「竜宮城なんてあるの」
「静男議員もよく行っていたよ・・吾輩に任してくれ」
「では、お任せするわ」
 万年は平和党議員全員に案内状を送付した。
《10月10日、竜宮城で勉強会を開きます。竜宮城に行きたい議員は出席してください。竜宮城行きクルーザーはお台場から10時に出発します。》
 10月10日10時、お台場には百名を超える議員とその秘書達が終結した。そしてクルーザーに乗り込み、出発した。クルーザーは十時間航行し、東京湾にある無人島に着いた。
「みなさん、吾輩のあとに付いて来てください」
 みんなはクルーザーから降りて、万年の案内で海岸を歩いた。そして美しい砂浜とホテル竜宮城が目の前に現れた。
「みなさん、ここは亀井一族が所有するリゾートホテル竜宮城です、今夜はここで勉強会を開きます」
 万年はそう言って、ロビーに入って行った。外観は普通のホテルだが、内装は竜宮城そのものだった。竜宮城らしい衣装で着飾った美男美女達が、議員達を出迎えた。ホテル竜宮城での一泊二日の勉強会は、それはそれは楽しいものだった。
 そうして多くの議員達が亀井派グループに入会し、亀井万年が総裁に選ばれた。やがて彼は総理大臣となった。

カメ、総理大臣になる

カメ、総理大臣になる

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日 2019-04-15

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