無題

里ヶ島

「・・・す、すっげえええええ!!」

少年は目の前に立ちはだかる大きな建物に感動していた。

彼らが来ているここは伊豆諸島にある小さな島、里ヶ島。

彼らの中学校では毎年三年生が11月にクラス別で合宿が行われる。

それは修学旅行とは違い、決まった時間に自習をするという勉強合宿のようなものだ。

勉強は静かな場所がいいという校長の趣向により、大抵孤島か街の離れに行かされる。

今回彼らは一番人気のある里ヶ島に抽選であたったのである。

「こら篠田!早く整列しろ!!」

少年は篠田と呼ばれ、担任に注意されクラスメイトが並んでいるほうへ急いで並びに行く。

「全員集まったな。それじゃあ今から館に入ります。自室に荷物を置いて勉強道具を持って大広間に集合な。」

生徒たちはぞろぞろと動き出して館の中へ入っていく。

「俺らの部屋は・・・お!ここだ!」

先ほど注意を受けた普通の少年、篠田蓮(シノダレン)と不良のような見た目の磯野新(イソノアラタ)は同じ部屋である。

パッと見接点のなさそうな二人だが家が隣同士の幼馴染である。

「すげええ!!ベッドじゃん!俺、奥側のベッドなー!!」

蓮ははしゃぎながらベッドにダイブをする。

新はそれを呆れた表情で見ていた。

「お前な・・・少しは落ち着いたらどうだ?」

「これが落ち着けるかよ!修学旅行は5人部屋だったし、ボロかったし。絶対に修学旅行よりこっちのほうが豪華だろ。」

そう言いながら蓮は再びベッドにダイブをした。

新は、「はいはい」と言いながら荷物を下ろして勉強道具を取り出す。

その様子を蓮はまじまじと見ていた。

「な、なんだよ。」

「いやさ・・・新って髪も染めてるしピアスだって開いててけんかもする立派な不良なのに学校の行事だけは真面目にするよなって思って。」

「うるせぇな・・・お前もさっさと用意しろ。置いてくぞ。」

新にそう言われ蓮は慌ててベッドから下りる。

勉強合宿はその名のとおりに勉強をひたすらする合宿だ。

朝4時間、昼4時間、夜2時間という一日中ひたすらに勉強をするというハードはスケジュールとなっている。

しかし、勉強時間以外は何をしてもいいので生徒たちは半ば旅行気分で来ている。

「・・・嘘だろ・・・まだ・・・2時間しか経ってねぇの・・・?」

大広間で教室のような机配置でみんな黙々と勉強をしていたのだが流石に休憩なしはこたえる様で蓮はさっきから机のに頭を乗っけてだらんとしている。

「だらしないな蓮くんってば。そんなんだから赤点とるんだよ。」

隣の席の八神美麗(ヤガミミレイ)が苦笑いしながら蓮にこそっと喋りかけた。

美麗はその名前に劣らないほどの麗しい美女であり、学年でトップのかわいさを誇る生徒たちの憧れの的だ。

しかし彼女は幾万回の告白を受けているにも関わらず一度たりとも彼氏がいたという噂を聞いたとこがないのだ。

「八神はすげぇよな。今回の実力テストも1位なんだって?」

「うん、まぁね。」

照れくさそうに彼女は笑った。

蓮は才能の違いを見せつけられて頬を思いっきり膨らませる。

才色兼備であり完璧な人間が美麗なのである。

「こら篠田!何くつろいでんだ!」

担任の河合が蓮が机に伏せているのに気づき蓮の方へ向かってきた。

「だってぇー・・・。」

「全然プリント進んでないじゃないか。この2時間何してたんだ。」

「ずっと解いてましたって先生ぃー。なぁ八神?」

同意を求めるように蓮は美麗に話をふる。

美麗は困ったように河合と蓮の顔を見合わせて苦笑いをするしかなかった。

担任は大きなため息を吐いて蓮の頭に手をおいた。

「悪いが八神、篠田がサボらないように見張っててくれ。俺は今から食事当番と一緒に昼飯を作ってくるから。」

「はい。わかりました。」

河合はわしゃわしゃと篠田の頭をなでると食事当番の子を連れて大広間から出て行った。

「食事当番ってなんだっけ?」

「え?!このお屋敷の従業員さん今日はお休みだから私たちが自分でご飯を作らなきゃならないんでしょ?忘れちゃったの?」

「あ、そっかそっか。ど忘れど忘れ。」

これも毎年恒例のことらしく合宿では勉強だけではなく自炊までしなければならないのだ。

そのために勉強時間の際にローテーションで何人か抜けクラスメイト分のご飯を作る、それが食事当番である。






この孤島にきてからずっと勉強ばかりしていた生徒は初めての休憩を得た。

昼食を食べ終ってからたった1時間しか休憩時間はないはずだが生徒たちは至福の時と大いに喜んだ。

「あーらたッ!海行こうぜ!海!」

「海ぃー?一時間しか休憩時間ねぇんだぞ?」

「いいじゃんかぁー!別に泳ぐわけじゃねぇんだし!外の空気にも触れたいだろ?」

異常なまでのハイテンションな蓮に新は半ば呆れていた。

しかし蓮にズルズルとひこずられるまま浜辺へと連れて行かれることになってしまった。

「すっげ!!見渡す限り海じゃんか!」

浜辺にはほかの生徒は誰もいなかった。

それもそのはずだ。

なぜなら季節はもう秋を終わろうとしているのに浜辺なんか寒いに決まっているからだ。

現に新はガタガタと震えながら自らの腕を抱えていた。

「さみぃー・・・」

「そうか?変なのー。」

新からすれば蓮のほうがよっぽど変であるが口には出さなかった。

「・・・てかさ・・・。」

砂浜を駆け回る蓮に新は声をかける。

「俺とじゃなくて高岡呼んだほうがいいんじゃねぇの?」

新の言葉に瞬時に蓮は顔を赤く染める。

明らかにパニックを起こしているようでおぼつかない足で新たの隣に座り込む。

「あ・・・新くん?えっと・・・もしかしておもしろがってる?」

「何が?」

口角をあげていつもの無愛想な表情とは一転し、非常に楽しそうな表情をしていた。

その表情に蓮はゾッとする。

「いや・・・えっと・・・あの・・・・」

「・・・あ。噂をすれば来たぞ。」

新は自分たちが来た道の方を顎で差した。

見ればそこには確かにクラスメイトの高岡結衣と美麗がこちらに向かって歩いてきている。

「あー!蓮と新じゃんかぁー!おーい!!」

小さい体を懸命に使って自分たちがいることを示すように飛び跳ねている。

隣にいる美麗はそんな結衣を見て苦笑いしている。

「何してるの?男二人であっやしー。」

口元に手を当ててニヤニヤしながら蓮と新に結衣が迫った。

「別に俺はこいつに連れてこられただけだ。」

新は親指で蓮のほうを指差した。

指さされた本人は頭を掻きながら乾いた笑い方をした。

蓮の胸の鼓動が高鳴る。

しかしそれを懸命に隠すかのように馬鹿なこと言う。

「いやー、高岡最近太ったぁ?」

「は?!あ、あんたに関係ないじゃん!!」

頬を膨らましてそっぽを向く結衣。

蓮はしまったという顔をしたがもう気づくのは遅かった。

「・・・てかさ、天気悪くない?」

結衣が空を見上げてほかの三人も空を見る。

確かに結衣の言うとおり空には厚い雲がかかっていた。

「今にでも降りだしそうだな・・・。今朝までは晴れてたのに。」

「確か天気予報では台風が近づいてるって言ってたっけ。」

美麗の言葉に蓮は驚く。

「え?!もしかしてもう外では遊べなくなるかもしれないってことか?!」

「うーん・・・どうだろ。朝のニュースでは今日の晩に台風が最も里ヶ島に近づくらしいけど・・・。」

蓮は肩をがっくしと落とす。

「まぁいいんじゃねぇの?だって勉強合宿だしな。ほら蓮も勉強に集中できるぜ?」

新は笑いをこらえながら蓮の肩を叩いた。

4人の体には少し強めの潮風が吹き付ける。

名簿


担任 河合先生

1磯野新(イソノアラタ)2伊東奈那(イトウナナ)

3大田梨乃(オオタリノ) 4小野田拓(オノダタク)

5久原大(クハラダイ) 6栗原潤(クリハラジュン)

7黒瀬美希(クロセミキ) 7桑野千尋(クワノチヒロ)

8小坂優美(コザカユウミ) 9木立菜々美(コダチナナミ)

10鹿野良太(シカノリョウタ) 11篠田蓮(シノダレン)

12関真花(セキマハナ) 13大河夢(タイガユメ)

14高岡結衣(タカオカユイ) 15友重恭助(トモシゲキョウスケ)

16中岡沙耶(ナカオカサヤ) 17仁科由香(ニシナユカ)

18浜田梓(ハマダアズサ) 19箕川隆(ミカワリュウ)

20三嶋雅人(ミシママサト) 21水畑智(ミズバタトモ)

22皆波奈央(ミナバナオ) 23槿原貴之(ムクゲバラタカユキ)

24望戸愛澄(モウコアスミ) 25守屋楓(モリヤカエデ)

26矢加部康太(ヤカベコウタ) 27八神美麗(ヤガミミレイ)

28薮優斗(ヤブユウト) 29山口一樹(ヤマグチカズキ)

30山辺かりん(ヤマベカリン) 31渡部翔(ワタベカケル)

