女の子をこっそり改造するのが好きなんです

菜月進(なつきすすむ)

 面白いものを見つけた、すごいことが書いてある。これが本当ならあんなドジが特待生なのも納得できる。わたしはあんまり嬉しくて、パパの部屋なのに声を出して踊ってしまいそうだった。ドアから差し込む光を頼りに、ファイルの文字をメモ帳に写し取る。
「長月(ながつき)さん、お昼ご飯一緒に食べない?」
 翌日の学校、昼休み。わたしは友達に挨拶してから長月暦(こよみ)に声をかけた。
「え、わたしなんかと?」
 暦は中学校に上がるとき入学してきた特待生。勉強は出来るが空気の読めない、品性に欠ける女だと嫌われている、わたしも嫌いだ。先生から特別扱いされてるし、わたしより背が高いのも気に入らない。
「ダメなの?」
「いや、大丈夫だけど」
 返事こそするが本心では一緒に食べたくないらしい、態度は曖昧だし動きも鈍い。
「同級生なんだからそれくらいしたっていいでしょ、ほら立って」
 わたしは暦の腕を掴み、教室から外へ引っ張り出した。中学生は校門から出さえしなければ、どこで昼食を取っても良いことになっている。あまり綺麗な学校ではないので、外で食べたがる人間は少ない。外ではまだ小学生気分が抜けていない男子達が食べるスピードを競っていた、終えたらすぐ外で遊ぶつもりなんだろう。
「さあ座って」
 選んだのは間隔が開いていて校舎の窓から遠いベンチ、校庭からはよく見える場所だから人目を避けたようには見えないだろう。暦はわたしを警戒しているのか、おそるおそる座る。
「あの、六条さん。なんでわたしとご飯食べるんですか」
「そういう気分だから」
 暦の隣に腰をかける。今日の弁当はバゲットサンド、暦は市販のパンのようだ。わたしが黙って食べ始めると、彼女も続いて袋からパンを取り出しかじりついた。バゲットサンドを一つ食べ終えてから、わたしは暦に話を振る。
「ねえ長月さん、最近変わったことない?」
「え、なんで」
「質問に質問で返さないで。速く答えなさいよ、やましいことでもあるの?」
 少しうつむいて、暦は答え始める。
「変わったことなんてないと思うけど」
「そう? 体は何ともないの?」
「何ともないけど」
 心当たりがないらしい、すごいことだと思った。こうして見てるわたしでも、暦におかしいところなんて見当たらないんだから。
「そう。じゃあ、ちょっとわたしの話を聞いて欲しいんだけど」
「なに」
 わたしはパパの部屋で写したメモを取り出す。
「えーと……緊急処置一号、宛て、SS508、音声認証R9RE028869、特別挙動JIO778」
 メモした内容を読み上げる最中、暦に変化はなかった。不思議そうに見ているだけだったけど、最後まで読み上げるとびくっと体を震わせた。
「何を言ってるのか分からない、鳥は砂漠を渡るのか」
 勝手に動く口を不思議に思ったのか、目を見開いて下を見ようとしている。が、体は自由に動かせないらしい。わたしはメモの続きを読んだ。
「渡らない、鳥は砂漠にバラを置いて海へ帰る」
「コード確認、偽装を解除します。機密保持に留意してください」
 空気の抜けるような音がして、暦の肌に変化があった。色むらや日焼け跡が消え、白っぽい、全身がマネキンのように見えるわざとらしい肌色になった。信じてなかった訳ではないけれど、わたしは彼女の正体を確信した。対して暦は自分に起こっていることが何なのか理解できないらしく、目をきょろきょろ動かし、自分の腕をまじまじと見ている。体は自由に動くようになったようだ。
「え、え?」
 戸惑う彼女を眺めるのは面白かった。わたしが隣に居るのも忘れて袖をまくったり体を触ったり、ぼそぼそつぶやきながらちょこまかと動く。今、暦の頭の中では何が起こっているのだろう、想像するとわくわくした。
 暦の体は脳みそも含めて、ほとんどを機械に変えられている……昨日パパの部屋で見つけたのは、機械に改造して、本人には分からないように家に帰した人のリストだった。書いてある詳しいことは分からなかったけれど、暦の顔を見つけてわたしは必至にリストを読み解いた。こう聞かせれば暦に人間のフリをやめさせることができるという合言葉を見つけたときは胸が躍った。
