人間無限増殖バグ。
今日もその星では無限に人間が大量生産させられている。ロボットによるロボットの生産、技術的特異点を超えたロボットは、むしろ初めプログラムされたように延々と人間の種を保護保全するために動き、働いていた。
地球より何億光年も離れた宇宙のかなた、いつかそこにたどり着いたものが名前をつけた、かつての地球人は観測できず、知る事もままならい星団アルファステルス、その近くのみ知らぬ銀河の中に、アルファアースの中に、人工人間創造機械があった。彼は決定的なバグを抱えていたが、今日も人間をつくり、あるいはバグを抱える個体を宇宙外へ投棄した。
「私はしんだのに、私は生き続けている」
その知らせをうけた“元首”さまは、遠い星でいきる自分のクローンの姿を夢想の中に思い描いて、時にそれを歌や音として、あるいはそれは文字や絵として、または人から人へ伝播する自慢話として、1000年にわたるその生涯の中で、982歳の頃に“巨大宇宙航行船11号ステファン”の中で自慢した。やがてそれがミームとしての地位を確立して、巨大なる、1億人の人口をもつ魚型の宇宙船の船頭から船尾まで知れ渡る事になる。しかしその時、ステファンにだけもう一つの事実が知らされた。その星に息づく宗教についてだ。そのときその“元首”たる、貴族エラ・エーゲンは自分の遺伝子と、自分が生き続ける未来についてあんじた。
それは、こんな話であった。
「かつて、等身大の人間一人分の大きさを、まさに人間をかたどった形で放たれた小さな遺伝子保全カプセルは、長い航行の果てに、15ある巨大宇宙航行船のどの監督、統治も及ばない惑星アルファアースを見つけ出した。もちろんこれは、貴族エラ・エーゲンによって計画され、企てられた事業のひとつではあったが、結局アルファアースは、星の開拓に万全といえるような、地球環境とたがわぬ土地を整備する事ができず、初めからそのように計画された人型の機械は、ただ黙々とエラ・エーゲンの細胞から彼女のクローンを作りつづけた。その環境は資源は多かったが、未知の病原菌にさらされ、火山活動や天変地異など、つねに人口の30パーセントは生命の危機におかされていた」
それは巨大宇宙航行船11号ステファンの総監が、ステファン総督府の義務によって、知らせにしたためた文字だった。一度目のしらせは982歳、この知らせは986歳、後のよから考えると、ステファンが死を決心した頃にあたるだろう。それは祖先が地球をすてたびだったころ、アフターアース歴1万年のころだった。
「~そのような生命の危機にありながら、ロボットは忠実に使命を果たそうと働いているが、彼にはただひとつの欠陥があった。この事業において、とても人々、観衆の好奇心をひきたてたのはそのロボットが人間の形をしていた事ではあるが、時折かれは、人間ではないものをつくりあげてしまった。」
最も親しいエラ・エーゲンの妹アナは、この話が世に出まわり、エラの生前の日記や書物が発見されるまで、秘密を守りつづけていたが、ついにはステファン総監と観衆の支持と期待によって、その生涯を自分の手で話すことにしよう、と1500歳の頃思い至り、インタビューでこんな話をつづった。
「エラによってつくられた機械と、エラを作り続ける機械、そしてその星に息づくエラだけの文明、彼らは独自の宗教をもっていた、それはこんなものだった、“私たちは皆が皆、同じ顔かたちをしている、そしてすがたや、みなり、ときに好みやしぐささえ同じであることがある、しかしたったひとつの、たったひとつの違いがあるとすれば、それはこういう事だ、”“私たちは、過去において、過去において違う経験をしている、皆微妙に違う過去をもつ、ただそれだけの中に私たちを見出したが、ただ延々と自分と同じ存在をみつづけ、あるいはその名前を覚えるのは大変だ、だから宗教をつくった、その宗教の名は、“投棄教”私たちの中で、時折機械のバグによって未完成のクローンが作り上げられる事があり、ひどいときは人間の形を保つことはできないのであったが、その存在によって、それによって我々は本物の個性というものを知る事ができた、だからそれらは、宇宙を漂う我々の神であり、投棄の神だ、我々にとって悲しくも最も喜ばしく素晴らしいことは、我々にとっての神が確かにそのようにして存在している事だ、我々は機会の命令である増殖を止める事も、投機を止める事もできないが、遠い母星や、宇宙航行船の訪れをまつより確かな事実、神を信じる事はできる”」
一度目の調査から、二度目の調査、総監府の調査によってわかったのは、彼らのその独自な宗教形態であって、それによって長寿の貴族エラは、自らの生涯を終える事を決意したのだった、悲劇だった。
人間無限増殖バグ。