綴る



この時にはもうすべてが遅かった。

何もかもが遅かった。

ただの勉強合宿、楽しくクラスメイトと過ごしてみんなで家に帰れたはずだった。

これからも残り少ない中学校生活を送るはずだった。

そんな当たり前の希望もこの時には見えなくなっていた。

将来の期待も、淡い恋心も、キラキラと輝いていた全てのものが



――――――――――――崩れ去る。

第一


午後の勉強時間が始まっても生徒は全員集まらなかった。

「みんな忘れてんじゃねぇの?」

「河合先生も来てないし・・・何かあったのかな?」

蓮と美麗はいつまで経ってもやってこない人たちを心配していた。

そしてやがてクラス委員長の木立菜々美(コダチナナミ)が全員の前に出た。

「河合先生とその他の生徒たちを探しに行ってきます。先生たちが戻ってきたらそう伝えてください。」

「あ、はいはーい!俺も行くぜぇー!」

菜々美の言葉を聞いて手をあげたのが蓮だった。

心の内には勉強したくないという根端が見え見えだった。

菜々美はほかに誰もいないので仕方なく蓮を引き連れて大広間を出た。

「てか、探すってどこ探すんだ?」

「まずは先生の部屋に行こうと思います。ちゃっちゃと終わらせますからどっかいなくならないで下さいよ。」

へーへーいと軽い返事をして蓮は菜々美の後ろをついて歩いた。

河合の部屋は生徒の部屋とは離れたところにあり、一人部屋だ。

万が一のために生徒には先生の部屋の場所は教えてある。

淡々と伸びる廊下をひたすら歩き10分くらいして先生の部屋の前についた。

菜々美はコンコンと二回ノックをして扉を開ける。

「失礼します。先生いらっしゃいますか?」

部屋の中からは物音はしない。

この部屋は少し複雑な構造をしており入口からは中が見えなくなっている。

菜々美は一応と思い部屋の奥まで足を運ぶ。

「先生?いらっしゃ・・・・え?」

菜々美の異変に蓮は頭をかしげる。

丁度菜々美の背中で蓮からは中の様子を伺うことはできなかった。

「委員長どうしたんだ?」

蓮が菜々美の背中に触れた途端菜々美は床に座り込んだ。

血相は悪く、ガタガタと震えていた。

「委員長?!」

「あ・・・あ・・・・」

委員長の指差す方向は部屋の中。

蓮は反射的にその方向を見た。

―――――――ベッドに赤いものボトリ

鮮明な赤と、どす黒い赤の混じったひどく気持ちが悪いもの。

急に襲ってくる吐き気に蓮は口を覆う。

足が震え立っているのもやっとであり、背筋が凍ったかのように固い。

「なんで・・・手が・・・足が・・・。」

言葉に出すのがやっとである。

菜々美は涙を流しながらその場に嘔吐している。

ふいに鉄の匂いが鼻をくぐり抜ける。

クラクラと目眩がする。

このまま倒れてしまえればどれほど楽であろうか。

蓮と菜々美が見たもの。

それはご丁寧にもきちんとベッドの上に並べられた両手足。

両手足・・・のみ。

真っ白の布団は赤く彩られ、手足も元の色を隠され赤くなっている。

それは中学生にとってはあまりのも生々しく、あまりにも耐え難い光景。

「あ・・・あ・・・・うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

蓮は叫び声を上げながら部屋から飛び出た。

廊下に座り込んで今まで我慢していたものを吐き出す。

嘔吐と共に涙も溢れ出し意識も朦朧としてくる。

何が何だか蓮はさっぱり理解できない。

冷静に対応できるわけがない。

ただひとつだけ分かることがある。

―――――――――――あれは河合のものだ。

パニックになりながらも蓮はしっかりと確認していた。

指にはめられていた教師には似合わないいかついリング。

あんなのはめているのは河合しかいない。

「蓮?!」

不意に声が聞こえて反射的に声の方向へ顔を向ける。

目に映ったのはこちらに向かって走ってやってくる新と美麗、そして結衣の姿だった。

「どうしたんだ?!」

新が俺のそばまで駆け寄り背中をさする。

「あ・・・あ・・・・河合せん・・・・中で・・・」

言いたくても言葉が出ない。

涙と嘔吐で口が塞がれる。

仕方なく蓮は左手で部屋の中を指差した。

それを察したかのように結衣は険しい顔で部屋の中へ飛び込んだ。

その瞬間、蓮はやばいと思った。

「高岡中に・・・!!」

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

蓮の言葉にかぶさるかのように結衣の悲鳴が響いた。

そして部屋から飛び出て床に倒れこむ。

「ど、どうしたの結衣?」

「中に・・なかに・・・・」

新と美麗は顔を見合わせて頷きあう。

「なかに何かあるみたいね。」

「そうだな・・・。一体何があったんだ蓮。」

「・・・両手足だ・・・。河合先生の・・・両手足のみ・・・。」

蓮の言葉を聞いて二人は目を見開く。

新は蓮から手を離し立ち上がる。

「中には委員長もいるんだろ?俺がちょっと見てくる。」

そう言って新はゆっくりと部屋に入っていった。

部屋からは嫌な匂いが漂ってきてた。

嘔吐物の臭いや鉄の臭いに新は思わず顔を歪める。

そして新は例のものを目撃する。

「う・・・こりゃ・・・ひでぇ・・・。」

菜々美は気絶をしているようで床に倒れていた。

新は委員長を抱きかかえて部屋を出た。

多少の覚悟が出来てたから蓮たちのように取り乱しはしなかったものの、内心気持ちが悪くて堪らなかった。

「・・・磯野くん大丈夫だった?」

「俺は平気だけど委員長が気絶してた。」

「そんなに・・・ひどかったの?」

「できれば見ない方がいいかもな・・・。」

美麗は両手をギュッと握りしめて感情を堪えた。

「・・・戻ろう。みんなにも知らせなきゃ・・・。・・・篠田くんは立てる?」

「ああ、一人で歩けるから大丈夫だ。お前こそ高岡担げるのか?」

「結衣くらいなら平気。さぁ戻ろう。」

狂った孤島

大広間に戻るとクラスメイトは不思議そうな顔をして蓮たちを見た。

「何があったの?」

菜々美と幼馴染の桑野千尋(クワノチヒロ)が目を見開いて新に抱きかかえられた菜々美に近寄る。

ほかの人たちもざわつきはじめて何があったのかと蓮たちに問うが誰一人それに答えられず俯くだけだった。

「ほんと何があったの?菜々美は気絶してるし、みんな顔色変だよ?」

「・・・すごく言いにくい話なんだけど・・・。」

誰一人口を開こうとしなかった中、美麗が重い口を開いた。

「どうしたの?」

「・・・先生のベッドの上に・・・先生の両手足・・・のみが置かれていたの。」

美麗の言葉にクラスメイトは一回では理解ができなかった。

あまりにも現実味のない話に思考がついていかない。

「・・・どういうこと?」

千尋が聞き返す。

「だから・・・先生は殺されたの。」

誰もが認めたくなかった事実。

目を背けたくてその可能性だけは自身の中では否定していた。

しかし、美麗の口からその単語が出てはっきりと否定はできなくなってしまった。

「ウソ・・・でしょ?」

全員の瞳が絶望、失望、恐怖、悲観の色に染まりだした。

逆にまだその事実が受け入れられずに固まってしまっている生徒もいる。

「嘘じゃねけよ。俺がちゃんと確認したから。」

蓮のしっかりとした口調に女子生徒は泣き出し、男子生徒は力が抜けたように座り込む。

「・・・沙耶は?」

ふと仁科由香(シイナユカ)が女子生徒の名前をあげた。

それはさっきからいなくなっていた生徒の一部の名前だ。

その時新が一番に嫌な予感を的中させる。

「桑野、委員長を頼む。」

抱きかかえていた菜々美を千尋に押し付けて新は大広間を飛び出した。

「い、磯野くん一人じゃ危険よ!!」

咄嗟に美麗がそう叫ぶが新にそれは届かない。

「俺が行ってくる。」

美麗の言葉に反応した蓮が新のあとを追って大広間を飛び出した。

「私も行く!!」

続いて由香も飛び出していった。

由香の中にも嫌な予感はグルグルと渦巻いていた。

話を聞く限り河合は残酷な殺され方をされたそうだ。

由香と中岡沙耶(ナカオカサヤ)は小学校からの知り合いでそこまで仲が良いとは言えないが由香の小学校からこの中学にあがってきたのは由香と沙耶だけ。

もしもの可能性は否定したかった。

しかしそれを保証してくれるものは今は何もない。

心配で心配で堪らなかった。

男子の足の速さには追いつけず後から走っていった蓮の姿を見たのは沙耶の部屋の前だった。

「仁科?なんで・・・。」

「沙耶が心配だから・・・。」

蓮は驚いたような表情を見せたが帰れとは言わなかった。

「確か来てなかったのは中岡の部屋の人たちだったよな?」

「うん。・・・沙耶!!いるなら返事して!!」

由香は部屋の扉を激しく叩きながら声をかける。

当然のことながら部屋の鍵はしまっている。

大広間にいなかった生徒は沙耶の班の人たちだ。

中岡沙耶、大田梨乃(オオタリノ)、小坂優美(コザカユウミ)、関真花(セキマハナ)、浜田梓(ハマダアズサ)の5人だ。

初めは全員忘れているだけだと思っていた。

だけど今では状況が全く異なる。

「誰か鍵持ってないのか?!」

「鍵は部屋の人にしか渡されないし、合鍵もないって言ってた。」

蓮が舌打ちをする。

そして新が扉に手をかける。

「ぶち破ろう。蓮手伝え。」

由香は扉から離れて蓮と新は扉に体をぶつける。

「沙耶ッ!!」

扉が開いた瞬間、蓮たちよりも早く由香は部屋に飛び込んだ。

「おい待」

「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

新の声がかき消されるほどの大きな悲鳴が響いた。

蓮と新は目を見開き慌てて部屋の中に飛び込む。

「どうした・・・ッ!?」

思わず蓮は口を手で覆う。

床の上にはゴロゴロとしたバスケットボールくらいの塊が複数転がっていた。

さすがの新でさえも壁にもたれかかる。

さっきよりも幾分濃い鉄の匂いが鼻にこびりつく。

「なん・・・なんだよ・・・・。一体・・・どう・・・なってんだよ・・・。」

蓮の意識が遠のきかける。

瞳からは自然と涙があふれる。

あまりにも残酷すぎる。

あまりにも辛すぎる。

3人が呆然とその場に固まっていると遠くの方から足音が近づいてくるのがわかった。

三人の肩は大きく動いた。

思っていることは全員同じ。

「誰か・・・くる・・・。」

「わ・・・たし・・・死にたくな・・・」

由香は立ち上がろうとするが腰が抜けていて立つことが出来ない。

ほかの二人も固まって動くことはできなかった。

足音は2人分らしく、三人は死という単語が頭から離れなかった。

とうとう足音は部屋の前まで来た。

「みんな大丈夫ッ?!」

足音の正体は美麗と伊東奈那(イトウナナ)だった。

二人はその異常な光景を見るなり目の色を変えた。

「これは・・・」

奈那は顔を歪めて鼻をつまみ、美麗は目を見開き止まったままだ。

一方三人は犯人じゃなかった安堵からか肩の力が抜ける。

「なんだ・・・八神と伊東っちかよ・・・。」

「その呼び方やめてもらえる?・・・それにしても・・・ひどいわねこれは。」

蓮を睨みつけて奈那は再び床に目をやる。

「全員分・・・?」

麗美はすでに目を逸らしていて違う方向を見ていた。

「・・・ちゃんと人数分あるわ。・・・人数分の頭だけがね。」

両腕を組み奈那はため息を吐く。

奈那の目線にあり、蓮たちの力を抜けさせたもの。

「中岡沙耶、小坂優美に関真花の顔はここからでも伺える。浜田梓と大田莉乃の顔は見えないけど髪型的に間違いはなさそうね。」

目の前に人間の頭部だけが5つ転がっているというのに奈那は異様なまでに冷静だった。

そこまで死体に嫌悪感を抱いているようにも思えないし、心なしか楽しそうな表情をしている。

「血の色からして頭を切り離されてから1時間は経ってないでしょうね。頭だけしかないからまだちょっと詳しいことは分からないけど・・・」

奈那は転がっている5つの頭部のそばに座り込むとおもむろにその切り口を覗きだした。

「何してんだお前?!」

いきなりの行動に蓮が声をあげる。

「・・・こりゃ一発で切られてるわ。のこぎりでギーコギーコじゃなくて相当鋭利な刃物でスパっと・・・。犯人は日本刀でも持ってるのかしら?」

切り口から奈那は目をそらし、顔が床を向いている二つの頭部を突っついた。

「うん。ちゃんとあの二人ね。偽装死体ではない。」

顔が上を向き莉乃の目がギョロッと蓮のほうを向いた。

だらしがなく開いた口からは舌が垂れていて蓮の背筋に冷たいものが駆け巡った。

「もう・・・出よう。ここにいても何にもなんねぇ・・・。」

「えぇ。帰りたい人は帰って。私はもう少し現場検証してから戻るわ。」

奈那は立ち上がって部屋の中をウロウロとし出す。

蓮は勝手にしろと言いたげな顔で奈那を見て、床に手をつく。

「新大丈夫か?」

