なつぞら ダイバー 第3週 なつよ、これが青春だ

ようこそ、ムービーダイバーへ
ムービーダイバーは、お客様の希望する小説、映画、ドラマの作者、脚本家の傾向を分析し、AI化する事で、お客様の希望するストーリーの中に入り込む事ができる、
バーチャル体験型アトラクションです。

俺は、またムービーダイバーの店舗に入った。

「いらっしゃいませ。光良さん!」

女性店員は、元気よく声をかけてきた。
「違います!前も言ったと思うけど、よく似ていると言われますが、別人です!」

「そうですか・・・すみません。」

「いえ、謝るほどの事ではありません。気にしないでください。」
女性店員は釈然としていないようだが、仕事モードになった。

「お客様は、今日はどの物語へのダイブをご希望でしょう?」
「今週も、なつぞらできるでしょうか?」
「なつぞら、大好きなんですね。私も毎日見てます。」
「そうなんですよ!あれを見ないと、毎日が始まらなくて。。。」
「では今日は何処にどの様な立場で参加されますか?」

俺は勇気を振り絞って、想いを口にした。
「あ、あの、、、逆子の小牛にダイブできるでしょうか?」

!!!!
女性店員は驚いた表情をした。。。
「あぁ、あのシーンですね。ちょっと難しいかな?あの手のシーンはNGが多いんですが、、、調べてみますね。」
女性店員は手早くタブレットを手に取り、俺の顔をチラチラ見ながらも、手早く調べた。

「お客様、残念ながらあのシーンは製作者がNG指定していました。申し訳ありません。」

ショックだった・・・
俺はショックを隠さずに落胆した表情を見せたので、女性店員は気を使ったのか、話し始めた。

「私の経験から申し上げても、あの手の人工呼吸につながるシーンも、俳優は意識を失っている演技で撮影しているので、同等もしくは過大な期待をするお客様が多いのです。
でも、ムービーダイバーは違います。脚本家の頭の中から考えられているシーンなので、リアルに意識を失う程苦しいです。そして、だいたい一番肝心なシーンは意識が戻る前に終わってしまうんです。
ほんとにガッカリしました。。。。」

「そうですか、夢のツールと思っていても、それほど便利ではないのですね。。。。」
「なつちゃん可愛いですよね・・・・」


はぁ・・・・

二人はため息をついた。。。

今日はこのまま帰ろうかな・・・あ、でも、泰樹さんが農協に批判的になってる理由が気になるな。。。。

「あの、、、泰樹さんが、どうして農協に否定的なのか知りたいんです。
でも、誰かに話したらドラマ内で出てくるだろうし・・・
そんなのは、ないのかな。。。」

・・・・・・・
女性店員は困った顔をしながら考えている。

「お客様、ムービーダイバーなら可能性はあります。テレビで放送されていないところでも、脚本家の頭の中で思い浮かぶ事をAIで推測して可視化することができます。ドラマ内のシーンと人物を決めてダイブすれば、聴ける可能性があります。」

「でも、そんなのわかるんですか?」
「これは、ムービーダイバースタッフの腕の見せ所なんです。まったく意味のないシーンにお客様を案内してしまったら大変です。
とってもプレッシャーの大きな仕事になりますが、誰もがあきらめているシーンにお客様を案内できたときの達成感は格別です。」

女性店員は少し考えこんだ。。。

「お客様の場合、、、、子牛の厩舎に泰樹さんが一人でいるときに、気持ちを吐露するかもしれません。子牛にダイブしてみましょう。」
「え!?子牛はNGなのでは?」
「いえ、なつぞらはわりと細かく設定してくれているので、出産直後と指をなめるシーンはNGですが、それ以外は許可されています。ダイブしますか?」
「人間以外ですか、、、」

ちょっと、怖いけどやってみたい。
俺はチャレンジすることを女性店員に告げた。

俺は先週と同じ様にダイブ用のカプセルに入った。
すると、すぐに虹色の光に包まれた。
次の瞬間、俺は空を飛んでいた。ダイブに入っているのだ。
眼下に、見覚えのある、しばた牧場があり、ゆっくり降下していった。
そして子牛と重なり入り込んでいった。

泰樹が首筋をなぜていてくれる。
気持ちいい。。。。

子牛のへやの掃除して、綺麗に寝わらを敷いてくれている。
さすが泰樹だ、人間目線で見ても、衛生的で快適な部屋だ。

すると、泰樹が目の前でしゃがみこんで、俺(子牛)の顔をじっと見つめた。

「なぁお前、お前は農協の事をどう思う?」

俺は答えようとしたが、声が出なかった。
泰樹は話し始めた。

なつが天陽の家のことを心配していることはわかる。
剛男の話を聞いて、うちが牛乳を高く売るために農協に反対していると思い込んでいる。

組合で酪農家が助け合うことにはなんの反対もない。
組合のいい面はわかっている。必要性も理解できる。

だが、酪農の話は別だ。
酪農は、夢のある仕事だ。
牛の乳を絞り、加工して、バターやチーズを作ることができる。
それらを原料に、アイスクリームやお菓子を作ることもできる。
まだまだ無限の可能性を秘めている。
酪農とは、そういう夢を追い求める仕事にならなくてはならない。
農協の指導に従えば、ただ牛を飼育して、乳を絞るだけの作業者になってしまう。
夢のない酪農の辛さは剛男も農協もわかっちゃいない。

それに、売り方も気に入らん。
わしは、いい牛乳を作るために人生をかけてやってき
暮らしやすい牛舎、快適な行き届いたせいそう、飼料の配合、適度な運動、毎日の声かけとスキンシップ、
虫除けの工夫、どれもに観察と工夫が必要な大切な事だ。
そんな苦労の結晶の牛乳を組合員全員の牛乳と混ぜて販売する!冗談じゃない!
そんな酪農家の夢も苦労も知らない机の上で金勘定ばかりしている奴らが、成り行きで牛乳の買取価格を決められるのは不愉快としか感じない。

言いたい事がたくさんありすぎて、うまくみんなに説明できん!
どうすれば、いいんだろう?

そんな事を子牛に聞かれても、困るけど。。。。
その時、走ってくる足音が聞こえた。
なつだ!

泰樹は何事もなかったように、子牛用のミルクバケツを手に取った。
「じいちゃん、あたしやるよ。」
なつがバケツをひきとり、ミルクに手を
つけた。

こ、これは!
もしや!

予想外の展開に、俺はなつに近づいて、指を咥えようとした瞬間、
視界が真っ赤に変わった。


「お客様!お客様!」
気がつくと、俺はカプセルの中に戻っていた。

女性店員が心配そうに覗き込んでいる。
「な、なんで?」
「AIが予想外の動作をして、NGシーンに入ろうとしたので、強制リジェクトされました。
すみません、私のミスです。
もうしわけありません。」

「いいですよ、子牛にダイブする最終決定をしたのは俺だし、予定通り牛にダイブできたし。問題ありません。
それに、この問題は、人に見せてもらうことではなく、もっと自分で考えるべき問題と感じました。だからこれで良かったです。」


そう言い残し、俺は店を後のした。
少しめまいがするが、これで良かったのだ。

俺は、自分の人差し指と中指を舐めてみた。。。。
それって未練?

なつぞら ダイバー 第3週 なつよ、これが青春だ

なつぞら ダイバー 第3週 なつよ、これが青春だ

この作品は、朝ドラ「なつぞら」のちょっときになる部分を、勝手に妄想して書いてます。 各回読み切りなので、どこから読んでも大丈夫。

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-04-12

Derivative work
二次創作物であり、原作に関わる一切の権利は原作権利者が所有します。

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