春の歌 三十一首

春の歌 三十一首

ひさかたの都は梅も咲かねども
奄美の島は赤き花咲く

雨雲の流れる空と瀬の音と
春風の中泳ぐ島花

ノーエフのライヴで聴きしシャンゼリゼ
音は消ゆれば影も残さず

(百草園)
われ知らず梅のにほひに誘はれて
のぼる坂道鳥の声聴く

(上野公園)
青空にからす一声鳩は散り
人はギターに足をとどめぬ

春の夜のしめりけぬくきたむしばの
毛皮の隙から覗く白肌

風吹かば鳥は道を見花なびく
春の景色の下の下人なり

振り向けば白雪残す三月の
雲湧く尾根にあかね日のさす

(国有地の薔薇)
フェンス越し薔薇の花の棘と色
有刺鉄線さきて匂ひぬ

花積もる小道に遊ぶだんごむし
鳥の声にもこいまろぶかな

一つ鳴きもの言ひたげに振り返る
なに案ずるやわれに聞こえり

たけるこの生ふる坂道見上ぐれば
花なき竹に鳥ぞとまれる

たんぽぽやわが足元に咲ける花
小さきその身を寄するごとくに

春あらし雨風打ちつけ花散らす
おのが定めに泣き狂ひけり

パンジーにつつじすずらんひやしんす
ひとり枯れたるままのあじさゐ

ぴょこぴょこと枝をくはへし鳩歩く
木の上の宿楽しかるらむ

すみれ草つつじの影に隠れ居る
風強ければ花ふるへつつ

はなみずき校庭の隅植ゑられし
幼き恋を思ひだすかな

空高し軒端のこぶしつつじらん
猫の横切る道の木漏れ日

折からの重なる雲に黒揚羽
憩ふ枯れ木は春に朽ちつつ

たんぽぽの綿毛を吹けば花の香に
むせぶ憂ひは春に耐えざり

紫に沈む夕日と空のきは
飛行機雲は流れゆきけり

今日もまたあまた死にける世の中に
浄土示せる宵の明星

四十雀飛行機と声競ひしや
鳴けよ体は小粒なりとも

おくつきに手向けし花に蝶々の
とまりて香の煙さやけし

雪溶けて花散り君は居らずとも
おのが心に手を合せつつ

飛行機の明かりおぼろに紫の
雲にうつれる春の夕暮れ

眠りよりお腹にこころよき重み
触りてみれば猫のまんまる

小鳥なく送る朝の小道には
木漏れ日かほる君が残り香

にはか雨ラヂヲの流すケニーG
人も想ひも今は宿れよ

春の夜の色と香を籠めばらの花
朝にふれる雨に濡れけり

春の歌 三十一首

春の歌 三十一首

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2019-03-17

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