「・・あ、ああ。俺より仁科と八神のほうが・・・。」

「私は大丈夫よ。由香・・・立てる?」

美麗は無理に笑顔を作って由香に話しかける。

「・・・ごめん・・・気持ち悪い・・・。」

「うん・・・トイレに行こっか。」

美麗は由香に肩を貸して立ち上がろうとしたが自分の足にうまく力が入らずによろける。

「俺が代わるよ。ほら仁科乗れ。」

蓮が由香を背負い部屋からゆっくりと出て行く。

そのとき部屋をうろついていた奈那はベッドの下に何かがあるのに気づいた。

何かしらこれ・・・。

奈那はしゃがみこんでベッドのしたを覗き込んだ。

「あ。」

思わず声を出してしまった。

バスケットボールくらいの大きさのさっきの同じようなフォルム。

誰かの頭だ。

奈那はその頭が誰のものか検討はついたが確認のために顔を見ようと手を伸ばした瞬間、その腕を掴まれた。

「・・・奈那・・・もう戻ろう。単独行動はやっぱ危ないよ。」

美麗だった。

「・・・わかったわよ。」

奈那は少し不満げにそう言って立ち上がった。

確認はしたかったが今の時点で転がってる頭部なんてあの人のもの以外ない。

奈那の口角が上がる。

ワクワクしてきた。

私が求めていたのこういうスリル。

孤島の殺人なんて王道中の王道のミステリー・・・。

奈那の小さな笑い声と部屋を出る足音が重なった。

手段なし

大広間は重たい空気に包まれていた。

客間で起きていたことを隠さずに蓮が話したのだ。

半狂乱になる者がいても仕方がなかった。

「どうだ美麗?つながるか?」

「・・・ダメ。全然繋がらない。」

この島でたった一つだけある大広間にある電話は何度かけてみても一向に外につながる様子はなかった。

「無線をきっと切られたんだ・・・。ちくしょう・・・携帯も圏外で使えねぇし・・・どうなってんだよ!」

新は自分の携帯を乱暴に机の上に叩きつけて椅子に座った。

「あ!あれとかどうだ!?よくテレビとかでやってる火を焚いて煙で知らせるとか、砂浜にhelpって書くとか!」

渡部翔(ワタベカケル)が手を打って提案する。

「無理よ。」

全員の顔があがったと思ったらその瞬間奈那が打ち砕く。

「だってこの天気で何ができるっていうの?」

奈那がそう言った瞬間、空で稲光が光った。

急に豪雨が降り注ぎ、窓に雨が打ち付ける。

「じゃあ・・・迎えの船は?!」

「明後日まで連絡がつかない限り来ないでしょうね。・・・まぁ連絡できたとしてもこの天気じゃ船も出せないわよ。」

翔の提案を悉く奈々がぶった切る。

「こんなことってほんとにあるんだね・・・。」

結衣がそう呟いた。

「・・・6人も・・・いなくなっちゃったのにね・・・。」

震える結衣の手を美麗はギュッと握り締めた。

「じゃ・・・じゃあなんだってんだよ・・・。明後日船の迎えが来るまで・・・外部と連絡もとれずこの里ヶ島にいろってことなのか?!」

翔の半狂乱な叫び声にみんなハッとする。

「・・・なんだって・・・?じゃあ俺らは・・・この島から逃げることも助けを呼ぶこともできないっていうのかよ?!」

蓮もついつい大きな声が出る。

その場の空気がより一層凍りつく。

「待って・・・じゃあ・・・。交通手段を経たれてるのは私たちだけじゃないよね?」

震える声で結衣が言った。

「つまり・・・6人を殺した犯人もこの島にいるってことだよね?」

蓮の手は汗でベタベタになっていた。

あんな残酷な仕打ちをした犯人がまだ近くにいる。

そして自分たちと同じで天気が回復するまで島からは出られない。

「・・・嘘だろ・・・。」

「と、とりあえず鍵・・・鍵閉めろ!」

翔が扉付近にいた生徒に声をかけると生徒は慌てて鍵を閉める。

風はいぜん窓を打ち付け、雨は降り注ぐ。

缶詰

担任がいなくなりクラス委員長が倒れた今、クラスをまとめるのは副委員長栗原潤(クリハラジュン)となった。

とりあえず潤の指示で全員一旦席に座り、現状についての周知が行われた。

6人が惨殺死体で発見され、外部との連絡方法も0。

委員長は倒れ今はソファーで寝ている。

クラスメイトは32と担任1で計33名。

そのうちの6名が死に、今では27人しかいない。

しかも中学生の子供だけだ。

時刻は3時半。

外は薄暗く電気をつけなければ暗くて見えないくらいだ。

周知が終わると生徒は各々に動き出したが誰ひとりと部屋から出ていこうとするものはいなかった。

蓮は窓際に立ち外を見る。

草木は揺れ、豪雨が地面に降り注ぐ。ときどき鳴り響く雷に不覚にも体が反応する。

「そんな怖い顔してどうしたのよ篠田くんらしくない。」

そう言って蓮の隣に来たのは奈那だった。

「こんなときにもヘラヘラしてられるほど俺も鈍くねぇよ。」

奈那はクスクスと笑いながら窓の前に立つ。

そして表情をガラリと変え、真顔へと。

「・・・誰だと思う?犯人。」

「・・・は?」

奈那の言葉に頭をかしげる。

「さぁ?思いたくはねぇけど快楽殺人とかそういう類なんじゃねぇの?」

「・・・ふーん。普通はそう思っても仕方がないかー。」

クルッと向きを変えて蓮のほうへ体を向ける。

「じゃあ質問を変えるわ。・・・今、この島に私たち27人以外の人間、つまり未知の28人目が存在すると思う?」

「28人目・・・?」

「貴方の考えからいくとそうなるわよね?犯人は私たち以外なんでしょ?なら28人目がいるってことでいいのよね?」

「・・・皮肉か?」

「そんなんじゃないわよ。ただ、平和ボケしてるなぁーって思って。」

奈那は鼻で笑う。

その態度に蓮は苛立ちを感じていた。

「何が言いたいんだ。」

「・・・私はね、犯人は・・・」

奈那はまた向きを変えて大広間のほうを見渡して蓮にまた視線を戻す。

「この中にいると思ってるから。」

その瞬すぐ近くに雷が落ちた。

「・・・は、はぁ?何言ってんだ・・・おま・・・何を根拠に?!」

「簡単よ。私は未知の28人目なんていないと思うから。だって考えてみてよ?この狭い孤島で生徒誰の目にも触れずに隠れ続けるなんて可能だと思うの?」

「それは・・・ありえるんじゃねぇのか?」

「無理ね。だって外に隠れてたとしても生徒たちが外に鬼ごっこしにくるかもしれない。室内でも冒険にくるかもしれない。そんな中危険を背負ってまで島に隠れておこうって思う?」

奈那の言葉に何も言い返せれない。

そりゃ屋敷の外は十分広い。

開拓されてない森の中にくらいなら人が一人隠れていても見つからないかもしれない。

しかし台風がくるとわかってても外に身を晒し続けることはできるのだろうか。

「・・・篠田くんは聞いたことある?河合先生って武道に長けていたみたいよ。体育のあのごっつい藤川が一度柔道で対決したらしいけどあっさり負けたらしいわ。」

「伊東っちはそんな河合先生が簡単に犯人に殺されるわけがない・・・って言いたいのか?」

その呼び方やめてと言いながら蓮を睨みつける。

「それに女子生徒だからといって5人も同じ部屋にいれば一人くらい脱出できるでしょ?なのに何で全員綺麗に殺されちゃってると思う?」

「・・・犯人がすっごい強いとか?」

蓮の回答に奈那はため息を吐く。

「あのねぇー・・・私は犯人がこの中にいることを想定して言ってるの。ここに強そうな人なんている?いないでしょ?」

「・・・俺はこの中に犯人がいるなんて思ってないし・・・。」

「あんたの話も聞いてたら話が進まないわ。・・・だからね犯人候補としては【私たちに親しみがある人】or【複数人】ってことになるの。私たちに親しみがある人だったら別に部屋に入ってきてもなんの抵抗もないでしょ?そこでナイフで有無言わさずグサグサいけば何の問題もない。もう一つは複数の人数がいることね。」

まるで好きな芸能人の話でもしているような楽しそうな表情をして語る奈那に蓮は若干引いていた。

クラスメイトが5人も死んで担任も死んでしまって、そして自分たちも死の危険に晒されているのに何故この伊東奈那という生徒は全く恐怖を見せないのだろうか。

何故今の状況をここまでも楽しんでいるのだろうか。

「伊東っちって・・・変人だな。」

「好きな女の子にいつまでも告れずにうじうじしている変態に言われたくなかったわ。」

奈那の言葉にぎょっとする。

「な、な、なんのことを」

「見ればわかるわよ。ほんっと見てるこっちがじれったいわ・・・。」

まさか奈那に知られてるなんて思ってもなかった蓮はみるみるうちに赤くなる。

奈那はそんな蓮の態度を見て余計に呆れた。

「あー、もういいわ。変な話に付き合わせて悪かったわね。せいぜい可愛いお姫様が悪い人に連れて行かれないように守ってあげなさいよー。」

奈那はそう言いながら蓮の肩を叩いて自分の席の方へ戻っていった。

憎き相手

時計の針の音が重たい。

「ふぅー・・・」

思わずため息が出る。

もう4時間はこの大広間で篭もりきっている。

重たい空気でよどみ、楽しい合宿が台無しだ。

「・・・どこ行くんだ?」

潤の声が響いた。

「いや・・・ちょっと腹減ったから厨房でなんかもってこようかなぁーっと。」

ごつい体型のいかにも裏番長っぽい風格の箕川隆(ミカワリュウ)とスネ夫的存在の友重恭助(トモシゲキョウスケ)と槿原貴之(ムクゲバラタカユキ)、そして守屋楓(モリヤカエデ)が大広間から出ていこうとしていた。

「外にはまだ犯人がうろついてるかもしれないんだぞ?」

「大丈夫大丈夫。4人もいるし犯人も下手に手を出してこないだろ。まぁきたとしても俺が返り討ちにしてやるけどなー。」

豪快に笑いながら隆は恭助の背中を叩いた。

恭助は痛そうにしているが隆が一切お構いなし。

「ってことだから潤、俺らちょっくら行ってくるわ。一応封が空いてないやつ全部持ってくるからそれでいいだろ?じゃ、行ってくるから誰か鍵閉めよろしくなー。」

そう告げると隆たち4人はさっさと部屋から出ていってしまった。

廊下は思ってたよりもひんやりとしていてどこか雰囲気を感じさせる。

臆病な貴之はぶるっと震えた。

本当は貴之は外になんて出たくなかった。

しかし隆が行くと言いだしたら子分の貴之はついていかなくてはならない。

貴之は自分のそんな性格が大嫌いだった。

いつも誰かの影で笑っていることしか出来ない弱虫の自分がこの世で一番大嫌いだった。

そんなことも知りもしない隆は今にもスキップを踏みそうなテンションで廊下を進む。

「へっへ。俺、実はこういうシチュエーションに憧れてたんだ。おーい!犯人様出てこいよおおお!!俺様が相手になってやるぜー!ぎゃっはっは。」

大笑いを轟かせながら隆たちは厨房へたどり着く。

厨房はまるでレストランの厨房のようだった。

「うっひょー。これなら飯もありそうだな。さてと・・・。」

そういうと隆は冷蔵庫を開けた。

中には飲み物以外何一つ入ってなかった。

「なんでこんだけしか入ってないんだ?」

後ろから楓が覗き込む。

ここには二泊三日する予定であり冷蔵庫内の食料が飲み物しかないというのはあまりにも不自然であった。

隆は入ってた2Lのコーラを取り出して勢い良く冷蔵庫を閉めた。

「お前らはほかを探せ。・・・こんだけじゃ俺の腹なんて満たされねぇんだよ!!」

そう言うと隆はコーラを開け一気に飲みだした。

そんな横暴な隆にため息をつきながらも貴之は隆の命令に従った。

逆らったらどんなことをされるのか考えたくもない。

こうして言うことを聞いてるのが一番一番・・・。

そんなことを考えながら貴之は物色をはじめる。



見つかった食料は全て合わせてもとても二泊三日乗り切れるような量ではなかった。

「・・・なんだよこれ・・・。缶詰一個にカレールーだけ・・・。」

キッチン台に置かれた食べ物は全部でツナ缶とカレールーのみ。

調味料はあるものの食べれるものはこれだけしか見当たらなかった。

おかしいと思った。

明らかにすべてがおかしい。

それは隆以外の全員が思ってたことだ。

しかし隆は食べ物がなかったことに腹を立ててそれでころではない様子。

「ちっくしょぉう!!!なんでねぇんだよ!!俺らに飢え死にしろってことかよ!!」

キッチン台や壁を何度も殴ったり蹴ったりする。

その度に貴之たちの肩はビクッと震える。

隆と新では不良の種類が違う。

新は比較的大人しく自分からは攻撃はしないし群れたりしないし、なにより優しい。

なのに隆ときたら攻撃的で横暴で周りに誰かがいないとダメな最低な人間だ。

そんな最低なやつの後ろに隠れている自分たちも最低な人間だと貴之たちはつくづく感じている。

「あー・・・ほんっとイライラする!!ってか、あいつらピーピーうるせぇんだよなぁー。」

隆はどかっと椅子に座って頭をかく。

三人は黙って隆の話に耳を傾けるしかない。

「人が5、6人死んだくらいでぴゃーぴゃー騒ぎやがって・・・。どうせ殺したやつもくっだらねぇ弱いやつにちげぇねぇって。ナイフ持ってるくらいで怯えてちゃあ、そりゃ殺されるって話だぜ。そう思わねぇか?」

