遺言士 ー最期の景色ー
言葉が暴れ回っている。
自分の身体の中を言葉が暴れ回っている。
苦しい?痛い?
それすらわからなくなった感覚の中で、ただ君の顔だけが浮かんでは消えて、
痛々しく苦い後悔だけが思いの中を冷水のように流れていく。
こんなところで終わるのだろうか。
自分が今までなしてきたこと、思っていたこと。
何もかもここで途切れるのだろうか、
そしてそんな終わりを受け入れようとしている自分に恐ろしさを覚えていた。
今更?恐れている?
あれだけたくさんの最期の言葉を届けてしたのにな、
まるで心の無い人形みたいに言葉を受けては届けて、
たくさんの人々の色んな世界の終わりを見てきたのに。
今更?
自分の最期を恐れていると?
今思えばあえて考えて無かったのかもしれない。
一番喪失に近い場所にあって、自分の喪失を考えないなんて、なんて愚かなんだろう?
こんな自分でも死ぬのは怖かったんだなぁ…。
何だかはじめて自分が生きていることを思い知らされた。
今までも多く己の危機には行き当たったものの、
ここまで危うい状態になったことは無かった。
それも、まぁ…今のこの危機はどうとでも回避できたはずで、自分で追い込んでいるのだから、
今更危機感を覚えていること自体、笑いとばしても良いのだが…。
まだ生きたいのならこの身体の中に刻まれたこの「遺言」を渡してしまえば良い。目の前にある届け先に。
それを望んでないのは誰でも無い、自分自身だ。持っておきたいなんてはじめての感情を覚えたものだから…厄介だ…。
目が霞む、身体の中を暴れる熱が更に暑さを増していく。
終わらせてば良い。このまま。そうすれば役目も何もかも捨てて楽になれる。
「こんな終わりを望んでたんだ…。これで良いんだ。」
そう自分に言い聞かせるように呟いた後、意識は深海に沈むように遠退いていった。
遺言士 ー最期の景色ー