カドヤ探偵事務所

HR

最初は、罰ゲームだった。
女装して街に出る、なんてくだらない罰ゲーム。
屈辱以外の何物でもなかったハズだった。

しかし

「おっ、可愛いね!」
「今ヒマ?」
「誰か待ってんのー?」

びっくりするくらい絶えずナンパされるのだ。


最初は戸惑ったが、見事に引っ掛かってくる男共に対する優越感は尋常じゃなく
気付けば月に1度は必ず女装をして、ナンパの多い都会に繰り出すようになっていた。


今日も同じ。
可愛い恰好をして、有名な待ち合わせスポットでケータイをいじる。


しばらくして、視線を感じた。
ふ、と顔を上げる。

人波の中、20代半ばくらいの、なかなかのイケメンと目が合った。
しばらく見られる。

(引っ掛かったかなー?)

俺は内心ほくそ笑んで、彼にニコッと微笑んでやった。
するとどうだ、彼は周りを見回すと、人混みを避けながらこちらに向かってきたではないか。

(おーおーさすが俺)

いつものチャラいナンパ男と違って、見た目は清楚な好青年だ。

目の前に立たれる。
じっ、と見つめられて


「あんた男だろ」

突然、迷いなく言われた。


「…!?!?」
「一瞬迷ったけどね、クオリティ高いし。ま、普通は気付かないよ」

平然と言いながら隣に来て壁にもたれる。

「なに、趣味?」
「……」
「まぁいーけど。好きでやってんじゃないんだったら力貸すってだけの話」
「……何で分かった」

絞り出すように聞く。
バレた恥ずかしさと初めて味わう屈辱に、俺はもう色々限界にきていた。

「んー、体型、服装、振る舞い、癖、顔、全部総合して女のコとして考えるとありえなかったんだよね。こんな女のコいないもん。ただ女装した男って考えたらピッタリだった」

これ以上は企業秘密、と笑う。

「…あんた警察…?」
「まさか。組織は苦手だよ。しがない探偵さんです」

よろしくね、と胸元から名刺を出して渡される。
確かに“カドヤ探偵事務所”の文字。そして

「…門谷夏樹…」
「うん。じゃあキミが女装してるのバレたくなかったら、今からここ行こうか」
「……は?!」

顔を上げる。

ありえない。
なに言ってんだこいつ。

「あぁ、まぁここで大声で『この人実は男です!』って叫んでも良いし、キミの家の人にバラしても良いし、キミの学校に写真バラまいても良いんだけど」
「ちょっ…、お前ふざけんなよ!!」

