向日葵の季節。
prologue ―序―…現在…
「ありがとうございました」
中年の男性とその娘がペコリと頭を下げる。
「おぅ、体気ぃつけろよ」
「はい。では」
「じゃあな」
そう言って医者らしい若い男は手を振った。
「あの先生、若いのにすごいわね。ちょっとカッコイイし。
ちょっと性格は…あの、すごく、明るいけど」
病院を出ると娘は話題を作るようにそう話し出した。
「そうだな。すごい先生だ。ずっと治らないと思っていた
持病を簡単に治してしまった。
でも…あの先生の本質はそんなに明るいものじゃないはずだ」
父が唐突に言った。
「え?どういうこと、お父さん」
「私は長年教師をしてきたから分かる。
彼は心に闇を持った人だよ。私達のためにわざと明るく振舞ってる
何があったんだろうね…」
「?」
娘は父の言葉を聞くと首をかしげた。
新患者…過去…
今年も向日葵が咲いた。
とても美しく、力強く。
でも俺が見る患者たちは脆く、儚い。
今日もまた入院患者が増えた。
名前は、確か…小鳥遊、夕紀。
年は俺と同じくらいだったな。
癌患者。若いのにねぇ。俺なら助けられるけど。
あのジジィとかにやらせちゃお終いだな。
俺の担当にはならないだろうし、いいけどさ。
↓
……3時間後……
俺が主治医かよ。確かに俺今担当いねぇけどさぁ
他にもいんだろ、他にも。
俺みたいな若手に癌患者任せるかフツー。
まぁそれだけ俺の実力が(?)認められてる(?)って
ことだけど。
最近ヒマだったし、早期発見でそこまで状態も悪くなさそうだし。
まだ向こうには知らされていないだろうし、昼寝でもした後で
顔出していくか。
顔合わせ
この間風邪のつもりで病院に行った時、
自分が癌だと言うことが分かった。
それが1週間位前。
入院まではとても早く感じられた。
仕事も休みたくなかったし、仕事帰りの友人との他愛もない話が
出来なくなるのはとても辛い。
癌は少しずつ私の大切なものを奪っていく。
きっと最後には私の命まで持っていってしまうのだろう。
そんなことを考えながら窓から見える空を見上げる。
入道雲の沸き立つ真っ青な空。大好きな空も見ることも出来なくなるのかな。
それは…いやだな。天国じゃ見下ろすことしか出来ないだろうし。
ガラッという音を立てて病室のドアが開いた。
入ってきたのは私と白衣を着た私と同じくらいの年の
スラッとした男の人だった。
「どうも」
「あ、こんにちは」
「主治医の中村です」
その中村さん、は淡々と自己紹介を済ませた。
「病状をまとめさせてもらうと、癌の早期発見で、
まだそれほど悪化はしていない、間違ってないですか」
「はい。」
「進行は薬で抑えますので食後に1回ずつ飲んでください。
後で看護師に渡しておきます。何かあったときは
そこのナースコールで読んでください」
業務連絡~業務連絡~って放送でもしてるのか。
「では私はこれで」
イマイチよく分からない先生だ。
向日葵の季節。