隆に同意を求められ三人は苦笑いしながらも頷く。

「だろぉー?犯人もさ、ナイフに頼りきってるに決まってるんだよ。冷静に対処すればナイフなんて怖いものじゃねぇって。ひゃっひゃっはっは!あーあ俺の前にも殺人鬼様出てこねぇかなー!俺が返り討ちにしてやんのによ!」

高らかに笑いながら隆はコーラを口に含んだ。

その瞬間、

「・・・!?」

4人にはペットボトルが爆発したかのように見えた。

コーラは隆の体を濡らし、床にまで流れ出してしまっている。

「うわ?!なんだよこれ!!爆発しやがった!」

隆は慌ててコーラの入ったペットボトルを離してその場を立つ。

しかしよく見てみるとそれは爆発したのではなくペットボトルに小指一本くらいの穴が開いていたようだった。

「あの穴なんだ?」

楓がそう言ってペットボトルに近づいた瞬間、貴之のすぐ後ろでパカンという乾いた音が聞こえた。

その刹那、楓はパタリと倒れてしまった。

「楓ッ?!」

恭助がそう叫んで楓に近寄ろうとしたらまた貴之の後ろから乾いた音が響いて恭助も倒れた。

一体自分の後ろで何がどうなっているのだろうか。

貴之は気になったが体が動かない。

恐怖で足がガタガタと震える。

目の前の光景も意味がわからない。

何故、

何故楓と恭助は赤い血しぶきを撒き散らして倒れているのだろうか。

さっきまで普通にいたじゃないか。

なんで・・・なんで・・・。

「だ・・・誰だてめぇ!!」

腰を抜かした隆が貴之のほうを指差した。

その瞳はいつもの隆の傲慢な瞳の色じゃなかった。

明らかに怯えていた。

そして貴之も怯えていた。

自分の後ろに人の気配を感じた。

―――――あぁ、俺はここで死ぬんだ。

そう確信した。

「・・・槿原貴之。お前に最後の至福を与えよう。」

後ろから声が聞こえた。

その声は声を変える機械を使っているのだろうかとてもおかしな声だった。

しかしそれが逆に新たな恐怖を生んだ。

下半身に力がうまく入らず立っているのもやっとのこと。

振り返るなんて到底無理な話だった。

「・・・な・・・なんですか・・・。」

やっとの思いで絞り出した声は情けなく震えて今にも泣き出しそうな声だった。

後ろにいる・・・人間なのだろうか。

人間といっても正解だとは思わないがここではあえて人間だと思っておこう。

後ろにいる人間は貴之の後ろから貴之の横へと移った。

そして貴之の手に何かを握らせた。――――ナイフだった。

「それで憎き人間を殺せ。」

人間は全身黒ずくめで黒いパーカーをかぶり顔には変なお面がしてあった。

貴之は自分の手を見る。

刃渡り10センチはある立派な凶器がそこにはあった。

黒ずくめの人間は一体何を思ってこれを貴之に渡したのだろうか。

こんなものを渡されたら自分が殺されるかもしれないのに。

「さぁ殺せ。いつもそばにいたあいつを今殺すんだ。」

「今まで散々嫌な思いをしてきたんだよな?」

「憎き人間が嫌いで、怖くて、だけど一緒にいないと不安で・・・ほら殺せよ。殺してしまえよ。」

黒ずくめの人間はするりと貴之の心に入ってくる。

――――俺が・・・隆を殺す?

自分の中でいろんな思いが駆け巡る。

そりゃあいつは嫌なやつだけど殺したい程憎いわけでも、悪い奴でもない。

でもいつまでも隆がいたんでは俺は一生このままであり続けるという恐怖も感じている。

ならばここでその命を絶ったほうがいいのだろうか?

貴之の脳はすでに正気を失っていた。

「お、おい貴之・・・?何してるんだよ・・・!」

震えた声で情けなく隆が貴之に声をかける。

いつも横暴な隆が自分にあんな目をしている。

貴之の心に醜い感情が現れた。

―――――良い気味だ。

いつもはあそこは俺の立場だった。

それが今では俺があいつの恐怖の対象となっている。

貴之はにやっとする。

「・・・何してるだって・・・?これはいつも隆がしてたことじゃないか。」

貴之はナイフをギュッと握り締める。

「俺がしてる・・・・?なに言ってんだよ!」

「とぼけるなよ!俺はいつも隆に怯えて自分を出せずにいたんだ!!いつもいつもお前の機嫌ばっかり伺って・・・。」

一歩一歩と距離を縮める。

凶器を持ち狂気に駆られた貴之の瞳には異様な光が満ちていた。

それに隆は恐れを感じた。

初めて怯えることを知った。

――――――――怖くない・・・。怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くない怖くないッ!!

隆は心で何度もそう繰り返した。

怖くない。

何も怖いことなんてない。

所詮はナイフだ。

急所さえ避ければ勝機は巡ってくる。

相手を見るんだ。よく見るんだ。

あと3歩・・・2歩・・・1歩・・・・!

隆の目がカッと開いてギリギリのところでかわした。

お互いの息遣いが荒い。

二人共相手の動きを見ている。

そんな中黒ずくめの男は言った。

「槿原貴之。お前の憎い相手は誰だ?」

「俺の・・・俺の憎い相手は・・・お前だ!!!」

そう言って貴之はナイフを振り上げた。

隆は避けようと足に力を入れるがなぜだか入らない。

むしろ体の力はどんどん抜け、心なしか体中がしびれてきたような感覚がした。

目の前にはすでにナイフが迫っていた。

―――――――――俺は―――死ぬのか?―――――

嫌に軽快すぎる音が耳に響く。

隆の左胸にはナイフが突き刺さり口から血を吐く。

「お前・・・・最悪な・・・にんげ・・・・」

すべてを言えずに隆は息絶えた。

ドクドクと生々しい血があたりを染める。

貴之の両手は赤く染まり、顔にもその血が散っていた。

――――――――俺が・・・刺した?

震える両手を見る。

今でもあの感覚は手から離れない。

俺は・・・やったのだ。

これで弱虫なんかじゃなくなる。

これで誰かの後ろについて生きるなんてしなくてもよくなる。

「俺は・・・やっと・・・ッ?!」

鈍い痛みが背中を貫く。

「ざぁんねんだ。はっずれ。」

黒ずくめの人間からそう言葉が告げられる。

貴之はその場に倒れこむ。

血がどんどん溢れ出し貴之の意識は朦朧としてくる。

「なん・・・で・・・?」

「槿原貴之。君の憎い相手は箕川隆ではないだろう?」

黒ずくめの男はゆっくりと仮面を剥いだ。

貴之の目はすでに霞んでいてうまく顔を捉えることは出来ない。

「俺が憎かっ・・たのぁ・・・」

「・・・ほんっと最後まで愚かだな。」

黒ずくめの男は何かを取り出した。

そして

「槿原貴之の憎かった相手は・・・槿原貴之だ。臆病で弱虫な自分だ。」

貴之の首は本来あるべきものから剥ぎ取られた。

黒ずくめの言った台詞が貴之に届いていたのか今となっては確かめようもないことだ。

生き残り


蓮と潤が状況を伝えた。

クラスメイトの精神はもうボロボロだった。

一気に4人が殺されてしまった。

隆、恭助、楓の死体は普通と言ったら表現はおかしいが貴之に比べれればかなりマシだった。

貴之は頭部と体を切断されていたのだ。

「これで生き残りは23人ね。」

奈那がそう呟いた。

さっきから嫌に楽しそうな表情をしている。

「・・・なんで笑ってんだ?」

機嫌悪く新がそう奈那に聞く。

「あら?気分を害しちゃったなら謝るわ。」

本当にこの状況を楽しんでるような表情。

「奈那ちょっとほんと不謹慎だよ?仲間がもう・・・」

続きの言葉が美麗には出てこなかった。

未だそのことを信じたくなかったのだ。

言ってしまったらそれを認めてしまうようで嫌だった。

そんな美麗の心をいとも簡単に奈那は壊す。

「10人も死んじゃったのに・・・ってことを言いたいのかしら?」

「・・・奈那やめよう。」

「クスクス!中学生のうちにこんな体験をできるなんて夢にも思わなかったわ。血が騒ぐったらありゃしない!」

「奈那・・・ほんともう・・・。」

「ドキドキするのよね!こういうシチュエーションって!まるで漫画の中の出来事みたい!」

「やめてって・・・。」

「ねぇ美麗もそう思わない?人一人死んだって世界は変わらないんだよ?でもこういう死に方をしちゃったら多少は世界が揺るぐかもしれない。それってとっても」

「やめろッ!!」

奈那の言葉を遮って大きな声が轟く。

声の主は新だった。

その声の大きさには大広間にいた全員が驚いた。

しばらくして奈那は大きなため息を吐いた。

「ほんっとあんたたちって面白くない人たち。」

そう言って奈那は部屋から出ていこうと扉の鍵を開けた。

「おい伊東・・・一人行動」

「お手洗いよ。」

潤の言葉を遮り奈那はさっさと部屋から出て行ってしまった。

大広間にはまた静寂が戻った。

蓮は窓際にもたれて一向に止む気配を見せない雨をぼーっと見つめていた。

一日でクラスメイトが10人も死んでしまった。

しかもそれは誰かに無残に残酷に残忍に殺されてしまった。

このとき蓮の頭の中には最悪の状況がよぎっていた。

――――――犯人はここにいる全員を殺すつもりなのではないのだろうか・・・。

まずは担任を殺し、頼りのない生徒だけにする。

そして一番弱そうな女子から襲い、そして単独行動をした男子生徒を殺した。

ということはつまりだ。

ここからでなければ殺人鬼は襲ってはこない。

・・・本当にそうなのか?

蓮は室内を見渡す。

奈那が言ってたこの中に殺人鬼がいる可能性・・・それは限りなく低いに違いない。

なぜなら隆たちが殺された時間帯は誰も部屋から出ていない。

ちょいちょいお手洗いに外に出る生徒もいたがそこまで長時間行っていた人間はいない。

だから仲間が殺人鬼などという妄言は確実に消えたのだ。

ならば誰が殺人鬼なのだろうか。

蓮は何度考えても納得のいく答えは出てこない。

本当に快楽殺人なのだろうか?

そのためにこんな孤島まで来るだろうか?

