戦友【長崎原爆】13

Shino Nishikawa

戦友【長崎原爆】13
ビートバンビの醗は、寝ている時に、タイムスリップした。
そこは、1945年8月9日朝8時だ。

醗は長崎駅の時計と、売店の新聞で、今、自分がいる場所を確認した。

醗は世界的バンドマンなので、こういったスピリチュアルな出来事には慣れている。
かなり冷静だった。

2度目の原爆が落ちる朝とは、思えないほど、駅には、通勤の人達が沢山いた。
広島に原爆が落ち、終戦後のために、すでに動き出しているのだ。

醗は、持っていたバッグに、ポッキーが入っていたので、食べた。
まわりの人達が、不審そうな顔で、醗を見た。

醗は、ふらふらと散歩し、この後、焼けるであろう、神社に参拝したりした。
茶屋でお茶を飲んだ。

現代の硬貨を渡すと、
「めずらしいわねぇ!」
と、女将さんが笑いながら驚いた。

午前10時15分。
バンドメンバーの利夫と、染ちゃんに会った。
「おっそい。」
「もーすぐ落ちるよ。」

「あ、そうだよね。」
「は?それ本気で言ってんの?」

「醗っちゃん。俺達がここにいるってことは、ビートバンビはぁ、解散ってことだぞ。」
「まあ‥解散というより、壊滅だろうな。」
醗が答えると、染ちゃんはクックッと笑った。

「え?てか、これ、全員いる?バンビがいないじゃん。」
「さっき、チャンポン屋で働いてた。」
「そうなの?じゃあチャンポン、食べに行こうよ。」

「うん‥。」
「まあ、こうなったら、仕方ないしな。」

「いらっしゃいませぇ!!」
バンビが元気よく、挨拶した。
「ああ!」
「おおお~。」

3人とバンビは、軽く挨拶した。
バンビの話によると、バンビは以前から、夢の中で、この時代の長崎に来ており、この店で働くのは5回目だそうだ。

「お待たせ致しましたぁ。」
バンビは、3人の前にチャンポンを置いた。

「今、10時40分。早く食べて。」
「うん。俺、こういうの、5分で終わるから。」
利夫が言い、醗が答えた。

「でもさー、ホントに、11時2分に、原爆来るのかな。」
「来る。」
バンビが聞き、利夫が答えた。

「確実に、来る。」
利夫はまた言った。

「そっか。じゃ、早く食べよ。」
醗が言い、チャンポンを急いで食べた。

「あ、テレビないの?」
「うん。今、戦時中だから。」
「そっか。」
醗は、面倒くさそうに、楊枝を口に入れた。
染ちゃんは嘘ゲップをした。

10時55分になり、利夫と醗は、なんの意味もなく、じゃんけん遊びを始めた。

「はああ。あと1分。」
「カウントする?」

バンビがカウントをした。

「あれ、来ないね。」
「やっぱ来ないじゃん。」

ピカッ

ドーン

とっさに、3人は、テーブルの下に隠れたが、自分の命のことばかりを気にしすぎて、バンビのことを気にしていなかった。

バンビに、熱い油がかかってしまっていた。

「バンビ。」
バンビは、息をはあはあした。

3人はバンビを連れ出し、水をかけた。
バンビは、はあはあしていたが、声を出し、
「いいよ、俺のことは。」
と言った。

「ダメ、よくないよ。」
外は、大丈夫な人もいたし、火傷をした人をおぶっている人もいた。

時折、熱風が吹く。

4人の髪の毛は、ちりちりになった。
気づけば、顔は油でべっとりしていて、煤のような物がついていた。

「すみませーん。誰か、助けてください!!」
「すみません、仲間が死にそうなんです、お願いします!!」
染ちゃんと利夫が叫んだ。

「すみません、こっちも。」
「こっちも、こっちも。」
他の場所からも声が聞こえるが、みんな人をおぶったり、支えたりしながら逃げていく。

「すみません、こちらです。お願いします!」
醗が叫ぶと、男が来た。
「大丈夫ですか?」
「仲間が油をかぶってしまったんです。」
「それは大変だ。すぐに水を持ってきましょう。」

弱ったバンビが言った。
「やっぱり、醗ちゃんが呼ぶと、すぐに人が来るね。」
「うん。バンビはもうしゃべらなくていいよ。」
『長く一緒にいたいしさ。』 
バンビは安心したように、気を失った。
『バンビのこと、愛してる。』
醗はバンビの手を持った。

そのうちにサイレンがなって、黒い煙がもくもくと上がりだした。
みんな、かけてくる。

雨が降り出した。

「雨だ。」
利夫は空を見上げた。

醗は、手の甲で、雨をぬぐった。

さっきの男が戻ってきた。
「一応、水を持ってきたんだけど‥。」
「ありがとうございます。」
「こりゃ、雨の方がいいか。」
「もうどっちでも同じですよ。」
染ちゃんは言った。バンビが息を引き取ったのだ。


「死んだな。何万人も。」
機長は、感情を失くした目で言った。
「本当ですか?実感がわきません。」
副操縦士は答えた。
原爆を落とした、アメリカの飛行機の中で、みんな自殺した。
機長は、まっすぐ前を見たまま、操縦をしている。
金髪の男が、機長の頭に拳銃を当てた。
「止めろ。船が落ちる。」

「どうかな?」
パン
金髪男は、副操縦士を撃った。
「次はお前の番だ。」
金髪男が言った途端、
機長は振り向き、金髪男を撃った。
飛行機は、機長だけになった。

機長は、飛行機をアメリカに運び、自宅の台所で自殺した。
原爆のことは、仕方なかった。アメリカを守るためだ。
軍の基地に原爆を落とすという計画もあったが、そんなことをしても、報復が来るだけで、戦争は終わらない。

機長のエノラは、強い男だった。

エノラは、日本のスイレンが一番好きで、死ぬ前に、スイレンの花を思い浮かべた。
水に浮かぶ、真っ白なスイレン。
その水の中には、ぼんやりとした東洋の女性が見える。

エノラは、銃を押したが、ダメだった。
しっかりセットしていなかったのだ。

エノラはトイレに行き、鏡を見た。
前歯は、ちゃんとある。

でも、トイレの壁に血がついているのが、不思議だった。

「なんでだっけ?」

「ねえ、どうしてだったっけ?」
エノラは、幻想の思い出の相手に話しかけた。
「さああ。自分で撃ったんでしょう?」
「ああ、そうか。」

『だってさ、原爆が落ちた時、トイレにいた人だっている。』

気づくと、エノラは、美しい花畑にいた。
目の前には、幻想の思い出の相手がいる。

「あれぇ?どうして僕はここに?」
「ええ?だって、一緒にここに来たでしょう?」

「君は、誰だっけ?」

「めんどくさいわねぇ。」

思い出の相手は、怒ったように、花冠を作っている。

エノラは、その人を見つめた。
ここが天国なら、もう生まれ変わりたくないと、エノラは思った。

[A LA LA LOVE] by Shino Nishikawa

戦友【長崎原爆】13

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