太陽花

HR

“ひまわり商店街”。

そこにはその名前にふさわしく、笑顔あふれる商店が立ち並ぶ。

その中にある一軒家。
5人家族が住む家。

“樋浦”と書かれた表札。


「お母さんおはよっ」

小学4年生の長女、明里は、着替えるなりダイニングの隣にある畳の部屋へ真っ先に向かう。

簡素な仏壇がある仏間。遺影には女性の綺麗な笑顔。
この家の母親である。

明里は写真の前に座ると手を併せ

「外は良い天気だよ。今日は悠にぃとお買い物に行く約束してるの。今から楽しみです」

えへへ、と写真に笑顔を向ける。
母親に笑いかける。

そこに、朝食と弁当を作っていた高校3年生の次男、悠輝が

「明里、ご飯用意してな」
「あっはーい!じゃあお母さん」

慌ただしく振り返っては、また母親に向き直り

「今日も明里は元気に生きてるよ。生んでくれてありがとう」

とびきりの笑顔で感謝をした。


悠輝と明里が朝食の支度をしていると、ワイシャツ姿の父親、昭義がネクタイを結びながら階段を降りてきた。

「おはよう」
「おはよー」
「おはよ」

挨拶を交わすと、昭義は

「明里ー、お母さんに挨拶したかー?」
「したよっ!一番にしたよ!」

明里は心外だと言うように即座に答える。それに昭義は

「じゃあ悠兄ちゃんには?」
「…はっ!忘れてた!おはよー悠にぃ!」

あまりに大きい明里の反応と動きに、挨拶を向けられた悠輝は思わず笑って

「おはよう」

それでも応えた。


「ちょーっ!!何で起こしてくんないの!」
「起こしただろー。ちゃんと食ってけよー」
「分かってる!」

慌ただしく階段を降りて来るのは、中学2年生の三男、陽太。

「いただきます!」

かっこむように朝食をとり

「ごちそうさま!」

あっという間に平らげると、悠輝の作った弁当を持って仏間に行き

「今日朝練なのに寝坊した!から急ぎでごめん!行ってきます!」

しっかり手を併せて母親に報告すると、まるで嵐のように去っていく。
その背中に

「行ってらっしゃーい!」
「気をつけろよー」

明里と昭義は声をかけた。


「景にぃは今日ゆっくりの日?」

朝食をとりながら明里が聞くと、悠輝は頷いて

「昨日遅くまでレポートやってたみたいだしね。最近忙しいらしいよ」

いただきます、と食べ始める。明里は

「最近景にぃと会ってない気がする…」

むぅ、と口を尖らせてご飯を食べると、昭義は

「ご飯は笑顔で食べなさい」

明里の頬をつつき、やさしく笑った。

「悠兄ちゃんがせっかく作ってくれたんだから。景兄ちゃんも今日帰ってくるのは早いみたいだし」

な、と言うと、明里は笑顔になり

「…はいっ」

元気よく返事をした。


明里と悠輝と昭義は一緒に家を出る。

徒歩の明里と自転車を押す悠輝は左にあるそれぞれの学校へ、昭義は歩いて右にある駅へ向かう。

別れる際

「いってきまーす!」
「行ってらっしゃい。悠輝」

明里に応え、昭義は悠輝を呼ぶ。振り向いた悠輝に

「進路相談、ちゃんとしてこいよ」

少し怒ったように言った。悠輝は少し目を見開いた後

「…行ってきます」

微笑んで言った。
自分を待つ明里の元へ行く。

「……まったく」

昭義はため息をついた。
駅へ向かう。


大きなあくびと共に、誰もいないリビングへ降りてくる。
大学3年生の長男、景一は部屋着のまま仏間へ。

母親の写真の前に座り、一通りの儀礼。
手を併せ目をつぶり、再び開く。笑顔の母と目が合った。

「…おはよう、母さん」

景一は微笑む。

「今日も一日、家族全員が笑顔で過ごせるようにさ、見守っててよ」

一度、目を伏せる。
それから

「…生んでくれてありがとう」


心からの感謝を
きっと届くと信じて

太陽花

太陽花

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
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