小声で怒鳴る。
そんなことされたらたまったもんじゃない。
好きでやってるとは言え、友達にも家族にもこんなこと言えるはずない。

「…なに企んでんだよ」
「そんな怯えるほど悪いこと考えてないよ。仕事を手伝ってほしいだけさ」

にっこり、嘘くさく笑う。

「仕事…って、探偵?」
「そう。じゃあキミを、」

頭に手を載せられる。そして

「我が探偵事務所に、正式にスカウトします」

ウィッグを、ぐ、と掴まれた。


スカウトなんて体の良い
ただの脅しじゃねーか


「…バラしたら殺すからな」
「約束は守るよ」

手を離し、頭を撫でられる。

「手伝ってくれたら、報酬も払うし誰にもバラさない」

ね、と笑った。


つまり、手伝わなければどっちも無いってことか


「契約、な」
「約束だよ」

踵を返し歩き出すのについていく。


これが、俺と門谷の出会いだった。

“カドヤ探偵事務所”は、都心の高層ビルの3階にあった。
同じ階には法律事務所やIT会社も入っており、中は綺麗で近代的で広く

「すごいっしょ、俺ここの社長だからね」

門谷が偉そうに言うので

「なんか成金っぽい」

うさん臭そうに言うと、軽く笑われた。


中は依頼人との応接室がすぐにあり、トイレの入口や資料があるのが見える。
門谷の作業場であろう机の奥にもドアがあり

「あれは?」

聞くと

「あの先は廊下。仮眠室と資料室とパソコンの部屋があって、さらに奥に俺の家がある」

門谷は机に向かい、そのドアを開けた。
確かに廊下が奥に続いている。

「家って…あんたここに住んでんのか」

少し驚く。
なんせ外見は立派なオフィスそのものだ。

「もったいないっしょ、こんな広さあっても事務所だけじゃ全部は使わないしさ。まぁ家っつっても俺一人だからそんなデカくないけど」

廊下を進みながら説明され、右にあるドアの前に立った。

「ここは仮眠室。っても、ほとんど寝泊まり出来るようにはなってる。キミも寝ることがあったらここね」

ノブに手を置き、妙に間を置いてから捻る。

「?」
「あぁ、ここキミはまだ開けられないから、入りたい時は俺かヨシノに言って」
「ヨシノ?」

門谷はドアを開ける。
中はホテルの一室のようで、確かにモノは少ないものの、大人一人生活していくのに困らないだけのセットは整っていた。


そして今、ベッドの上には一人の男が座っている。
20代後半から30代前半くらいで、ボサボサの黒髪や無精髭、目つきの悪い顔は決して品格はなく、探偵というよりむしろ犯人のような、小綺麗な門谷とは正反対にいる男だった。

男はこちらを見ると

「……」

明らかに不信感を表情に出す。
門谷はそれを笑って

「この子ね、新しい仕事仲間。ど?」

背中を押してきた。
男はこちらを上から下までうさん臭そうに見た上で

「…女にしか見えねーけど」

低い声で言いながら立ち上がった。こちらに歩いてくる。

「あー、まぁね」

門谷は意図も感情も読み取れない相槌を打って笑い

「じゃ、自己紹介」

どうぞ、と促してきた。

「……えっ?!あ、穂村透です。男っす」

よろしくお願いします、と頭を下げる。
顔を上げると相手は眉をひそめ、ただでさえ悪い目つきをもっと悪くしてこちらを睨んでいた。

「あー…その…これはまぁ、趣味っつーかなんつーか…」
「へぇ、キミ“トオル”っての」

女装について説明しようとすると、横から門谷が言ってくる。

「え?あぁ、言ってなかったっけ」
「言ってないよ。じゃあヨシノもほら、自己紹介」

門谷はマイペースに進め、ヨシノと呼ばれた男は軽くため息をつくと

「…染井武。こいつの駒としてここで使われてる」

不機嫌そうに言った。

「駒って…」
「人聞き悪いなー。協力してくれてるんでしょ」

染井は フン、と気に入らなさそうに顔を背ける。
愛想の良すぎる門谷よりもよっぽど、無愛想すぎる彼の方が信頼できる気がした。


「てわけで、今日からこの3人がカドヤ探偵事務所のメンバーだから。ちなみにキミは本業ちゃんとこなして、必ず女装してからこっち来てね」
「…は?!着替えて来なきゃいけねーの?!」

驚く。
女装ありきだと思わなかったのもあるが、着替えてからとなるとその場所も選ばなければならなくなる。
しかし門谷は

「当たり前でしょ。女装以外のキミの能力なんてたかが知れてるし、そんなのキミ以外の誰でも良いんだから。あと今日からヨシノにみっちり護身術とその他探偵業に必要なもの身につけてもらうからそのつもりでね」

爽やかな笑顔でそう言ったあと、じゃ、あとはよろしく、と出て行ってしまった。
色々ツッコみ所もムカつき所もあるが、とりあえず

「…ヨシノって、もしかして“染井”だからっすか」

確認してみると

「下らねぇだろ」

染井は嫌そうに肯定した。

「穂村ぁー。今日カラオケ行かねー?」

学校での、友人からの魅力的な誘い。
しかし

「あーわりぃ、俺バイト」

何度目か知れない断り。
それにはやはり友人たちも

「またぁ?お前どんだけ稼ぐんだよ」
「金も使わなきゃ意味ねーんだぞ!」

ブーイングの嵐を背中に受けながら

「また今度誘って」

ひらひらと手を振って教室を出た。



「はい、じゃあ5分休憩」
「っしゃー!疲れた!」

女装のまま床に大の字になる透。
染井は水を持ってきて

「スジはいいな。その格好でそこまで出来んだから」

透に渡す。

「あ、どうも」
「まぁ門谷は満足しねぇだろうけど」

起き上がって水を飲む透に、染井は 残念だったな、と言う。


ここはカドヤ探偵事務所の奥の一室、だだっ広いフローリングの部屋。
透はここ数日間で、染井に護身術という名の戦闘術を徹底的に叩き込まれていた。

しかも透は探偵業そのものを常に女装でこなすことになるため、何かあれば必然的に女装のまま闘うことになる。
スカートやブーツ、ヒールを履いての激しい動きは相当難しくツラいもので

