すくらんぶる交差点(10)

 十 うどん屋にて

「桜庭さん、うまくいきますかね。ずるずる、かむかむ」
「ちょろいもんだよ。ずるずる、かむかむ」
「地元では、うどんはかまないんだろ?ずるずる、かむかむ」
「ええ、うどんマップにはそう書いています。ずるずる、かむかむ」
「じゃあ、どうするんだ。ずるずる、かむかむ」
 カメラマンの中北が聞く。
「飲み込むそうです。麺を喉越しで味わうそうです。ずるずる、かむかむ」
「喉で味わうのか。ビールと同じか。じゃあ、ここの人間は、喉に舌でもついているのかい。ずるずる、かむかむ」
「さあ。そうじゃなくて、舌が喉までのびるんだと思います。ずるずる、かむかむ」
「いやあ、喉に歯が生えているんだろう。ずるずる、かむかむ」
「何を馬鹿なことを言っているんだ。ずるずる、かむかむ」
「あーあ、うまかった」
「ごちそうさま」
「替え玉、ひとつ」
「ラーメン屋じゃないですよ」
「そうか。T市の住民は、毎日、こんなに安くてうまいもん食っているのか。何杯でも喰えそうだな」
「そうですよね。うどん二玉に、野菜の天ぷら一つで三百九十円。レジでお金を払う際に、思わずサンキュー、ってお礼を言いましたよ」
「うまいこと言うな。うまいついでに、今度は、うどん屋に突撃インタビューでもやるか」
「ちょっとやわらかいネタだな。デスクが何と言うかだな」
「いやあ、ここのうどんはコシがあって固いですよ。お土産に持って帰れば、デスクだって、うんと言いますよ」
「とにかく、この取材が成功してからだ。ごちそうさま。ごくごく、すっぽり」
 三人のクルーは、うどんのつゆまで一滴残らず飲み干すと、立ち上がり、トレイをセルフサービスのカウンターに運んだ。
「桜庭さん、旗があがっていますよ。成功です」
 先に店を出たライトマンの本村が慌てて戻って来た。桜庭と中北は顔を見合わせる。
「さあ、ひと仕事するか」
「もちろん」

すくらんぶる交差点(10)

すくらんぶる交差点(10)

交差点に取り残された人々が、取り残されたことを逆手に取って、独立運動を行う物語。十 うどん屋にて

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-13

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