「・・・わかんねぇー・・・。」

「何がわかんないの?」

蓮は目の前に突如現れた小さい女の子に過剰なまでに驚いてしまった。

「高岡・・・。」

「そんな顔、あんたらしくないね。まぁ、仕方がないか。」

結衣も苦笑いを見せる。

「どうしてこうなったんだろうね・・・。」

何も言わない蓮に結衣は独り言のようにつぶやく。

「みんなで勉強して、みんなでご飯食べて、みんなで遊んで、みんなで何事もなく帰れる旅行だったはずなのに・・・。何がどうなってこうなったんだろうね・・・。」

結衣の言葉に蓮は何も言えない。

ただの勉強合宿のはずだった。

それはみんなが思っていることだ。

「・・・みんなで帰りたいって願いも・・・もう過ぎた願いなのかなー・・・。」

結衣は今にも泣き出しそうな表情で上を見上げた。

いつも意地っ張りで元気が取り柄の結衣が今ではこの有様だ。

蓮は今まで以上に胸が締め付けられる思いだった。

好きな人が悲しんでいるのに自分は何もしてやれない。

黙ってただこの場で耐え忍ぶことしかできない。

それがあまりにも悔しかった。

「・・・ごめん。」

出てくる言葉はそれしかなかった。

「え?なんで蓮が謝るの?」

「・・・本当にごめん。」

「だからなんで?別に蓮何も悪いことしてないでしょ?・・・さっきの言葉のせいなら私が謝るよ。ごめんね?」

蓮は決意を決める。

もう誰も殺させさせない。

もうこれ以上結衣を悲しませない。

残った23人で地元に帰るんだ。

そう心に誓った瞬間、また部屋がざわつく。

「おいお前らどこ行くんだよ。」

潤の目の前に立っているのは二名の女子生徒だった。

「もうこういうの懲り懲りったらありゃしない!部屋の空気は陰気だし、息苦しいんですけど?!あたしたちは部屋に戻ってるから。」

大声を張り上げているのは望戸愛澄(モウコアスミ)。

きつい目をして、女子のなかでは性格が悪いと評判の人間。

男を取っ替え引っ返したり、噂では援助交際まで手を出しているという。

その後ろにいるのは愛澄の子分のような人間。

ポニーテールの少女は山辺かりん(ヤマベカリン)。愛澄と同じような性格らしくいつも愛澄にべったりとくっついている。

「お前らふざけてるのか?人が死んでるんだぞ?まだ殺人鬼がこのあたりをうろついてるかもしれないんだぞ?それなのに何バカなこと言ってるんだ!」

さっきのこともあり潤はいつも以上に声を張り上げる。

自分が行くのを許してしまったせいで隆たちは殺されてしまったという責任感に潤はずっと苛まれていた。

「ハァ?殺人鬼とかばっかばかしい!どーせみんな死んだふりとか演技に決まってるでしょ?もうそういうのさぁー飽きたからぁー。ねーかりん?」

「そうそう。まぁたとえ本気だとしてもぉー、鍵閉めとけば問題なくねッ?!あっはっは!私ほんっと天才かもしれないよぉー!」

二人の甲高い笑い声が部屋に木霊する。

潤は呆れてものも言えなかった。

「じゃああたしらは部屋に戻るんでぇー!お迎え来たら呼んでねぇ!」

愛澄がそう言うとさっさと二人は部屋から出て行ってしまった。

それと入れ替わるかのように奈那が手洗いから戻ってきた。

「・・・あの二人どこに行くの?」

「・・・追いかけなきゃ。」

奈那の問いかけを潤は無視して追いかけようとするが奈那に止められる。

「事情はよくわからないけど、やめといたほうがいいわよ。ああいうバカは一度痛い目に合わないとわからないから。」

「おま・・・何言ってるんだよ?!アイツらが死んだらシャレになんねぇんだぞ!」

潤は奈那の肩を乱暴に掴む。

しかし自分がしたことに気づくとハッて手を離した。

「悪い・・・。俺・・・追いかけてくる。」

そう言って駆け出そうとしたら今度は潤の手が乱暴に掴まれてそのまま潤は宙を舞った。

あまりにも早すぎて一瞬何が起こったか、周りの人間も潤自身も分からなかった。

「追いかけて行ってあんたが死んだら誰がこのクラスをまとめるのよ。委員長はまだ気絶したままなのよ?自分の責任を果たしなさい。」

奈那はそう言うとさっさと潤から離れていった。

潤は未だに目をパチクリとさせたまま動けないであった。




部屋に戻った愛澄とかりんは自分たちが持ってきたおやつを食べながらテレビを見ていた。

電話が通じないのに何故テレビは見れるのかという愛澄の疑問もすぐに忘れてしまったようだ。

「21時になりました。ニュースをお伝えします。関東地方を襲った台風××号は依然として・・・」

テレビから流れてくるニュースにまるで関心をしめさずすぐにチャンネルを変えてしまった。

「なんかいいのしてなくねぇー?」

「まじぃ?萎えるわー。・・・携帯も圏外で使えないしぃー・・・一体どうなんてんのぉー!」

かりんは自分の携帯をベッドに投げつけてそのまま自分もベッドに倒れ込んだ。

「あーあー!マジで今日は最悪!そもそもあたしはこんな馬鹿げた合宿来たくなかったのよ!」

「わかるわかるぅー!リアルにないわ今日。」

大あくびをしながらかりんはベッドに仰向けになる。

「・・・てか最近どうなの?彼氏とは。」

愛澄がニヤニヤとしながらかりんの転がるベッドに座り込む。

「どうもこうも・・・会ってないし。」

「いやー!もったいない!あんたの彼氏社長の息子でしょ?!」

「そうそう・・・。いい金づるだったんだけどねぇー・・・がっかりだっつーの。」

かりんのため息をつくとそのまま部屋には静寂が訪れる。

流れているのはバカバカしいお笑い番組。

愛澄もかりんも興味を示さなかった。

「・・・てか、愛澄はどう思う?」

「ん?」

「先生とか隆くんたちが殺されたって話だよ。」

かりんは再び大きなあくびをした。

昨日は夜遅くまで遊んでいて1時間も寝ていないらしい。

愛澄はかりんの言葉を聞いて鼻で笑いながら答えた。

「あんなの嘘に決まってんじゃんかー!みんな死んだ死んだってうるさいけどぜぇったいに死んだりしてないって。」

「だよねぇー!マジでああいうの信じるやつっているんだって思うとマジで腹痛いわ。」

二人はゲラゲラと笑いながら話を続ける。

「でもまぁ、勉強時間がつぶれてあたし的にはラッキー?みたいな。」

「わかるわかる!もっと死んでくれたら一生勉強しなくてもいいのにぃー!あっはっは!!」

「ちょっとかりんウケすぎだって!」

「だってぇー!」

―――二人の耳障りな笑い声は廊下にまで確かに響いていた。

奈那の存在

蓮、新、結衣、美麗は4人で固まって語り合っていた。

話すことはどれも今回の事件についてだ。

「一体誰がこんなひどいことしたんだろうね・・・。」

「そればかりはわからない・・・。でも、明らかにキチガイなのは確かだ。」

新は悔しそうに拳を握り締めた。

「・・・犯人は今どこにいるんだろう・・・。」

「きっとどこかに隠れて誰かが出てくるのを見計らっているんだろう。」

「・・・愛澄たち大丈夫なのかな?」

「大丈夫だろ。本人たちも鍵をしめるっていってたし。」

結衣と蓮の会話に新は何か引っかかっていた。

犯人はおそらく拳銃やナイフなどの凶器を持っているに違いない。

それらがあればこんな人数殺すなんて簡単なことだろう。

犯人の目的はきっと全員を殺すこと。

明後日の朝までには必ず全員殺すというストーリーが犯人の中で出来上がっているに違いない。

しかし自分たちも殺されるわけにはいかないから部屋に鍵をしめ閉じこもっている。

案の定犯人は鍵がかかっているためここには手を出せない。

だから部屋の外に出た人たちを狙った。

・・・おかしい。

やっぱり新のなかで何かが引っかかる。

でもその何かが新には出てこない。

新は眉間に皺を寄せて額に手を当てて考える。

「おかしいわよね。」

突如耳元にかかる生暖かい息に新は心底驚いた。

それは周りの3人も同じで目をまん丸にして奈那を見た。

「そんなに驚かなくてもいいじゃないのー。」

奈那は笑いながら近くにあった椅子を引っ張って新と蓮のあいだに強引に割り込んだ。

「・・・なんのようだ?」

新が明らかに嫌そうな顔をして奈那に問う。

「磯野くんの引っかかってることを解きに来ただけ。」

「は?」

奈那はいやらしくにやっと笑う。

「なんで鍵をしめてたら安全なの?だったらなんで第一の殺人は行われたの?」

「第一の殺人?」

結衣が頭をかしげる。

「一番最初に殺された女子たちのことよ。ねぇ知ってた?あそこに部屋だけ特別でね、オートロックらしいわよ。」

「オートロック?こんな古ぼけた洋館なのにそんなもんがあんのか?」

「なんであるかは私も知らないけど確かにオートロックだったわ。まぁそんなオートロックが中学男子の体当たりで破られるなんて意味をなしてないけど・・・。」

奈那は睨むように蓮と新を交互に見た。

「・・・それと新が引っかかっていることの何が関係あるの?」

「結衣、ここまで言ってもわからないの?・・・つまりあのオートロックは中からしか開けられない。あの子達が開けなきゃ扉は開かれないのよ。」

そのとき新はハッとした。

それに気づいた奈那もそれ以上は何も言わずに新主導権を譲る。

「俺らの見知った人間じゃないとあの密室は完成しねぇってことか・・・。」

「そういうことねー。」

頭の回転が悪い結衣にはチンプンカンプンのようだった。

「結衣にもわかりやすく言うと・・・例えば結衣が部屋にいて鍵を閉めてて誰かがノックをしたらどうする?」

「んー・・・相手を確認するかなー・・・。」

「でしょ?じゃあその相手が何も言わなかったり知らない声だったりしたらどうする?」

「そりゃもちろん出な・・・あ!そういうことか!」

美麗の丁寧な教え方でようやく結衣は結論にたどり着いた。

しかし一瞬はスッキリしたような表情を見せた結衣だったがすぐに眉間に皺を寄せる。

「まって・・・それって・・・私たちのよく知った人、つまりクラスメイトが犯人だってこと?!」

結衣の言葉に奈那は満足そうに頷く。

誰ひとりといい顔はしなかった。

この場に及んで仲間を疑おうという考えをしてるからだ。

「私たちのよく知った人間なら警戒なんてせずにすぐに鍵を開けるわ。そしたらもうあとは簡単よね?さくっと殺しちゃってあとは扉をしめるだけで殺人完了。ね?」

「・・・もし、俺らのよく知った人間が鍵を開けてくれって言ったら俺らは迷わず開けるだろう・・・。多分、さっき出て行った女子もきっと。」

「愛澄とかりんが危ない!!」

結衣がそう叫んだと同時に蓮と新が部屋を飛び出した。

後ろの方で潤が何か言っているが弁解は結衣たちに頼むとして二人は急いであの二人の部屋へ走った。

頼む、生きててくれ!

そう願うことしか今はできなかった。

「望戸!山辺!返事をしろ!!」

蓮は扉を叩きながら声をあげる。

返事は返ってこない。

次に新が扉に耳をつけて中の様子を伺う。

「・・・テレビの音が聞こえる・・・。」

新が扉から一旦離れる。

「どうする・・?」

新は黙ってドアノブに手をかけた。

「・・・?!」

ドアノブが周り扉が開く。

二人は顔を見合わせて互いに頷いた。

「望戸!?山辺いるのか!?」

部屋に飛び込んであたりを見渡す。

テレビ画面には恋愛ドラマが最高潮を迎えているようだった。

そしてテレビとは逆のほうへ顔を向けるとそこには絶望すべき光景が目に映った。

「う、うわあああああああああああ!!!!!」

蓮は驚きのあまりに大声をあげて床に座り込む。

新もその光景を見て顔を歪める。

「・・・?!・・・も、望戸は?!」

部屋をよく見てみるとバスルームが目に入った。

新は一寸の躊躇もなくバスルームの扉を開けた。

むわっとした蒸気が部屋の外に出てカーテンの向こうからはシャワーの音が聞こえる。

「うう・・・あ・・・・うぅ・・・あぁあ・・・!!」

無残な姿だった。

新は言葉も出なかった。

かりんはベッドの上に仰向けになって左胸をナイフで刺され息絶えてきた。

そして愛澄はシャワーを浴びている最中に頭を銃で撃たれて死んでいた。

新が呆然と立ち尽くしているとバタバタという足音が聞こえてきた。

その音にハッとして新はバスルームから出た。

「・・・っや、山辺・・・ッ!!!」

潤が変わり果てた同級生の姿を見て動きが固まる。

同時に奈那も入ってきた。

「潤・・・こっちには望戸も・・・。」

「・・・も、望戸も・・・?!」

新がカーテンを開いて見せる。

顔をこちらに向けて体は丸見えであった。

頭からは血が流れたような跡がありバスルームは血の色と匂いで充満していた。

潤は思わず顔を歪めて口を塞ぐ。

「あ、新。シャワーを止めてあげて・・・。気の毒にも程がある・・・。」

潤の言葉に新は無言でシャワーを止める。

そこに奈那が割って入ってきた。

そして入ってくるなりに愛澄の顔をぐいっと持ち上げて気持ち悪く開いた目を覗き込む。

「うーん・・・死斑は出てないわ。死後硬直も始まってないことから見れば、まだ殺害されてから時間は経ってないわね。」

バスルームから出ると遅れてきたのか美麗がいた。

美麗はかりんの姿を見てただただぼう然としていた。

奈那はそんな美麗に見向きもせずかりんのほうにも同じように目を見たり体を動かしたり傷口を見たりした。

「・・・酷い。」

そう美麗が呟いた。

「・・・惨すぎるよ・・・こんなのって・・・。人の死っていうのは誰にだって訪れるし、耐えなくてはならない試練だけど・・・。こんなにいっぺんに来ていいものじゃないよ・・・。」