「マジで必要なんスか?こんなケンカみたいなの」

ちょっと嫌になって聞くと

「やんなきゃ死ぬぞ」

染井は顔色一つ変えずに言った。

「死ぬんスか?!」

驚く透に一瞥をくれると

「女装家のお前をここに引き入れたのは、対象者をより油断させるためのアイテムが欲しかったからだ。本物の女だと足手まといだが、女にそっくりの男なら自分の身は自分で守れるだろ」

部屋の端にある机に行き、その上にある紙を読む染井。
透は

「……え?つまり?」
「誘拐、尾行、恐喝その他色んな危険がお前に降りかかるから、これぐらい出来ねぇと死ぬ」

染井は分かりやすく具体例を出した。
透は怯み

「…ま、マジっすか…」
「対象者は基本真っ当じゃねぇからな。それに、俺や門谷より女に見えるお前の方が狙われ安いのは当然だろ」

染井は読んでいた紙を ほらよ、と透に渡す。

「何スか?」

その紙には

“護身術、尾行術、演技力は必須。あとは向いてそうなものをヨロシク。”

と書いてあった。

「……あの野郎…」
「てわけだ。演技と尾行術は門谷に教わるといい。俺は戦闘に必要なものを徹底的にお前に叩き込む」

だからせめて5分休んどけ、と言うと、染井は部屋から出て行った。

「…つーか…意外と面倒見てくれんだな…」

確かに教えられないと探偵の助手なんて務まらないとは思っていたが、とんだ詰め込み作業とは言え門谷と染井がこんな風に教えてくれるとは思っていなかった。

(けっこー期待されてんだなぁ…)

そう思うと

「…やったるか」

頑張ろうとか思えてしまうから、自分は単純で困る。



それから探偵業の特訓(特に戦闘術)は厳しさを増していった。

「あらま、なんだかお疲れだね」

久しぶりに顔を合わせたと思ったら、門谷はぬけぬけとそう言った。
事務所の応接室に呼び出された透は不機嫌そうに

「誰かさんのせいで、ここんとこケンカ術ばっか身につけてるんでね」

女装の可愛い姿とは裏腹に顔をしかめる。
それを、門谷は相変わらず感情の薄い笑い方をして

「ヨシノに聞いてるよーだいぶ成長したらしいじゃん。“使えるくらいまでにはなった”って言ってたよ」
「…それ褒めてんのか…?」
「いや、使えるぐらいにしてって俺が頼んだの」
「んだよお前らっ」

的を得ない言い方は核心を掴めなくてイライラする。
これでも最初に比べれば慣れた方だが、相変わらずこの男の真意は読み取れない。
今だってこんなに透が怒りをあらわにしても

「とりあえず第1段階はクリアーだねー。次はお待ちかねの演技力をつけるよー」

門谷は飄々としている。
透はため息をついた。最近じゃため息が癖みたいになった。

「というわけで、今からキミは“結衣香”だから」

唐突に言う。
全部同じトーンで言うから、重要なこととそうでないことの区別がつきにくい。
透は

「……はっ?“ユイカ”誰だよ」
「だって“透”のままじゃそのカッコに合わないでしょ。呼べないしさ。だからとりあえずキミの基本形は“結衣香”で、そっから色んな女のコ作ってくから。“結衣香”のキャラはキミが今まで作ったのでいーよ、修正するから」