 人間の部分は残ってるらしいけど、頭も含めてほとんど機械だという暦の反応には興味があった。わたしは彼女のつぶやきに耳を澄ませる。
「なに、病気……いや、毒?」
 自分の体が機械になっている、という発想にはならないらしい。察しが悪いのか、そういう風に作られてるのか。とりあえず、自分が実験のために中学生のフリをさせられていることは知らないらしい。
「覚えてないの、長月さん」
 名を呼ばれ、暦はわたしに意識を向ける。肌の色は単調だが、表情から疑念を持ったことは分かる。これ以上は言わず、わたしは暦の言葉を待つことにした。返事は思ったより速かった。
「覚えるって、何を」
「改造されたことよ」
「改造って何?」
「あんた、何も覚えてないの? 体を作り替えられたのに」
「つ、作り替えられたって、そんな。何に、変えるの?」
「機械仕掛けのお人形よ。もう、あなたの人間だった部分はほとんど残ってないの」
 暦は自分の襟を掴んで無理矢理広げた、胸をのぞき込みたいらしい。
「光ってる」
 立ち上がり、震えたまま固まっている暦の後ろに回り込む。胸の中央がうっすら光っているように見えた。
「なんだろう、触ってみようよ」
「いやぁ!」
 両腕で胸を隠し、背を向けてうずくまる。無理矢理ふりほどいても良かったけど、わたしは暦が無防備に晒している後頭部と首筋に気づいた。緑色の光で、ボタンを示すような記号が浮かび上がっているのが見える。
「ふぅん、これかぁ」
 わたしはポケットからカードを取り出した、ファイルのカバーに差してあったものだ。改造された人間は頭の後ろからこのカードを挿すことが出来ると書いてあったのを見て、勝手に持ってきた。使い方はよく分からなかったけど、こんなにあからさまなんだ。たぶん、使える。
 わたしは暦の、首筋の光る部分に親指を押し当てた。モーターが回るような音がして、髪の毛に隠れたところにカード用と思われ挿し口が開いていた。よく見ないと分からない場所に出るあたり、良く出来ている。頭を触るわたしを不審に思ったのか暦は顔を上げるが、もう遅い。
「ちょっ、何してるの」
「カードを挿すだけ、壊れる心配はないよ」
 戸惑う暦を置き去りにして、わたしはカードを彼女の頭に突き入れた。
「あっ、あ、おっ」
 リストに書いてあった。これを差し込めば機械の体に異常があったとき、無理矢理命令を聞かせることができるって。ただ、絶対服従とは違うらしくて、本人で修理が出来なくなった時のための緊急措置? が目的で、暦の体には命令できても、心や記憶は変えられないと書いてあった。
「さあ長月さん、胸のカバーを開けて」
 また空気の抜ける音が聞こえ、次に暦の胸が不自然に膨らんだ。服の中で機械が露出したはずだ。違和感に気づいて暦は自分から胸をのぞき込み、みるみる表情を曇らせる。泣かれると困るので、わたしは「音を立てるな」と命令して、暦を黙らせる。
 声こそ出ていないが、暦は大粒の涙を流しながら口を開け、胸を押さえ続けた。愉快だった。こいつの人生は既に破綻していたと言えるが、それを思い知って涙する顔を横で眺めていると、すっとした気分になれた。
「よかったね、長月さんはもう歳を取らなくて済むんだよ」
 わたしは暦の胸をのぞき込み、生身の人間にあるはずのない機械仕掛けの内臓を見た。ドキドキした。この子はわたしが何もしなければ、自分の正体に気づかず学校生活を終えられたはずだが、わたしが破壊した。このわたしが!
 ゆっくり楽しみたい気分だったけど、校庭に人影が目立つようになってきた。このままでは人目に付く、わたしは暦に人間になりすまし、正体を悟られぬようにしろ。学校が終わったら家へ訪ねてくるよう命令してカードを引っこ抜き、その場を離れた。バゲットサンドは余っているが、空腹を感じない。満たされたような気分だった。

