グレイ家の兄弟 First Battle
怪事件発生
グレイ家のニート兄弟たちが「エレメンタルウエーブ」を浴びてから数日後、彼らは朝から自室でうだうだしていた。長男フレディ(28)は寝っ転がって空想にふけり、次男ブライアン(27)は手鏡を見ながらヘアスタイルを整えており、三男ロジャー(25)はスマホをいじっており、四男ジョン(23)は好きなアイドルの記事を見ている。
「ん?何だこれ」
スマホでネットニュースを見ていたロジャーが、「記事の詳細」と書かれた部分をタップした。その記事によると、前日、ソルシティからそれほど遠くないとある農場で作業中だった男性が何者かに殺され、そののど元には動物にかまれたような跡があり、胸と背中には激しく引っかかれた傷が幾つもあった。そのうえ現場には、藁の山が崩されたのか、大量の藁が地面に散らばっていたことも分かった。
「えっ…何か怖いしヤバいよ、この事件」
ロジャーのつぶやきが聞こえたのか、長兄が彼に話しかけた。
「えっ、何が」
「あ、フレディ兄さん。スマホの、この記事見てよ」
ロジャーがフレディにそのニュースの記事を見せた。
「ん?何々…うわあ、こんなヤバい事件が起こったのかよ。この町に結構近いじゃん」
フレディは、しばらく目を見開いたまま、動きが止まった。
それから少しして、ロジャーのスマホに「BREAKING NEWS」を知らせる音が流れた。
「あ、ブレーキングニュースだ」
彼がすぐにニュース画面を開くと、「木造の家 無残に破壊される」という見出しが書かれていた。これを見た長男と三男は絶句した。記事を詳しく読むと、ソルシティの隣町フォーレシティにある1軒の木造の家が跡形もなく破壊され、そこの住民二人の遺体が発見されたという話だった。そのうえ、犠牲になった住民たちの腕や背中には激しく引っかかれた傷が何本かあったということも書かれていた。
「何か、さっき見た農場の事件に似てる気がするな」
「それ、俺も同じこと思ってた」
フレディとロジャーは、視線を合わせた。
「あと、事件現場がだんだんこの街に近付いてきてる」
ジョンがさらりと言うと、ブライアンがため息をついて目線を下に落とした。
それから少しして、家のドアホンが鳴った。兄弟たちは互いの顔を見たが、長男のフレディが代表して応対に出ることに決めた。
「は~い、ただいま」
彼が1階に降りてドアを開けると、ドクター・フリックの助手で、グレイ四兄弟の幼なじみであるアメリ・ウェンが立っていた。
「あ、やあアメリ」
「ハイ、フレディ。突然来てごめんなのでス。弟くんたちも呼んでくれまス?」
「え、いや、いいけど何で?」
「話はあとでス」
フレディはアメリに言われたとおり、弟たちを連れて玄関に来た。
「で?話って何かな」
「あのね、ドクター・フリックに、『グレイ家のニート兄弟を連れてこい』って言われたのでス。だからみんな、ドクター・フリックの研究所に来てほしいのでス」
(もしかすると、何ちゃらウエーブの解除法ができたのかな)
目的地に向かう間、フレディはそんな淡い期待を抱いていた。
ガルー族の脅威
― ドクター・フリックの研究所にて ―
グレイ家の四兄弟は、ドクター・フリックと対面していた。
「ねえドクター・フリック、何ちゃらウエーブの効果を消せる方法を見つけたの?」
すると、ドクター・フリックが首を横に振った。
「いいや、違うだす。今日はニートたちに話すべきことが幾つかあるだす」
そう言うと、彼はおもむろに巨大スクリーンのスイッチをオンにした。
すると、人間のように二本足で立ち、大きな口を開けて目をぎらぎらさせている、いかにも「人狼」という表現がふさわしい怪物が何体か映った。それを見て、グレイ四兄弟は顔が固まった。
ドクター・フリックが説明を始めた。
「古代の戦闘部族・ガルー族がウッディヘンジ遺跡発掘によって、封印から解かれただす」
