幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 10話
思い出とマグカップ ~前編~
窓を開けて風を入れる。もう陽は高い。
学生向けのワンルーム。アパートの二階の窓から見える銀杏の樹もずいぶんと色づいてきた。通りの向かいは今どき珍しい回転ジャングルジムのある古い公園。公園の銀杏の樹の下、まりつきをしている女の子の姿があった。
木陰のベンチには母親らしい女性がベビーカーを揺らしながら女の子を見守っている。女の子のまりをつく手はたどたどしい。数回ついては、まりは銀杏の樹の根元に転がってしまう。母親がまりを拾って女の子に渡しながら何か話しかけていた。
「なに? なにか面白いものでも見える?」
洗濯物を干しながら思わず笑いが漏れていた。
トーストと目玉焼きと珈琲。簡単な朝食をテーブルに運んでいた佐々木に言われて気づく。
「いや、ちょっと思い出し笑いをね」
俺は佐々木の斜め横に座り、テーブルに置かれたマグカップを手にした。
「俺の通ってた幼稚園てさ。毎年まりつき大会があって──」
トーストをかじりながら佐々木が「うん」と柔和な目を細めた。俺は佐々木の入れてくれた珈琲をひとくち口にしてから、まりつき大会の思い出を語り始めた。
あれは年少だったか年中だったか、公園の女の子と同じくらいの頃だった。先生から渡されたクマの絵の描かれたまり。
「今日からは、このまりで遊びましょう」
先生が言う。そしてひと月後にはまりつき大会があるのだと。そして上位三位までの子には、それぞれ金メダル。銀メダル。銅メダルが貰えるのだと。
「みんな頑張って練習しようね~」
先生が笑顔で言うとみんなは「は~い」と返事をしていた。それから園庭に出てまりつきの練習が始まった。だけど俺は、隣の年長組の子供たちが気になっていた。
年長は『まりつき大会』ではなく『コマ回し大会』だ。コマといっても指で回すコマじゃない。木製で鉄芯のあるコマ。
体操教室の男の先生がそのコマに縄を巻き付ける。そしてコマを地面に叩きつけるように放り投げたかと思うと素早く縄を引いた。
カッコいい。幼い俺に、その姿はテレビで見たカウボーイのように映った。
勢いよく回るコマに俺の目は釘づけになっていた。
まりつきなんてやってられるかよ。俺は年長組に混ざってコマ回しをしていた。
結が何か言ってきたような記憶がある。ちゃんと練習しようとか、まりつき大会頑張ろうとか何とか。でも俺は、先生に連れ戻されたときだけまりつきをし、先生がいなくなると、また年長に紛れ込んで遊んでいた。
そしてまりつき大会当日。
この日ばかりはまりつきをするしかない。俺は仕方なくじっと体育座りをして大人しくみんなのまりつきを見て……はいなかった。
幼稚園でいちばん綺麗な春菜先生。数を数えながら揺れる、先生の大きなおっぱいを見ていた。
幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 10話