理不尽ー教師ー

明日、友達を1人殺そう。
そう提案されたのは、今日の放課後のホームルームの時間で。
他の皆はその時、いつもどおりいつものように、つまらなそうに先生の話を聞いていた。
早く終わらないかな。つまらないな。この後何しようかな。
そんな事を頭の中では漠然と考えながら、決して笑顔もなく、
味気のない愛着のない担任の話を聞いていた。
なのに。それなのに。
普段どおりの日々は、いつもの日々は、突如何の前触れもなく壊されて、
しかもそれが、自分が普段下に見ていた担任の教師からで、担任の教師から壊されて、
酷く、教室は喧騒に包まれた。
誰かが、「ふざけんな。」と、叫ぶと 誰かが「意味分かんねー」とうそぶいて、
誰かが 「先生。それ、マジの話ですか?」と冗談交じりに言うと、
何処かの女子が、  「妄想とか、やばいでしょ。」と、笑った。
だから、先生は怒って
見せしめに教室で飼っていた、先生が大事にしていた(恐らく愛でていた)であろう、
猫の花子を殺した。
目の前に座っていた男子生徒の一人は、目を見開いて停止した。
恐らく、先生はそんなことをする(できる)タイプじゃないと、判断していたから。
だけれど予測外の展開に、機微に対応できる人間は誰1人いなかった。
完全にその空気を掌握した先生は、笑って 「君らは ほとほと僕を困らせてくれた。
だから これはその腹いせだ。」としゃべって 猫の花子をその場にどさっと置いた。落とした。
皆の表情は戦慄により強張っていた。だけども、先生はまるで平静だった。
やばい。先生は、マジでやばい。やばいヤツだ。
と。誰もが思ったけれど、何故か教室のドアは何処も開かなかった。開く気配がなかった。
誰もが、報復を予想して、恐がって教室の扉を開けるのを躊躇った。
そうこうしているうちに、担任の右手には見たこともないような奇妙な形をした武器が握られていて、
同級生達皆、一斉に「わあっっ」と、叫び声を上げた。
先生は教卓を「どんっ!」と両掌で叩いて、
「これから先生が、話をします。聞いてください。」と、言った。
生徒は皆、先生の方を向いて静止した。
「人を殺すにはね、大義名分ってものが要るんです。いいえ、何事も行動するのにはね。
大義名分ってものが必要なんです。そしてね、逸脱しなきゃならない。
僕ね、先生ね。もう、希望が何もなくて。この先の道を切り開くためには、
どうしても、君たちを殺さなくちゃならないみたいだ。
話は変わるけどね。先生の両親はね、去年他界してしまって。しかも、同時にだよ?
仲良いねって、思ったよね。そして取り残されたなっとも思ったよね。
僕ね、貯金無くて。知ってる人は知ってるだろうけど、一時期荒れてたんだよね。
カウンセラーとかにも通ってて。だから金、ないんだよね。そしてね、
今朝ね。結婚しようかと思ってた彼女がね、殺されてたんだよね。  ん?
何で殺人かどうか判断できるんだ、って目だね。それはね、
僕ね監視カメラを取り付けてたんだよ、家中に。 それでね。
どうやら僕の生徒の数人が彼女を殺したんだと分かってね、理解したんだよね。
光明を得たんだよ。
僕ね、1か月位前からね、この学校の教頭先生と折り合いが合わなくて。
教頭先生は僕の両親と仲が良かったからね、いろいろと懇意にしてもらってたんだけれど、
もうそろそろ限界かなっ、て。
僕ね、何で中学生の教師になろうかと考えたかというとね、
僕のような駄目な人間を救いたかったからなんだ。
・・・っていうのがね、当初の思いだったんだけどね。
今気付いたんだよね、僕はただ単に、世の中に出るのが恐ろしかっただけなんだって。
僕は、皆が分かってるとおり、言葉を話すのに障害があってね。
嫌でも、声が上ずったり、震えたりするんだけれど、そのせいで、昔ずいぶん苛められてきてね。
障害児なんて言われてた時期もあったけどね、まあいいや。
とにかくね、僕の棲める世界なんてね、この世のほんの僅かな部分にしか、ないんだ。
けれどね、だいぶしがみついてきたけれどね。もう限界のようだ。
最後に、何故僕の彼女が君らの一部の人に殺されなければならなかったのか、
回答は出ていないけれど、予想しようか。
僕の彼女が、僕に不釣り合いなほど、美人だったからだろう?
そうそう。この武器ね、教頭からのプレゼントなんだ。「今日は、誕生日だろう?」って。
彼ね、武器コレクターなんだ。分かったかな。折り合いが合わない理由。
さ。それじゃ、話を切り上げよう。「明日、友達を1人殺そう。」
この言葉の意味は、分かったかな?もちろん、そのままの意味じゃないんだけれど。
つまり、明日の命を大切にしよう。今日の時間を大事に使おう、って意味だよ。
君たち、僕が殺すけどね。」
そう言って、担任の右手から閃光が放たれて、爆発した。



僕らは目を開いたままで、次の日はなかった。

理不尽ー教師ー

理不尽ー教師ー

あるショートムービーを見て、感化されました。その物語は、ある日東京に巨大な力が現れて、 東京を縦横無尽に焼き尽くすというものでした。世の中の無常さというか、神様の無常さというか、 そういうものを考えさせられた映像でした。 文章は背景が意味不明ですが、読んで頂けると幸いです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-14

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