幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 8話
珈琲
池に沈んだはずの第二ボタンが、結が大事にしているオルゴールの中にしまわれていることを俺は知っている。
だけど結には内緒だ。絶対に言わない。
夫婦とはいえ言ってはいけないことがある。
いや、夫婦だからこそ。
結は相変わらずだ。俺に惚れているということをおくびにも出さない。というか、出していないつもりでいる。ようするに素直じゃないんだな。俺にはちゃんとわかるけど。だけど、そんなことを口にしたら結は怒り出す。だからボタンのことも内緒だ。
でも、そんな結も、あんなときだけは可愛い声を出す。
「ねえ、聡……。もっ、もう、だめ……。もう、我慢でき、な……い。──お願い」
素直な自分を見せるのを恥ずかしがるように、小さな声で俺に哀願する。
「は……はや、くっ」
震える手で触れた俺の太ももに結が爪を立てた。
だめだ。
言ってはいけない。
たとえ夫婦でも、いや、夫婦だからこそ言ってはいけないのだ。
女は面倒なんだ。
言ってはだめだ。
言っては──
「さっき行ったばかりだよな? なあ。だから言っただろう。高速に乗る前にはコーヒーは止めろって」
結の眉間がピクリとした。
お盆の帰省ラッシュ。地獄の渋滞。まったく進まない状況に俺はイライラしていた。
「おまえさ、朝起きてコーヒー二杯飲んで、また高速にのる前、俺がコンビニでトイレに行ってる間、俺に隠れてアイスコーヒー飲んでただろう。いいかげんわかるだろ? こうなることが。いつもおまえとの旅行はトイレ探しばかりだ。このぶんだと次のパーキングエリアまで30分はかかる。いや1時間はかかるかもしれないな……。コーヒーを飲んだのが悪いんだから我慢しろよ」
隣ですやすやと寝ている結の顔をチラチラと見ながら俺は激しく後悔していた。
トイレの後、代わってくれる約束だった運転を、結は代わってはくれなかった。トイレから出てきて、スッキリとした顔をして、何事もなかったように助手席に座り、当たり前のように「お休み~」と言って椅子を倒して寝てしまった。
あのひと言を我慢していたら、今ごろ助手席で寝ていたのは俺だったのに……。
幼馴染と高校で再会して偶然同じクラスで席が近くなったら……これはもう恋に発展するでしょ? 8話