心動

ドアを開けて外に出た瞬間、
私の中に入っていく、春の香り。

鼻から吸った空気は、気管を通り、肺に流れ、やがては全身を駆け巡る。

最後に頭の中へそれが注ぎ込まれると、これ以上ないくらい、幸福や充実感を感じることができる。

生きていることを実感できるのだ。

少しくらい強くたっていい、いくら髪の毛が乱れようが、変に思われようが。

私の体を、肌を、飲み込んで行く風は、少し乱暴だけれども、私に春の訪れと言葉にできない感情を与えてくれる。

好きな曲を、好きな順番で、適度な音量で、イヤホンしながら、早歩きで、目的地まで行くの。

あー、なんかこの感じいいな。

強いけれど嫌にはならない不思議な春の風、雲はあるけれど眩しいくらい澄み切った青空。

両耳に当てたイヤホンから流れる、夏の夕暮れを歌った男性アーティストのゆったりとした曲。

季節はちがうのに、テンポと歩く速さが合うからなのか、不思議と居心地がいい。

心が喜んでいる。
なんだか、いいかも。

ほんとうに、落ち着いて、癒されて、満足しているときは、それを説明する根拠も理屈も言葉もいらない。

ただ、今自分の気持ちはどんなだろうか、何を感じているのだろうか。

自分の心に目を向けて、心の声に耳を傾ければ、自ずと答えは見えてくる。

あの階段を上った先には、何が見えるのだろう。
どんな景色が広がっているのだろう。

青い空に白い雲、比例するかのように答える波。

少し強い潮風は、堤防の上に立つあたしに、容赦なく吹きつける。

それでもあたしは息をし続け、空を見上げ、波の声を聞いた。

空と、海と、そこに立つあたし。
この空間に、しばらくあたしは酔っていたい。
この余韻に浸っていたい。

これが私の出した答えだ。

心動

最近、好きな音楽を好きな場所やシチュエーションで聞くことにハマっています。風景と音楽が合うと心の中で、あっ、エモいなー。とひとりで呟いております。けっこう、ゆったりした曲か、単に自分が気に入ってる曲だからか、あ、今の風景にこの曲いいかも、と思うことが多いです。

心動

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-04-04

Copyrighted
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