スマート・フォンキャラクターの世界線
「キャラを演じているような気がする、それは当然としても、どこかぎこちなく、むしろそちらのほうが私の本性のように見える事がある。この相談所ではAIに関する悩み相談を受け付けているという、それをきき、わらにもすがるおもいできたんです」
夜7時、仕事帰りにふとたちよったというサラリーマン風の男、彼が吐き出した悩みはすべて、それが男性の悩みだという。体面にも相談員らしき男性が座る。
しかしそれは当然だと、対面の男はおもった。白い室内、横をくぎる衝立のせいで、有名な絵画のコピーの壁飾り以外には、時計以外に何も見当たらない密室、それは密室そのものだ。パイプ椅子が簡素に二人の腰元にたっていた。
「ごほん」
小さな室内におしこめられた男二人。強化ガラステーブルをごしにガラスの線と垂直、正面に座る。
この時代、それは近未来。その近未来においてしつこいくらい、幾重にもくりかえしくりひろげられた問、対面の医者男性は白衣のようなものをきて、相手のことばに丁寧に相槌をして返答をした。
(仕方ない、私の仕事はそれだ)
ただ繰り返されるといに、相談者自体の疑問を見つけること、それが答えだった、それですべて解決する、それも社会全体の縮図だからだ。ただ相談を聴けばすぐに話はおわるのだ。
「ごほん」
相談者は風邪気味のようだ。、マスクを着用している、だから表情は読み取れない。
【技能習得型AI】
この時代スマートフォンに一台ごと性格をもつAIが搭載されている、それが時に誤作動を起こしたり、その保有者と相性がミスマッチする事がある、そういうときのための【技能習得型AI相談窓口】をうたうこの民間企業、民営相談所は、いつだって相談にのる、しかし、矛盾している。彼のAI、彼のスマートフォンが手にしている技能とは、彼にもうひとつの性格を目覚めさせるための指南、アドバイスだった。
「相性が、わるいんですかねえ」
ぴしりとアイロンのかけられた平ぺたくしわひとつないスーツが男性の繊細さをきわだたせた、さらに左胸ポケットからハンカチをとりだし、男性は額に流れる汗をぬぐった。相談者のといに、店員はひとつひとつ、丁寧に回答した、ただ、ひまつぶしにこんなことを考えながら……。
【私たちは、必死さを失ってしまった、それもこれも医療が発達して、あらゆる市民が、150年もの平均寿命をてにしてしまったからだ】
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