そういうと美麗はフラフラしながら部屋を出て廊下で一人拳を握り締めていた。

「・・・俺たちも出よう。まだ近くに殺人鬼がいるかもしれない。」

新の言葉に潤と蓮は動きだしたが、奈那は動こうとしなかった。

「おい伊東っち。行くぞ?」

「・・・なるほどね。」

奈那はそうつぶやくとスキップしながら誰よりも早く部屋から出ていった。

「なんなんだ・・・。」

「もうほうっておこう。ほら蓮一人で歩ける?」

ふらつく蓮の肩を潤は持つ。

「あぁ、悪い。」

そう言いながら蓮は潤の好意に甘えた。

今は一人で立てるような気がしない。

骨盤からブルブルと震え、意識もままならない。

このまま何人が減り続けるんだろう。

そう思うと本当に怖くなった。

「・・・なんか物音が聞こえた。」

ふと新がそう言った。

新の見つめる先はとある客室。

誰も使ってない部屋だ。

その場にいた新と蓮、美麗、潤が顔を見合わせる。

「・・・確認しよう。」

蓮の言葉に全員が緊張する。

新はドアノブに手をかける。

一応だからと言って美麗は少し離れたところに退避させられた。

男三人は見つめ合って新が扉を開ける。

「誰だ!?」

目の前に黒い物体が見えた。

しかしその黒い物体はすぐに消えてしまった。

窓から飛び降りてしまったのだ。

「ま、待てッ!!」

潤が慌てて窓のほうへ駆け寄り身の乗り出した。

しかし下は暗くおまけに風と雨が強すぎて何も見えやしなかった。

「・・・ねぇ、どうだったの?」

美麗が待ちきれないというばかりに部屋を覗く。

「・・・ごめん。取り逃がしちゃった。」

蓮は偽笑いを浮かべる。

あれは確かに人間だった。

蓮は奈那の言葉を思い出す。

―――――この中に犯人がいる。

俺ら4人と奈那以外は大広間にいるはずだ。

だから今、この時点でこの部屋にいれるなんて不可能だ。

つまり、奈那の言い分は覆ったというわけだ。

蓮は嬉しいような複雑の気分に浸っていた。

「・・・戻ろう。」

新がそう言って三人が動き出したとき、奈那が走って戻ってきた。

「どうしたんだ?」

「・・・大変よ。大広間がひどいことになってるわ。」

冷静な態度は一切崩さなかった。

しかし奈那の言葉は決して冷静にいれるような言葉ではなかった。

「ど、どういうことだ?!」

蓮が奈那の肩を掴む。

「・・・見た方が早いわ。行きましょう。」

そう言うと奈那は蓮の手を振り払って走り出した。

そのあとを追うように4人も走った。

蓮の頭の中にはひたすらに結衣のことが思い浮かんでいた。

――――――さっき決めたばかりなのに。

絶対に俺が守るって決めたばかりなのに。

ただがむしゃらに走った。

あまりにも大広間が遠く感じた。

大量殺人

息を荒げながら蓮は大広間の扉を開け放った。

そこにはありえてはいけない光景が広がっていた。

―――――血の海。地獄絵図。

まさにその言葉が当てはまるであろう。

大広間は赤く染まり、ところどころに人が倒れている。

床も、机も、壁も、窓も、椅子も、天井までも―――赤――――

体中の力が抜けそうになるのを必死に耐える。

声なんて出ない。

ただただ蓮の瞳からは涙があふれる。

「・・・これは・・・どういうこと・・・っ!」

美麗が口を塞ぎながらその場に座り込む。

潤はすでに廊下に嘔吐していた。

「全員・・・死んでる・・・のか?」

新の言葉に蓮がびくっとする。

―――全員死んでいる・・・?

「・・・たかぉ・・・・高岡ぁあああ!!!」

蓮は涙をぬぐい部屋へ入っていく。

血の匂いが鼻を充満して胃がムカムカする。

靴も真っ赤になってヌルヌルと気持ちが悪い。

しかしそんなの気にしている場合じゃない。

蓮は懸命に見たくないものを見続けた。

ただ好きな人を探すために。

「・・・ッ!?高岡?!」

倒れている結衣に駆け寄って抱きかかえる。

「・・・ぉい・・・高岡・・・?し・・・しっかりしろ・・・!」

結衣はすでに息絶えていた。

目は白目を向き、体中から血を流していた。

蓮の瞳から再び涙があふれる。

「・・・はは・・・・嘘だ・・・ろ?・・・冗談なん・・・だろ?なぁ・・・なぁ・・・!」

結衣の体を何度も何度も揺らすが何も答えない。

蓮は認めたくなかった。

――――――まだ言いたいことたくさんあったのに。

まだあそびたいことたくさんあったのに。

まだ一緒にいたかったのに。

まだ・・・好きって伝えてないのに。

「く・・・くっそおおおおおおおおお!!!!!!」

蓮は狂ったように床を殴り続けた。

部屋には蓮の叫び声しか響かない。





そんな地獄絵図のなか生き残っていた人がいた。

薮優斗(ヤブユウト)と大河夢(タイガユメ)だ。

二人は怪我はしているもののかろうじて急所は外れたらしく生還していた。

「大丈夫・・・?」

「あぁ・・・。」

二人の体はガタガタと震えていた。

目の前でクラスメイトが次々と射殺されているのを目の当たりにしたならそれも仕方がないだろう。

「連も大丈夫か?」

新が蓮の顔を覗き込む。

蓮は疲れきった表情でゆっくりと頷く。

「ごめん・・・ありがとう。」

「・・・今は自分が生きることを考えろ。」

新は蓮の肩をポンっと叩く。

生き残ったのはわずか7人だ。

「・・・この部屋にいるのは辛いよ。移動しよう?」

美麗の提案に誰も文句は言わなかった。

クラスメイトの死体がある部屋でじっとなんてしてられなかった。

7人はとりあえず上の階にある客室に入った。

休めるソファーなどがあったほうがいいだろうといった美麗の気の利いた考えによってこの場所が選ばれた。

しばらく7人は互いに何も発しなかった。

「・・・一体誰があんな酷い真似を・・・。」

初めに口を開いたのは潤だった。

それに蓮が便乗する。

「・・・ぜってぇぶっ殺す。」

「篠田くん・・・落ち着いて。まずは生き残ることを考えて。」

また感情的になりそうな蓮をなだめるように美麗は言った。

部屋には雨音と風の音が響く。

まだまだ雨は止みそうにない。

ふと、奈那が声を出した。

「ねぇ、おかしいと思わないの?」

「・・・何が?」

「あなたたち、犯人を見たって言ってたわよね?」

奈那は今刺激したら大変なことになりそうな蓮じゃなくて新の目を見ていった。

新はその質問に静かに頷いた。

「大量虐殺があったのが私と栗原くんが出て行ってから私が戻るまでの15分で行われたはず。大広間は1階にあって、愛澄たちの部屋からだと走っても片道5分くらいはかかるわ。限りなく愛澄たちの部屋から近かった客室に犯人がいたというならば・・・何故いちいち犯人は愛澄たちの部屋の近くまで戻っていたのかしら?」

「・・・どういうことだ?」

「追って説明するわ。最後に美麗が客室を出て私が初めに客室に戻るまでにはおよそ10分あると考える。だけどね、新くんたちが見たっていう部屋からは走っても5分はかかっちゃうの。大量虐殺してからあの部屋に戻ったとすれば、この10分のうち5分は消えて、犯人は5分のあいだに殺人をしたと思われるわ。だけどここで問題。何故犯人は大量虐殺をしてからまた同じ部屋に行ったのかしら?」

確かに犯人の行動はおかしい。

愛澄たちを殺してあの大広間に向かったとすれば何故戻ってきたのだろうか?

もし、残った蓮たちを殺すのが目的なら逃げずに殺せばよかったものの犯人は雨の中逃げ出した。

「それに愛澄たちが殺されてそう時間は経ってなかったわ。犯人が愛澄たちを殺して大広間に行ったのならば、蓮たちとすれ違っているはずじゃないかしら?」

一階と二階をつなぐ階段はひとつしかない。

犯人も蓮たちも下におりたり上に上がったりするのはこの階段を利用するしかない。

しかし、蓮たちは一度たりとも犯人とはすれ違っていない。

ただ部屋で見つけただけだ。

「だけど、廊下沿いには結構の部屋数があるぞ?そこに身を隠したりできるんじゃないのか?」

潤の言葉に奈那はため息を吐いた。

「・・・ばっか。廊下なんてまっすぐの一本道よ?そんな扉をしめた時点で篠田くんか磯野くんの目には必ず映るわよ。」

「それで、伊東っちは何が言いたいんだ?」

蓮はソファーに座り込みながら聞いた。

奈那はその言葉を待ってましたと言わんばかりの笑みを浮かべた。

「つまりね・・・?・・・犯人は複数いるってことよ。」

「・・・複数?」

美麗の眉がピクっと動く。

「そう。今までのことならばひとりでもやっていけたかもしれないわ。だけど今回のはさすがに一人では無理。だから私はもう一人悪役が混じってるんじゃないかって思うの。確かに篠田くんたちが犯人を見たとき大広間に生徒複数名、途中に私、そしてその部屋にあなたたち4人がいたわ。だから一人目の犯人はそれ以外の人物。」

「伊東っちの言った仲間が犯人は覆ったわけだな。」

蓮は奈那を責めるように言い放つ。

しかし奈那はあっけらかんとした顔で蓮を見た。

「なんで?」

「なんでって・・・そりゃ、そうだろ!」

蓮が何を馬鹿なことを言っているんだという目で奈那を見る。

しかし同様に奈那も同じような目で蓮を見た。

「・・・奈那はこう言いたいの?・・・死体は本当に死んでいるのか・・・?」

美麗の言葉に蓮は衝撃を受ける。

死体が・・・死んでない・・・?