一気に説明すると、さっきから何やらごそごそと探していたものを出し、これね、と指す。
“稲村結衣香”と書かれた名刺だった。

「イナムラ…?」
「穂村のままじゃあれかなと思って。稲穂から」
「は、くだらなっ」
「バレなきゃいーんだよ」

ケンカを売ってもさらりと受け流される。教えてもらった戦闘術のようだ。

「でまぁそう、これから色んなタイプの女のコ作ってもらう予定だけど、とりあえず“結衣香”作らないと話にならないからね。というわけで今から大学に行ってもらいます」

またもや、強調もせずさらりと言う。
透は慌てて

「はっ、えっ?」
「大丈夫、有名大学で人数も多いし、キャンパスも広いとこ選んだからさ。そこ行ってまずは男子に声かけられてきてください」

これ地図ね、と差し出された紙。
確かに透も知ってるような有名大学だ。

「…ナンパってこと?」
「そ、得意でしょ?自分からは一切声をかけずに、下心満載で声をかけられること」

門谷は に、と不敵に笑うと

「ミッション1」

行ってらっしゃい、と勝手すぎる見送りをした。


(うおぉ…大学初体験…)

高校とは比べものにならないくらい広い構内に怯む結衣香、ならぬ透。

(ナンパされんのは得意だったけど…ここ大学だしなぁ…)

いつもならあまり治安の良くない繁華街でバカも多かったし、待ち合わせのフリをして隙を見せまくっていたからナンパなんていくらでもされたが、大学なんて勝手も分からない。

(…とりあえず行くか)

透はキャンパスに足を踏み入れた。


「おー、行ったね。さぁどんな作戦でいくのかな」

透が忍び込んだ大学構内を一望出来る、隣のビルの屋上。
門谷はそこから双眼鏡で透の様子を観察。その隣には染井が立っていた。

「何も教えねぇんだな」

染井は相変わらず不機嫌そうに言う。門谷は笑って

「こーゆーのは実地経験を積むことが何より大事でしょ?塀があって、それでいて開けてる大学ならちょうどいい実験場所になるし」

楽しそうに言う。
染井はため息をついた。それを見て門谷は

「だいじょーぶだよ、これぐらいあのコなら余裕でパスするって」

に、と笑う。

「男って基本自分の性欲に忠実でさ、特に大学生なんてお盛んだから、隙だらけの女のコに落ちやすいんだよね。女装男子なんて本当の女のコより落としやすいって、たぶん男は本能で感じとるんだよ」

自分では気付かないけどね、と大学を見下ろす。
バカにした笑いを貼り付けていた。

「…普通の女よりモテると」
「そ。見た目はかわいーしね。ヨシノも分かんなかったくらいだし」

あはは、と笑うのに、染井は嫌そうな顔をして透を見る。

確かにそこには、何の違和感も無い大学生風の女のコ。
本当は女子大生風の男子高校生だ。

「大事なのは見た目じゃなくて、いかに“稲村結衣香”として生きられるか。設定も何もかも自分で反射的に作れるかどうか」

ふ、と悲しげに笑う。
染井はため息をついて

「…反射で嘘をつけるように、な」
「その通り」

二人はどちらからともなく、透から一瞬目を逸らす。

一瞬、自分を振り返った。


強い風が吹いて、反射的に顔を逸らす。
一緒にいる連中はそれにぎゃーぎゃー騒いで、何となくそれに応えておく。いわゆるノリってやつだ。

楽しくもないことに笑って、嫌でもないことを愚痴って、好きでもない女と寝て、やりたくもない勉強をして、何となく過ぎる時間。
これが大学生活ってやつで、こーゆーのが大学生なんだと思ってた。
麻痺したように曖昧な感情。特に何か際立つでもない。ただ無性に、説明のつかない違和感や不安がちらついてイラつくから、それをごまかすために騒いでみる。そんなことの繰り返し。