◆◆◆

 玄関を開けると、悔しそうに震える暦の姿があった。顔はくしゃくしゃで、服には泥が付いている。来る途中で転んだのかもしれない。
「来たよ、約束通り」
 暦はもう涙声だ、愉快すぎてわたしは笑ってしまった。
「あっはは! 来てくれてありがとうね、良く出来たお人形さん」
 わたしは暦を家へ上げ、部屋に連れて行った。パパはまだ帰っていない、いつもならわたしが帰る時間にはいるんだけど……今回は都合がいい。
 例の命令を使って、わたしは暦に言うことを聞かせた。とりあえず泥に汚れた服を脱がせ、下着だけの姿にして動かないよう命令する。体のあちこちをいじると胸や背中がパカッと開いて、中の機械を見ることが出来た。ごつごつした難しそうな機械の塊、それが暦の中にぎっしり詰まっている、気分が良かった。
 べたべた触られるのが嫌なのか、暦はずっと泣いている。でも、声が出ないようにしてあるからうるさくはなかった。夢中になりすぎて、気がついたら一時間以上経っていた。おっきくて珍しい人形、わたし一人で好きに出来る、楽しい楽しい人形遊び。
「声が出せませんねぇ、機械仕掛けのお人形ちゃんは悔しくて涙が出ちゃうね」 
 暦はずっと泣いていたが、声は出さないし物音も立てない。当然だ、わたしがそうしろと命令したんだから。
「そうだ、お人形ちゃんのあそこがどうなってるか見せてもらおうっと」
 悲しそうな顔が叫ぶような、痛がるような顔に変わる。ああ楽しい、なんて楽しいんだろう!
「はい、ブラとパンツ外しましょうね~」
 パンツの下はつるつるだった。中学生にもなって毛も生えてないなんて……わたしより身長あるのにね。それとも、機械人形にはいらないから取っちゃったのかな。
「さあさあ、中はどうなってるのかな」
 わたしは暦の割れ目に指を入れた。人間のそれをよく再現してあった、暖かく湿っている。
「ん、これは何かなぁ」
 奥を探ろうと思ったら処女膜が邪魔をした、機械のくせに立派なもの付けてるじゃない。わたしが見上げて暦の顔を見ると、何をしようとしているか察したらしい暦が必死に口を動かしている。
「ごめんねぇ、わたし人形は壊して遊ぶのが好きなのよ!」
 裂ける感覚と同時に暦の甲高い叫びが部屋中に響く。気分は最高潮だ。
「もういやぁ!」
 次の瞬間、わたしの視界はメチャクチャになった。床に倒れて目を回している。何が起きたのか気づくのに少し時間が必要だった。わたしは暦に蹴り飛ばされたんだ。
 考えてみればおかしなことだった。喋るなと言ってあるはずなのに、暦は叫び声を上げた。何かを壊してしまったのかも知れない。それで、暦の動きを止める装置かプログラムが故障したんだ。
「あ、あ」
 目の前はおかしなままだが、怯える暦の顔は見える。ふん、わたしにこんなことをしてタダじゃ済まないことくらいは分かるらしい。
「六条さん……その目、なに?」
 目がどうかしたのだろうか、確かに目の前は変に見えるけど、血は流れてないし。どこか怪我したのかな。
 わたしは部屋の鏡のほうを見た。わたしが写っている、それは間違いない。しかし、これはなんだろう。これじゃまるで……。
「あなたも、ロボットなの?」
 暦の声で、わたしは初めて寒気を覚えた。わたしの右目は酷く潰れていた。そこからは何かの機械の部品が見える。カメラみたいなものも……右目の前に手をかざすと、視界の半分が隠れた。まさか、うそ。
「や、嘘でしょぉぉぉ!」

 わたしが叫んで立ちすくんでいると、部屋のドアが開いた。パパだった。
「小雪(こゆき)」
「ぱ、パパ。これ何なの、何なのぉ!」
「小雪には、それくらい自分で分かって欲しいなぁ。パパの娘なんだ、それくらい出来るだろう」
 パパはわたしに背を向け、暦に向き合って何か操作しているようだった。さっきの言葉はどういう意味? 自分で分かるって……まさか、わたしも暦と同じ体なの?
 パパは振り向いた、小雪は黙って立っている。何か言ってくれるのかと思ったけど、パパは無言だった。わたしも言葉が出てこなくて、黙ったままパパと向き合う。しばらくすると、外から声が聞こえた。
「六条、来たぞ」
「すまんな、平日に呼び出して」
「仕事だ、気にするな」
 入ってきたのはパパと同じくらいの歳の、初めて見る男の人。挨拶だけするとわたしを見もせずに暦を抱きかかえ、部屋から運び出してしまった。
「ねえ、パパ」
「なんだい」
 わたしはやっと言葉を紡ぐことが出来た。
「さっきの人は何」
「仕事仲間だよ」
「なんで暦を連れてっちゃったの?」
「ああも自覚してしまったら実験は続けられないからね、分解してデータを取り出すんだよ」
「取り出すって……その後は、どうなるの?」
「直して使うか捨てるかは後で決める」
 パパは普段と変わらないパパだった。だから怖くなった。パパは本当は、とても怖い人だから。
「わたしは、捨てないよね?」
「ふふ、小雪次第かな」
 優しい顔のままでパパが言う。やだ、やめて、怖いよ。
「な、なんで」
 わたしは涙が抑えられなかった。
「なんでわたしも改造したの?」
 パパはすぐには答えず、わたしのベッドに腰掛けた。手を組んで、ゆっくり伸びをしてからわたしを見た。
「パパはね、改造された女の人にしか魅力を感じないどうしようもない性癖を持っているんだ。小雪も感じただろう、あの長月暦とかいう同級生で遊んでるとき、代えがたい興奮を」
「だからって、わたしまで改造しなくたっていいじゃん!」
 不安だった。パパはとても怖いけど、わたしには優しくしてくれた。わたしだけは特別だと思ってた。なのに。
「タイミングの問題だった、小雪は生まれたときから改造しようと思ってたからね。実を言うと、小雪のお母さんも改造されてたんだよ。今ほど技術が進んでなかったから、小雪を産んだときに壊れちゃったけど」
「え、ママは事故で死んだって……」
「ああ、事故だ。壊れるなんて思わなかったし、直せないとも思わなかったから」
 さっきはわざと聞かなかった、聞くのが怖かった。でも、ママを改造したのが本当なら。
「ねえ、わたしを改造したのはパパなの?」
「正確には違うが、似たようなものかな。パパが頼んで、小雪を改造してもらったんだ。ほら、小学六年生の冬休みのときすごい熱で寝込んだだろう、あのときだよ」
 良く覚えていないけど、そんなことがあった気がする。
「あ、あんなに前に」
「あんなにって、半年しか経っていないよ」
 なんで、なんでなんでなんでなんで……。
「なんで!」
「言っただろう、パパはそっちのほうが好きだからさ」

◆◆◆

 パパに連れられて、わたしは大きな料理屋さんに来た。お店の人はわたしの包帯とパパの顔をみるなり、深くお辞儀する。
「伺っていますよ六条さん、どうぞ奥へ」
「今日はずいぶんとかしこまるじゃないか、いつもみたいに清昭(きよあき)でいいのに」
 お店のおじさんは顔を引きつらせてパパに手を振る。
「無茶言うなよ、連れが居るじゃないか。お前に慣れ慣れしくしてるなんてバレたら後が怖いって」
「回りは神経質になってるからな、でも気持ちはもらっておく。じゃ、後は頼んだ」
「あいよ」
 奥に通されるとエレベーターがあった。乗ってから、パパが優しい顔でわたしの頭をなでる。
「同級生なんだ、古い付き合いでね。ボクのほうが立場が上になっちゃったからって、ああして警戒してるのさ」
「あの人も改造されてるの?」
「まさか、改造はバレたら大変なんだ。やたら滅多にしたりしないよ」
「じゃあ暦は? なんであの子が改造されてたの」
「お前が盗み見たファイルに書いてあった通りだよ、人間に混ざっても気づかれないかを調べるための実験さ」
「わたしも、そうなの?」
 パパはまたわたしの頭をなでる。
「いいや、お前は特別さ。もっと大きくなるまで待つつもりだったが、かわいらしいまま取っておくのもいいと思ってね。ただ、ボクの仕事仲間が小雪から取れるデータを期待していたんだ。その人は友達でもあるからガッカリさせたくなくてね、あの長月暦を買って改造したんだ」
「わたしから取るデータって?」
「小学生から中学生くらいの子供を改造して、人の中に放り込んだらどうなるか、っていうデータさ」
 じゃあ、わたしのほうが先に改造されてたんだ……やだ、わたしのほうが人形みたいじゃない。なんで、自分は人間だなんて思い込んでたのかな。それとも、ちょっとは人間なのかな。
「わたしが特別って、何が特別なの?」
「お前には実験でなく、成長を期待したんだ。データ収集なんてもので容量を割きたくなかった。それは上手くいっているよ、新しい段階に進めるんだからね」
 エレベーターが止まった、外へ出るとコンクリートの壁に覆われた通路に出た。明かりが少ないせいで薄暗い。たぶん、地下だと思う。パパが黙って奥へ進むので、わたしは早足でついて行った。