「!!!?そんな、映画みたいな話…」
フレディは、信じられないといった感じで言った。
「やつらは次の族長になるために、いかに多くの人間を殺せるかを競うゲームをする文化を持っているだす」
ドクター・フリックが説明すると、画面に映ったガルー族の後ろで血が飛び散るようなエフェクトがなされた。
「うわ、何かヤバいな、そいつら」
ロジャーが、嫌そうな顔で言った。
「そう、人類にとって脅威と言うべきやつらだす」
「そんな生まれながらのシリアルキラーみたいなやつらに、何で警察や軍は対応しないんだ」
ブライアンが尋ねた。
「ふ~む、やつらは人間と同じ程度の知能を持っているから、恐らく警察の目をかいくぐって殺人ゲームをしてるんだすな」
ドクター・フリックが自信なさげに答えると、四男のジョンが言った。
「まさかとは思うけど、昨日と今日にわたって起こってる怖い事件も、やつらのしわざなんですか」
「ほえ、そう考えるのが自然だすな」
四兄弟は、お互いの顔を見て眉間にしわを寄せた。
「そこでだす。チミたち四兄弟に、ガルーを倒してほしいだす」
「「「「へっ!!??」」」」
予想外の依頼に、兄弟全員が不満そうに叫んだ。
「普通に暮らしてる俺たちに、そんな危険な古代部族と戦えるほどの力なんか…」
フレディが辞退しようとすると、アメリが割って入るように言い出した。
「エレメンタルウエーブの力で戦うのでス」
「あ、その手があった!」
ロジャーが、納得したようにトンと手をたたいた。即座に、ドクター・フリックが言い出した。
「ほえほえ、チミたちはエレメンタルウエーブによって常人離れしたパワーを持ったのだす。それを使えば、ガルーとも互角に戦えるだす」
「なるほど。俺たちニートでも、人様の役に立ちそうだ」
ブライアンがうなずきながら言うと、小さく笑った。その左腕を巻くように、らせん状の水が現れた。
「自分より強そうなやつとガチるの、ワクワクするな~♪」
ロジャーが軽く拳を握ると、彼の拳が電気に覆われた。
「人間なめんな」
ジョンが静かに言うと、その右手から砂が現れて、床に落ちた。
「負ける気がしない」
フレディが自信たっぷりに言うと、その手のひらから卵サイズの炎を出現させた。
そのとき、外から複数の人の悲鳴が聞こえた。四兄弟は一斉に窓のほうを向いた。窓の外では、何人かが頭を抱えながら右方向へ走っている。
「何だ…?」
フレディが顔をしかめた。
「ほえほえ~、きっとガルー族が現れたんだす。兄弟たち、出動だす!!」
「っしゃ!!!!」
ドクター・フリックが出撃指令を出すと、グレイ四兄弟は、駆け足で研究所を出た。
「皆さ~ん、頑張るのでス~!」
アメリは大きく手を振ってニートたちを見送った。
ガルーとの初バトル
外では、大勢の人が逃げまどったり、頭を抱えてしゃがみ込んだりしている。ほかの人々は、突然の事態に状況がつかめず、立ち尽くしている。フレディはその一人に尋ねた。
「いったい何があった?」
「いやな、イベントホールの方面で何者かが暴れてるらしいんだ…」
「そうか。ありがとう」
フレディは近くに居たブライアンにそれを伝えると、ブライアンも弟たちに伝えた。
四兄弟がレンガ造りのソルシティ・イベントホールに到着すると、そこでは研究所の映像で見たガルーと思われる怪物が、雄たけびを上げていた。
「ロア~~!ホモ・サピエンスドモ、オマエラヲ一人残ラズ狩ッテヤル!!」
殺人予告をすると、ガルーは口を開けてすさまじい威力の破壊光線を発射した。幸いにもそれが直撃した人間は居なかったが、イベントホールの出入り口の真上に命中し爆発、その衝撃で出入り口のガラスが粉々になった。このテロにも似た光景に、人々はますますパニックに陥った。ブライアンとジョンは、現場に居る人々の避難誘導をした。
