冷たくないアイス。クラゲの傘。
「冷たくないアイスって美味しいよね」
クラゲの傘をさした君は「絶対にまずい」と言ってクラゲの傘をクルクルと回した。回した勢いで海水がピチャピチャとアスファルトを濡らした。
僕は「ほんとだよ。君が抹茶アイスが好きなくらいに本当なんだ。昨日も自動車を解体している工場の裏で買ったんだ。もちろん、あの駄菓子屋でね。少しオイル臭い店」と説明した。でも君はクラゲの皮をグイグイと引っ張って「嘘だね」と言った。
クラゲは引っ張られると透明の身体をピカピカと光らせて「きゅいきゅいきゅい」と鳴いた。僕にはお洒落なサランラップが悲鳴を上げているようにしかみえなかった。
「それじゃあ、君は何が美味いと思うんだい?」
「決まっているだろ? 冷たい氷砂糖さ。いいかい? 冷蔵庫に冷やした氷砂糖じゃないんだ。南極大陸で糖分が詰まった氷なんだ。普段、この氷砂糖はペンギンしか好んで食わないんだが、たまに人間も好んで食べる。でも甘すぎて口が溶けちゃうんだよ。そしたら口は閉まってしまうから、喋れなくなって、ごはんも食えなくなる。そしたら、困るだろ?」
「ああ、困るね」
僕は両手をあげて答えた。
「それで私はペンギンの長に聞いたんだ。どうすれば、口が溶けなくて、この氷砂糖を食えるのかってね?」
「うん」
「そしたら、世界で一番、苦い水飴を一緒に舐めろと言うんだ。バカだよね。そんなことしたら、氷砂糖の甘さなんて分からないだろ?」
君はそう言って笑う。
僕はその言葉に対して誠実な声で質問した。
「だから、君は口がなくなったの?」
「うん」
クラゲの傘がペタペタと揺れて、少し生臭かった。
冷たくないアイス。クラゲの傘。