 奥の部屋には、機械がいっぱい置いてあった。暦を連れていった男の人もいた、さっきはスーツだったけど今は白衣を着ている。
「速いな六条、親子なら積もる話くらいあるんじゃないのか」
「必要ない、こいつはボクと同類だ。無茶したって凹まないさ」
「半分は母親の血なんだぞ、手加減してやってもいいと思うがね」
 仲が良さそうだ、さっきパパが言ってた友達なのかもしれない。
「そんなことをするくらいなら、あんな改造は頼まないよ。えーと、何グラム残ってるんだっけ」
「百五十グラムだ、おおよそ八分の一だな。恐れ入るぜ、趣味のために娘の脳をごっそり削っちまうんだから」
 は、八分の一? うそ、暦だって脳が半分は残ってるって書いてあった……わたしのほうが、機械なの?
「趣味じゃないよ、小雪を思ったからこそさ。ずっと実験を見学してたけど、ボクには機械の体には生身の脳がノイズになってるように見えたからね。人間らしさより、心と体が噛み合う方が大切なんだ。頭と体がちぐはぐだったら、生きるのが苦しいじゃないか」
「オレには分からんな、肉体だの魂だのにこだわる割に、脳に頓着しないなんて」
「脳に魂が宿るかどうかは分からないんだ。もし、体の中身が部位に寄らず同じ価値なら……元の体を素材に使えば、魂は離れないことになる」
「アテが外れたらどうするつもりなんだ、娘は換えが聞かないぞ」
「ボクだって最初は、脳が機能しなくなるくらい減らすのはさすがに危ないと思ったよ。でも、君に頼むとき嫌な予感がしなかったから、この閃きは正しいはずなんだ。ボクの感は当たるから心配ないよ」
 わたしが戸惑っている間に話が終わったらしく、パパがわたしのほうを向いていた。
「さ、服を脱いで」
「ね、ねえパパ」
「なんだ」
「わたしって、どれくらい人間なの?」
「うーん、そうだなぁ」
 あごに手を当てて、パパは少し考えてから答えた。
「作りだけでいえば、人間っていうよりロボットだよ。脳なんて飾り程度で、仕組みは完全に機械だな」
 怖かった、逃げたかった。でも、今のわたしは右目から機械が剥き出しになってる。人に見られたらどうなっちゃうか……それに、捕まったらきっと、パパはわたしを壊しちゃう。だから、言うとおりにした。
 全裸になって、包帯も取ったところで、パパが白衣のおじさんを指さした。
「ベッドのほうへ行って、あのおじさんの言うとおりにするんだ。いいね、小雪」
 白衣のおじさんに近づくと、金属のベッドに乗せられた。ベッドに乗るとわたしの体は動かなくなっていた。おじさんは頭にマイクの付いたヘッドホンみたいなものを付けて話し始める。
「久しくメンテしてないからな、ついでにやっとくか?」
 パパと繋がってるんだろうか。ヘッドホンから返事があったようで、おじさんがプラスチックの眼鏡と手袋を付けてわたしに何かし始めた。ケーブルをつないでるように見える、わたしの体にそんなものを付ける場所があったんだ。
「ああ、そっちにモニターを送る」
 終わったのか、おじさんは近くのパソコンをいじり始めた。わたしは全身に電気を流されるような、でもくすぐったいような、それでいて、体を切り取られるような、不思議な感覚になった。いつの間にか、頭だけは動かせるようになっていた。顔を上げると、わたしの手足は……取り外されていた。
「なんだ、壊れたのは外装だけじゃないか」
 おじさんがわたしに近づいて、壊れている方の目を直接触った。痛くはなかった、でも怖かった。こんな風に簡単に直っちゃうなんて、おかしいよ。
「直したぞ……ああそうだな、今日のために準備してたんだったな」
 マイク越しに誰かと話してから、おじさんがパソコンをいじった。すると、わたしの胸がいきなり左右に開いた。見た覚えがある、暦の胸もこんな風だった。ひょっとして、わたしと暦は。
「おじさん。わたしと暦は、中身はおんなじなんですか?」
「いや、違う。お嬢さんに違いが分かるとは思えんがな」
 どういう意味だろう……でも、違うと聞いてちょっと安心した。だってパパは、わたしは特別だって言ったから。こんな風にされてるのに、わたしはまだパパを信じたかった。
「あっ」
 ドクン、と心臓が大きく動いた気がした。でもわたしの体に心臓なんて、あるの? そう思って見ていたら、わたしの胸の中に細いロボットの腕みたいなものが入って、動いているのが見えた。とても怖い予感がした。
「は、あ」
 怖い、苦しい。そんな状態がしばらく続いて、最後に大きく心臓が鳴ったと思ったら……ロボットの腕が何かを掴んで出てきた。なにか大きな、大切そうな部品。引き抜かれた瞬間、わたしの何かが消えたような気がした。何が消えたのかは分からない。
 おじさんは何も言わず黙って作業をしている。さっきの部品とは形の違う、でも同じくらいの大きさの部品を持ってきて、わたしの胸に入れた。
 しばらくしたら、古い電子レンジのような、ジリジリという電気の音が聞こえてきた。見ていたから分かった、さっき心臓の音だと思ってた音だ。新しい部品が本当の音を聞かせているんだ。本当のわたしは、血なんて流れてないし心臓もない。ただ、あると錯覚してただけの機械。部品を交換されて、それが分かった。