いざ振り返ってみたら何も残ってない。
思えば、記憶に残るようなことをしてきてない。
ましてや思い出なんて淡く霞んで、自分すら見えなかった。



……だから、なのか。



「……誰だあれ…」


顔を上げたらそこにいた女が、あまりにはかなげで、あまりに存在していて、あまりに、

綺麗だったから。



「あっ、ちょ、マサヤ?」

友人と呼ばれるだろうヤツの呼び掛けなど無視して、俺はその女に近寄っていく。
困ったような、途方に暮れたような、寂しそうな泣きそうな、そんな表情だったから

「どうしたのー?」

軽い感じで、明るく。
すると彼女は驚いたようにこちらを見て

「…いえ」

困ったように笑った。可愛くて綺麗な女だ。

長い黒髪はゆるく巻かれ、耳元で髪を留めている花のピンがさりげなく光る。
化粧はほとんど分からないくらいナチュラルで、服装もふわふわと女のコらしい。

こんなコが、大学内に存在していたなんて。

「なんか困ってる?良かったら力になるけど」

好印象をつけようと、なるべくさわやかに。すると彼女は

「いや、あの…大丈夫、です」

恥ずかしそうに目を背ける。
それもそうだ、いくら大学内とは言え、見ず知らずの男にこんな風に声をかけられたら誰だってビビる。
けれど

「はは、だよね…」

意外とヘコんだ。なんともカッコ悪い返答だ。
すると彼女は

「…あ、ただ…」

そんな俺に気を遣ってか

「3号棟が、わからなくて」

恥ずかしそうに、顔を赤くして、首を傾げて
笑った。


瞬間、
何か、弾けた音がした。


「大学内2時間で5回…人数で言ったら8人か。すごいねー結衣香ったら悪女ー」

特に感情のこもらない声と笑顔で言う門谷。もう慣れたものだ。
事務所内の机で作業をする門谷を腕組みしながら見下ろし

「で?次は?」
「気が早いなぁ。ひとまず“結衣香”が合格したことを喜ぼうよ」
「どうせどーでもいいんだろそんなの。元々あったもんなんだから、ただの確認なんだろうし」
「おぉ、よく分かってる」

慣れてきたね、なんて笑う門谷。透は溜め息をついた。

「で、次は」
「次は演技より先に尾行と調査。手始めにこの人を調べてみよっか」

机の引き出しから出した目新しい資料。写真には気弱そうな中年男性。

「いわゆる浮気調査だけど、まぁ素行調査でいいよ、たぶん隠せるような人じゃないし。明日から3日間、四六時中密着。ただしバレないように」
「はっ?!」
「家の近くのアパートは取ってあるし、まぁ襲われることもないでしょ」
「いやいやいやいやちょっと待て、俺3日目は学校だけど」

勝手に進められそうなので遮ると、しかし門谷は

「…、」
「質問は人の話を最後まで聞いて、資料を熟読してからにしてくれる?」

怯むほどの冷たい視線を向け、ひどく冷静な声で言った。

(…っ、こえーっつーの…)

たまに出るこれ。いつもは度を越すぐらい愛想のいい門谷が、笑わず、ただ静かに睨み、言葉を投げる。

そこには、この世のすべてに対する一切の不信のような
恨みのような

ただ、嫌悪だけが、明らかで。


(気分悪ぃんだよ…)


透だって門谷のことはかなり嫌いだが、門谷が向けてくるこれは感情なんていう次元じゃない。
存在否定だ。

さも当たり前のように、人間として存在する自分を否定してくる。

そしてそれが突然出てくるわけではなく、元から門谷の内にあったものが表れただけのようで、だから

(普段が余計…)

怖い。


ごまかすように資料を見る。それで気付いた。

「…え…?」

勤務先が書かれた欄。見たことのある名前。
と、いうか、ここは。

「うちの高校…?」
「そ。だから3日目は透として校内での対象者を調査して。残りは当然結衣香で。まぁ当たり前だけど、友達にバレないようにしてね」

それから門谷は机の引き出しを探りながら

「調査に必要な情報は全部その中に入ってるから、適宜見て自分で調べること。報告は証拠になる写真や映像が絶対不可欠だから、これ使って」

手渡されたのは、小型の録画機能付きカメラ。さっきの大学潜入では花をあしらったピンの形で、結衣香の耳元からナンパ男達の様子を終始録画していた。今回はそれに加え、ボールペン型。

「はい、何か質問は?」

カチカチといじって操作方法を探っていたら言われた。いつもの愛想のいい笑顔だ。
カメラを見て、資料を見て。これからやるべきことを浮かべて

「…特になし」


やっぱりこいつ嫌いだわ、と思いながら。

カドヤ探偵事務所

カドヤ探偵事務所

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted