Fate/Last sin -24

「『獅子心王(リチャード・オブ・レオンハート)』―――!」

 それが宝具の名だった。バーサーカーが吼えた瞬間、それまでとは比にならない程の純然たる魔力が、温室のガラス窓を全て吹き飛ばす。放たれた魔力の波は、自らの十字軍の影すら灰燼に帰しながら、温室の植物たちを根元から抉り、湿った黒い土を巻き上げ、ガラスの破片を更に細かく砕きながらランサーに襲い掛かる。
 ランサーは太い腕で顔を庇いながら、ひたすら自分を切り刻んでいくエーテルの嵐をやり過ごすしかなかった。
「これが―――」
 けれど、それは妙な感覚だった。鋭利なガラスの破片が体中を刻み、明らかに現代の物ではない魔力を全身で浴びながらも、ランサーは奇妙な、懐かしさにも似た感覚を覚える。
 そうだ、これが。
「これが、神代の……!」
 吹き荒れた嵐が一瞬弱まり、煮え滾るようなエメラルドグリーンの瞳と目が合った。ランサーは頭で考えるより先に、右手に握った槍を構える。だがそれすら、今のバーサーカーにとっては遅すぎた。
 バーサーカーの足元が砕けたと思ったら、瞬きひとつするよりも速く彼は姿を消している。虚を突かれたランサーの背後で、獣が呻くような低い囁き声がする。
「遅い」
「何ッ――」
 圧倒的な力がランサーの背を蹴り上げた。宙に浮いたそのままで、ランサーは振り向きざまに槍を薙ぎ、後を追ってきたバーサーカーの剣を受け止める。だが競り合いにもならず、ただランサーの槍は一方的に払われ、その首筋をバーサーカーの手が捕まえた。
 抵抗する隙も無く、バーサーカーの腕が全霊の力でランサーの身体を地面に沈ませる。湿った土と、タイルとガラスの破片が激しく噴きあがるように舞い上がった。
「くっ……」
 一声呻くが、悲観的な言葉は飲み込み、ランサーは飛ぶように起き上がって、流星のように落ちてくる無数の剣を躱し続ける。何とか体勢を立て直して槍を握り、構え直した瞬間、バーサーカーが長剣と共に飛び込んできた。
「ほう、少しは間に合うようになったな」
 余裕のバーサーカーに、ランサーは彫りの深い顔を険しくする。
「戯言を……!」
 だが、ランサーは今の状況を的確に掴んでいた。――明らかに、バーサーカーの能力が飛躍的に向上している。先程の魔力波は、ただの前兆に過ぎない。俊敏さ、腕力、視力、それら肉体にまつわる性能のどれ一つ、今のランサーが勝っている点は無かった。
 あと一息が踏み込めない。銅色の槍の柄と、黒い長剣の刃が激しくぶつかり合う甲高い金属音が、夜の闇の中に響く。バーサーカーの猛攻は、速く、それでいて重くなっていた。その細身の、どこにそれほどの力が潜んでいるのかと思わせる一撃一撃が、ランサーを徐々に退けていく。追い詰められていくランサーとは対照的に、バーサーカーは口の端を歪ませるような笑い方をした。
「どうした? 終わりか? まさか足場にもならんと言うのか!」
「―――ッ」