 おじさんがわたしの顔を見る、なんで、なんでそんなに見るの。
「お嬢ちゃん、意識はあるか」
「あり、ます……」
「何か変わった気はするか?」
 わたしはついさっき感じたことを説明した、おじさんは質問を変えた。
「思い出せないとか、怖さがなくなったってことはあるか?」
 記憶は、ある。怖さもある。そう答えると、おじさんはまたパソコンに向かってしまった。どういう意味なんだろう。
「すごいぞ六条、お前の読み通りだ」
 何が起きたか分からなかった。ただ、言われてみると、頭を上げて自分の機械の体を見ても、わたしはサイボーグだって自覚しても、あんまり嫌な気分にならなくなった気がする。なんでだろう。
(小雪……小雪……)
 あ、お、思い出す……メモリーの中にあるこれ、知らない。わたしとパパが、裸で抱き合ってる? 何度も抱き合って、ずっと続けてたのに、なんで忘れてたんだろう。あ、わたしの脳、止まってたって書いてある。じゃあ、このえっちな映像は……そっか、コンピューターが記録してたんだ。わたしが記憶だと思ってたのは、生身の脳が動いてるときのことだけだったんだ。知らない間に、わたしはママの代わりをしてたんだ。ママも改造されてたんだもんね、でも今はいないから、パパは寂しいよね。えっちなことしたいよね、わたしは特別だもん、パパの特別な相手、わたしだけが特別なサイボーグ。
「おいおい、娘の膣が壊れてるじゃないか。そういう風には作ったが、ホントにやってたとはな」
 おじさんはわたしをさらに分解し、消耗した部品を交換したりオイルを差したりしてくれた。股間も取り外されて、新しいものに交換した。気持ちよかった。それが終わって組み立てられて、わたしは一人で立ち上がれるようになった。おじさんは驚いているが、理由は分からない。
「小雪、気分はどうだ」
「あ、パパ」
 ちょっと怖い気分になったけど、さっきとは違った。わたしは何を怖がってるのか、自分で分かるようになった。わたしが怖がってたのは、パパに捨てられることじゃない、飽きられることだった。気がついてなかっただけで、わたしはパパのことが、パパはわたしのことが好きなんだ。
「なんかね、さっきより機械の体が嫌じゃなくなったんだ。変なのかな、わたし」
「変じゃないさ、むしろ誇っていい。並の被験者ならヒューマンエミュレートを切ったとたんにただのロボットのようになるが、小雪は意識があるじゃないか」
「ひゅーま……いしき?」
「人をとことん機械に改造しようとすると、一から作ったロボットと差がなくなるんだ。そうは言っても人間だった頃の記憶はあるから、改造されたことを認められずに自分の矛盾に押しつぶされて壊れてたり、自分から自我を捨てたりする事故が起きる。でも、小雪は平気な顔をしてるだろう?」
「平気だけど、でも、わたしが改造されたのは小学生のときだって。なんで今まで平気だったの」
「さっきまでは、小雪が自分を人間だと思い込むように、コンピューターに付き合って体の感覚をだます機械が入れてあったんだ。それを付けることが、唯一の解決法だと思われてた。でも、小雪なら機械の体をありのまま受け入れられると思った。もし出来れば、サイボーグは自分の意思で自分の機能を百パーセント引き出せることになる。お前はそれに成功したんだよ」
「そ、そうなんだ」
 確かに、今は自分の脳がコンピューターであったり、体が機械であることが分かる。でも、だから何ってことはない。わたしはパパの特別なら平気。あ、でも、やっぱり人間だった頃に好きだったことも、やりたいかな。
「ねえパパ、わたしはパパの特別になれたの?」
「前から特別だよ、今はもっと特別になったけどね」
 よかった、飽きられてない。安心したら、わたしは冷静になれた気がした。今なら思い出せる、わたしはこの部屋で改造された。あはは、ひょっとして、学校行かなくても良くなるのかな。少し嬉しくなってきた。
 ただ、パパとわたしを見つめる白衣のおじさんの表情が気になった。二人が仲直りしてるのに、なんでお化けを見たような顔で驚いているんだろう。

女の子をこっそり改造するのが好きなんです

女の子をこっそり改造するのが好きなんです

以前投稿した『女の子を機械化するのが好きなんです』と同じ世界観の作品です。 前作を読んでいないと不可解な部分があります。

  • 小説
  • 短編
  • SF
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
更新日
登録日
2019-04-01

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著作権法内での利用のみを許可します。

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