わがままはやめよう
墓場山 明は高校生の冴えない男子である。彼女がいたことは無い。
そんな彼にまたとない素晴らしい出来事が訪れた。生体工学技術者である親戚の叔父さんがアンドロイドの商品化を目指していたのだが、試作品として美少女型アンドロイドを作って明にプレゼントしてくれるというのだ。アンドロイドの原材料は人体の細胞であり、ちゃんと命と心を持ち、人間との間に子供まで作れる。実質人間だ。
それでいて容姿や精神は作成者の思い通りに調整出来るという都合の良さ。明の理想そのものの美少女が手に入るというわけだ。当然、彼は有りがたく頂くことにした。
「年齢はお前と同じでいいか?背丈は小さい方がいいか?」
叔父さんは細かく注文を受けてくれる。もっとも、叔父さんとは仲が良くて明のことはよく知っているので、聞かずとも大体の見当はついているようだった。
「よし、性格はキツくてツンデレで、口が悪くてワガママだけど明のことを好きで、明に対してだけはビッチ気味だが素直になれないからちょっとやそっとのことでセクハラだと言って激怒する感じにしよう。」
「さすが叔父さん、まさにそれが俺の欲しかったものだよ!」
「髪の毛は金髪ツインテールでいいな?」
「もちろん!あ、ところで歳は二個下がいいんだけど。」
「わかった。胸は?完全なぺたんこから非現実的巨乳まで出来るが。」
「じゃあ巨乳で。ただし超乳というほどの大きさじゃなくて、巨乳と爆乳の中間ぐらい。あと、胸が大きすぎることにコンプレックスを持たせてよ。」
「よし。これで大体固まったな。オプションでふたなりに出来るけど?」
「そのオプションはいらないな。出来るんなら母乳が出るようにしてほしい。」
「可能だ。じゃ、会社に帰って作りはじめるから。二週間くらいしたら届けるよ。」
それからきっかり十四日後、明の家に金髪ツインテール巨乳ロリ美少女が来た。
「明、何ダラダラ寝てんの?アユが来てやったのに歓迎ケーキの準備も無いわけ?本気で使えない!」
いきなり罵倒してくるアンドロイドだが、ちっとも不快でないどころか、明は極楽浄土に行ったごとく無上の幸福の中にいた。金髪ツインテールアンドロイドはアニメ美少女が現実に出てきたようなこの上無い理想の容姿、のみならずとてもいい匂いもするし、声もちょっとびっくりするくらい可愛い。
アユカと名乗るアンドロイドはいきなり明の頭を足の裏でぐりぐりしたが、そんな無礼きわまりない扱われ方に腹も立たずむしろ嬉しい。
「さっさとケーキとプレゼント買ってきて!私たちの出会った記念のプレゼントなんだから何買ってきたらいいか言わなくてもわかってるわよね?」
「え?なんだろう………どんな物が欲しいの?」
「は?何でもいいわよ明の気持ちがこもってれば!給料三ヶ月分の値段なら許すわ!」
なかなかハイレベルな女帝体質であった。とはいえそれも明の好みに合うので何ら問題は無い。しかも彼女がヒステリックにわめくたびに小さな体に不釣り合いな巨乳がぶるんぶるんするし、いいことずくめである。
「でもなあ、さすがに十二万は高すぎるよ。せめて二万で許してくんない?」
「はあああ?!月に四万しか稼いでないわけ?」
「だって、高校生だしさ………」
「あの………ね、あのさ、別にアユにはどうでもいいんだけど、明もさ、そのうち……けっ、結婚……とか、するでしょ?アユ、結婚式はちゃんと盛大にした方がいいと思うし、そうすると最低一千万は必要でしょ?だからさ、明にはもっと稼いでもらわないと困るのよね。」
なんと、いきなりデレた。明は顔がニヤけるのをこらえきれない。人生の中で今ほどの幸福感を味わったことは無かった。
「結婚は十代のうちにするのがいいってアユ思うな、なるべく若い方がいっぱい子供生めるし。一年以内にお金貯めてよね。あ!別にアユには関係ないけど!あとさー、ジロジロ人の胸見るのやめてくれる?アユ、胸が育ちすぎなのが悩みなんだから見るの禁止!何で顔そらすのよアユの顔見たくないの?こんなに可愛いのに何が不満なのよ!」
明の幸せ新生活が今、始まる。
そして数日が過ぎた。
「おじさん。」
「あれー、明、どうしたんだよ会社まで来て。どうせならアユカも連れてくればよかったのに。」
「いや、内緒で相談したいことがあって。実はさ、アユカを引き取ってもらいたいんだ。」
「え?何か不具合があったの?」
「そういうんじゃないけど。もう一緒に暮らせないんだ。」
「問題が起きたのか?」
「うん、別に、特にトラブルがあったとかじゃないんだけどね。俺、アユカのことが心底嫌いなんだ。一緒にいるのが耐えられないんだ。」
「何でだよ。明の好みそのままじゃん。本物の女と違ってすっぴんだと全然可愛くないとか胸が上げ底とか、キャラを演じてたとかみたいなガッカリは一切無いし。」
「でも、駄目なんだよ。あのワガママにだんだんイラついて我慢出来なくなって、一日で嫌いになった。はじめて知った、人間て相手がわがままなだけで嫌いになれるんだね。どんなに魅力があっても、それでも嫌いになるんだ。」
叔父さんは明が本気で言っていることがわかり、引き取ることを了承した。
「でもさ、おじさん。」
「わかってるって、廃棄処分とかしないよ。会社の住み込み従業員扱いにして一生面倒見ることにするよ。その代わり、週に一度くらいは会いに来てやれよ。アユカはお前のことが大好きなんだから。」
「わかった。でも、性格少し変えれないかな。あんまワガママ言わないようにさせてよ。」
「いや、無理だな。」
叔父さんは言い切った。
「基本コンセプトはいじくれないんだよ。そんな便利なもんじゃないんだ。アユカはいつまでもお前のことを好きなままだし、死ぬまでわがままなままだ。」
「マジかよ。あのバカ女、学ばねーのかよ!」
明はいきなり横の壁に蹴りを入れた。叔父さんは明のそんな態度ははじめて見た。極度のストレスが現されているのを目の当たりにして、彼の嫌悪感が本物であることを実感した。
わがままはやめよう