幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 11話
思い出とマグカップ ~後編~
女の子が先。その中で結は一番だった。結の嬉しそうな顔は覚えている。
次は男の子。
次々と脱落していく中で俺のまりは調子よくリズムを刻んでいた。結の記録を抜かしたのだろう。みんながざわざわし始めた。そして俺は一番になった。
拍手喝采。春菜先生に頭を撫でられて、俺は有頂天になっいた。
表彰式が終わり、教室へ戻る廊下で、俺は前を歩く結に声をかけた。何て言ったのかは覚えていない。結が振り返った瞬間、俺の視界に星が散った。
何が起こったのか解らなかった。
ぽんぽんと転がるまり……。
ぽたぽたと廊下に落ちた鮮血……。
「聡ちゃん! 大丈夫!?」
春菜先生が慌ててハンカチで俺の鼻を押さえた。俺の目の前に屈んだ春菜先生の、Tシャツからのぞくおっぱいの谷間。
俺は鼻血を出していた。 (先生のおっぱいが原因ではない)
「あいつさ。まりつきをサボって練習してなかった俺に記録を抜かれたのがよっぽど悔しかったンだろうな……」
笑う俺に佐々木は「へぇ~」と丸くなっていた目を三日月にして言った。「まあ、顔にぶつける気はなかったんだろうけど、一ノ瀬には災難だったな」
佐々木は結を庇うようにそう話したが、俺はのちに結に訊ねたことがある。「あのときは間違えて顔にぶつかっただけなのか?」と。
結は、まりつき大会のことなどからっきし覚えていなかった。
結の頭にあったのは、次の年の「コマ回し大会」で俺に圧勝したことだった。あの頃、一緒にコマで遊ぼうと言っても結は俺の誘いに乗ってはこなかった。それどころかコマ回し大会の一週間前から俺と遊ばず家からも出てこなかった。
今思えば、きっと一人で猛特訓していたに違いない。
俺は真っ赤になってコマを回している幼稚園児の結を想像して失笑した。
「やっぱり羨ましいな。そんな風に喧嘩できるのってさ。喧嘩っていうか……。なんて言うかサ。そんな小さな頃から共通の思い出があるっていうのも。あの大人しそうな高梨にそんな面があるとは知らなかったけど。──高梨、来るんだろ? ここには、よく」
佐々木がマグカップを置いて俺に微笑む。寝クゼすらも味方につけた爽やかな笑顔で。
「このマグカップ、高梨の? 俺、使っちゃって良かったのかな」
俺は声を詰まらせた。
言えない。
佐々木には言えない。
俺の第二ボタンの末路など──
幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 11話