そんなことがありえるのだろうか。

「ば、バカも休み休みいえ!」

「それはこっちの台詞よ篠田くん。私たちは誰も医師免許なんて持ってないし、誰も死を確認してないでしょ?」

その場にいた全員がありえないという表情で奈那を見た。

奈那はそんなこと気にも留めずにニヤっと笑った。

「さすがの私も首掻っ切られていてそれでも死んでない・・・なんて暴論は言わないわ。・・・でも一人いるでしょ・・・?本当にその人物のものかわからないものが。」

奈那の言葉遊びだろうか。

全員にはうまく伝わらない。

いや、伝えようとしてないのかもしれない。

「・・・あんたたちほんっと馬鹿ね。このくらいわかりなさいよ。」

奈那は額に手を当てて頭を振った。

まるで頭痛でもするかのようなポーズだ。

「だからね、私が思うに犯人は」

「もうやめよ。」

奈那の言葉を遮り美麗がはっきりとした口調で言葉を発した。

「・・・もうこんなことやめようよ。仲間を疑いあうなんて見苦しいよ。私たちがすべきことは仲間を疑い合うことでも、犯人探しでもないはずだよ。生き延びることでしょ?」

美麗の言葉に奈那以外は納得した。

奈那は自分の推理を全て言えなかったことにむしゃくしゃしているらしく小さく舌打ちをした。

「奈那もさ、そうやって他人を疑ってばっかりじゃ人生損するよ?仲間なんだから、ちょっとは信頼してよ。」

美麗はそう言いながら奈那の肩に手を置いたがすぐに払われた。

「は!見苦しいのはそっちじゃないの!何かと仲間!仲間!仲間仲間仲間!!ほんっと気持ち悪いのよ!!寒気がするわ!!」

奈那はクルッと方向転換して扉へ向かって歩き出した。

「ちょ、どこ行くんだ?」

「自分の部屋に帰るわ。私がこれ以上ここにいたら雰囲気壊すでしょ?」

「そんな・・・危険すぎるよ!」

美麗が奈那に近寄った瞬間、奈那の体制がぐるっと変わった。

慌てて美麗は後ろに下がったからよかったものの美麗の顔があった場所には奈那の足の裏があった。

「・・・足刀蹴り。鼻骨骨折。」

奈那は足を下ろして美麗たちに背中を向ける。

「・・・護身術は心得ているつもりよ。」

そう最後に言い残すと奈那は部屋から出て行った。

淡い恋愛


「八神大丈夫か・・・?」

「え?あ、うん。ちょっとびっくりしただけ・・・。奈那ってなんでもできるみたい・・・。」

「奈那の父親は探偵事務所をやってるんだ。」

いきなり口を開いたのは今まで体操座りでベッドの上にいた優斗だった。

「俺と奈那は幼馴染で、小さいころはいつも遊んでた。だけど、あいつあることが原因で誰にも心を許さなくなってしまったんだ。」

優斗と奈那が幼馴染だなんてここにいる全員が知らなかった。

二人が会話していることを見たこともないし、そもそも関わりがあるなんて知らなかった。

「だから奈那を責めないでやってくれ。アイツも生きることに精一杯なんだ。あんな言い方しかできねぇけど・・・ホントはいい子なんだよ。」

優斗はベッドから降りて扉のほうへ歩いていく。

「薮!?」

「・・・俺、奈那のとこへ行く。一人にしてられねぇよ。・・・だってあいつ・・・ん。」

何かを言おうとして優斗は口をつむぐ。

「ダメだって!外に出たらどんなことが」

「だったら奈那は死んでもいいっていうのかよ!?」

優斗の怒鳴り声は部屋に響いた。

そして一言ごめんと謝り部屋から出て行った。

「お、おい!・・・八神・・?」

追いかけようとした潤の肩を美麗が掴んだ。

「・・・追いかけさせてあげよう。きっと薮くんは奈那を守りたいだけなんだよ。」

「で、でも・・・」

「潤も考えてみろ。好きな子を守れなくて自分だけ残ってしまう不甲斐なさを。俺は、優斗は正しいと思う。」

蓮が美麗が掴んでいる肩とは逆側の肩を掴む。

潤は蓮の言葉にハッとして黙り込む。

「・・・分かった。」

外では稲光が走る。

時刻は22時。

もうすぐ今日が終わる――――――

儚い時間

奈那は自分の部屋のベッドの上で転がってぼーっと天井を眺めていた。

犯人の目星は大体ついた。

しかし肝心のどうやってその犯人から逃げ出せるかがわからない。

ゴロンと寝返りを打つとドンドンと誰かが扉を叩く音が聞こえた。

奈那はビクッと体を硬直させる。

心臓が激しく脈を打つ。

まさかもう奴は来たというのだろうか。

「・・・奈那!おい奈那!」

しかし奈那の予想は大きく外れた。

優斗の声が聞こえる。

「何・・・?」

奈那は扉越しに話しかける。

「お前、雷苦手だろ?!俺が一緒にいてやるからここ開けろ!」

優斗の言葉に奈那は顔が一気に赤くなる。

「う、うるさい!あんたなんてこと覚えてんのよ!」

奈那は扉を勢い良く開ける。

「あはは。入ってもいい?」

「・・・いいけど。」

奈那は優斗を向かい入れて鍵を閉める。

奈那の部屋はもともと一人部屋だった。

友達のいない奈那には一緒に泊まる友達などいなかった。

「・・・昔とは大違いだな。」

「うるさい・・・きゃあ!!!」

その瞬間稲光が光った。

奈那は普段は聞けないような甲高い悲鳴をあげて優斗に抱きつく。

「よくそんなんで昼間大広間にいれたな。」

「う・・・それは・・・すっごく我慢してたし・・・。今ちょっと不意をつかれたというか・・・その・・・。」

あの饒舌だった奈那がどこに行ったのやら、優斗の前では少しもうまく話せなくなっていた。

優斗は笑いながら奈那を離してベッドに座った。

「・・・大丈夫なの?その傷。」

奈那は血まみれの優斗の服を見て、そこでも一段と血の色が濃い腹部を見た。

「ん?あぁ・・・対したことないよ。」

「犯人見てないんだって?」

「うん。黒ずくめのマントしてて顔は見えなかったし、それどころじゃなかった。」

奈那はそっかと言いながら優斗の隣に座った。

「・・・優斗は私の推理信じる・・・?」

「・・・もちろん。奈那の推理が外れたの俺は見たことがない。」

奈那の推理の才能は親以上だった。

小さい頃はどこにお菓子を隠したか、どこに誰が隠れているか、誰が誰のことを好きだとかいろんなことを推理しては優斗に聞かせていた。

「犯人があの31人のなかにいるって言っても信じる・・・?」

優斗は少し悩むような仕草をしたけど奈那の肩を抱きかかえて優しく言った。

「信じるよ。奈那がそう推理したんだろ?」

奈那は少し頬をあかめて笑った。

今までこの表情を優斗以外の誰が見たことあるだろうか。

そのくらい年相応な女の子の表情をしていた。

「・・・で、誰なんだ?その犯人って。」

そう優斗が言った瞬間、扉がぶち破られる音が聞こえた。

二人の体が硬直する。

しかし二人の手をしっかりと繋がれたままだった。

奥からやってきた犯人は黒ずくめのまんとにおかしな仮面をかぶっていた。

そしてその手には拳銃が握られていた。

二人の手の力が強くなる。

「・・・そんなふざけた格好が趣味だなんて思わなかったわ。・・・やっぱりあなたが犯人だったのね××××。」

奈那はにやっと笑う。

犯人も仮面をはがして二人に素顔を見せる。

優斗は驚愕していた。

それもそうだろう。

その顔はよくみるあの顔なのだから。

悲しき運命

時間は刻々と過ぎていった。

精神的にも身体的にも全員は限界を迎えていた。

「夢大丈夫?」

ベッドで寝ていた夢の状態が急変した。

息は荒く、熱も出ていた。

「私・・・死ぬの・・・?」

「そんなことないよ!生きて帰れるから!」

美麗は夢の手を握って励ました。

しかし夢の力はだんだんとなくなっていく。

「・・・わ、たし・・・・死にたくないよぉ・・・。」

言葉と共に夢の瞳からは大粒の涙がとめどなく溢れてきた。

ほかの4人はただただ見守ることしかできない。

「わ・・・たしね・・・。幼い妹・・・と・・・弟がぁ・・・いる・・・の・・・・。私ぃの・・・帰りをぉ・・・・待ってる・・・から・・・・。帰りた・・・」

スーっと夢の瞳がとじた。

美麗が握っていた手からも力が抜けていった。

「・・・ちくしょう・・・・。一体何なんだよ・・・。一体何が目的でやってるんだよ・・・。」

蓮は頭を抱え込む。

そのときだった。

扉が激しく鳴った。

4人はビクッと体を硬直させる。

そして全員顔を見合う。

思うことは同じだった。

「・・・来た・・・。」

「どうするんだ・・・?」

逃げ道はない。

ここは二階。

窓から逃げようにも下はコンクリートの道のため飛び降りれない。

扉もひとつしかない。

かと言って武器がこの部屋にあるわけではない。

蓮たちは忘れていた。

中学生2人が体当たりで開けられるような扉を誰が開けられないのだろうか。

4人の頭の中に死という文字がよぎった。

情けなくも潤はその場に倒れこむ。

「・・・蓮・・・。」

新は蓮に声をかける。

「・・・やるしか・・・ねぇか。」

新はコクリと頷く。

動けない潤と唯一の女の子の美麗は2人の後ろに移動した。

「・・・できればぶち破らないでほしいんだけどな・・・。」

蓮がそうつぶやくと同時か否や扉がぶち破られた。

奥からはあのとき見た黒ずくめのまんとをかぶったおかしな仮面をした人間がやってきた。

「お前が・・・犯人か・・・。」

蓮の言葉に何も返事をしようとしない。

「・・・そのおかしな仮面とれよ。」

新の言葉のままに黒ずくめの人間は仮面に手を当てる。

そして全員の顔をひとりひとり見たところで仮面を一気に剥いだ。









――――――――――――ありえない。

結末



そんなことがありえてはいけない。

何故、貴方がそこにいるんですか?

何故、貴方は俺らに拳銃を向けているのですか?

何故、貴方は生きているのですか?

存在してはいけない。

いてはいけない。

なのになんで

俺らの目の前に現れたんですか?

そのまま死人のままでいてくれたほうがまだ心は痛まなかった。





全員の目が見開く。

その顔に4人とも見覚えがあった。

「・・・せん・・・せい・・・?」

新がその言葉を口に出した。

そうするとマントの人間はクスッと笑った。

「はい、新くん大正解です。みんなの担任の河合と申します。」

ふざけた調子で河合は軽く会釈をする。

「え・・・でも・・・・先生は死んだはずじゃ・・・。」

目の前にいるのは確かに蓮たちの担任の河合だった。

しかし全員その事実を簡単には受け入れられない。

そう、だって先生は手足をバラバラにされて死んでいたのだから。

先生は何も言わずに表情だけ変えた。

それはさっきのふざけた調子ではなくて真顔。

その表情は誰も見たことがないような表情。

冷たくて、怖くて、恐ろしい真顔だった。

蓮の背筋がぞぞっとする。

「先生・・・?何とか・・・言えよ?」

蓮がやっとの思いで声を搾り出す。

河合は驚く程冷めていた。

「先生・・・なんかの冗談・・・だよな?」

――――何も答えない。

ただ黙って4人の顔を見続けている。

「先生・・・先生・・・っ!」

我慢できなくなり蓮は叫んだ。

恐怖と不安で訳がわからなくなった頭に、またわけのわからないものが入り込んできて自分でもよくわからなくなっているのだ。

蓮のそんな叫びに反応を見せた。

「何?」

「何?・・・っじゃねぇよ!なんでこんなこと・・・何かの嘘だよな・・・?・・・先生ッ!!」

蓮が一瞬まばたきをした隙に、河合はまた表情を変えていた。

あれはもう担任の表情ではなかった。

人の表情でもなかった。

冷たいどころで表現できないほど冷たく、人間味のない表情。

明らかな殺意が蓮たちに向けて発されていた。

ガタガタと震える。

もう今すぐにでも気を失ってしまいそうなほど恐ろしかった。

今までの河合が崩れていく。

蓮の瞳には涙がにじむ。

「さて・・・茶番はおしまいだ。お前たちには計画の一部として死んでもらう。」

そして河合は生徒へ拳銃を向けた。

ドラマや映画で見るようなのとなんら変わりのない凶器。

クラスメイトを撃った・・・凶器。

「先生・・・?」

震える声で美麗が言う。

しかし先生は冷たい無表情のまま美麗を見下す。

「これでいいんだろう・・・?」

「何・・・言ってるんですか・・・っ!?」

美麗は我慢ができなくなりこらえていた涙が頬を伝う。

信じていた先生に裏切られるのがここまで辛いものだとは誰も思わなかった。

そもそも、裏切られるなんて夢にも思わなかったのだ。

「・・・今更だけどこれ本物だから。」

いつもとは違う蔑むような目で生徒を見据える。

ぶるっと身震いがする。

これが冗談ならばどれほど救われるのか・・・!