その間にも、ガルーは腕を振り回し、鋭い爪を使った斬撃波を飛ばした。それは一人の太った男子児童の目の前まで来た。
「うわあ!」
「危ないっ!」
間一髪、フレディが少年を地に伏せさせた。少年は、ゆっくりと目を開けてフレディの顔を見た。
「あぁ…、ありがとう、お兄さん」
「いや、お礼は要らないよ。それより、君もすぐに逃げろ」
フレディはちらっと笑みを見せたが、すぐに真剣な顔になって言った。
「はいっ!」
少年は、真っすぐに走って避難した。
やがてグレイ四兄弟は、ガルーの前に立ちふさがった。彼は、大笑いをして言った。
「ヒャ~ッハッハ。下等ナホモ・サピエンスメ、俺ノ邪魔ヲスルトハ命知ラズダナ」
「ケンカ仕掛けてんのはおまえだろ」
「ヒャッハ、ソノウエ言イ返シテキヤガッタ。ドウセ口ダケデ…グオッ!!?」
拳に炎をまとったフレディの一撃がガルーの頬に炸裂し、ガルーは地に倒れた。
「ウヘ、アチ、アチィッ!!」
ガルーは少しのたうち回ったが、すぐに立ち上がり、グレイ四兄弟に向かって鋭い爪の斬撃を飛ばした。彼らはそれをさっと避けたので、斬撃ははるか後ろの街灯に命中し、街灯が真っ二つに折れた。
それから間もなく、フレディが両手のひらをガルーに向けると、両手から火炎放射した。その火炎は、見事にガルーの胸部に命中した。
「ドワッチ~~!火ィ浴ビタ!ヤケドシタ!アチイ!」
ガルーがやかましくわめいていると、ブライアンが低めのトーンで言った。
「ほう、やけどしたのか。じゃあ冷やさないとな」
彼が両手の親指と人さし指で銃のような形を作ると、人さし指の先端にはゴルフボールぐらいの大きさの水が出現した。グレイ家の次男は二丁拳銃で撃つような仕草をして、水の弾丸を放った。2発ともガルーの胸部に当たった。
「ウハッ、グホッ!」
せき込むガルーに向かって、ブライアンは右手を高く上げた。
「おまえの負けは決まったな!」
彼が強気な声で言うと、彼の右手の少し上に水でできた歯車が出現し、高速回転を始めた。
「たあーーーっ!!!」
ブライアンはまるでフリスビーを飛ばすように、その歯車を投げるアクションをした。水の歯車は高速回転しながら、ガルーの胴体を貫いた。
「ドハアッ!コノホモ・サピエンス、強スギル…!!!」
ガルーはそう言い残すと、倒れ込んで爆発した。
研究所へ
衝撃が収まると、フレディは腕で汗をぬぐい、ブライアンは髪の毛を整え始め、ロジャーは両手を頭の後ろで組んで明るく笑い、ジョンは派手に伸びをした。フレディは、弟たちを自分のもとに集めた。
「みんな、おつかれ」
「おつかれぃ!!!」
兄弟たちはお互いにハグをした。
「うっし、研究所に戻るぞ!」
こうして、グレイ家の四兄弟は意気揚々とドクター・フリックの研究所に戻っていった。ドアが開く音に、助手のアメリが真っ先に反応した。ドアのほうを見ると、ニートの兄弟がそろって「凱旋」した。
「あっ、四兄弟でス!」
アメリは彼らを出迎えた。
「ほえほえ~、みんな無事だっただすか」
「ああ、全員無傷だぜ」
四兄弟は、余裕の笑みを見せた。
「よかったでス。ガルーを1体消したのでスね」
アメリが言うと、彼らはうれしそうにうなずいた。しかし、ドクター・フリックは少しまじめな顔をした。
「ほえほえ、ニートたち、戦いはこれで終わったわけじゃないだす。むしろ始まりだす」
フレディ、ブライアン、ロジャー、ジョンもまじめな表情を浮かべてうなずいた。
「それとフレディたちの呼び方でスが、これから『G4』と呼ぶことにするでス」
「G4か…。いいよな、みんな?」
長兄が弟たちの顔を見ると、3人ともうなずいた。
「ああ」
「うん、OK」
「もちろん」
ソルシティを、いや人類を脅かす凶悪なガルー族を倒すその日まで、頑張れG4!!
― TO BE CONTINUED ―
グレイ家の兄弟 First Battle