詩集.想いをこの束にして (八束目)
詩集.想いをこの束にして (八束目)
愛の編 三十六
難しいよね
想いを
伝えるのって
上手な
言い回しや
気の利いた言葉は
分からないし
どうしたら
あの人の
心にまで
届くんだろう
泣き顔を
うつ向けて
蹲(うずくま)って
ばかりいる
わたしを
いつも
包み込んでくれる
優しさに
お返ししたい
どうしたら
伝わるのかな
もしも
また
差し伸べてくれた
大きくて
温かな
その掌を
今度こそ
素直に
掴めば
いいのかな
そしたら
わたしを見て
また
お陽様みたいに
笑ってくれるかな
きっと
今日も
そして
明日も
また
迎えにきてほしいな─
愛の編 三十七
陽陰が
多くなって
虎落笛(もがりぶえ)が
聞こえてくると
探しに
行くんだ
ちっぽけな
陽だまりを
真夏には
あんなに
避けてた
陽射しなのに
身勝手を
苦笑して
日向ぼっこを
求めながら
ふと
気づいた
そうだよね
ちょっとだけでいい
みんな
そんな気持ちで
いつも
息のつける
居場所を
探してる
ひと時の
安らぎに
眼を閉じ
温もりを
感じていたいんだ
独りよがりで
いい
誰かを
好きでいたい
二人分の
温かな
ところで
そっと
寄り添っていたい─
愛の編 三十八
チケットを
返しに
行こう
代価に
渡した
宝物たちと
引き換えに
大人になるため
少しずつ
殻は
脱ぎ捨てたけれど
大切なものを
手放すことはないんだ
色褪せた
ぬいぐるみ
話し相手だった
お人形
みんな
大事に
抱きしめられてた
いずれ
紡がれる
新たな命が
その温もりと
戯んで
また
次に譲るだろう
君が
いつまでも
守り継がれて行く
巣立ちは
穢れることじゃない
蛹(さなぎ)から
羽搏く
美しい
蝶になっても
君は
変わらずに
優しい
今
チケットを
一緒に返しに行こう─
愛の編 三十九
肩をかすよ
寄り添うしか
できないけど
こうしていれば
僕が
安心出来る
もたれた君の
息遣いを
感じるだけで
がんばれ
まけるな
誰かの声が
聞こえても
今は
もういい
振り返らずに
歩こう
この坂を
登りきれば
やっと
あの街が見える
帰ろうか
帰ろうよ
君の住む
あの場所へ
泣き虫で
優しい
君の住む
場所へ
懐かしい
人たちが
ずっと待ってる
差し伸べる
君の
掌の温みを
今も
待ち侘びている
帰ろうか
帰ろうよ
懐かしい
あの場所へ
泣き虫で
優しい
君の住む
場所へ
温かな
あの街へ─
愛の編 四十
からから
転げる
乾いた
葉擦れが
内緒話みたいに
聴こえ来て
思わず
立ち止まり
振り返ると
不意に
また
大きな
掌の
温みが
愛おしくなった
「じゃ、ね。
また明日」
そう言って
ついさっき
広い背を
見送ったばかりなのに
触れるだけで
心を
交わせるんだと
知った
あの季(とき)
想いだした
遠い日の
恋
甘酸っぱい
記憶に
佇む
面影は
やはり
あなただったのかも知れない
可笑しいよね
まるで
少女みたいに
はにかんだり
時折
不安に
俯いたりしてる
長い長い
時の河の中で
その先を
喘(あえ)ぎ
流されて行くとしても
叶うことなら
いつだって
やるせなく
切ない
あなたの
温もりに
満たされていたい─
詩集.想いをこの束にして (八束目)