そんな淡い期待を抱きながら蓮たちはただ黙って河合を見ることしかできなかった。

「先生が・・・みんなを殺した・・・のか?」

誰もが聞きたくなかったことを新があえて聞いた。

少しでも新の中で希望があったのかもしれない。

しかし、そんな儚く虚しい希望は簡単に壊された。

「・・・磯野はもっと頭の回る人間だと思ってたけどな。残念だよ。」

その言葉が何を意味するのか新も、新以外の人間もすぐに分かった。

本当に河合は大量殺人を犯した。

今はもう蓮たちの担任なのではない。

ただの殺人鬼だ。

「なんで・・・なんでこんなこと・・・こんな・・・くだらないことをっ!」

何もすることのできない苛立ちから蓮は拳を握り締める。

爪が食い込みそこからは血が流れてきていた。

しかし蓮はお構いなしで握り続ける。

「・・・動機ってやつか?・・・審査ってとこかな?」

「審査・・・?」

向けていた拳銃を下ろして指でくるくると回し始めた。

完璧に油断している。

しかし蓮たちに立ち向かう術も、勝率もない。

このまま殺されるのを黙って待っていることしかできないのか。

そう思った瞬間、新の目には確かに映った。

担任の後ろから迫りゆく影を。

そしてその正体を。

新は高鳴る感情を押し殺し、自分がすべき手段に出る。


「先生、本当にそれはホンモノの拳銃なのか?」

失敗したら自分が殺されるかもしれない。

しかしそんなことかまってられるほど新は冷静ではなかった。

「まさか、これがおもちゃだっていうのか?」

「ここをどこだと思ってるんだ先生。日本だぜ?拳銃なんてそう手に入るわけがないじゃないか。」

できるだけ相手の気を自分に向けるように、新は嘲笑って挑発する。

「・・・ホントに恐怖で気が狂っちまったか?」

「気が狂った?それはあんたのことでしょう。俺はいつだって最善の選択しかしねぇよ。」

案の定、担任は新の挑発に乗ってきた。

新の見えている影は物陰でタイミングを伺っているようだった。

そんなことに気づきもしない担任は拳銃を握りしめ新の方へ構えた。

正直、新の体は震え上がっていて今にも座り込みそうだ。

新だってそれがニセモノじゃないことはわかっていた。

しかし、ここで自分が何もせずに全員が死ぬのならば自分が行動するしかこの状況を打開する方法はなかったのだ。

もし、あっちの奇襲がバレてしまい相手があっちに拳銃を向けてる。

その隙に自分が担任に向かってボッコボコにすればいい。

新の頭ではそういう作戦がスラスラと構築された。

「どうせ全員消えるんだ。順番は誰からだっていいよな。磯野新・・・お前から死ねッ!!」

担任がそう言った瞬間、影は担任に向かって走り出し手に持っていた斧を振り上げた。

しかしその気配に気づいた担任はすぐさまに後ろに振り返る。

新はその瞬間を見逃さずにポケットに入ってたサバイバルナイフを取り出し担任にへと走り出したとき形成は逆転された。






「――――――動かないで。」

新の後頭部には固く細いものが当てられている。

新自身はそれを見ることが出来ない。

しかし周りの人間はそのありえない光景にただただ唖然としていた。

「や・・・がみ?」

潤がそう呟いた。

誰も状況を把握できない。

目の前に起こってることをそのまま説明するなら、担任のほうへ行こうとした新の後頭部に拳銃を当てている美麗の姿がそこにはある。

奥では斧を振り上げたまま止まっている奈那の姿がそこにはあった。
「八神・・・お前・・・何してんだよ・・・。」

蓮がやっとの思いで口を開く。

どこか雰囲気の違う美麗に何故か恐怖を感じる。

そのとき奈那が声をあげた。

「八神美麗が今回の黒幕よ!!」

奈那の額には担任の拳銃が当てられている。

「捨てろ。」

「命令しないで、下郎。」

斧を下ろして自らの後ろに投げつける。

そして、悔しそうな顔をしながら担任の顔を思いっきり睨みつけた。

「磯野くんもナイフを捨てて。」

感情のこもらない声で美麗は言う。

新は歯を食いしばりながらナイフを床に落とした。

それを確認すると美麗は新から銃を離した。

「悪いな美麗。手間かけちまった。」

「ガキに殺されたんじゃあ話にならないわ。ホントしっかりしなさいよ。」

美麗の口調が明らかに違う。

それに先生に対してだってあんな態度はとったとこを見たことがない。

蓮、新、潤の思考はもうぐちゃぐちゃであった。

「てか、なんで奈那が生きてるわけ?」

美麗はさっき河合がしたように拳銃を人差し指でくるくると回した。

「は!この下郎が急所を外してくれたうえにさっさと部屋を出て行ってくれたから死にはしなかったわ!」

奈那は渾身のイヤミを込めて言い放つ。

しかし美麗はどうでもよさそうな顔をしていた。

「ふーん。・・・それで、最愛の薮優斗くんはどうなった?」

美麗の口角がほんのり上がったように見えた。

「絶対に許さない・・・あんただけは私が死んでも殺す!!」

今まで見せたことのない威嚇の表情で美麗を睨む。

「そう・・・なら死んで?」

それが合図かのように担任の拳銃から乾いた音が響いた。

それとともに奈那は床に血潮を撒き散らしながら倒れた。

「・・・嘘・・・だろ?」

蓮は信じられなかった。

クラスメイトが目の前で殺されることも、クラスメイトが目の前で人を殺す命令をすることも。

何もかもが信じられなかった。

意識を保っているのがやっとであった。

「さて・・・あとはこの3人だけね・・・。」

美麗はステップを踏むように全員が見れるように担任側に下がった。

担任も美麗の後ろに歩み寄る。

今度こそ何も出来ない。

絶望が体中を駆け巡る。

「八神・・・お前・・・正気か?」

新も疲れきった表情をしてた。

「えぇ、正気よ。これが私の本来の目的だもの。」

「・・・どういうことだよ。」

美麗はため息を吐いて頭をかいた。

「説明すんの面倒なんだよねー・・・。でも、まぁあんたらで最後だし冥土の土産として教えてあげよっか。」

漫画の悪役のセリフを恥ずかし気もなくさらっという美麗にもう今までの面影は残ってはいなかった。

「私たちは命令であるものを探している。それは不老不死になることができるという神の石。だけどその石は石という形はしてなくて人間の魂となっているの。私たちは神の石の魂の器となっている人間を探しているの。手がかりは三つ。一つは日本にあるということ。もう一つがその器が中学三年生だということ。そして最後は・・・器が死ねば器は消え去り、石だけがその場に残るということ。・・・ここまで言えばわかるんじゃないの?」

美麗の言葉に新の顔がひきつる。

「それで皆殺し・・・ってことか?」

「そう。・・・あと3人・・・ね。」

美麗のいやらしい瞳が3人を捉えて逃がさない。

神の石が一体なんなのか。

器とは一体なんなのか。

美麗と河合は一体何者なのか。

それは全く蓮たちにはわからなかった。

しかし、ひとつだけ確実にわかることがある。

「・・・殺すんだな・・・結局は・・・。」

「えぇ。殺すわ。」

美麗の即答に蓮はなんだか笑えてきた。

もう何がなんだかホントにわからない。

今日はいろんなことがありすぎた。

部屋の時計をふと見てみると時計の針は11時58分を示していた。

そのことに美麗も気づいたらしくクスッと笑った。

「もうじき24時ね。今日が終わり、明日が始まる時間。なんてタイミングなのかしら。」

美麗はおかしそうにクスクスと笑った。

そして自分の持っていた拳銃をバッとあげた。

同時に河合も片手に一丁ずつ拳銃を持ち構えた。

「全ては偉大な正義のためよ。」

言い終わったと同時に、時計は24時を迎えたと同時に、乾いた音が3つ鳴り響いた。

報道


台風は過ぎ去り、あれほど怖く感じた孤島に晴れやかな晴天が広がった。

島の中に多く住んでいる鳥たちがにぎやかにその晴天を祝福します。

しかしこの島から昨日まで聞こえていた、

楽しそうな話し声も

勉強を嫌がる愚痴も

恐怖に震え上がる悲鳴も

希望がなくなった涙声も

聞こえなかった。

ただ響くのはひとりの少女と成年の笑い声だけ。



あの日から二日後、予定通りについた船の従業員さんよって警察へと通報がされた。

警察はその後すぐに現場検証を行った。

最後まで生き残ったとされる男子生徒3名の死体のそばには走り書きで「生存者0」というメモが発見された。

発見された遺体の全ての鑑定を行ったが客室にあった両手足と女子生徒が泊まってた部屋のベッドの下にあった頭部の正体は全く別の人間のものと判明された。

初めに殺されたと思われる少女たちの体はついに発見されなかった。

そして未だに女子生徒一名と、引率教師の河合の遺体が発見されなかったが客室の一室に致死量の血が発見され存命は絶望的とされた。

警察は事件として犯人の捜査に出たが証拠が全くなく、事件解決は難解とされた。




――――――――――――――――――――――――――――――――
報告書

河合:行方不明。しかし、一階の客室の大量の血液が彼のDNAと同じで存命は絶望的。

磯野新:最後の生き残りと思われるがとある二階の201号室客室にて大量出血のため死亡。

2伊東奈那:201号室客室にて頭部を打ち抜かれ即死。腹部にも同様の傷があり一度撃たれたものの自力で歩き客室へ行って殺された模様。302号室でも血液を採取。

3大田梨乃:最初簿犠牲者と思われる。頭部のみ回収。体は未だ発見できず。

4小野田拓:大広間にて胸を撃たれ即死。

5久原大:大広間にて喉を打ち抜かれ出血死。

6栗原潤:最後の生き残りと思われるが201号室客室にて心臓を打ち抜かれ即死。

7黒瀬美希:大広間にて頭部を打ち抜かれ即死。

7桑野千尋:大広間にて出血死。

8小坂優美:最初の犠牲者を思われる。頭部のみ回収。体は未だ発見できず。

9木立菜々美:大広間にて出血多量のショック死。

10鹿野良太:大広間にて頭部を打ち抜かれ即死。

11篠田蓮:最後の生き残りと思われるが201号室客室にて出血多量のため死亡。

12関真花:最初の犠牲者と思われる。頭部と体が切り離されており、体が海底で発見できた。

13大河夢:大広間にて大量虐殺に遭遇したものの生き残り、そのあと201号室客室にて出血多量で死亡。

14高岡結衣:大広間にて心臓を打ち抜かれ即死。

15友重恭助:厨房にて心臓を打ち抜かれ即死。

16中岡沙耶:最初の犠牲者と思われ頭部のみ回収。体は未だ発見できず。

17仁科由香:大広間にて出血多量のショック死。

18浜田梓:最初の犠牲者と思われ頭部のみ回収。体は未だ発見できず。

19箕川隆:厨房にて心臓をナイフのようなもので刺され即死。

20三嶋雅人:大広間にて頭部を打ち抜かれ即死。

21水畑智:大広間にて出血多量のショック死。

22皆波奈央:大広間にて頭部を打ち抜かれ即死。

23槿原貴之:厨房にて頭部と体を切断されて死亡しているのを発見。腹部にも傷を発見。頭部も体も回収。

24望戸愛澄:210号室客室のバスルームにて頭部を撃たれ即死。

25守屋楓:厨房にて腹部を撃たれていたが発見時はまだ存命。しかし運ばれた病院にて死亡が確認。証言は得られず。

26矢加部康太:大広間にて出血多量のショック死。

27八神美麗:行方不明。しかし大広間にて大量の血液を採取。存命は絶望的。

28薮優斗:302号室客室にて心臓を撃たれて死亡。彼の両手には伊東奈那の血液が付着。

29山口一樹:大広間にて頭部を撃たれ即死。

30山辺かりん:210号室客室のベッドの上で心臓を撃たれて死亡しているのを確認。

31渡部翔:大広間にて頭部を撃たれて死亡。


以上で報告を終了させてもらいます。
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無題

無題

  • 小説
  • 中編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-10-13

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  1. 里ヶ島
  2. 名簿
  3. 綴る
  4. 第一
  5. 狂った孤島
  6. 手段なし
  7. 缶詰
  8. 憎き相手
  9. 生き残り
  10. 奈那の存在
  11. 大量殺人
  12. 淡い恋愛
  13. 儚い時間
  14. 悲しき運命
  15. 結末
  16. 報道