 口を開くより先に、ひときわ重い一撃が降り注ぐ。受け止めた槍の柄が、小枝のようにいとも簡単に二つに折れた。ランサーは潔く槍を捨て、剣先をかいくぐって素早くバーサーカーの懐に潜り込み、彼が動くよりも早く、その鳩尾に拳を叩きこんだ。
 バーサーカーの細身な体が宙に浮きあがる。
「蕾徒!」
 その一声で、荒れ果てた温室に散在していた植物の残骸たちが、勢いよくその蔓をバーサーカーに伸ばした。空中で体勢を整えようとしたバーサーカーの右脚に太い蔦が数十本絡みつき、バランスを崩した彼の四肢にハイエナのように群がる。
 しかし、バーサーカーは少しも顔色を変えず、自らを拘束するそれらを冷ややかに一瞥した。
「……下種が」
 ランサーはその言葉も意に介さず、右手に新しい槍を握ると、左足を一歩、強く前に踏み込んだ。
「しっかり押さえていろよ、蕾徒!」
 声を上げながら、ランサーは千載一遇の好機を前に、思い出す。
 かつてこの場所で、槍を投げたことがあった。彼に世界を見せるため。自分の願いの第一歩として。導くための者として、ランサーは槍を放った。
 だが、今回は違う。明確な敵意。明確な殺意。明確な意思をもって、今ここで、この狂王を撃ち落とす。
 そのためには、必殺の一撃が必要だ。
 もはや、手加減は必要あるまい。
「第一宝具、真名解放―――」
 バーサーカーの顔色が、つと変わった。
 しかしそれは、驚愕ではない。歓心を得たような顔だ。
「面白い」
 その呟きのすぐ後、ランサーの脳裏に弱弱しい声が響く。
『ランサー……!』
「!」
 今まで聞いたこともないような、熱にうなされる子供のような声に、ランサーが僅かに動揺した瞬間、バーサーカーを拘束する太い蔦が数本、弾け飛ぶのが見えた。
『逃げ……逃げて、ランサー……! ぼくは……』
『……!?』
その言葉と同時に、バーサーカーの拘束が全て解けた。あれほど絡みついていた蔦は全て巨人に引きちぎられたような痕を残し、無残に床に散らばる。
 ランサーは憎々しげに歯を食い縛り、再び槍を構えることで蕾徒への返答とした。
『悪いが、ここは退けん』
 やはり、この魔力に蕾徒も侵されているのだ。このまま戦いが長引けば、サーヴァントの自分はまだしも、この濃度の魔力に晒され続けているマスター自身が危険だ。
 ランサーは低い声を張り上げた。
「此れこそは、百の戦を収めし一戦―――」
 その声に呼応するように、間合いの遥か遠くに立つバーサーカーが右腕に掴んだ長剣を振り上げて、天を示した。
「良いだろう。――報復の、最終幕とする」
 周囲の魔力が、ざわめくように流れを変えた。黒い長剣に纏わりつくように、黒い光が空に向かって伸びていく。それはやがて、神殿の柱と見まがうほどの大きさへと変貌していった。
 しかし、ランサーは怖気づくことも狼狽えることもせず、強い眼光のまま、踏み出した左足に力を込める。静かに、けれど着実に、ランサーの足元に魔力が収束し、白い輝きとなって現れる。
「此れこそは、我が友への最大の献身―――」

