本能

別にいいじゃない。
そんなこと気にしなくて。

時間なんて関係ない。
1回しちゃえば楽になるんだから。
何をそんなに躊躇うの。

ダメよ。
惑わされないで。

流されたら終わり。
しちゃったらきっと後悔する。
もっと自分を大切にして。

右耳からは誘惑。
左耳からは忠告。

私はどうしたいんだろう。
興味、未知、冒険、常識、風潮、世間。
抵抗、制止、抑制、許容、同調、便乗。

体の中から、何かが湧き出る。
名前のない、正体不明の何かが。

私の体を満たす。
それは、心臓から、上半身を巡り。

肩から、腕、手首、指先と、徐々に、徐々に、
ゆっくりと、到達していく。

意識が朦朧としだした。
なんだか眠くなってきた。

天井から降り注ぐ光がやけに眩しい。
思わず、瞼を閉じる。

押さえつけられた、両手首。
私の顔など一切見ずに、生暖かいものは、
私の体の上を少しづつ、這い回る。

左に傾けた私の顔は、柔らかな布団に埋もれ、
ガシャガシャした音だけが、しんとした部屋に
響き渡る。

あぁ、抵抗できなかった。
ダメって言えなかった。

また、さよならの繰り返し。

本能

本能

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-03-31

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