戦友【南京】12

Shino Nishikawa

戦友【南京】12
トウナと大ちゃんは、こそこそと話していた。
「僕、中国人みたいなオバちゃんに言われたんですよ。ネズミはまだ生きてるかって。」

「アーティさん、南京の虐殺の時、南京にいたみたいなんです。」

トウナはうつむいた。何か考えている様子だ。
「戻れるかな?」
「戻れませんよ、だって今までで、だいぶ分かったじゃないですか。歴史は変えられないって。」
「変えられないというか、日本が弱すぎなんだよ。」

なんと2人は、大きな雷の時に、タイムスリップし、2000年代から来ていたのだ。
高選手と日比野も同じだった。
他の者は違う。



アーティは元々、中国人だった。
日中戦争の時はまだ15才で、南京近郊に住んでいた。

日本は、天皇が中心となって、領土を広げ、世界日本大帝国をつくろうとしていた。満州鉄道を爆破し、満州事変を起こすが、自作自演だと、中国にバレてしまう。
「そっちにいいがかりをつけ、戦争を始めるのだ。なんでもいい。農民の反乱でもいい。」

盧溝橋事件は、本当に小さな銃戦だったが、時を待っていた日本が、大きく反撃した。
これが、日中戦争の幕開けである。

自分がやっていることが怖くなった、若い兵士達は、ここで何人か自害してしまった。

「日本人は、他国の者より強い。あなた達は、必ず勝てます。」
天皇は言った。
勝てると信じ込んでいたが、中国軍は本当に強かった。
上海戦では、多くの死者を出してしまい、天皇は怒った。

「負けて帰ってきたら、必ずあなた達を処刑し、首を飾りにする。」

若い兵士達は怖くなった。
負けたとしても、会いたい家族、恋人、友人がいたのだ。

夜は、大きな声で泣き、その泣き声は辺りに響いた。
岸道さんも、元々中国人だった。
食堂を経営している伯父と暮らしていた。
他の家族はみんな、どこかに逃げ、いなかった。

岸道さんは、泣き声を聞き、おろおろとさまよった。

次の日、明るくなるまで、その場にいた。
空を見て、考え、何かを思い、日本人になることを決めた。
伯父は、店を閉めた。
遊牧民になるという。

中国軍と日本軍は似ていた。

岸道さんは、中国軍の服を、日本軍の服に縫い直した。
以前から、日本語は得意だったので、簡単に軍に紛れ込めた。

天皇の言葉に恐れた、日本軍は、南京への空襲を始めていた。

岸道さんは、内心、よくないと思ったが、何も言わなかった。

11月。杭州湾で、中国軍を背後から襲うように、大佐に助言したのは、岸道さんである。
中国軍は南京方面へ走った。

日本軍も後を追い、途中の農村部で、食料などを強奪した。
若い兵士達は、悪魔のようになってしまっていた。

岸道さんを中国人だと見抜いたお婆さんが、岸道さんに言った。
「あんた、ちょっとこのサルをなんとかしてくれないかい。」
お婆さんは、家宝を奪われそうになっていた。

お婆さんは手を放そうとしないので、日本軍の小僧が、剣を振り下ろした。
「アアーッ!!」
でも、剣の切れ味は悪く、お婆さんの腕は切り傷を負って、血がでた。

岸道さんは、中国語で何か言いながら、小僧を放した。
「あとで殺す。」
岸道さんは日本語で言った。

お婆さんは泣いている。
岸道さんは、手当をした。

パンッ
お婆さんの旦那が、小僧を撃った。

「えっ。」
『あんた、中国のスパイか?』
「ああ‥。」
『中国をたのんだぞ。こんなサル共は皆殺しだ。』

しかし、夜は、岸道さんも腹が空いたため、略奪した食料を食べた。


途中、道に迷った時には、さりげなく、岸道さんが案内した。

ついに、南京での戦いが起こる。
日本軍はなぜか強く、中国軍は、街の男の足を縛って、防戦させた。
15才のアーティは、その者達の縄を解いていた。
しかし、司令官にバレてしまう。
アーティはとっさに、
「この人は下痢です。」
と言った。
司令官は頭をおさえ、「いいぞ」と許した。

街の人もずいぶん日本軍に殺されたし、仲間撃ちも起きた。
日本軍の一部は、とりあえず引き上げることになった。

アーティは、日本軍の仲間に入りたいとなぜか思い、ついてきてしまった。
もちろん、岸道さんも日本軍について行った。

岸道さんは、焼けた中国の民家の庭を掘り、金の入ったツボを奪った。
日本で暮らすためだ。

船の中で、アーティに気づき、金を渡した。
「というか、一緒に暮らす?」
岸道さんが言うと、アーティは、微笑んだ。

翌年、国家総動員法という法律ができる。

国民のモノは、国のモノという法律だ。
みんな、財産をどこかに隠したりした。

岸道さんもお金を、河原の穴に隠した。
どうせ人の金だ。

でも、岸道さんは、原爆の焼け野原でまた、民家の庭から、金の入ったツボを盗んだ。

終戦後は、その金で、マニラに行っていたリオトと酒を飲んだりした。

「岸道さんって、家族はいないの?」
「いないよ。前は、カワイイ子ネズミと暮らしていたけど、今は、どこかに行っちゃった。」
「じゃあスキな人は?」
「カワイイ人がいたけど、この前、見たら、ハゲになってた。広島原爆にあったから。」
「かわいそう。もう、いいの?」
「まぁ、その子も、旦那さんを亡くしたようだから、会いに行ってもいいか。」

「そうした方がいいよ。」
リオトは、熱い焼酎を飲んだ。

次の週に、ジナの病院に、花を持って行った。
しばらくして、2人は付き合うことになった。

ジナは、名前をジズに変えると言った。
「そんなに変わらないじゃん。」
と、岸道さんは笑った。

2年後に、2人は結婚した。
岸道さんは、ジナが、3年ほどで死ぬと思ったが、死ななかった。

孤児の鞠子や周徳郎を養子に迎え、一緒に暮らした。

リオトとの酒飲みは、最近はもうない。
リオトは、神戸にカフェをオープンし、そこで、一緒にコーヒーを飲んでいる。

戦友【南京】12

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