「騎士王の極光は反転する」

「故に友は尊厳者となりて、我は永久無二の誉れを得る」

「偽の王。偽の器。偽の聖剣を」

「貴殿は、敗北のうちに潰走する」

「獅子心王の心臓を此処に―――」

 既に荒れ地と化した地面が、震えはじめる。
 バーサーカーの黒い極光、ランサーの白い光芒が今にも張り裂けそうなほど膨れ上がり、真冬の深夜とは思えない熱気が辺りを包む。
二騎は、ほとんど同時に視線を交わした。
 それが、最後の合図だった。
「『尊厳者への海戦凱歌(アクティカプグナ)』――――!」
 
「『永久に遠き勝利の剣(エクスカリバーモルガン)』――――!」


  *

 それはお互いにとって、正真正銘、全身全霊の一撃だった。
 ランサーの宝具が、温室の荒れきった地を洗い流すように開けていく。黒い土、割れた石畳、砕けたガラスの破片、それら全てを飲み込むように、ランサーの足元から一つの世界が顔を覗かせる。―――やがて、翡翠色の海面が姿を現した。
 それは、今をして紀元前と呼ばれる世界。ランサーの生きた時代が、現世を塗りつぶしていく。これこそがランサーの力の真骨頂、ローマ帝国初代皇帝オクタウィアヌスの最大の腹心にして無二の友だった青年―――すなわち、マルクス・ウィプサニウス・アグリッパが、英霊となってなお心の内に抱き続ける心象風景の具現。アクティウムの海戦の名を冠した宝具の正体は、つまるところ固有結界の生成だった。
 身長を優に超える翡翠色の津波が、うねりをあげてバーサーカーに襲いかかる。
「――――下らない」
 だが、バーサーカーはそう一蹴した。
 そうして振り下ろした剣―――黒い極光と赤雷を纏った剣のたった一振りが、翡翠色の大波を砕き、ランサーの世界を黒い渦となって蝕む。
「何もかも。ああ、何もかもが下らない!」
 侵食を続ける大海原の世界と、それを砕き、破壊していく黒い極光の、熾烈なせめぎ合いの中で、バーサーカーは吼えた。その一言が、余りにも分かりやすくランサーの逆鱗に触れる。
「貴様―――」
 翡翠の波が、落雷のような唸りを轟かせた。
「バーサーカー! お前は、いま、ここで終われッ! その願いに未来は無い!」
 黒い極光が波に呑まれていく。砕かれる世界より侵食する世界の方がわずかに勝り、バーサーカーの姿が翡翠色にかき消されて見えなくなり、ランサーが決着を確信した瞬間だった。
 にわかに、目の前が切り裂かれるように開ける。世界から、全ての音が消えるような感覚があった。
 最後にランサーが目にしたのは、大海を貫いて現れた一本の黒い長剣だった。


  *

 轟音と共に、足元の地面が激しく揺れた。
 ついで、爆風と閃光が押し寄せる。庭園で激しく拮抗していたセイバーとライダーの二騎は閃光に目を眩ませ、動きを止めた。
 凄まじい濃度の魔力と熱と光が、庭園はおろか北側の丘陵地に至るまで勢いよく吹き荒んでいく。そうしてしばらく、身動きの取れないほどの衝撃波をやり過ごした。
 だがライダーの方がいち早く気を取り直して、音のした温室の方を振り向く。既に原形を留めていないそれを見て、軽く舌打ちをし大きく後ろに引き、サーヴァントの霊基すら食い尽くすという、蕾徒の茨の柵に飛び乗った。しかし茨の檻はライダーの足元でピクリともせず、既に力を失い、軍靴が踏んだ場所から枯れ木のように乾いた音を立てて崩れていく。
「おい、小僧。撤退だ。もう十分だろう」
 それは見下ろしたセイバーではなく、遠い夜の闇に向けて放った声だった。しばらくの沈黙の後、実際の声ではなく念話を通じてマスターが返答する。
『……撤退とは、どこに?』
「決まっておる、小僧の拠点だ。もうこの陣営に肩入れする理由はない。儂はセイバーを押しとどめるという役目を果たしたからな」
『……』
 マスターの沈黙の隙にセイバーの様子をちらと伺う。セイバーは頭上のライダーを気にしてはいるものの、それ以上ライダーに近づいてくる素振りは無い。
『……だけど、蕾徒が』
 不意に脳内に響いたその声に、ライダーは片眉をつり上げた。
「何だと?」
『蕾徒が危ないかもしれない。バーサーカーの召喚した十字軍は真エーテルを含んでいたんです。それをずっと捕食して取り込んでいたら、生身の人間では到底耐えられない……だから!』
 必死さを露わにしていくマスターに、老兵は冷ややかな声で答えた。
『だから、何だ?』
『――――え、』
『儂は言ったはずだ、ラコタ・スー。貴様は沈みゆく船を助けようとして渦に近づきすぎる。情が移れば諸共に沈むぞ、と』
『……』
 ライダーは畳みかけた。
『貴様の、聖杯にかける願いは何だ。思い出せ、なぜ貴様はここまで来たのか。あの哀れな人間もどきと仲良しごっこを続けるためか?』
『それは……』
『潮時だ、小僧。もはやあの槍兵達に勝利はない。狂戦士の宝具を見ただろう』
 唇を噛む少年の姿が目に浮かぶようだった。ライダーはため息を吐き、茨の柵の上から飛び降りて庭園の外へ向かう。
『もし、貴様の願いが、あのランサーのマスターを救う事だと言うのなら儂は従う。だがそれ以上に切望するものをまだ忘れていなければ、今すぐここを立ち去れ』
 それ以上、ラコタから返事は無かった。ライダーは荒れきった庭園を進みながら、霊体化していく。
「ライダー!」
 冬の闇に溶けかかったその姿に、最後に声をかけたのはセイバーだった。ライダーは頭だけをそちらに傾げる。枯れた茨の柵の向こうで、傷一つない剣士は声を上げた。
「わざと、手を抜いていたな」
「―――はて」
 ライダーは一笑に付した。
「それは貴様だろうよ、剣士のサーヴァント」


