新世界の個人
私は相談に乗っていた。これから、どう時代を生きていくのが、僕らの正解だろうか。いまさら、何をどう思う事がなんの意味を成すのだろうか。
現実世界と仮想世界、どこでどう稼ぎ、どう生きるのか、都市の生命の在り方は極端に分岐して、年齢、性別、職業それまた広がりをもち、多様化してきていた。
仮想現実に生きる人は、仮想現実に適応して生きる。つまり、現実を動機としないで、機械によって物理的計算をされたものによって形作られるその世界を、世界そのもの、まるで本質のように扱い、そこで情報のやりとり、生活のための資源や、物資を手に入れ、技術や技能、学業に従事世界を学んだ。
その時代、さらに現実とは違う、変わった世界、仮想世界ででうまれた人間の一人であるアル君は、こんな風に迷っていた。
「これから、どうやって世界を生きて行けばいいんだろう」
「何を迷っているの?」
そう、私は質問する事にした。返答には時間がかかった。
午後のよう気に乗せられて、小鳥が電信柱の上、電線をつたい左にずらっと行列を並べて歌う、すずめたちの午後の歌声だ。それらは買い物をする主婦や、山の上にある学校や、その向こうの都市の色とりどりの服装をきたものたちの街の街頭、雑踏を描写した。
「どうすればいいんだろう」
ひざのうえにひじをおいて、両手のひらを互いにぎゅっとだきしめて、その上にあごをのせた白髪の一人の少年が悩みをかかえたまま、昼間の街燈のしたのベンチにいて座っている、彼は人生について悩んでいるようだった。もっともその悩みは、この前に彼が話していたことと地続きのものだった。
そこから見上げてみる事のできる近くの敷地に立つ高校の、使われてない何かしらの準備室の換気のためにあけられた窓のカーテンがぐらぐら揺れていた。
「どうしよう」
私は返答に迷った。だってそんな事は知りようがないのだ。
「医療の発展によって人生は、豊になり、そして生きるすべも、職業も多様化した、そして何より、長寿になる」
「うん」
私は、科学仮想都市、仮想世界の中の【ネットスフィア臨時政府】から任命された特別相談員。主にネットに生命を描写し、神経をつなげたヘビーユーザ-の相談にのっている。だが回答はない、私たちカウンセリングを職とする者たちに求められるのは、創る事ではなく、その人の心にあるものを導き出す事だけだ。
【わからないんです、これ以上生きて何になるのか、楽しい事もあるし、ドラマもあるし、まだ興味のある事もある、ただそうじゃなくて、あそこに戻る理由が】
そういって、座ったままの姿勢でアル君という彼は都市を指さした。私は彼に向き合って、只棒立ちしていて時々公園中央の時計をみていた。
【僕らは人生を何度でもやり直せる、けれど、僕らは、仮想でも現実でも、望む姿形になれる、だからこそ僕らは、本当の自分を失ってしまったんだ】
そういわれて、相談員の答えはきまった。
(誰もがそう思う時代だから、そういうものなのよ)
相談者は納得した。公園の中央には人はまばらで、日光はもうゆっくりと沈み始める傾向にはいっていた。しかし相談員の心のわだかまりは、日増しに大きくなっていった。
新世界の個人