破落戸

マチミサキ

正直、ここ数年まったく
野球中継を見ていません。

なので

噂に聞くところでは

球場の名称さえも
変わってしまったようですが

その昔
機会に恵まれ

西武ドームのマウンドに立った事があります。

神に誓って本当の事です。

その盛り上がった場所は
思っていたより
ずっと固く
カッチカチでした。

・・・


ちなみに
同じグラウンドでも
緑のとこは
ふわふわ。

最後に心から感動したのは
いつだっただろうか。

どうです?

皆さん
心が震えるような
感動に出逢っていますか?

それは
どんな出来事でしたか?

聞いてみたい。

他の人間には
取るに足りないような事でも
自分にとっては
魂が鷲掴みにされるような。

夕方
立ち寄った公園で

まだ
小学生低学年くらいの男の子が
1人で延々とボールを
壁に向かい投げていました。

私も
野球というものを本格的に
やった事が無いので
詳しくは解りませんが

なんとなく
基本が出来ていないのでは?

と、いうことは
判りました。

と、その前に

私はスポーツはあまり好きではありませんが
スポーツの中で育まれた【技】には
とても興味を持つ事が
過去、何度かありました。

例えるなら

バレーボールのドライブサーブ、
ベースボールのピッチング、バッティング…
バスケットボールのフェイダウェイ

その他にも幾つか。

しかしながら
それらを本格的に使うような
競技にはほとんど出た事がありません。

体育の授業や
レクリエーションくらいです。

話を戻します。

少年は
仲間もなく
ただ延々と投げ込みを続けていました。

━━ちょっと
お姉ちゃんとキャッチボールしない?

『・・・』

こちらに転がってきた
小さな軟球を少年に投げ返し
そう言葉をかけ

黙り込む少年と軽くキャッチボール

少年の投げ返しを
イエスと断定し

何度かの軟球の往復

グローブを持っているのは
少年だけですが

大丈夫、
このくらいの球なら
素手で充分

そして

━━━壁の前で座ってみて?

キャッチャーの姿勢を取らせ

狙いは座る少年の1メートル左

私は軟球を右手から左手へ

モーションをサウスポーへスイッチ

胸を大きく反らし
独特の両手を空へ突き出す
ワインドアップ

捻り込む腰

更に奥へ
捻り込む両腕

限界まで引き絞り

爆発するかのように
一気に解き放つ

少年は
ビクっと一瞬反応はするが
グラブさえ動かせず

横を通り抜ける白い軌跡

『いまのなに?!』

初めて発した声

その顔は輝きと驚きに満ちて
それまでとは一変していました。


━━━【トルネード】っていうの。

破落戸

両手利きです。

昔、プロ野球など
楽しみに待っていた番組を潰す害悪でしかない…

そう
思っていた私に

突然現れた
野茂投手のピッチングは
当時、雷に撃たれる程の衝撃を
私に与えました。

本当に格好良かった。

当時
それから
裏庭に
マイマウンドを創るところから初め

毎日200球くらいは
投げ込んでいたと思います。

ただ、漠然と練習を重ねるのではなく

一球毎に
工夫を凝らして。

最初は左右20球づつ。

・・・


もっと無駄を省いて。


…右より
左の方が強く投げれる

ならば
左側に専念

もっと鋭く
もっと強く

どうせなら
セットもクイックも。

そうして
手に入れた左腕トルネード。

野球がしたい訳でも
仲間が欲しい訳でもない。

ただ
私は投げたかっただけ。

その繰り返しのみ


そして時は経ち


高校入学時
間もなく
ラケットを用いた
テニス部期待の新人を三振に取った
私の狂熱結晶

どんな下らなく見える事でも
情熱の上がり方次第では
本物になり得る

けして
その熱量は
周りが馬鹿にするような

成らず者

として
絶対に実らぬとは限らない。

少年に先ずは
この事を知って欲しかったのです。

破落戸

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-04-05

Copyrighted
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