   *

 夜の闇が見える。
 もうそこには、絢爛豪華な庭園の姿はどこにも見当たらなかった。照明らしいものは全て明かりを落とし、多種多様に茂っていた植物林は燃え尽き、炭となって地面に散らばり、その地面さえ装飾を剥がされ、黒々とした土を晒している。
 濃すぎる魔力によって編まれた肉体が忌々しい。体が、一歩ごとに悲鳴を上げているようだった。全ての臓器、全ての細胞を一度に火にくべたとて、これほどの苦痛は味わえないだろう。
 バーサーカーは廃墟となった庭園の瓦礫の中を進みながら、それでも苦痛をこらえて歩き続けた。あのランサーの霊基の気配は、まだ完全に消えていない。絞り切れるだけの魔力を絞り切って与えた全霊の一撃だったにも関わらず――しぶといサーヴァントだ、と彼は舌打ちをした。その時、温室の敷地の端に積みあがった瓦礫の山から、呻き声が聞こえた。
 歩み寄ると、それはランサーだった。銅色の鎧は砕け、体中から血を流し、胸元にバーサーカーの黒い長剣を深々と突き刺したまま、彼は瓦礫の上に仰向けに横たわっていた。
「……頑健さだけが取り柄だったんだがな」
 ランサーはそう言った。バーサーカーは無言で、乱れた前髪の隙間から槍兵の姿を見ていた。
「だが、それも役に立たなかった。昔も、今も、俺は変われなかった。今度こそは、主の最期の時まで仕える、そう願ったんだがな―――」
 バーサーカーの手が新しい剣を握り、おもむろにそれを振りかぶるのを見ても、もはやランサーは身じろぎ一つしなかった。
 しかし、ふと思い出したように、彼は騎士王に尋ねる。
「お前は結局、マスターの何が気に入らなかったのだ」
 その問いに、バーサーカーは動きを止めた。ほんの少しだけ、逡巡したような沈黙が流れたが、彼はそのまま、答えを吐いた。
「あの女は、無駄が多い」
 闇の中で、かすかにランサーが眉根を寄せたのが見える。バーサーカーは続けた。
「リチャード一世には二つの側面がある。第三回十字軍を率い、人々から獅子心王と称えられ、アーサー王に憧れ、最高の騎士、英雄の具現として座に刻まれた騎士王としての面。
 ―――もう一つは、国を治めたこともなく、自分の国の言葉すら操れず、戦争と殺戮しか能の無い、悪逆非道の王としての面」

「あの女は、俺を狂戦士だと言った。結果、俺は歪んだのだ。戦い、殺すことしか考えられないが、いくら殺せども、あの時のような充足感、満足感は得られない。王であるのに、騎士であるのに、そう振舞えない。
 ……だが。だが、しかし。俺が俺自身の業によって狂戦士に堕ちるならば、俺を狂戦士に堕としたあの女こそ、その自業自得として死ななければならない」
 そうだ。バーサーカーは剣を握り直した。そうだ。その通りだ。自己矛盾も、自己崩壊も、潤わない渇望も、どこまでも排他的になれてしまう狂気も、全てあの女が引き起こした。あの時、召喚の時、どうしてあの無駄な一節を俺の触媒に結び付けたのか。あの余計な一節さえ言わなければ、俺が、俺こそがセイバーとして召喚された。勝利を約束した。正しい騎士王として、かの円卓の騎士王のように。――――あの時と同じように(・・・・・・・・・)
 だが、それも最早どうでもよかった。もう既に、あの女は体内に巣食う真エーテルなぞに身体を食い破られて死んでいる。そしてこれから自分も消滅する。だが何の未練もなかった。どうせ狂戦士として間違えた身だ。聖杯などという歪んだ奇跡を手にしてまで望むものなど、この身には無い。
 バーサーカーは今度こそ、剣を振り上げた。それがランサーの心臓を貫こうとした瞬間、

「令呪を以て命ずる。―――自害せよ、バーサーカー」
 いやに聞き慣れた淡白な声が、闇の奥から響いた。

「――――は」
 彼のエメラルドグリーンの瞳が、瓦礫の山の向こう、庭園の方角からゆっくりと近づいてくる人影をみとめるのに、それほど時間はかからなかった。
 その人影は右腕を前に突き出した奇妙な姿勢で、こちらへ向かってくる。その血に塗れた顔はいたって真剣にバーサーカーを見ていた。
 何故、どうやって、などと考えるよりも先に、息がこぼれた、と思ったら、それはもう笑い声になっていた。
「は、は。ははははは、ははははははははははは!」
 静かな夜に、その明朗すぎる笑い声が響きわたる。人影――空閑灯は、笑いこける自分のサーヴァントを、何の感情もない目で見上げて足を止めた。
 彼女の白い首筋に、黒い剣が突き立てられる。迸った血の向こうに、激怒に震えるバーサーカーの青白い顔があった。
「……死に損ないが」
 灯は自分の動脈を掠めた剣の刃を右手で握りしめて、唇を開いた。
「重ねて、令呪を以て命ずる。自害しなさい、騎士王、リチャード一世」
 どれほど狂気に侵され、自我を忘れたサーヴァントでも、二画以上の命令に逆らうのはほとんど不可能だ。そしてそれは、バーサーカーも例外ではなかった。
 怒りに我を忘れた狂戦士が、言葉にすらならない叫びを上げながら剣を握る。その矛先は確かに、自身のマスターである灯に向いていた。向いていたが、それでも、その切っ先が貫いたのは、バーサーカーの白い軍服の胸だった。
 一瞬のうちに、その白が赤へと染まっていく。堰を切ったように、その口蓋から鮮血が溢れ落ちて、黒い地面に染み渡る。
 自らの心臓を貫き、初めて地に膝をついて、バーサーカーは言った。
「――――俺が……」
 ぞっとするほど静かな声だった。
「俺が、俺であるというだけで……この屈辱を……味わうのならば」

「貴様も、貴様であるというだけの理由で……救われず、空虚なまま、何も得ずに死んでいけ……!」
 ずるり、と血に塗れた剣が引き抜かれる。バーサーカーは左胸から噴き出す血を気にもかけず、崩れていく霊基の最期の力で灯に向かって長剣を振りかぶった。
 だがその切っ先が灯に届くことはない。
 彼女の喉笛を裂く寸前で形を失った剣は、そのままバーサーカーの手の中から滑り落ちるように消えた。
 灯が、小さく呟く。
「……すべて、私のせいですから」
 それが、バーサーカーが最後に聞いた言葉だった。


 *

「すべて私のせいです。私は失敗した。間違えたのは、私」
 既に虚空となった夜闇の中へ、灯は淡々とした口調で吐露する。
 ……貴方を、軽んじていた。それは確かだ。
 私の本質を見抜き、それを逆手にとって私と敵対するほどの理性が残っているとは思っていなかった。それは私のミスで、間違いで、傲慢だった。
 失った三画の令呪を惜しむように、右手の甲を撫でる。
「だから、失敗した責任を取るのも私。間違えた形で喚んでしまった貴方は、私自身の手で消さなければ。――それが、合理的というものでしょう、セイバー」
 その問いかけに応えるように、灯の背後で青年が姿を現した。金髪に、沈んだグレーの瞳と、赤い剣をもつ青年は無表情のまま、自分より低い彼女の背を見下ろしている。
 セイバーが発した答えは簡潔だった。
「私はその問いに答える義務を持たない」
 灯はセイバーの方を振り返らないまま、目を伏せた。そしてそのまま、未だに激痛の余韻が残る体を引きずるようにして、無機質な御伽野家の工房へと歩を進める。
 その後ろを、やはり押し黙ったまま、セイバーも歩いていった。

Fate/Last sin -24

Fate/Last sin -24

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
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